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■■┃ メールマガジン 本では読めない労務管理の"ミソ"
□□┃ 山口社会保険労務士事務所
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26条の休業が回避される可能性。
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雇用契約で決めていた勤務時間を変更。
仕事を続けていると、勤務時間や勤務日数を変更することがあると思います。
例えば、週5日勤務から週4日に変更することがあるでしょうし、10時から19時の勤務時間を13時から19時に変更することもあるはず。フルタイム契約ならば、勤務時間や勤務日数はある程度固定されていると思いますが、パートタイム契約だと思いのほか流動的に変更が発生する。
例えば、社員さん本人からの希望で、週5日勤務から週4日勤務に変更した場合と、会社側の希望で、週5日勤務から週4日勤務に変更した場合ではどのような点に違いがあるのか。他にも、社員さん本人からの希望で、10時から19時の勤務時間を13時から19時に変更した場合と、会社側の希望で、10時から19時の勤務時間を13時から19時に変更した場合ではどのような点に違いがあるのか。
何らかの会社側の都合で、勤務時間や勤務日数を変更した場合、通常だと労働基準法26条(以下、26条)の休業として扱われます。週5日勤務で10時から19時の勤務時間という条件で契約しているときに、週4日勤務に変更したり、勤務時間を13時から19時に変更したりすると、休業となるわけです。
では、勤務時間や勤務日数を実際に変更する前に雇用契約を変更したらどうなるか。つまり、週4日の勤務日数で条件を設定した雇用契約を予め締結し、その後に週4日勤務を実行したらどうでしょうか。この場合、26条の休業となるでしょうか。また、勤務時間の変更でも同様です。13時から19時の勤務時間に設定した雇用契約を予め締結し、その後に13時から19時の勤務時間に変更したとき、26条の休業となるでしょうか。
勤務日数の変更や勤務時間の短縮を実施するとき、あらかじめ雇用契約を変更するかどうかによって結論が変わってしまう。となると、26条の適用を回避する道ができてしまうのではないかが今回の焦点です。
休業か、それとも雇用契約の変更か。
雇用契約を締結したり、また、変更したりするのは想像よりも簡単です。契約を締結するとなると、書面を用意して、記入や押印をして、同じ契約書を2通作成し、それを契約当事者が1通づつ保持すると考えるのが普通の感覚だと思います。しかし、法的な契約には必ずしも書面が必要ではなく、口頭だけで契約を完了することも可能です。もちろん、口頭で契約を締結しても法的には有効です。
本業の商取引ではキッチリと契約書を作る企業でも、なぜか雇用契約になると契約書を作成せずに契約を締結することもあるし、契約書を作っているものの内容がアバウトであることもある。履歴書を持って行って面接し、契約書を作ること無く採用され仕事に取り組んだ経験がある人も多いはず。
パートタイム契約(いわゆるアルバイトも含む)は口頭で行い、フルタイム契約は書面を作成するという会社もあるかもしれない。パートタイムで働く人は入れ替わりの頻度が高いので、書面を作らずに契約するほうが便利だと考えているのかもしれない。一方で、フルタイム社員はパートタイム社員ほど入れ替わらないので、個別に契約書を作成して対応しているのかもしれない。
雇用契約はその他の契約に比べて曖昧に取り扱われやすいため、その内容もファジーになりやすい。それゆえ、勤務日数や時間を変更して休業を実施するとき、契約を事前に変更し、26条を回避する可能性を残してしまうのです。口頭だけで雇用契約を完了していると、休業を実施するときも、「今は週5日勤務だけど、来月から週3日勤務ってことでよろしく」と言われ、ドサクサ紛れに契約内容が変更され、26条の休業として扱われないように誘導されるかもしれない。
26条は、契約した勤務日数や時間に、使用者の都合で仕事を供給できなかったときに手当を用意することを求めるのがその機能です。つまり、雇用契約の内容と実態が乖離したとき、その乖離した部分の補償をさせるのが26条の狙いというわけです。ならば、もし雇用契約の内容と実態に乖離がなかった場合、26条を適用する余地がなくなります。週5日から週3日に勤務日数を短縮するならば、事前に雇用契約を週3日勤務の内容に変更し、その後に実態を週3日勤務に変更すれば、雇用契約の内容と実態に乖離が発生しませんので、26条の休業にはならないという結論になる。
