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■未払い残業代と過払い利息は違う◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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利息を請求する感覚で残業代を請求するわけにはいかない。
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■利息と残業代
消費者金融会社に返済した金利を取り戻すという過払い利息返還特需が発生して随分と経ちましたが、今でもテレビCMや雑誌の広告では弁護士や司法書士による過払利息の取り戻しが宣伝されています。
また、その過払い利息と同じような構図になっているのが未払い残業代です。「消費者金融の過払い請求で良い思いをした弁護士が狙ってきます」という警告を発しているような人もいて、利息取り返しの次は残業代の請求だと考えているのでしょうね。
確かに、過払い利息と未払い残業代は構図が似ていて、本来ならば相手方に渡るはずのない金銭利益をこちらに戻すという流れは、似ているというよりも同じと言う方が正しいでしょう。過払い利息の取り返し報酬は取り返した報酬の20%が相場のようですから、おそらく未払い残業代の請求も20%の報酬で弁護士が受注するのかもしれません。
ただ、過払い利息と未払い残業代にはお互いに違うポイントもいくつかあって、まず金銭消費貸借契約と雇用契約という違いがあります。前者はお金の貸し借りというモノの関係ですが、後者は労務提供と賃金というように、モノだけでなくヒトの関係も含まれます。
また、金銭消費貸借はお金のやり取りだけで終わらせることが可能ですが、雇用契約の場合はヒトの関係も絡むので、お金のやり取りだけで終わらせることができない場合もあります。
過払い利息の取り返しと同じ感覚で未払い残業代を請求すると、思いのほか簡単に解決できない問題も出てくるのではないかと私は考えています。
「残業代の請求は利息の取り返しほど簡単ではないだろう」というのが私の見立てです。
■表面化したくてもさせられない未払い債務。
未払い残業代は今後請求されるかもしれない債務ですから、いわゆる引当金として貸借対照表に記載するのが妥当とも思えます。
過払い利息だと過払い利息返還金を事前に引当てを行い、将来の債務をある程度予測できるようにします。ならば、未払い残業代も「未払残業引当金」などの名称で事前に引当てるのが良さそうとも思えます。将来発生することが予測できる債務は事前に引当金を積むのが会計上の慣習ですので、未払い残業代も同じように扱うべきというわけです。
しかし、会計的には未払残業引当金があってもいいのでしょうが、法律的にはちょっと困ったことになります。
もし貸借対照表に未払残業引当金という項目があれば、「ウチの会社は法律に違反しています」と発表するようなものですから、引当金を計上することはないでしょうね。会計的には引当てるのが妥当であっても、法律的には妥当ではないわけです。そのため、キチンとした額を確定することなく、いわゆる隠れ債務(未認識債務とも言えるか)として置いておくしかない状態です。
残業を減らす対策としてよく挙げられるのは、変形労働時間制度と固定残業代だ。
変形労働時間制度は、事前に繁閑を予測できるならば有効な選択肢です。つまり、この月は何時間労働、この週は何時間労働、この日は何時間労働というように、事前に決めることができるならば変形労働時間制度を採用できます。しかし、仕事の内容によってコロコロと仕事の時間が変わるならば、変形労働時間制度は利用できません。事前に、この日は5時間、この日は12時間、この日は7時間というようにあらかじめ決めて、その通りに勤務すれば、12時間労働になった日は残業無しにできる(平均して8時間なので)のが変形労働時間制度の効用です。しかし、日ごとにコロコロと勤務時間が変わる職場では、事前に勤務時間を特定できないので変形労働時間制度を採用できないのです。「後から清算して、労働時間の総枠内に収まっていればいいんでしょ?」というのは不正な運用です。
固定残業代も、確かに便利そうだが、固定額を超えた分は支払わなくていいという都合のいい仕組みではなく、足が出た分は別途で支払わないといけません。結局は事務作業が2度手間になるのでおススメしない仕組みです。決してパケット定額のような感覚で固定残業代を採用してはいけないということだけは知っておいてください。
発生してしまった残業をなんとかするのではなく、発生しないにはどうするかという点に頭を使う方がマトモなアイデアが浮かびます。
■残業代を請求する=会社を辞める。
すでに発生した残業代をどうするかと頭を使い始めると、ろくなアイデアが浮かばない。
知らないふりして過ごす。ごまかし続ける。2年よりも古いものは時効だから無視する。雇用者と被雇用者の格差を利用して威圧する、などなど。
借金をどうやって踏み倒すかを考える場合と同じですから、悪辣な手段しか思い浮かばなくなる。
