今年、平成28年10月から、パートタイマーで働く人の一部が社会保険に加入しますが、この制度変更、なかなか良く考えられているなと思えてきました。
短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大
表向きの理由は、パートタイマーを社会保険に加入させて、保障を厚くするところにありますが、他にも幾つかの効果を発揮できるものになっています。
パートタイマーの人を社会保険に加入させると、
1,1号被保険者(以下、1号)を2号被保険者に切り替えられる。
2,3号被保険者(以下、3号)を2号被保険者に切り替えられる。
3,高年齢の人を2号被保険者(以下、2号)にできる。
4,保険料を回収するのが容易になる。
この4点が主な効果です。
では、まず1つ目の効果から。
1号の人というのは、国民年金に加入し、国民健康保険(もしくは協会けんぽの被扶養者)に加入している人です。この人達を2号に切り替えると、国民年金の保険料を集める手間がなくなりますし、被扶養者の人を協会けんぽの被保険者に切り替えるので、健康保険料を集められるようになります。
年金保険料を確実に回収できるようになり、健康保険料も入ってくるようになる。これが1点目の効果です。
次に2つ目の効果について。
3号の人というのは、国民年金の保険料が免除されており、健康保険料も免除されている人です。国民年金の保険料が免除されていますが、一般的な意味での免除ではなく、保険料を納付したものと扱われる免除です。2016年2月時点での国民年金の保険料は15,590円ですが、0円でこれを納付したものと扱われるわけです。毎月15,590円のお小遣いを貰っているようなものですね。
また、健康保険では被扶養者ですので、毎月の保険料は不要です(利用時の自己負担はある)。
この人達が2号に切り替わると、厚生年金の保険料と健康保険料を支払うようになります。月収10万円で計算すると、健康保険料が10%で1万円。厚生年金保険料が18%で1.8万円ですので、合わせて2.8万円の保険料が発生します。
3号だと0円だった保険料が、2号に切り替わると2.8万円に変わります。
半年ぐらい前だったか、3号の人からも月額3,000円ぐらいの保険料を集めるなどと話があったようですが、3号のまま保険料を集めるよりは、3号から2号に切り替えて保険料を集める方が対応が容易です。
社会保険への加入対象者を拡大した最大の目的は、3号を2号に切り替えるところにあります。
次に、3点目について。
高年齢の人を2号にできるというのは、定年退職し、再雇用された人を2号として取り扱い、在職老齢年金制度の対象にするところがミソです。
在職老齢年金制度というのは、厚生年金を受け取りながら働く人(2号の人)がいる場合、収入に応じて年金を減らす仕組みです。
在職老齢年金の支給停止調整変更額などが平成27年4月1日より変更になりました(46万円⇒47万円)
再雇用されると、フルタイムではなくパートタイムとして働く人がいますから、そういう人たちは厚生年金の被保険者にならず、年金を満額受け取れる状態でした。しかし、社会保険に加入する基準が下がってくると、パートタイムで働いていても厚生年金の被保険者(2号)になる人が出てきます。
厚生年金を受け取りながら、厚生年金の被保険者になると、在職老齢年金制度の対象となります。その結果、収入次第では年金が減額されるわけです。
最後に、4点目の効果について。
1号被保険者は自分で保険料を納付しますし(支払わないという選択も可能)、3号だと保険料は0円です。これを2号に切り替えると、給与から保険料を天引きできるようになるので、確実に保険料を回収できるようになります。
パートタイマーを社会保険に加入させると、上記のように4つの効果を同時にもたらすことができるわけです。
保険料を回収する手間を省き、3号(または1号)を2号に変えて保険料を集め、さらに在職老齢年金制度で年金も減額する。
「いやはや、いやはや」と言うしか無いほど鮮やかな仕組みです。1つのドミノを倒すと、連鎖的に他のドミノがパタパタと倒れていく。そういう光景を見ているようです。