労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

パートタイマーへの適用拡大 社会保険に加入する基準を引き下げる理由。

 

意図

 

小規模な会社で働くパートタイマーも社会保険に加入するように。

平成28年10月から、パートタイマーで働く人が社会保険に加入する際の基準が緩和され、会社経由で社会保険に加入する方が以前よりも増えました。

週30時間以上で働く方は、制度変更の前から、フルタイム労働者と同様に社会保険に加入していました。

制度が変わり、週20時間以上で働き、月収が88,000円以上、1年以上の雇用見込み、といった条件で社会保険に加入するようになりました。

平成29年度の厚生年金保険・国民年金事業の概況によると、29年度の時点で会社経由で社会保険に加入している短時間労働者は38万人。平成31年の2019年時点だと、おそらく50万人程度はいるのではないかと思います。

緩和された条件で社会保険に加入する必要があるのは、従業員数が501人以上の会社が対象で、小規模な会社ではその必要がありませんでした。なお、労使間で合意の上で加入することは可能になっています。

 

1号被保険者と3号被保険者を減らす。

会社経由で社会保険に加入すると、被保険者種別では2号被保険者になります。同時に複数の被保険者種別に該当することはありませんので、2号被保険者になると、自ずと1号被保険者でなくなり、3号被保険者でなくなります。

社会保険に加入する基準を下げていくと、以前は1号被保険者や3号被保険者だった人が2号被保険者に変わっていきます。

平成29年度の厚生年金保険・国民年金事業の概況に掲載されている、公的年金被保険者数の推移では、1号被保険者と3号被保険者は徐々に減っていく傾向にあり、一方で、2号被保険者は増え続けています。

仮に、2号被保険者が100万人増えたとすれば、他方で、1号被保険者と3号被保険者が100万人減っていると考えられます。

平成28年度は、1号被保険者が1,575万人、2号被保険者が3,822万人、3号被保険者が889万人でした。それが平成29年度になると、1号被保険者が1,505万人、2号被保険者が3,911万人、3号被保険者が870万人でした。

1年で、1号被保険者は70万人、3号被保険者は19万人、合計89万人減っています。一方で、2号被保険者は89万人増えています。両者はトレードオフの関係になっていて、2号被保険者を増やせば、1号被保険者と3号被保険者を減らせるという構図です。

 

1号被保険者を減らす利点。

1号被保険者は国民年金だけ加入している人なのですが、国民年金の保険料は厚生年金の保険料とは違って、本人が保険料を支払うかどうかを選択できます(これが良いのかどうかは賛否ありますが)。

納付書で支払う人がいれば、口座振替で支払う人もいて、さらにクレジットカードで国民年金の保険料を支払う人もいます。

さらに、各種の免除制度や猶予制度があり、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除、納付猶予とメニューは5つあります。

納付しなかった人への納付書送付や督促までありますから、随分と手間がかかるのが1号被保険者なのです。

その点、厚生年金に加入している人は、給与から保険料を天引しますので回収は容易です。また、免除や猶予の制度もありません。保険料をキッチリ回収できるため、後から督促する必要もない。

となると、制度設計者としては、1号被保険者ではなく2号被保険者になってもらった方が都合が良いのです。

社会保険に加入する基準を緩和して、1号被保険者を2号被保険者へ切り替えていく。そうすれば保険料を回収する手間を少なくできますし、入ってくる保険料収入も増えます。

 

会社経由で社会保険に入ったほうが保険料が安くなる人もいる。

社会保険に入ると保険料をたくさん払う必要があると考えがちですが、収入によっては、1号被保険者で国民年金だけ加入している場合よりも保険料が安くなるケースもあります。

厚生年金の保険料率は18.3%。国民年金の保険料は2019年時点で16,410円。

1号被保険者が支払うのは毎月16,410円。一方、2号被保険者は収入の18.3%で、その半分を会社が負担します。

仮に月収10万円のパートタイマーの方がいたとして、1号被保険者だった場合と2号被保険者だった場合を比較するとどうなるか。

1号被保険者だと保険料は毎月16,410円。2号被保険者だと、18.3%ですから、18,300円になり、本人負担はその半分の9,150円です。

会社経由で社会保険に加入する方が毎月7,260円、保険料が安くなります。

ちなみに、厚生年金の保険料には国民年金の保険料も含まれています。ということは、毎月9,150円を給与天引きで支払うと、16,410円分の国民年金保険料を支払ったという扱いになり、さらに報酬に比例した厚生年金もプラスされるのです。

