- 電子マネーで給与を受け取る?
- 賃金のデジタル払いの利点と欠点
- 現金よりも通用する決済手段は無い
- 銀行口座に入った時点で現金は電子マネーに変わる
- インセンティブが無ければ電子マネーを使わない
- 労働者が希望すれば賃金をデジタル払いしてもらえる?
- 給与前借りサービスよりも電子マネーで給与を先に受け取る
厚生労働省は18日、プリペイドカードなど「デジタルマネー」での賃金支払いに関し、全国での解禁を検討していると明らかにした。労働者の同意を条件に、現金や金融機関への口座振り込みを定める規制を緩和する。政府内では国家戦略特区で試行する意見もあったが、利用が見込まれる外国人労働者の増加に備えて地域を限定しない。2018年度中にも労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論を始める。
規制改革推進会議の作業部会で厚労省が解禁方針を説明した。「早期の実現を目指す」としている。給与を受け取れないリスクをなくす労働者保護策が課題になる。
電子マネーで給与を受け取る?
労働基準法24条では、「賃金は通貨払いするもの」と決められています。
労働基準法24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
そのため、給与や賞与は、現金で手渡しするか、銀行に振り込んで支払うのが主流になっています。
現金で受け取るのが当たり前になっている賃金ですが、これをデジタル払いにするかどうか議論されています。
お店で買い物をして、現金で支払うとなると、予め現金を用意していないといけないですし、無ければATMで現金を引き出す手間もかかります。
月末近くになるとATMは混む傾向があり、お金を引き出すだけのためにATMに並ぶのはシンドイもの。
現金ではなく、電子マネーで賃金を受け取れば、ATMがあるところまで行く必要はありませんし、行列に並ぶこと無く、さらには手数料もかかりません。
お釣りのやり取りもなく、電子マネーで決済すると便利です。
しかし、賃金を現金ではなく電子マネーで支払うとなると、気になる点が出てきます。
「デジタルで給与を支払うメリットは何?」、「現金振込よりも利点はあるの?」と疑問を持ってしまうところですよね。銀行に給与を振り込んでいる時点で現金は数字データとしてデジタル化されているとも言えますし。
賃金のデジタル払いの利点と欠点
賃金をデジタルで支払う利点
迅速な支払い:デジタルでの賃金支払いは、従来の銀行振込や現金支払いに比べて処理が早く、すぐに受け取れる。振込だと受付時間による制約がありますからね。
賃金をデジタル払いにする欠点
現金よりも通用する決済手段は無い
現金ならば、どこのお店でも買い物ができるはずですが、電子マネーとなると、それを使えるお店が限られてきます。
一口に電子マネーといっても、色々な会社が独自に規格を作っており、自社ネットワークに加盟しているお店なら使えるものの、ネットワークに入っていないお店だと使えなくなります。
例えば、イオン系のお店だとWAONを利用できますが、セブン&アイグループのお店だとWAONは使えません。
逆に、セブン&アイグループのnanacoをイオン系列のお店に持っていっても使えないんですね。
クレジットカードでも、使えるお店があれば、現金払いしか受け付けていないお店もあります。
現金以外の決済手段を選択すると、現金に比べて流動性が低下します。
現金ならどこでも使えるのに、電子マネーやクレジットカードとなると、使えるお店が限られます。
決済手段で最も流動性が高いのは現金ですから、それを他のものに変換してしまうと、場合によっては買い物ができないこともあります。
携帯電話のバッテリーがなくなれば電子マネーは使えなくなりますし、サービス業者側でシステム障害が発生すると、それもまた電子マネーが使えなくなる原因になります。停電になったときも使えませんよね。電気を当たり前のように使っていると、停電したときに身動きができなくなります。
現金と違って電子マネーの規格によってどの店で使えるかが決まってしまい、自分が使いたいお店や業者で電子マネーで決済しようとしたところ、その規格を取り扱っていないとなると困ってしまいますよね。
電子マネーの決済は、銀行振込やクレジットカード決済よりも低コストで実行できるのは良いところです。また、財布を落として現金を失うこともありませんから、利点はたくさんあるのでしょう。ですが、バッテリーがなくなるとか、停電が起こるとか、システム障害が起こった場合に短所が出てきますから、それをどこまで受け入れるかが考えどころです。
