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雇用調整助成金が不正受給される理由 絶対に休業を偽装してはいけない

 

 

性善説に基づく助成金申請。疑心暗鬼では手続きが進まない。

http://www.asahi.com/articles/ASJDW4RL2JDWUTIL01J.html
雇用調整助成金、不正受給4割戻らず 13~15年度


雇用調整助成金、中小企業の場合は緊急雇用安定助成金という名称でしたが、まだこの助成金は続いているんですね。随分と古くからある制度ですが、2017年の今でも継続しています。

これは、2008年9月のリーマンショック以降に注目を集めた助成金です。受注が減って、営業できない場合に社員を休業させると、その際に支給する休業手当の一部を助成金で補填する。それが雇用調整助成金です。

2013年から2015年までに、657億円が助成金として支給され、不正受給されたのは54億円。不正の割合は全体の10%弱です。

なぜ不正受給されるかというと、理由は簡単です。自己申告に基づいて支給される助成金だからです。

私も、2009年の1月から約1年間ほど、この助成金の手続きをしていましたが、「こりゃあ、危ないなぁ」と思っていました。労働局の窓口で申請をするのですが、こちらが提出した書類を形式的にチェック(記入の不備、印鑑、添付書類などを確認)するだけで受理されますので、その申請内容が正しいかどうかまではチェックされません。

雇用調整助成金を利用する場合は、まず先に休業計画の届けを出し、その後、実際に休業を実施します。さらに、休業した日なり時間に対して休業手当を支払い、後日、実施報告の書類を出して助成金を申請します。そうすると、後日、銀行の口座に助成金が振り込まれます。

計画届を出す。助成金を申請する。手続きではこの2つがセットになっています。

助成金を申請するときには、勤怠記録を出しますが、カレンダー形式の書類に、社員別、日にち別に「休業」と書いて、それを添付します。実際はこれで通ってしまいます。

実際に休業したかどうかをチェックしない(件数が多いので「できない」と表現するべきとところ)。だから虚偽の申告をする人たちが出てくる。

実際は休業せずに通常通りに操業していたけれども、勤怠記録には休業と表記して提出する。こういう虚偽の書類でも窓口では受け付けてしまいます。実際に休業したかどうかを知るには、事業所まで行って、労務関連の帳簿なり、社員へのインタビューなりをしないと分かりません。

休業手当が支給されたかどうかという書類も添付書類に含まれますが、こちらも勤怠記録と同様に、実際とは違う書類が提出される可能性があります。

私が申請書類を出していた大阪労働局では、待合場所の壁に、雇用調整助成金と中小企業緊急雇用安定助成金に関する不正受給について書かれた紙が貼られていたのを覚えています。「抜き打ちでチェックしており、不正が発覚した場合は助成金を返還していただきます」という趣旨の内容でした。

では、どうしたら防げるのかというと、全ての申請について事業所をチェックする必要がありますが、労働局の人員では無理です。全員を投入しても間に合わない件数ですし、助成金以外の業務もありますから、全数チェックはできません。

事前に防ぐ方法がありませんので、事後的に発見するしかない。これが現実です。

例えば、受給額の3倍を返還させるとか、詐欺で刑事告訴すると脅すのもアリですが、それでもやる人はいます。

疑うことを前提に申請書類を審査していたら、時間がかかりますし、これは怪しい、それも怪しいと、疑心暗鬼になって手続きが停滞します。それゆえ、ちゃんと事実通りに書類を作って、提出してくれていると考えて受け付けているのでしょう。

 

 

典型的な手法、休業を偽装して不正受給。

典型的な不正行為としては、

  1. 休業せずに、実際は普通に営業している。しかし、助成金の手続きでは休業していたと申告し、給付を受ける。実際とは異なる出勤簿や勤務シフト表を添付する。
  2. 教育訓練も同様。実際は受けていない教育訓練なのに、受けたかのように形だけを作出し、受講証明書も架空のものを作る。
  3. 休業手当を支給していないのに、さも支給したかのように書類を作る。事実と異なる賃金台帳や給与明細を添付。 

給与明細を2通(従業員に渡したものと助成金申請用に作ったもの)作成して偽装する方法があるでしょうし、二重帳簿と同じ発想です。

休業したのは月に3日だったが、申請で提出した勤務シフト表では月20日の休業したことになっている。

生産指標を確認する書類も事業所ごとに色々ですし、売上帳簿だけでなく、雇用に影響する数字ならば、工事の受注状況や客室の稼働率なども生産指標として使えるようですから、色々と工夫ができそうです。

確かに休業をしていたし、休業手当も確かに支払われている。これならば、助成金を申請しても不正受給にはなりません。しかし、実施していない休業を実施したかのように書類を作ったり、支払っていない休業手当を支払ったかのように書類を作って、それを申請で利用したとなると、これはダメです。

できるからといってやってはいけないことがあります。私も「これは不正に受給する人がいるだろうな」と思っていたものの、自分ではやりませんでした。何をどうすれば不正に助成金を受給できるかは、手続きをしていると分かるもので、こういうふうにやってはいけないんだな、と知った上で避けていくのが社労士の仕事。

実際に休業したか。実際に休業手当を支給したか。ここを確実に把握するまでは助成金を支給しないという仕組みも作れないこともないですが、現実には難しいのでしょう。件数が多くなれば、調べるのは大変です。

後から調査されるとしても全ての事業所がチェックされるわけではないので、リスクを承知で不正な申請をする企業があるのでしょう。発覚しても受け取った金額をそのまま返すだけです(課徴金のようなペナルティはなし)。また、不正受給の4割が返還されないとのことですので、お金を受け取ってトンズラする人もいるのかもしれません。

