労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

在職老齢年金、継続。減額の基準額を上げず、継続させる方向。

在老継続

 

在職老齢年金という年金があるわけではない。

以前、在職老齢年金が廃止されるかどうかについて書きました(一石二鳥の効果がある在職老齢年金)が、制度を廃止すること無く、年金を減額する基準を変更して、制度を続行するとの方向で決まりそうです。

収入と年金を組み合わせて、一定の基準額を超えた場合に、年金を減額しようというのが在職老齢年金です。

在職老齢年金という名称を使っているため、そういう年金があるのかと思いがちですが、実質は老齢厚生年金です。遺族年金や障害年金と同様に、在職老齢年金という年金があるのかというと、それは違うのです。

老齢厚生年金と在職老齢年金は別の年金ではなく、在職しながら年金を受け取っているかどうかの違いです。

仕事を辞めて厚生年金を受け取る生活をしていれば、受け取っているのは老齢厚生年金です。一方、仕事を続けながら厚生年金を受け取っていると、それは在職老齢年金という名称に変わるのです。

食べ物で例えると、「おはぎ」と「ぼたもち」みたいなものです。

地域や人によって色々と解釈なり作り方はあるようですが、同じものでも、春(ぼたもち)と秋(おはぎ)で名称が変わる。これと同じです。

同じものを、老齢厚生年金と表現したり、在職老齢年金と表現したりして分けているということ。


働くと必ず年金は減る、というものではない。

仕事をしながら年金を受け取ったら、年金が減ってしまう。そう考えてしまう方もいらっしゃるでしょうが、ケースバイケースです。

収入額と年金額、この2つのマトリクスで年金額を調整するかどうかが決まります。

収入は少なめだけれども、年金額が多いと、調整の対象になる可能性があります。また、年金は少ないが、収入が多い方も、調整の対象になる可能性があります。

2019年11月13日付、厚生労働省年金局が公開している『在職老齢年金制度の見直し』という資料によると、65歳以降の在職している厚生年金の受給者は248万人おり、在職老齢年金制度で年金額が調整されているのは41万人です(支給停止基準額が従来の47万円だった場合)。

ちなみに、老齢厚生年金の受給権者は2,701万人です。

在職中の人の中では対象者は約17%。受給者全体の中では約1.5%。相対数字で判断すれば、そう多くはないと感じます。

在職しながら厚生年金を受け取っているからといって、全員が在職老齢年金制度の対象になるわけではなく、実際は17%程度の人が対象というわけです。

大雑把に言えば、年金受給者の大半は、年金が減らされる心配をする必要はないのです。


支給停止の基準額が47万円から51万円に変わるとどうなるのか。

60歳代前半の人と後半の人では、在職老齢年金の計算方法が違います。65歳以降の人だけが対象ではなく、60歳代前半から厚生年金を受け取っている人も対象になります。

大まかに言うと、60歳代前半の人の方が年金が減額されやすい計算式になっていて、後半の人は減額されず年金が支給されやすいような計算式になっています。

60歳代前半だとまだ元気に動けるため、ちょっと多めに年金を減らしても大丈夫だろうという感覚です。一方、60代後半になると、そろそろ体が動きにくくなってくるため、なるべく年金を減らさずに支給しようというわけです。

65歳以降の場合、基準額を超えた額の半分が年金から減額されます。何だか分かりにくい書き方ですが、具体例を示します。

仮に、66歳で会社員として働いている人がいて、毎月の収入(給与と賞与を月当たりで平均した数字)が45万円、年金が月に20万円あり、合計で月65万円の収入があるとしましょう。

まず、在職老齢年金の支給停止基準額を51万円にした場合。

65 - 51 = 14万円で、基準額を超過した額は14万円。この額の半分である7万円が年金から減額されるため、月の収入は58万円になるわけです。

この人の場合、年金が7万円減額されているのです。

一方、以前の基準である47万円だった場合は、超過額は18万円で、その半分の9万円が年金から減額されます。

制度が変わることによって、受け取る年金額が月2万円増えるようになります。


60歳代前半の受給者は、55%が在職老齢年金制度の対象。

65歳以上の方は、在職老齢年金制度の対象になる人が多くないのですが、60歳代前半となると対象者が増えます。

働きながら厚生年金を受け取る人が120万人おり、そのうち67万人が在職老齢年金制度による影響を受け、その割合は約55%です。

60歳代後半だと17%で、60歳代前半になると55%ですから、60歳代前半で厚生年金を受給する方のほうが在職老齢年金に対する関心は高くなるはずです。

「あれ? 厚生年金は65歳から受け取るものでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、厚生年金の受給開始年齢は加入者の生年月日ごとに異なります。そのため、60歳から受給する人がいれば、63歳から受給する人もいます。

