- 社会保険料はどうやって決まる?
- 「報酬月額」を「標準報酬月額」に変換する
- 標準報酬月額に保険料を掛ける
- 1年の途中で収入が変わったら?
- 他の人と収入が同じなのに、自分の社会保険料が高い?
- 収入が他の人と同じなのに、自分だけ社会保険料が高くなる理由。
- 「随時改定」とは?
- 随時改定には特例が適用されなかった。
- 繁忙期に昇給していると社会保険料が増えることも
- 随時改定でも特例が適用できるように
- 給与を支払う都度、保険料を計算すれば起こらない問題
収入に連動して決まるのが社会保険料ですが、
昇給の時期や業務の繁閑によっては、
収入の割に高い保険料になってしまう場合があります。
他の人と同じ収入であるにも関わらず、
自分の社会保険料が多くなってしまう。
「そんなことが起こるの?」と
思うところですが、
例えば、
月収が同じ46万円なのに、
同僚は保険料が4万円なのに、
自分は6万4千円になる。
こんなことが起こるんですね。
「収入と社会保険料は連動するんじゃないの?」
確かに、そうですね。
しかし、
「昇給する時期」や「業務の繁閑」
が影響して、思わぬ結果になるケースもあるのです。
こういう不具合が以前から頻繁ではないものの、
生じる場合があり、
それに対応するために制度が新しく変更されます。
社会保険料を決める際の特例制度(上記のような不具合に対するための仕組み)
が変更になり、
その変更が平成30年10月から実施されます。
どういう変更なのかを説明するためには、
まず社会保険料がどのように決まるのかという点から
説明する必要があります。
そのため、若干、文章が長くなります。
社会保険料はどうやって決まる?
「社会保険料の料率」に「収入」を掛けて、
社会保険料の額を算出する。
ここまでは分かるかと思います。
ただ、毎月の収入に連動して社会保険料が決まるわけではなく、
年に1回、社会保険料を決めるイベントがあります。
通称では、「社会保険料算定」と言われます。
算定基礎届という書類を作って、年金事務所に出すと、
個人別の社会保険料が決まります。
毎年7月になると、社会保険料を算定する手続きがあり、
そこで「定時決定」という判定で個人別の社会保険料が決まります。
定時決定とは、
4月、5月、6月、この3ヶ月間の収入の平均を出し、
その平均数字を、9月以降、1年間続くものと仮定し、
社会保険料を決めるわけです。
※8月までは以前の社会保険料が適用され、
新しい社会保険料は9月から適用されます。
例えば、
4月:52万円。
5月:58万円。
6月:56万円。
このような収入だった場合、
社会保険料を計算するときの収入は、
3ヶ月平均で55.3万円となります。
この55.3万円が1年間ずっと続くと仮定して、
社会保険料が決まるんですね。
「じゃあ、その55.3万円に社会保険料率を掛けるの?」と
思うところですが、
もう少し手間がかかります。
「報酬月額」を「標準報酬月額」に変換する
この55.3万円という数字は、
社会保険では「報酬月額」と呼ばれます。
つまり、
「報酬月額 = 月収」
と考えていただければいいでしょう。
この報酬月額を、
「標準報酬月額」
という数字に変換する必要があります。
この2つ、似たような言葉ですよね。
報酬月額と標準報酬月額ですから。
この時点で混乱する人もいるはずです。
変換するには、
社会保険料の等級表に報酬月額をあてはめます。
※職場がある都道府県を選ぶと、
都道府県別で健康保険料を計算できます。
※厚生年金の保険料は全国統一です。
上記の等級表に報酬月額をあてはめると、
標準報酬月額が分かります。
東京都の健康保険を例にすると、
報酬月額(月収)が55.3万円ならば、
等級は32等級になり、
標準報酬月額は56万円になります。
標準報酬月額に保険料を掛ける
報酬月額は「個人の月収」で、
標準報酬月額は、「一定の幅に収まる報酬月額を平均化した数字」です。
実際の収入は55.3万円ですが、
社会保険料を計算するときは56万円になります。
ちょっと増えています(+0.7万円)けれども、
減る場合もあります。
32等級だと、報酬月額の幅は、
「54.5万円から57.5万円」です。
この幅の中に報酬月額が収まる場合は、
標準報酬月額が56万円になります。
そのため、54.5万円の人だと、1.5万円多く計算されます。
一方、57.5万円の人だと、1.5万円少なく計算されます。
収入が違っても、同じ健康保険料になるのですから、
32等級ならば、
収入に占める保険料の割合が少なくなる
月収57.5万円の人の方が少しだけお得です。
この標準報酬月額56万円に保険料を掛けます。
東京都の健康保険だと、平成30年度は9.9%ですから、
この保険料を掛けると、
健康保険料は55,440円。
会社と本人で保険料を折半するため、
本人分の保険料は27,720円です。
収入(報酬月額)を標準報酬月額に変換し、
標準報酬月額に保険料率を掛ける。
これで社会保険料を計算できます。
1年の途中で収入が変わったら?
