- 給与を前払いするとコストがかかる
- QR決済の送金機能を使って送る
- 送金する際の手間やコストの低さ、少なさ、早さ、これはやはり強み
- 賃金支払いには5原則があるが、現物支給で電子マネーを支払うという例外も
- 給与を電子マネーや暗号資産で支払うときの課題
給与を前払いするとコストがかかる
給与の前払い制度が、一時期、話題になったことがありましたが、あの前払い制度は、業者を間に挟んで、その間に入った業者が代わりに支払うような形になり、手数料がかかります。
商売ですから、手数料なり、費用が発生するのは、分かります。ただ、利用者としては、より有利な条件で、給与を前払いしたいと思うもの。
そこで、他の選択肢として、給与を前払いする方法と考えられのが、QR コード決済サービスによる送金機能。
お店で買い物や食事をするときに、QR コードで支払う。これが標準的な使い方ですけれども、残高を相手方に送る、という機能もあります。
送金機能を利用してお金を送ると、コストは低いですし、手続き後、すぐに相手側に着金します。
業者を介在させると費用が相応にかかりますが、QR決済の送金ならばほぼゼロです(無視してもいいぐらいの誤差程度)。
使用者から労働者に対して支払うのが給与ですから、何らかの形で現金を支払うことができればいいわけです。
政府も、現金に限らず、電子マネーで給与を支払えるよう、制度を変える方向で検討しているようですから、QR コード決済の送金機能で、給与を前払いするというのは、近々実現しそうな雰囲気です。
QR決済の送金機能を使って送る
PayPay や LINE Pay で送金をすれば、ほぼ無料で(ちなみに、個人間で送ったところ、手数料はゼロでした)、相手方に給与を支払うことができるでしょう。
前払い額の5%だとか10%が、手数料として取られることはなく、即時に送金されます。
電子決済だと記録にはちゃんと残りますし、送った側にも送られた側にも、記録が残ります。
現金手渡しだと、せいぜい明細書を別途で渡すぐらいしかできませんが、電子的に送金すれば、後から記録を確認できるのもいいところです。お金の授受では、記録を残すのは大事な手続きです。
例えば、日払いで給与を払う場合、QRコード決済の送金機能を使って支払えば、お互いに便利なんじゃないかと。
個人的に、仕事を手伝ってもらって、1日手伝って1万円だとして、仕事が終わった後、スマホの送金機能でもって、1万円を相手に送れば、それでその日のギャラを払ったことにできます。
茶封筒にお金を入れて、渡すこともありませんし、紛失したり、盗まれたりするリスクもありませんから、利点は多いでしょう。
ただし、通常の給与とは違って、現金そのものではないため、PayPay や LINE Pay が使えるお店じゃないと、受け取った給与を使えない、というデメリットがあります。
携帯電話代を払ったり、電気代や水道代を払うのは、ちょっと難しいでしょう。一部は対応しているようですが。
スーパーマーケットで買い物をしたり、飲食店で食事をしたりする、という範囲だったら、QR コード決済でも支障はないのでしょうけども、現金よりもQR コード決済の残高は、流動性が低いため、使用できる範囲が限られてしまいます。
送金する際の手間やコストの低さ、少なさ、早さ、これはやはり強み
流動性という点でのデメリットはあるものの、送金のコスト、受け渡しのコストは安いですし、記録にもちゃんと残ります。
さらに、QR コード業者は、いろいろとキャンペーン(キャッシュバックやポイント還元など)を実施していますので、そういうキャンペーンも利用できます。
一石二鳥どころか、一石三鳥くらいは狙えるような送金手段ですよね。
手元に現金がなくても、相手に対して、迅速に送金ができる、というのがQR コード決済の最大の利点です。
給与を前払いする場合にも、この利点を活かせるはずです。
立て替え払いをしてもらったら、その場でLINe Payで送金とか。他には、賃料の支払いもできるでしょう。
現金で回収していたところを、電子決済で回収すれば、記録に残るし、支払いしやすい。
家賃の支払いを、PayPayで賃貸人に送金して、支払うなんてのも良さそうですし、駐車場の利用代金、月極の駐車場利用料を LINE Pay で送金するのも利用例の1つです。
仮に、その場で賃料を回収したとしても、送った側、送られた側に、送金した記録が残りますから、もちろん領収書も別途で作成するのでしょうけども、後から、払った、払ってない、というトラブルは起こりにくくなるでしょう。