特に、2年の時効で切り離すという方法は有効で、数百万円単位で残業代の支払いを減らすことが可能だ。通常、残業代請求の初動は、内容証明郵便で行うのだが、その内容証明郵便には2年よりも古い残業代も含まれていることがある。中には8年分とか14年分の残業代を計算し、その結果を書面に記載して、総額で1,180万円などというビックリするような請求をしたりするケースもある。しかし、残業代の時効は2年なので、キチンと計算すれば上記のように高額になることはあまりない。1,180万円が数十万円程度に収まることもあり得るのだ。
2年の時効を利用するときは、現時点からはキチンと残業代を払い、そのまま2年を経過すれば、未払い残業代が消滅するという逃げの選択肢も利用できる。つまり、2年までしか残業代は請求できないので、現時点から2年をクリアにしておけば、過去の残業代を完全に切り離せるという算段というわけ。
随分とズルい方法ですが、在職中は残業代を請求しにくいという傾向を利用し、上記のように2年間で残業代を精算してしまうような企業があってもおかしくはない。時効を使って不払いを通してしまうのですから、卑怯と言えばとても卑怯です。
残業代対策の本筋は、残業しないように働き方を変えるのが先です。発生してしまった残業代をどうするかを考えても解決策は生まれない。
経営者が10人いればそのうち中9人は、「中小企業は長時間働かないとやっていけない」と言うだろうと思う。その気持ちは分かりますが、だからといって残業代を未払いにすることが許されるわけではありませんからね。
未払いの残業代を請求するときに取れる選択肢は、以下の4つだろうと思う。
1、そのままやり過ごす(残業代を請求しない)。
2、在職しながら一括請求。
3、在職しながら分割請求。
4、退職して一括請求。
この4パターンが実際に取りうる選択肢のはず。
ただ、現実に選択できるのは、1、3、4だろう。2は考えれば分かるが、あまりに難しい選択肢だ。仕事を続けながら未払い残業代を全部請求し、その後もその組織で仕事を続けるのだから、相当に難易度の高い選択肢だ。現実的には3が理想だが、難易度は限りなく2に近い。経営者が知らずに残業代を未払いにしているならば請求できるかもしれないが、知っていてあえて未払いにしているとなると、これは確信犯だ。このタイプの経営者に対して残業代を請求すると、おそらく仕事を辞めさせられるかもしれない。失職してでも残業代を請求したいならばよいのかもしれないが、最大でも2年分までしか残業代を請求できないので、わずか数十万円程度のお金のために失職しなければいけなくなる。これを納得できるかどうか。
また、残業代を未払いにしているということは、キャッシュに余裕が無い会社という可能性があり、一気に回収すると、会社を倒してトンズラされてしまうかもしれない。過払い利息でも、消費者金融会社がすでになくなっていて、過払い利息を回収したくてもできない状況になることもままあります。債権債務の関係では、債務者が逃げると債権者は手が出なくなることもあるんですね。そのために、保証人や連帯保証人を置いておくわけです。特に、会社員や公務員の保証人は都合がいいのです。この人達は逃げないので。
4の選択肢のように、すでに退職することが決まっている人ならば請求は容易なのかもしれないが、まだ在職中の人が請求するのはやはり簡単ではない。正当な権利主張が必ずしも良い結果をもたらすわけではありませんからね。
金銭消費貸借契約ならば、お互いに「金の切れ目が縁の切れ目」なので、遠慮なく過払い利息を請求できる。しかし、雇用契約では、「自分自身が人質になっている」と考えると分かりやすいだろうか。過払い利息を請求する際には大きな犠牲はない(新規の借り入れが一定期間できなくなるという制約はある)が、未払い残業代を請求する際には自分の仕事を失うという大きな犠牲を受け入れなければいけないこともあるのだ。
この点が、過払い利息と同じ感覚で未払い残業代へアプローチすることはできないという理由だ。
「未払い残業代を請求すると会社を辞めなければいけない」という状態なのだから、「未払い残業代を請求しましょう!」と弁護士が営業をかけても、そう簡単には応じれないのだ。
金の関係を清算しようとすれば、人の関係も清算されてしまう。
悩ましいところだ。
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【仕事のQ and A】
決まったことを決まった手順で処理するのは難しいものではありません。例えば、給与計算。毎月1回は給与が支給されるので、その計算作業も毎月ありますけれども、頭を悩ませるほどのものではありません。
他には、雇用保険や社会保険への加入手続きもちょくちょくと発生しますけれども、これも必要な書類を揃えて出すだけですから難しくない。
労務管理ではルーティンな業務があり、それらを処理するには特別な能力や知識は必要ありません。
しかし、時として、普段は遭遇しないような問題が起こります。例えば、休憩時間を1回ではなく何回かに分けて取るのはいいのかどうか。有給休暇を半日や時間単位で細かく分けて取ると便利なのかどうか。仕事着に着替える時間には給与は支払われるのかどうかなど。答えが1つに定まりにくい問題が労務管理では起こります。
- Q:会社を休んだら、社会保険料は安くなる?