ちゃんと休業したのかどうか。ちゃんと休業手当を払ったのかどうか。この2点で変なことをしなければ不正受給になることは、おそらく無いはずです。休業の事実と休業手当を支払った事実に間違いがなければ、雇用調整助成金を正しく支給できますから。

社労士の中には、ごく少数だと思うのですが、助成金を受給するために、申請書類を偽造・改ざんする人がいます。毎月、社労士には会報が送られてくるようになっていて(相応の年会費を払っています)、その会報に懲戒事例として助成金の不正受給で処分された社労士が掲載されるのです。

事業所が主導したのか、社労士が主導したのか、事例を読んでも、詳細までは分からないのですけれども、不正受給に関わると、社労士も連帯で責任を負わされるため、助成金に関する不正には行政機関は厳しい対応を取っています。

社労士が関わると、「社労士の先生に言われて書類を作ったんです」などと言われ、本人が不正に関わっていなくても、スケープゴートにされかねないですから、助成金の仕事にはそれなりのリスクが伴います。

雇用調整助成金の手続き業務を受けるときは、社労士側でも、本当に休業をしていたのか、休業手当はキチンと支払われていたのか、この2点については可能な限り確認していかないといけませんね。調べれば容易に分かるのに調べなかったとなれば、これまた社労士の責任が問われます。

例えば、従業員が普段どおりに働いている事業所の状況を社労士が目にしながら、その従業員全員が休業しているとの申請書を作って、雇用調整助成金を申請すれば、事実に反する申請書を作ったとして懲戒処分を受けます。休業せずに通常通りに営業していると分かるのに、不注意なのか、故意なのか、事実と違う申請をするのはいけないわけです。

偽装休業、やっていはいけませんよ。これは絶対ですよ。 

雇用調整助成金だけでなく、助成金は他にもあり、その申請でも、添付する必要がある出勤簿を改ざんして提出したり、研修報告書や教育訓練を受けた証明になる受講証明書、受講費用明細書といったものを偽造して助成金を申請する事例も過去にあります。

助成金での不正を行うと、事業主も責任を負いますが、社労士も懲戒処分を受けて、業務停止になる場合や失格処分、社労士の資格を喪失することもあります。

 

 

 

助成金のイメージとは違いがある。現金が入ってウハウハにはならない。

助成金というと、さもお金が入ってきてホクホクなイメージがあります。しかし、雇用調整助成金を利用すると、会社のお金は増えるどころかジリジリと減っていきます。

「お金を受け取っているのに、なんでお金が減るの?」と思うかもしれませんが、会社が支給した休業手当の一部を補助する助成金ですので、足りない部分は会社が負担する必要があります。

例えば、1日休業にして、10,000円の休業手当を出す。そうすると、後日、助成金が6,600円支給される。この場合、差し引き3,400円のマイナスになります。

仮に社員が100人いたとして、全員を休業させて助成金を受け取れば、66万円です。この部分だけを見ると、「おお〜っ!」と感じます。しかし、一方で、休業手当を100万円支払うので、トータルのキャッシュではマイナス34万円です。受け取れる金額だけを見ていると、出て行くお金が見えなくなるんですね。

この数字を見ても、雇用調整助成金を使いたいと思うかどうか。

2019年末頃から感染が広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、事業所が休業したことに対して、次々と特例があとから追加され、雇用調整助成金の助成率が引き上げられ小規模事業所では助成率100%になるところもありました。

助成率が100%となれば、賃金の額によっては、支払った休業手当の全額が助成金で補填される場合もあり、休業中に事業所が負担する費用をさらに少なくできます。ただ、費用を少なくできるといっても、雇用調整助成金は手元にお金が残るような助成金ではありません。給与を肩代わりするのが目的ですから、何十万円、何百万円の現金が会社に残ることはありません。

先に休業手当を払って現金が出ていき、その後で助成金が入ってくるため、差し引きはほぼゼロです。「助成金 = 美味しい」というイメージを抱いていたとすれば、それとは違うなと感じるのではないでしょうか。

助成金を受け取るには、休業しないといけないですし、休業するということは営業を止めるわけで、売上を作れないし利益も出ない。しかも、助成金を利用しても、上記のように、会社のお金は少しずつ減っていく。つまり、使い続けると資金面ではジリ貧になる助成金なのです。

もちろん、一時的な対処策(災害状況から復旧する、感染症の流行が沈静化するまでなど)として雇用調整助成金を利用するのはアリですが、事業をリカバリーする見込みがないならば、助成金を使っても好転はしません。緩やかに事業を精算するのを待つだけです。

商売ならば、営業して、価値を提供し、収益を得て、賃金を払い設備投資をして、拡大再生産していかないといけないわけですから、ジッと止まって助成金を受け取っているだけでは埒が明きません。助成金を受給するのは仕事ではありませんからね。営業して他者に価値を提供してこそ商売ですから。

どこかのタイミングで休業を終了し、通常営業に戻らないと、助成金で生きながらえるゾンビ企業になってしまいます。

全員が休業している状態から、一部の人が休業している状態に変えていく。全日で休業している状況から、1日4時間なり3時間で短時間休業している状況に変えていく。

一部休業でも雇用調整助成金の対象とできますから、休業を始めた当初は、「休業100 : 営業0」の状態だったけれども、2ヶ月経って「休業60 : 営業40」に変わり、3ヶ月目には「休業20 : 営業80」となり、4ヶ月目には通常営業に復帰できそうだ。

このように、休業から通常営業へ切り替えていくことが可能であれば、雇用調整助成金で復帰までの時間を稼ぐのも有効なものかと思います。

 

 

 

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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