保険料が安くなって、さらに年金も増える。二重にお得な状態になります。

ただし、毎月の収入が10万円程度の少額であるパートタイマーの方しか、この恩恵をこうむることはできません。

収入が少ない場合は、税金よりも社会保険料を減らす方が可処分所得を増やしやすいため、税金のことを考えるよりも、社会保険料について考える方が有益です。

健康保険で10%。厚生年金で18.3%。半分を会社が負担するとしても、手取り収入が約15%も天引きされるのですから、所得税よりも社会保険料の方が給与明細での存在感は大きいでしょう。

一方、収入が増えてくると、社会保険料には上限がありますから、そこを振り切っていくと、収入に占める社会保険料の割合は下がっていきます。そうなれば、社会保険料は雑費程度の感覚になり、後はいかに税金への対策を講じるかが課題になります。

 

3号被保険者を減らす利点。

会社で社会保険に加入する人が増えれば、1号被保険者と同様に3号被保険者も減少します。

3号被保険者とは、保険料負担無しで国民年金に加入している人です。国民年金の保険料は毎月16,410円ですが、これが必要なくなります。

「保険料を払っていないということは、年金も受け取れないのでは?」と思うところですが、3号被保険者というのは保険料負担なしで国民年金の保険料を支払ったと扱われる加入種別です。

つまり、毎月約16,410円のお小遣いを受け取っているようなもの。年間だと約20万円ほどになります。

一方、2号被保険者は本人が保険料を負担しますし、給与から保険料を天引できます。そのため、年金制度の運営には都合が良いのです。1人あたり年間20万円ほどのお小遣いを払う必要が無くなるのですから、3号被保険者が870万人いるとして、これを全て2号被保険者に切り替えると、1兆7,400億円の費用を減らせます。

そのため、加入基準を緩和し、会社経由で社会保険に加入する人を増やしていこうとしているわけです。

1号被保険者を2号被保険者に切り替える場合には利点がありますが、3号被保険者を2号被保険者に切り替える場合にも、このような利点があるのです。

 

今後さらに社会保険への加入基準を引き下げていくかどうか。

パートタイマーの方は、特に1号被保険者の場合、会社経由で社会保険に加入する方が利点があります。社会保険は半額負担ですし、国民年金の保険料だけ支払っていた場合よりも支払額が減ることもありますから、悪くはないのです。

3号被保険者の方は、2号被保険者に変わると、手にしていた既得権を失いますから、抵抗感があるかもしれません。年金の保険料を払うことになりますし、健康保険料も払いますから、以前のように保険料無しで年金と健康保険に入っていた状況とは変わります。

雇用保険の加入基準は随分と緩くなり、パートタイマーの方の多くが加入していますが、社会保険も雇用保険と同程度の加入基準にするかどうかが課題になります。

雇われて働いている人は全て社会保険入るべき。こういう考え方もありますけれども、あまり低収入で社会保険に加入できるようになると、1号被保険者と2号被保険者との間の不均衡が生じます。月収88,000円以上という基準でも、すでに不均衡は発生していますが。

1号被保険者は2号被保険者よりも高い保険料を支払っているのに、受益の中身が2号被保険者に比べ少ない。このアンバランスをどう解消するかが悩みどころです。

例えば、2号被保険者に対して、毎月15,000円程度の最低保険料を設定するとすれば、1号被保険者との不均衡は生じにくいかもしれませんが、収入に占める社会保険料の割合が上昇しますし、会社が負担する社会保険料も増加します。

今回は、企業規模の条件を501人以上から51人以上に変えたものですから、加入者の収入基準は以前のままです。

企業規模の条件を今後51人以上から31人以上、11人以上と下げていっても、先程、指摘した問題が生じることはありません。しかし、収入基準を88,000円未満まで下げていくかというと、1号被保険者との兼ね合いから考えて、非現実的です。

加入基準を下げるとしても、今後は、対象となる企業規模要件を下げていくにとどまるのではないかと思います。

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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