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【副業者に朗報】副業先で病気や怪我をした際の労災給付が増える

給付増加

 
複数就業、労災対象に 兼業・副業促進に対応―厚労省

 厚生労働省は10日、労働政策審議会の部会に複数の職場で就業する人に対する労災給付の方針を示し、了承された。休業補償については、労働災害が起きた職場と他の職場の賃金を合算して金額を決め、実際の収入額に応じた給付が受けられるようにする。政府は労働者の兼業や副業を促進しており、働き方の多様化に合わせ、セーフティーネットを拡充する。
 厚労省は来年の通常国会に関連法の改正案を提出し、来年度中の施行を目指す。
 これまでは労災が起きた職場の賃金に基づき給付額を決定。このため、他の仕事を休むことになってもその分の賃金が反映されず、複数就業者に対する給付額は少なくなっていた。


1人で2つ以上の仕事をするのは珍しくない。

1人につき1つの仕事、というのが今までの当たり前の考え方、というか働き方でしたが、
1人で複数の仕事、つまりは副業する人が増えつつあります。

例えば、フルタイムで仕事をしつつ、空いてる時間や休みの日に、パートタイムで仕事をする。他には、パートタイムの仕事を2つやってるとか、3つやってるとか、そういう働き方もあります。

さらに、フルタイムの仕事と自営業を組み合わせる、自営業の仕事とパートタイムの仕事を組み合わせるとか、このような副業の形もあります。

収入が増えるのはもちろんですが、普段とは違う仕事ができて気分転換になるでしょうし、副業と思ってやっていたことが大きくなって、メインの仕事に変わったという方もいらっしゃるのでは。

何が副業で、何が本業なのか。そこを厳密に分けるのは、難しい時もあって、単純に収入だけで主従関係を決める、というのも何だか実態に合っていない感じがします。気持ちの込め具合だとか、コミットの程度とか、自分の好き嫌いで主従を決めるなど、基準は人によって変わるでしょう。

本業が疎かになる、情報の漏洩が、などの理由で副業を禁止する事業所もあるでしょうが、「仕事が終わった後に何をするかは勝手だ」、「休みの日に何をするかまで会社は介入できないだろう」と反発を受けると、これに対して会社側が切り返すのは困難です。


複数の職場で就業する人に対する労災給付とは何か。

普段はフルタイムでの仕事だけしかしてない方だと、イメージしにくいのですが、労災保険というのは、会社で働く人は自動的に加入するもので、従業員本人は保険料を負担していません。会社が労災保険の保険料を全額負担しています。

雇用保険料や健康保険料、厚生年金保険料は、給与明細に記載されていて、本人もその半分を負担してるのですが、労災保険の場合は、会社が保険料を全て払っています。

そのため、給与明細に表示されておらず、加入してるのかどうかが従業員には分かりにくいのです。労働保険が適用されている事業所ならば、自動的に従業員は労災保険に入っていると考えて良いでしょう。稀に、労災保険や雇用保険が適用されていない事業所がありますが、未適用事業所と言われ、労働基準監督署から指導を受けます。

仮に2つの会社で働いてるとすると、労災保険にも2つ入っている状態になります。

「ん? どういうこと?」と思うでしょうが、労災保険は事業所ごとにアカウントが分かれていて、A事業所とB事業所で働いている方がいれば、その人はAとB、両方の事業所で労災保険に入っているわけです。

健康保険だと、保険証は1枚だし、公的な保険に2つ入ると言うのはイメージしにくいですが、労災保険は、働いている事業所の数だけ加入するようになっています。従業員の立場では。

ですから、3つの職場で働いていれば、労災保険に3つ加入しているわけです。5つの職場で働いていれば、5つの労災保険に入っているのです。労災保険は1種類だけですが、それに重複して加入していると考えてください。

労災保険は、労災事故が起こった事業所での収入を基準にして、その給付額が決まる仕組みです。特に、「労災事故が起こった事業所での収入を基準にして」という部分がポイントです。

例えば、月収150,000円の収入を得ている職場(副業先の仕事だとしましょう)で、病気や怪我をすれば、その月収150,000円を基準に、労災保険の給付額も決まるわけです。

ここまでは何も問題ありませんよね。。

では、他の職場で、月収500,000円の収入を得ていたとすると、この人の総収入は、合計で月に650,000円になります。

650,000円ということは、その収入を基準に、本来だったら労災保険の給付を決めてもらわないといけないはずです。

労災事故で休業して条件を満たすと、休業補償給付が支給されます。

これは労災の事故によって、休業することになった場合に給付されるものですが、おおよそ収入の8割になります。厳密には給付基礎日額という数字に支給率を掛け合わせて、給付額を算出しますが、ここでは収入の8割が休業補償給付として支給されるとします。

この休業補償給付が支給されるとして、月収150,000円を基準に支給されると、月120,000円の給付額になります。

一方で、月収650,000円を基準にすると、520,000円が休業補償給付の金額になります。この両者の違いが問題だと指摘されてきました。

副業先の収入を基準に、労災給付の中身を決められてしまうと、本来支給されるべき金額よりも少なくなってしまいます。そのため、その人が得る収入の総額を基準にして支給した方が良いのではないか、と議論されてきました。

制度が改正され、労災給付の金額を決める時は、副業先だけでなく、他の仕事からの収入も勘案する、というのが改正の中身です。


恩恵を受けるのは、会社員の身分を複数持っている人。

会社員としての身分を複数持って働いてる人は、今回の改正によって利益を受けるでしょう。

フルタイムでの仕事とパートタイムの仕事を組み合わせている人。他には、パートタイムの仕事を2つやっているとか。複数の会社で働いているというのがポイントです。

ですから、自営業者とか、自分で法人を持って働いてる人が、他に副業で働いた場合は、今回の改正の対象外になる場合があります。複数の会社で、労災保険に複数加入する必要がありますから。

複数の会社で、労災保険に加入しており、主な収入を得る職場がまず1つあって、その他に1つ、2つ、細かな収入、月収100,000円位のものがある方は、良い意味で影響受けるでしょう。

なぜこの改正が実現できたかというと、まず労災保険は事業主から保険料を回収しているし、実際に支払った賃金をベースに保険料を決めていますから、副業をしている人がいたとしても、労災保険料はきっちりと回収できます。

そのため、副業者に対して、複数の就業先の収入を合算して、労災の給付を実施したとしても、財政面では問題ないのです。

なお、制度が変わる時期は、2020年度中と予定されています。 

一方、社会保険に関しては、複数の就業先での収入を合算して、保険料をどうのこうのするには解決し難い点があって、おそらく実現はしないだろうと思います。

労災保険には加入条件というものがなく、従業員側に、例えば週25時間以上働いてる人が加入対象になるとか、月に 70,000円以上の収入がある人が対象だとか、そういう基準がないので、複数の就業先の収入を合算して加入者を取り扱っても支障があまりないのです。

一方で、社会保険には、従業員側に加入条件があり、月収88,000とか、月に30時間弱働くなどの基準があり、副業先もそういう条件を満たせるのかどうか、足並みを揃えるのが難しいのです。加入条件を満たしていない事業所から社会保険料を回収することはできませんから。

そのため、社会保険の場合は、複数の就業先の収入を合算して加入する、という仕組みにするのは難しいわけです。

山口正博 社会保険労務士事務所
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