なぜ60歳代前半だと在職老齢年金制度の対象者が多くなるのか。それは支給停止基準額が28万円に設定されているためです。

60歳代後半の方は47万円が基準ですが、前半の方は28万円が基準になっており、若い人の方が在職老齢年金制度で年金額が調整されやすくなっています。この点は先程説明した通りです。


高齢者を労働市場から退出させる効果がある。

60歳代前半の在職老齢年金制度の方が対象者が多いとなると、65歳に達する前に仕事を辞めてしまう方もいるはずです。

65歳以降は在職老齢年金制度によって年金が減額されにくくなるとしても、60歳を境目に仕事を辞めてしまえば、その後の制度がどうなっても、もう関係ないわけです。

高齢者に働いてもらうため、在職老齢年金制度の支給停止基準額を引き上げたのですが、なるべく若い人に働いてもらうようにするならば、在職老齢年金制度で高齢者を労働市場から追い出していく方が望ましいでしょう。

年金を減らしたくない人は仕事を辞める。そのまま仕事を続ければ年金が減る。実によくできた仕組みです。

60歳代前半の在職老齢年金制度については現状を維持し、高齢者と若年者を入れ替える仕組みとして運用していけば良いのではないかと思います。


年金が減らないようにするにはどうする?

在職老齢年金は、在職しながら厚生年金を受け取っている人が対象です。

そのため、仕事を辞めると在職状態ではなくなり、在職老齢年金で年金が減額されることはなくなります。

他には、厚生年金に加入したことはなく、公的年金は国民年金だけ加入してきたという方は、在職老齢年金制度によって影響を受けません。

例えば、国民年金を1ヶ月あたり7万円受け取っている方がいたとして、その人は年金受給者だけれども、商売をまだ続けていて、そこからの年収が1,200万円あったとしましょう。

この人の年金は減額されるかどうかというと、減額されず満額で支給されます。

在職老齢年金で減額されるのは厚生年金ですから、国民年金だけ加入してきた方は、減額の対象とならないため、収入がどれだけあっても年金は減額されないのです。

国民年金は別名、基礎年金と呼ばれていて、生活の基礎となる年金であるため、報酬に関連無く保険料が定額ですし、支給する段階でも報酬に影響されないのです。

さらに他の方法としては、年金額に合わせて収入を調整して働くのも1つの方法です。

60歳で一旦退職して、再雇用という形で雇用契約を見直して、支給停止基準額を超えないよう、受け取る年金額を踏まえた報酬になるように働き方を調整します。

高所得者の場合は、年金が減る、もしくは全額が支給停止になったとしても、そのまま働くという手もあります。年金など僅かな金額だし、そのために働き方を変えるぐらいならば、もうそのまま行っちゃえ、と。会社役員の方はこういう方が多いのでは。

このように、対処法はいくつかありますが、どれを選択するかは本人次第です。

 

(追記)

在職老齢年金制度の減額基準を引き上げるかどうか、政府内で検討していたものの、制度を変更せず、現状のままで据え置くとのこと。

2019年の夏頃には、在職老齢年金制度そのものを廃止するかどうかがニュースで報道されていました。

在職老齢年金制度は、年金の給付を抑えつつ、高齢者を労働市場から退出させ、若年者が労働市場に入りやすいようにする効果が期待でき、私は制度に賛成でしたし、今も賛成です。

年金を受け取りながら働いて収入を得ると、その金額が一定基準に達した段階で年金額が調整されます。これが在職老齢年金です。

年金を減らされないようにするには、60歳以降、老齢厚生年金を受け取る状況になったら、再雇用制度で契約内容を変更して対応することができます。年金が減額される収入に達しないように働けば、制度の適用を回避できます。

また、60歳以降は自営業で商売を始め、在職老齢年金制度の影響を受けないように働くのも一案です。

厚生年金に加入したことがない方は、在職老齢年金制度が適用されませんから、年金受給者になっても収入を気にせずに働けます。

高齢者の就労意欲を阻害しないようにするのも、制度変更の目的らしいのですが、高齢者と若年者を入れ替えていく機能に私は期待しており、むしろ高齢者の就労意欲を削ぐ方が望ましいのではないかと思います。

 

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com
お問い合わせ

© 社会保険労務士 山口正博事務所