- Q:伊達マスクを付けて仕事をするの?
- Q:休む人が多くて勤務シフトに穴が開く。対処策は?
- Q:休憩時間を分けて取ってもいいの?
- Q:残業を許可制にすれば残業は減る?
- Q:残業しないほど、残業代が増える?
- Q:喫煙時間は休憩なの?
- Q:代休や振替休日はいつまでに取ればいいの?
このような問題に対して、どのように対処するか。それについて書いたのが『仕事のハテナ 17のギモン』です。
【1日8時間を超えて仕事をしたいならば】
毎日8時間の時間制限だと柔軟に勤務時間を配分できないので、月曜日は6時間の勤務にする代わりに、土曜日を10時間勤務にして、平均して8時間勤務というわけにはいかない。
しかし、仕事に合わせて、ある日は勤務時間を短く、ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。
残業管理のアメと罠
【合格率0.07%を通り抜けた大学生。】
私が社労士試験に合格したのは大学4年のときで、いわゆる「現役合格」です。けれども、3年の時に一度不合格になって、ヘコんだんです。「たかが社労士試験ごときにオチたのか」って。
どうすると不合格になるか。どんなテキストや問題集を使えばいいか。問題集の使い方。スマホをどうやって社労士試験対策に活用するか、などなど。学生の頃の視点で書いています。
社労士試験というと、社会人の受験者が多いですから、学生の人の経験談が少ないんですよね。だから、私の経験が学生の人に役立つんじゃないかと思います。
合格率0.07%を通り抜けた大学生。
【学生から好かれる職場と学生から嫌われる職場】
高校生になれば、アルバイトをする機会があり、
過去、実際に経験した方、
もしくは、今まさに働いている学生の方もいるのでは。
中には、
「学生時代はアルバイトなんてしたことないよ」
という方もいらっしゃるかもしれません。
そういう稀な方は経験が無いでしょうけれども、
学生のアルバイトというのは、
何故か、不思議と、どういう理屈なのか分かりませんが、
雑というか、荒っぽいというか、
そういう手荒い扱いを受けるんです。
若いし、体力もあるし、
少々、手荒に扱っても大丈夫だろうという感覚なのでしょうか。
それ、気持ちとしては分かりますけれども、
法令上は、学生も他の従業員と(ほぼ)同じであって、
一定のルールの下で労務管理しないといけないのです。
もちろん、
18歳未満は夜22時以降は働けないとか、
8時間を超えて働けないとか、
そういう学生ならではの制約は一部ありますけれども、
それ以外のところは他の従業員と同じ。
週3日出勤で契約したはずなのに、
実際は週5日出勤になっている。
休憩時間無しで働いている。
採用時に、1日5時間働くと決めたのに、
実際は1日3時間程度しか勤務させてもらえない。
「学生には有給休暇が無い」と言われた。
テスト休みを取って時給を減らされた。
など、
やってはいけない労務管理がなされてしまっている
という実情もあるようです。
何をやってはいけないかを知らないまま、
間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。
(知らないからといって許されるものではありませんけれども)
このような労務管理をすると、学生から好感を持たれ、
辞めていく人が減るのではないか。
一方で、
「これをやってしまってはオシマイよ」
な感じの労務管理だと、
ザルで水をすくうように人が辞めていく。
学生から好まれる職場と嫌われる職場。
その境目はどこにあるのかについて書いたのが
『学校では教えてもらえない学生の働き方と雇い方 - 35の仕事のルール』
です。
「学生が好む職場」と「学生が嫌う職場」 その違いは何なのか。
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