煙幕を張る。
普段から退職金について考えて仕事をしている人はおそらく少ないと思う。自主退職する数ヶ月前か、50歳代の人か、それとも定年退職直前の人か。多くの人の興味を引く話題ではなく、上記のように特定の意識を持った人のみが興味を持つ話題ではないでしょうか。
退職金は、雇用契約と違い、得てして不明朗な状態で置かれることが多い。
どういう人が支給対象なのか。どういう条件を満たす必要があるのか。どういう計算方法で金額が計算されるのか。どういう時に減額されたり不支給になるのか。どういう方法で資金を確保するのか。そもそも、退職金制度があるのかどうか。
退職金に関する事柄は上記の項目がブラックボックスに入っていて、上長や経営者に退職金について聞くのは気が引けますから、知ろうとしても知りにくいのですね。
入社時点で退職金について詳しく教えてくれることはないし、入社してからも詳しく説明される機会はおそらく無いのではないでしょうか。企業によっては、退職金制度を変更するときに従業員向けの説明会を開くかもしれないが、それで十分かというと必ずしもそうではないはず。
お品書きなしの寿司屋。
退職金に張られた煙幕を取り払うのが退職金規定の役割ですが、企業によっては退職金規程なしで退職金制度を採用しているところもあるかと思います。
退職金規程を構成する要素は大きく分けて2つです。「支給条件」と「計算方法」です。
どういう条件を満たせば退職金が支給されるのか、もしくは減額や不支給になるのか。どのような計算方法で金額が決まるのか。この2点が退職金規程を構成する主な要素です。
「退職金制度には規定が不可欠」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、規定は必ずしも必要ではなく、規定なしで退職金を支給することは可能です。退職時に経営者の胸三寸次第で、退職金を支給するかどうか、またその金額が決まるという会社もありますよね。
「ルールがないならば制度ではない」というわけではなく、ルールがなくても退職金は支給できるのですね。
ただ、規定なしで制度を運用していると「なぜあの人はああなって、私はこうなるのか」説明できなくなるだろう。なぜあの人は支給されなくて、私は支給されたのかとか、あの人は940万円で私は1,120万円だったけど、どうやって算定したのだろうかとか。規定がないと疑問を生みやすい。
「必須ではないならば、作らなくてもいいじゃないか」と思うのもやむを得ないのですが、退職金規程は契約と同じものであり、退職金に関する組織と構成員との約束です。
約束するから契約するのであり、契約したからキチンと履行する。だから相手から信用されるわけです。これは商取引では当然かと思います。
では、退職金ではどうか。約束したくない、だから規定を作らない。キチンと退職金を払うかどうかは分からない。これで相手から信用されるのはちょっと難しい気がしますね。
お品書きのない寿司屋には入りにくいのと同じように、規定のない退職金が遠慮されるのも無理からぬことです。