インセンティブの1つとして、電子マネーで給料を受け取ると、何らかの加算が付く。例えば、1か月当たりデジタル給与手当を300円加算する。些細なものですけれども何もないよりは少しでもインセンティブを作って電子マネーで給与を受け取るのも良いのではないかと。振込で受け取るよりも利点があれば選択する人も出てきます。
インセンティブを受け取る条件として、1ヶ月あたり10万円以上を電子マネーで受け取るという基準を設定することで、電子マネーでの給与に対する加算を付けていくのも面白そうです。一定額以上をデジタル給与で受け取ればインセンティブが付くというものです。
特定の規格の電子マネーで給与の全額を受け取ってしまうと、流動性が低下して、システム障害などの短所となる出来事に遭遇した時に困ってしまいますから、全額を電子マネーで受け取るのはちょっと近い将来に実現するとは考えにくいですね。
例えば、報酬を1日あたりで支払っているとか、1週間あたりで払っている。このように支払頻度が高い仕事ならば、銀行振込よりも電子マネーで受け取ってもらった方がお互いに良いのではないでしょうか。日払いや週払いのように、報酬を短期間で精算する仕事にはデジタル給与は都合が良いでしょうね。例えば、現金だと受け取りまで1週間かかるけれども、電子マネーだと1日で受け取れるとなれば、これは利点になります。
デジタル払いされた給与は現金化もできるようですので、それならば現金受け取りの給与や銀行振込と同じになりますね。電子マネーにチャージすると現金に戻せないのが通常ですが、賃金デジタル払いで受け取ったものは換金性が求められるため現金化できる必要があります。
銀行口座に入った時点で現金は電子マネーに変わる
賃金が銀行に振り込まれると、もうその時点で実質的に電子マネーになっています。
現金を数字に変換したものが電子マネーだとすると、銀行口座に入っている現金は電子マネーと言っても差し支えありません。
VISAデビットカードなど、現金を取り出さずに決済できる方法が普及してきています。
デビットカードとクレジットカードのいいとこ取りをしたようなカードで、表面上はクレジットカードのように使えますが、実質は銀行口座に連動したデビットカードです。
銀行の口座から現金を引き出さずに、ダイレクトにカードで決済できるため、ATMを利用する必要がありません。
また、残高の範囲内で決済するため、使いすぎも防げます。
QRコード決済も普及しつつありますが、こちらも銀行口座から現金を電子マネーに変換して使えます。
賃金を受け取る段階では現金のままにしておいて、その後で利用者が各自の選択に基づいて電子マネーに変換して使えば良いでしょう。チャージ額も任意で決められますし。
人によっては銀行口座を持っていない、持ちたくない人もいるかもしれませんから、そういう人に賃金を支払うときはデジタル払いが良いですね。
インセンティブが無ければ電子マネーを使わない
人は何らかの利点を感じると、行動を起こします。
例えば、賃金を電子マネーで受け取れば、給与が3%増えるとか手当が加算されるなど。そういうインセンティブがあれば選択する人もいるでしょう。
しかし、現金払いと違いがないならば、あえて流動性を低下させてまで電子マネーを選びません。
流動性が低下することを受け入れられるほどの利点がデジタル払いにあるか。ここがポイントになります。
あえてデジタル払いを選ぶとすれば、決済コストが安いのは利点かもしれません。
現金で銀行振込を依頼すると費用がかかりますが、電子マネー払いなら手数料が安くなります。
手数料が安くなれば、月1回の支払いではなく、月2回払いや3回払いも可能になるでしょう。さらに、週払いや日払いですら容易ではないかと思います。
他には、日本に銀行口座を持っていない外国人労働者に賃金を支払うにはデジタル払いは良い方法です。
銀行をバイパスして支払いができるため、手数料が安く、銀行口座を開設する必要もありません。
電子マネーのサービス業者では数ヶ月に1度ぐらいの頻度でキャンペーンを実施して、割引や還元で利用を促進することがありますが、そういったキャンペーンを実施してる間は電子マネーを積極的に使ってもらえますけれども、キャンペーンが終了すると利用が少なくなる傾向もあるでしょう。
インセンティブを付ければ電子マネーを使う人は増えますけれども、インセンティブがなくなっても使い続けてもらえるかどうかが考えどころです。
労働者が希望すれば賃金をデジタル払いしてもらえる?