現金の授受だと、なりすましで受け取る人がいたり、受け取ったのに受け取ってない、と言ったり、払ったのに払ってない、と言ってみたり、と変な人がいるとトラブルになってしまうものです。
このように、お金を動かすコストを劇的に下げてくれているのが、QRコード決済サービスなのです。
賃金支払いには5原則があるが、現物支給で電子マネーを支払うという例外も
給与を支払う際には、賃金支払いの5原則というルールがあります(労働基準法24条)。それ沿ったものにする必要があり、1.通過払い。2.直接払い。3.全額払い。4.毎月1回以上支払う。5. 一定期日に支払う。これら5つの原則に基づいて給与を支払う必要があります。
その中の「通貨払い」という部分に電子マネーは抵触します。
電子マネーで支払うということは、通貨で支払っていないわけだから、賃金支払いの原則に反するだろう、というのが通常の判断。
他方、原則には例外があって、労働組合がある会社だと、労働協約に電子マネーで賃金を支払う、という取り決めがなされている場合は、電子マネーで給与を支払う事が可能です。労働協約が賃金支払いのルールに特約を付けているわけです。
労働組合がない会社でしたら、労働者本人に同意を得る必要があり、同意書を作成した上で、給与を電子マネーで支払うというのはOKです。
現金で支払うのが給与だ、というのが一般的な理解ですけれども、現物支給という方法もあって、例えば、新品の冷蔵庫(10万円相当)を提供するので、それを給与10万円分の代わりにするとか。QR コード決済の電子マネーで給与を払う。暗号資産である仮想通貨、ビットコインで給与を支払う、なんてことも労働協約や個別の同意書を作っておけば可能になるわけです。
給与を電子マネーや暗号資産で支払うときの課題
給与の全額を電子マネーで支払ってしまうと問題が生じます。
給与はそのまま本人に支払われるわけではなくて、雇用保険料、健康保険料、あとは厚生年金保険料を控除していかなきゃいけないし、所得税も源泉徴収しなきゃいけないので、給与の全額を電子マネーで払ってしまうと、そういった控除ができなくなってしまうわけです。
ですが、電子マネーに変換する前に、各種の控除を済ませてしまえば、残った金額を電子マネーで支払う、という形ならば確かに可能ではあります。
電子マネーに変換してしまうと、現金よりも流動性が低下してしまって、モノによっては買えない、支払えないものも出てきます。
例えば、電気や水道、ガスといった料金を支払う時は、口座振替で支払う場合が多いかと思いますが、そういう場合は現金で引き落としが行われます。
請求書を送ってもらって、それをスマホアプリで読み込み、電子マネーで支払うという方法も出来るのでしょうけれども、銀行口座からの引き落としに限定されてしまったら、電子マネーでの支払いはできなくなります。
流動性という点では現金が最も高くて、それに次ぐのが小切手やクレジットカードかと思います。それらは現金に近く、決済しやすい手段になってます。
電子マネーというのは、その規格に対応してくれていないと、お店で使えません。飲食店でも、現金払いしか受けません、というお店もありますから、そういうお店で電子マネーを持って行ったところで支払えないのです。
現物支給でもって電子マネーで給与を支払う場合は、給与の一部、例えば給与の1割を電子マネーで支払うという形でしたら、現実的には可能であろうかと思います。あえて流動性を下げてまで電子マネーを受け取る人がどれほどいるのかは検討する余地があります。
給与の全額を電子マネーに変換してしまったら、おそらく日常生活に支障が出てくるはずです。
月に1度ではなく、毎週1回、3日に1回で報酬を支払うならば、銀行振り込みよりも電子マネーや暗号資産で送金したほうが早いですし費用も少なく済みます。また、少額を送金する際も、それらの方法が有利です。こういった利点を活かしたい場面では、電子マネーで報酬を支払うのも有益かと思います。
まずは銀行振込で給与を全額受け取り、その後で好きな額をチャージすればいいんじゃないか、というマトモな指摘もできますよね。受け取り段階で電子マネーに変換せずに、後から本人が変換して使えばいいだけじゃないかと。デジタル払いで給与を受け取る何らかのインセンティブがあれば話は変わるでしょうけれども。単にそのままデジタル払いをするだけだと選ぶ人は増えにくいので、デジタル払いを選択すると、例えば月に300円加算されるとか、選択する理由を用意していく必要があるでしょうね。