週5日契約のまま週3日勤務に変更すれば、26条の休業になる。しかし、契約内容を事前に週3日勤務に変更すれば26条の休業とはならず、契約通りの勤務になる。
事前に契約内容を調整するかどうかによって、休業になるかどうかが変わってしまうのですね。26条は、一時帰休や時間短縮を実施するときに雇用契約が事前に変更されないと仮定しているのかもしれない。しかし、雇用契約は当事者の意思表示と合意で変更できるので、休業を実施する直前に契約内容を変更することも現実には可能です。
「でも、休業になれば、中小企業緊急雇用安定助成金や雇用調整助成金を利用できるのだから、あえて休業を回避することもないのでは?」と思う人もいるかもしれない。確かに、助成金を利用できるのだから、26条通りに休業するほうが有利なのではと思うのは無理のないこと。しかし、上記の助成金はほかの助成金とちょっと異なる点があります。それは、お金をまるまる受け取れる助成金ではなく、企業が支出した休業手当を補助することを目的とする助成金であるという点です。
休業手当に納得できない経営者も多く、中小企業緊急雇用安定助成金や雇用調整助成金について説明すると、「これじゃあ会社にとっては全然得にならないじゃないの」と素直な反応を示す方もいらっしゃいます。確かに、中小企業緊急雇用安定助成金と雇用調整助成金は企業にとって金銭的に得する要素はありません。もちろん、休業手当を補助しているという点で金銭的に利益を得られる助成金ではありますが、企業側に助成金のキャッシュは残りません。
具体的に書くと、企業が社員に10,000円の休業手当を支払い、そのうち8,000円が助成金で補助されるとすると、残りの2,000円は企業が負担する。これが中小企業緊急雇用安定助成金と雇用調整助成金の仕組みです。一般的な助成金のイメージでは、数十万円や数百万円のキャッシュがドカッと入ってくると思われているかもしれませんが、中小企業緊急雇用安定助成金と雇用調整助成金はそのような助成金とは違います。
「社員さんを休ませても給与を支給する必要がある」という点を理解できないと、中小企業緊急雇用安定助成金と雇用調整助成金の利点は理解できないのですね。
助成金を使い続ければ、徐々に会社のキャッシュは減っていく。仕事をしていないのに、キャッシュだけは確実に減っていく。それゆえ、なるべくならば使わないほうがいい助成金なのです。助成金を実際に利用していると、「これではジリ貧だ」と経営者は気づくはずです。
私の経験ですが、中小企業緊急雇用安定助成金を利用した企業で、早い段階で利用をやめた企業はマトモな経営状況に復帰し、一方、長期間利用している企業はそのまま清算する傾向があります。中小企業緊急雇用安定助成金は、企業を立ち上がらせるような魔法の助成金ではありません。休業手当の支出によるキャッシュの減りを遅らせる点が中小企業緊急雇用安定助成金の主な効果です。
ただ、もしこの助成金がなければ、休業手当無しで休業することになった人も多かったと思う。何らの補助も無しに自主的に休業手当をキチンと支払う会社はおそらく多くはないはず。法律違反ではあるものの、26条の休業手当そのものが思うほど認知されていないし、「休んでいるのに何で手当が必要なの?」と疑問を抱く人もいらっしゃいます。
仕事をしていないのに賃金を払わなければいけないのが休業手当ですから、26条は経営者にとっては随分と厄介なルールだと思います。仕事は常に存在するわけではなく、商売環境によって仕事の質や量は変わります。忙しい時もあればそうでないときもある。それゆえ、契約した勤務日数や時間の分だけ仕事を用意できないこともあるはず。しかし、26条では契約した通りに仕事を用意しなければ、手当で補償しなければいけないわけです。
ならば、休業を実施する直前に、雇用契約を変更し、契約内容と実態の乖離が発生しないようにすればいいだろうと考えることになる。
ちなみに、私は休業を実施する直前に雇用契約を変更するべきとのアドバイスはしていません。もし、アドバイスしていたならばこのようなことはメルマガに書かないはずです。中小企業緊急雇用安定助成金と雇用調整助成金が新設され、26条の休業手当に人の意識が向き始めたので、休業について考える機会が増えました。考えつづけていると、休業だけど休業にならない場面があるんじゃないかと思えてきました。