労働者本人の方から、銀行振込ではなくデジタル払いでお願いします、と要求することができるのかどうか。
賃金のデジタル払いは労働者の同意を取った上で実行するものですから、同意を取るということはその前提として使用者側から「賃金をデジタル払いにするのだけれども宜しいか」という形でオファーがあるわけです。そのオファーを受け入れるかどうか、というのが労働者の同意です。
労働者からの希望ではなく使用者からオファーがあって、それに対して同意するかどうかというのが賃金デジタル払いを導入する条件となっています。
ですから、まず前提として使用者側から賃金をデジタル払いにするがどうか、という形で話を振ってもらわないと始まらないわけです。
ゆえに労働者が希望したからといってデジタル払いにしてもらえるとは限りません。
給与前借りサービスよりも電子マネーで給与を先に受け取る
国内に銀行口座を持っている人はデジタル払いを選ぶ可能性は低いかと思いますが、早めに給与を受け取りたい人や外国人には利用者が出てくるはずです。
月に1回で給与を支払うと、働いてから給与を受け取るまで時間がかかります。さらに給与締め日から給与の支払日まで時間が空いていることも多いですから給与債権が長い期間現金化されずに持ち越されてしまいます。 これは現金払いや給与振込の欠点とも言えますね。
賃金をデジタル払いできるならば、給与を支払う回数を小刻みにすることができるでしょうから、1ヶ月に1回給与を支払っていたところを2週間に1回、1週間に1回と短期間で給与を精算して支払うこともできます。
ですから給与振込を選んだ場合は、月に1回の支払いになりますけれども、デジタル払いを希望した方には2週間ごとに支払う。こういう違いが出てくると銀行振込ではなくデジタル払いを選択する人も出てくるでしょう。
月給50万円の人だと、半分の25万円はデジタル払いにして、2週間刻みで受け取り、残りの25万円は月1回の銀行振込で受け取る。このような組み合わせで給与を受け取ることも考えられます。
給与を立て替え払いするサービスもありますが、手数料を考えれば、電子マネーで受け取る方が有利でしょう(給与支払いの手数料は会社負担になるでしょうから)。すでに終わった仕事に対する報酬を小刻みで精算できれば、給与前借りサービスに手数料を払うこともありませんので。今日の仕事の報酬を今日受け取るなんてことも電子マネーならば可能でしょう。
給与の支給日が月に1回だけだと、途中でお金が足りなくなって、給与を前払いしてもらいたくなります。しかし、電子マネーで給与を受け取れるなら、すでに働いた分だけ先に支給してもらうことも可能でしょう。デジタル給与が可能になれば、給与前借りサービスの被害者を減らす効果は期待できそうです。給与債権の流動化が促進されるのが賃金デジタル払いの利点ですね。
「給与は毎月1回」と固定することなく、月に3回なり4回と分けられるのがデジタル払いの利点の1つでしょうね。
- 決済の早さ
- 手数料の安さ
- 銀行口座不要
この特徴を活かせるなら、現金に比べて多少なりとも流動性が低下しても、それをカバーできるほどのメリットが賃金デジタル払いにはあります。
2023年4月1日から労働基準法施行規則の一部を改正する省令が施行され、賃金デジタル払いが開始されますから、どうなるのか興味深いですね。資金移動業者の指定申請が始まって、その審査に数ヶ月かかるため、デジタル払いが実務で開始されるのは2023年の夏頃ではないかと。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について