年に1回、社会保険料が決まるとしても、
収入はずっと同じというわけではなく、
状況に応じて変動します。
昇給があれば、降給もあります。
忙しい時期で収入が増えるときもあれば、
仕事が少なく収入が減る時期もあります。
ですから、
「収入が変わっているのに、
ずっと同じ社会保険料だと困る」
そういう方もいらっしゃいます。
例えば、
農産物の加工だと、収穫期に加工作業も行います。
しかし、収穫期以外は加工の仕事はありません。
また、農業も、
仕込み時期と収穫時期は仕事が多いですが、
それ以外の時期は閑散とします。
米や茶葉、野菜も、時期に合わせて収穫するものですから、
仕事の繁閑もそれに合わせています。
他には、リゾートホテルも、
1年を通して繁閑の差がある職場です。
北海道のリゾートだと、ウィンターシーズンはお客さんがワンサカと来ます。
しかし、シーズンオフになると、お客さんはもう来ません。
春夏、秋冬と年間を通して営業できるように工夫していても、
シーズンが切り替わる時期は閑散期に入ります。
このように仕事の密度にバラツキがある仕事の場合、
年間を通して同じ社会保険料に固定されてしまうと、
実際の収入に合わない社会保険料になってしまいます。
この場合に、社会保険料を算定する際の「特例」が適用されます。
最初に、
「社会保険料を決める際の特例制度が変更になった」
と書きましたが、
やっと本題に入ります(長い前説でしたね)。
他の人と収入が同じなのに、自分の社会保険料が高い?
4月、5月、6月の収入で社会保険料が決まる(定時決定)場合、
4月から6月の間に仕事が増えて、
それ以外の時期は落ち着く。
そういう業種の場合、
7月から3月までの収入に比べて、
社会保険料が割高になります。
具体的には、
4月:60万円
5月:60万円
6月:60万円
7月:30万円
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|
(中略)
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|
3月:30万円
単純ですが、毎月の収入がこのようになったとしましょう。
4月から6月までは繁忙期で収入が多い。
しかし、それ以外の時期、7月から3月は収入が少なくなる。
4月、5月、6月の収入で1年間の社会保険料を決めると、
月収60万円が基準になってしまいます。
社会保険料が30%だとすれば、保険料は18万円です。
※内容を簡単にするため、標準報酬月額への変換については、ここでは無しとします。
7月以降には月収が30万円に変わるものの、
社会保険料が18万円で変わらないと、
本来の保険料よりも高くなってしまいます。
月収30万円で30%ならば、社会保険料は9万円になるはず。
にもかかわらず、18万円で固定されてしまうと、
これは困りますよね。
毎年、このような繁閑が発生する場合は、
通常通りに社会保険料を決め(「定時決定」のこと)ずに、
保険者側(行政側)で社会保険料を決めることになります。
ちなみに、これを「保険者算定」と言います。
4月から6月の収入ではなく、
去年の7月から、今年の6月までの12ヶ月間。
この期間を平均して、収入、つまり報酬月額を出します。
7月から3月までは月収30万円。
4月から6月までは月収60万円。
これを平均すると、1ヶ月あたり32.5万円。
これを基準にして社会保険料を計算します。
4月から6月の3ヶ月間の数字を使うのではなく、
過去1年間の数字で社会保険料を計算する。
これが【社会保険料を決めるときの特例】です。
月収60万円で社会保険料を計算されるよりも、
月収32.5万円の方が社会保険料は半分ほどになります。
収入が他の人と同じなのに、自分だけ社会保険料が高くなる理由。
もし、
繁忙期に昇給が重なると、
社会保険料を計算する時の特例が適用されず、
「随時改定」という処理がなされ、
過去1年分の収入ではなく、
直近3ヶ月間の収入で社会保険料が計算されてしまう。
その結果、実際の収入に合わない高い社会保険料になってしまうんですね。
「随時改定」とは?