休業は、雇用契約で約束した日数や時間に相当する仕事を使用者の責任で用意できなかったときに発生するものです。ならば、雇用契約で約束した内容を変更すれば、仕事を用意できなかったという状況にならないんじゃないだろうかと考えたわけです。雇用契約と実態の乖離が休業の発生原因なのだから、乖離そのものをなくしてしまえば休業が発生することはないはず。事前に雇用契約を変更されてしまったら、26条の手当を請求する根拠がなくなってしまうのではないだろうかと。
ここまで読んで、「なんて卑怯な方法なんだ、、、」と思う人もいるかもしれない。確かに、休業の直前に雇用契約を調整して休業そのものが発生していないかのように装うことが可能なのですから、ズルいと思います。現実にも、ここに書いたように休業を回避するべく雇用契約を事前に変更した企業があるかもしれない。このような手段を思いつく人は思いつくはずです。
兼業・副業と休業手当制度のトレードオフ。
休業手当制度は経営者にとっては厄介な制度だと思う。休ませても賃金が必要なのですから、「仕事をして対価を受け取るのだ」と素直に考える経営者には納得しにくいはず。
もし、兼業や副業を禁止しないならば、休業手当制度がなくてもよいと思います。しかし、フルタイム社員はおそらく就業規則で兼業や副業が禁止されているはずです。それゆえ、兼業や副業を禁止するならば、休業手当は必須と考えるべきでしょう。
1:兼業や副業を禁止しない → 雇用をロックしない → 複数の環境で仕事が可能 → 休業手当制度が無くてもよい。
2:兼業や副業を禁止する → 雇用をロックする → 複数の環境で仕事ができない → 休業手当制度が必要。
上記の2パターンのどちらかを企業は選択することになる。
「兼業や副業はダメだし、休業手当も用意しない」という判断はあり得ない選択肢です。人材を囲い込む費用を負担せずに囲い込んでいるわけですから、社員さんからすれば納得できないはず。雇用をロックする代償として休業手当は支払われるものですからね。
私は、26条の休業手当制度にはどちらかといえば反対です。確かに、雇用をロックする代償として仕事がなくても一定程度の賃金を支払うべきという判断は納得出来る。しかし、26条の文言である「使用者の責に帰すべき事由による休業」という基準は曖昧です。どんなときに使用者の責任になるのかは厳密には決まっていません。
数年前の金融ショックで仕事を停止すると使用者の責任になるようですが、2011年3月11日の地震や津波によって仕事を停止しても使用者の責任にはならない。災害という点ではどちらも同じはずですが、26条の適用の可否は異なるのですね。今回の東日本震災では、厚生労働省から26条の適用指針のようなものも出ていますが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」かどうかを現場の人が判断するのは思いの他難しいはず。とはいえ、厚生労働省の運用指針が必ず正しいわけでもない。
「使用者の責任もあるのかもしれないが、すべて使用者の責任とまでは言えない」こんな状況の方が多いはず。ハッキリと「使用者の責任に帰すべき」と言い切れる場面は多くないのです。
「人は1つの環境だけで働く」という前提(思い込み?)を捨てるべきなのではないかと私は思う。
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【仕事のQ and A】
決まったことを決まった手順で処理するのは難しいものではありません。例えば、給与計算。毎月1回は給与が支給されるので、その計算作業も毎月ありますけれども、頭を悩ませるほどのものではありません。
他には、雇用保険や社会保険への加入手続きもちょくちょくと発生しますけれども、これも必要な書類を揃えて出すだけですから難しくない。
労務管理ではルーティンな業務があり、それらを処理するには特別な能力や知識は必要ありません。
しかし、時として、普段は遭遇しないような問題が起こります。例えば、休憩時間を1回ではなく何回かに分けて取るのはいいのかどうか。有給休暇を半日や時間単位で細かく分けて取ると便利なのかどうか。仕事着に着替える時間には給与は支払われるのかどうかなど。答えが1つに定まりにくい問題が労務管理では起こります。
- Q:会社を休んだら、社会保険料は安くなる?
- Q:伊達マスクを付けて仕事をするの?
- Q:休む人が多くて勤務シフトに穴が開く。対処策は?
- Q:休憩時間を分けて取ってもいいの?
- Q:残業を許可制にすれば残業は減る?
- Q:残業しないほど、残業代が増える?
- Q:喫煙時間は休憩なの?
- Q:代休や振替休日はいつまでに取ればいいの?
このような問題に対して、どのように対処するか。それについて書いたのが『仕事のハテナ 17のギモン』です。

【1日8時間を超えて仕事をしたいならば】
毎日8時間の時間制限だと柔軟に勤務時間を配分できないので、月曜日は6時間の勤務にする代わりに、土曜日を10時間勤務にして、平均して8時間勤務というわけにはいかない。
しかし、仕事に合わせて、ある日は勤務時間を短く、ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。

残業管理のアメと罠
【合格率0.07%を通り抜けた大学生。】
私が社労士試験に合格したのは大学4年のときで、いわゆる「現役合格」です。けれども、3年の時に一度不合格になって、ヘコんだんです。「たかが社労士試験ごときにオチたのか」って。
どうすると不合格になるか。どんなテキストや問題集を使えばいいか。問題集の使い方。スマホをどうやって社労士試験対策に活用するか、などなど。学生の頃の視点で書いています。
社労士試験というと、社会人の受験者が多いですから、学生の人の経験談が少ないんですよね。だから、私の経験が学生の人に役立つんじゃないかと思います。

合格率0.07%を通り抜けた大学生。
【学生から好かれる職場と学生から嫌われる職場】
高校生になれば、アルバイトをする機会があり、
過去、実際に経験した方、
もしくは、今まさに働いている学生の方もいるのでは。
中には、
「学生時代はアルバイトなんてしたことないよ」
という方もいらっしゃるかもしれません。
そういう稀な方は経験が無いでしょうけれども、
学生のアルバイトというのは、
何故か、不思議と、どういう理屈なのか分かりませんが、
雑というか、荒っぽいというか、
そういう手荒い扱いを受けるんです。
若いし、体力もあるし、
少々、手荒に扱っても大丈夫だろうという感覚なのでしょうか。
それ、気持ちとしては分かりますけれども、
法令上は、学生も他の従業員と(ほぼ)同じであって、
一定のルールの下で労務管理しないといけないのです。
もちろん、
18歳未満は夜22時以降は働けないとか、
8時間を超えて働けないとか、
そういう学生ならではの制約は一部ありますけれども、
それ以外のところは他の従業員と同じ。
週3日出勤で契約したはずなのに、
実際は週5日出勤になっている。
休憩時間無しで働いている。
採用時に、1日5時間働くと決めたのに、
実際は1日3時間程度しか勤務させてもらえない。
「学生には有給休暇が無い」と言われた。
テスト休みを取って時給を減らされた。
など、
やってはいけない労務管理がなされてしまっている
という実情もあるようです。
何をやってはいけないかを知らないまま、
間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。
(知らないからといって許されるものではありませんけれども)
このような労務管理をすると、学生から好感を持たれ、
辞めていく人が減るのではないか。
一方で、
「これをやってしまってはオシマイよ」
な感じの労務管理だと、
ザルで水をすくうように人が辞めていく。
学生から好まれる職場と嫌われる職場。
その境目はどこにあるのかについて書いたのが
『学校では教えてもらえない学生の働き方と雇い方 - 35の仕事のルール』
です。
「学生が好む職場」と「学生が嫌う職場」 その違いは何なのか。
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┃ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。
┃それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。
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