定時決定は、4月から6月の収入を使って社会保険料を計算します。
一方、
随時改定は、収入が変動した時に、社会保険料を調整するための仕組みです。
先程書いたのは、「定時決定」です。
4月から6月までの収入を使って、社会保険料を決める。
これが定時決定。
一方、随時改定とは、
1年の途中で、収入が一定以上に増減した場合に、
実際の収入に合った社会保険料になるよう
調整する仕組みです。
例えば、4月に昇給があって、
収入が増え、随時改定する条件を満たした場合、
6月までの3ヶ月間の収入を基に
随時改定が7月に実施されます。
- 昇給(もしくは降給)している。
- 一定以上に収入が増えた。
この条件を満たすと、定時決定を待たずに、
随時改定でもって社会保険料が変更されるんですね。
定時決定は1年に1回。
随時改定はその都度、対応する仕組み。
こういう違いがあります。
随時改定には特例が適用されなかった。
過去1年分の収入を基準に社会保険料を決める特例は、
定時決定(4月、5月、6月の収入で社会保険料を計算)
に適用されるものでした。
年1回の定時決定のときは、業務の繁閑を考慮して、
「4月、5月、6月の収入」ではなく、
「過去1年間の収入」で
社会保険料を計算する特例を適用できます。
しかし、随時改定された場合は、
過去1年分の収入で社会保険料を決めることはできず、
「直近3ヶ月間の収入で計算されてしまう」のです。
もし、季節ごとに繁閑がある仕事をしている人が、
定時決定ではなく、随時改定で社会保険料を決定されてしまうと、
「収入が高い期間を基準に社会保険料が決められてしまう」
場合があります。
そのため、同じ収入であっても、
定時決定された人と随時改定された人で、
社会保険料が変わってしまうことがあったのです。
(参考)
標準報酬月額の決定における報酬月額の算定の特例の見直し(概要)
-行政苦情救済推進会議の意見を踏まえたあっせん-
(総務省)
「健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び
随時改定の取扱いについて」の一部改正について(厚生労働省)
繁忙期に昇給していると社会保険料が増えることも
先ほどの例を使うと、
1月:30万円
2月:30万円
3月:30万円
4月:60万円
5月:60万円
6月:60万円
7月:30万円
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(中略)
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|
3月:30万円
年間の収入はこういう数字でした。
「4月から6月は繁忙期なので収入が多い」です。
この点が後からポイントになりますので、
覚えておいてください。
ここで、仮に、
「1月に昇給した人」と「4月に昇給した人」がいたとしましょう。
(1月に昇給した人)
1月:30万円 → 31万円。
2月:30万円
3月:30万円
4月:60万円
5月:60万円
6月:60万円
7月:30万円
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(中略)
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3月:30万円
(4月に昇給した人)
1月:30万円
2月:30万円
3月:30万円
4月:60万円 → 61万円。
5月:60万円
6月:60万円
7月:30万円
|
|
(中略)
|
|
3月:30万円
昇給の額は2人とも同じです。
ただ、その時期が違います。
前者は1月に昇給。
後者は4月に昇給。
さらに、4月から6月は繁忙期で、
収入が増加している時期です。
この昇給の結果何が起こるか。
1月に昇給した人は、
定時決定で社会保険料が決定され、
さらに、
4月から6月の収入ではなく、
7月から6月までの1年間の平均収入で
社会保険料が決まります(特例が適用される)。
年平均で月収は32.5万円。
この収入水準で社会保険料を計算するわけです。
一方、
4月に昇給した人は、
昇給しており、4月は収入が多く、
随時改定の条件に当てはまります。
その結果、
4月、5月、6月の収入を基準に
社会保険料が決められてしまいます。
4月から6月は、
収入が平均で約60万円ほどですから
これを基準に社会保険料が決まるとなると、
本来あるべき水準(月収32.5万円)で計算する場合よりも、
社会保険料が高くなってしまうのですね。
なぜこういうことが起こるかというと、
「繁忙期と昇給時期が重なった」
のが原因です。
収入が多くなっている時期に昇給があったため、
それが引き金となって随時改定で
社会保険料が決まってしまった。
本来ならば、
定時決定で、さらに特例を適用して
社会保険料が計算されるべきなのですが、
随時改定で処理されると、
過去1年分の収入を基準にする特例が使えません。
その結果、4月から6月までの高い収入を基準に
社会保険料が決まってしまう。
「同じ収入なのに、社会保険料が違う」
その原因はコレです。
同じ昇給幅なのに、その実施時期が違うだけで、
社会保険料が倍ほど変わってしまう。
これは困りますよね。
随時改定でも特例が適用できるように
これまで、定時決定の場合でしか、
特例を使えなかったのですが、
平成30年10月以降は、
随時改定の場合も、
1年を通して繁閑の差がある
季節性の業務に就いているという条件はありますが、
過去1年分の収入を基準に
社会保険料を決められるようになります。
給与を支払う都度、保険料を計算すれば起こらない問題
毎月の収入に保険料が連動するようにすれば、
今回のような問題は起こりません。
実際に支給された収入に保険料を掛けていけば、
たとえ収入に変動があっても対応できます。
ちなみに、雇用保険料の額は毎月の収入に連動して変わります。
しかし、社会保険料は年間で固定する方式になっていて、
収入と、それに合った保険料との間にズレが生じる場合があります。
そのために、随時改定や、今回説明した特例で対処しているわけです。
保険料収入と支出の見通しを良くするため、
社会保険料はなるべく固定するようにしているのだろうと思います。
一方、
雇用保険は、黒字になりやすい制度で、
毎月の収入に連動させても運営に支障がないため、
固定せずに変動で保険料を計算しているのでしょう。
こちらにも興味がありませんか?