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社会保険料の節約と税金の節税は同じではない

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節税感覚で社会保険料を節約できると考える人

税金を節約するために、いろいろと方法を考えることを「節税」と言うことがあります。

税理士が節税のノウハウを提供することもありますよね。


それと同じような感覚で、「社会保険料の節約」を話す人もいます。

社会保険労務士の中にも、社会保険料を節約するコツのようなものを案内している人もいて、「なるほど、工夫しているなぁ」と思わされることもあります。

確かに、税金や社会保険料は工夫すれば節約できます。

しかし、「税金を節約すること」と「社会保険料を節約すること」を同じものと考えるのは、ちょっと待って欲しいですね。


「社会保険料も実質的には"社会保険税"なのだから、税金と同じように扱ってもいいでしょう?」と思う人もいるのかもしれません。

税金と社会保険料は確かに似ているものの、「節約」するとなると、その勝手が違います。

社会保険料を節約する選択肢は少なく、効果も小さい

どのように勝手が違うかというと、「節約できる幅」が違うのですね。別の言い方をすれば、「選択肢の幅」と言えばよいでしょうか。「裁量の度合い」と言ってもよいかもしれません。

税金は経費や損金、控除を除いた所得にかかります。一方で、社会保険料は各種の控除や経費を除く前の収入にかかります。そのため税金よりも社会保険料への対策は難しくなります。

社会保険料を節約する具体的な手段としては、「賞与に報酬を集中させる」、「健康保険組合を利用する」、「退職時期をずらす」、「退職時に残っている有給休暇を買い取り、退職時期を早める」などでしょうか。他にもあるでしょうが、パッと思いつくのは左記の例です。

上記の手段を用いれば、確かに社会保険料を節約ことも「可能」なのですが、それぞれに欠陥があります。


まず、「賞与に報酬を集中させる」という手段。

この手段は以前は有効に使えたのですが、今ではあまり有効ではありません。

この手段の特徴は、標準賞与額の上限額を利用し、毎月の報酬を賞与に集中させ、社会保険料をフラットにするという仕組みです。

随分前に、賞与にも社会保険料が課されるようになりましたが、賞与への社会保険料を計算する際に使う「標準賞与額」という数字には上限があります。ちなみに、毎月の報酬への社会保険料を計算するために使うのは「標準報酬月額」というものです。なお、この標準報酬月額にも上限はあります。

この標準賞与額に社会保険料を掛けて、賞与に対する社会保険料の額を計算するのですね。

この標準賞与額ですが、以前は健康保険で200万円、厚生年金で150万円という上限が設定されていて、この上限を超えた報酬を得ると、すべてこの上限値で報酬賞与額がストップするわけです。つまり、健康保険の場合だと、賞与200万円の人と賞与500万円の人を比べると、どちらも標準賞与額は200万円になるのです。

その結果、賞与200万円の人も賞与500万円の人も、社会保険料は同じ額として計算されます。

これが「賞与に報酬を集中させる」という手段のカラクリです。

端的言えば、メーターを振り切れば社会保険料がフラットになるので、意図的にメーターを振り切るように報酬を割り振るというのがこの手段のミソなのですね。

ところが今では、健康保険の標準賞与額は540万円になり、厚生年金の標準賞与額は150万円になっており、「賞与に報酬を集中させる」という手段は使いにくくなっています。ちなみに、健康保険の標準賞与額が特に高くなっているのは、財政状況が理由だと思います。保険料よりも保険給付の方が多くなりがちですので、高所得者から多く保険料を集めているのでしょうね(少々、高すぎるようにも思えますけれども)。


ただ、標準賞与額に上限があることは変わりませんので、所得の高い人(会社の役員など)だと、さほどの影響はないのかもしれませんね(以前より保険料の額は上がったものの、依然として社会保険の額はフラットになっている)。


次に、「健康保険組合を利用する」という手段。

「健康保険組合に加入すると、健康保険の保険料が下がる」と思う人も多いのでしょうが、「健康保険組合=保険料が低い」と考えるのは間違いです。

健康保険の保険料は財政計算で決まりますから、組合だから保険料が低いとは限りません。財政状況がよくないと、協会健保よりも保険料が高くなることも有り得ます。

ただ、協会健保よりも保険料が低い健康保険組合があるのは確かで、関東ITソフトウェア健康保険組合(ソフトバンクなどが加入しているようです)や関東百貨店健康保険組合(ユニクロなどが加入しているようです)は7%台の保険料のようです。

他にも、企業単独の健康保険組合や業界ごとの健康保険組合(上記のような組合)に加入すれば、協会健保よりも保険料が低いのかもしれません。

今では、高齢者医療の負担を健康保険組合に回すとの方針により、協会健保と組合健保の差が縮まってくるのでしょうから、健康保険組合を利用して健康保険料を下げるという手段は、一部では有効ですが全ての企業に利点が及ぶわけではないでしょうね。

ただ、他の選択肢よりは有利な選択肢ですから、組合を利用できる環境ならば、ぜひ利用するのがよいでしょう。


あとは、「退職時期をずらす」、「退職時に残っている有給休暇を買い取り、退職時期を早める」という手段。

この2つの手段は退職する時期を早めることで、約1ヶ月分の社会保険料を節約するというものです。

退職するときは当月で退職するようにして、翌月退職にならないようにするのが「退職時期をずらす」という手段の内容です。

一方、退職時に有給休暇を買い取るのは、有給休暇を消化しているときは在職中のままですので、社会保険料も支払う必要があります。つまり、退職後に有給休暇だけを消化していると、在職扱いになるので社会保険料も必要なのですね。そこで、退職の段階で有給休暇を買い取ってしまい、すぐに退職するようにして、社会保険料を節約するわけです。

この方法も約1ヶ月分の社会保険料を節約できるでしょうね。

商売を繁盛させるために頭を使う方が良い

考えてみると、一番マトモなのは健康保険組合を使う手段でしょうか。

「賞与に報酬を集中させる」手段は今では使いにくいし、「退職時期をずらす」、「退職時に残っている有給休暇を買い取り、退職時期を早める」という手段は効果が小さいです。

企業の中には、報酬が減ったとの虚偽の届け出をして、保険料を引き下げたという事例がありました。

確か、2009年12月9日の新聞で掲載されていた内容だと記憶しています。

大阪の企業が社労士に、社会保険料を節約する方法はないかと持ちかけたところ、報酬が減ったとの届け出をして、保険料を減らすことを試みたようです。その結果、大阪地検に送検されたとのこと。


確かに、報酬が減ったとの届け出を出せば、標準報酬月額を下げる(標準報酬月額の随時改定を実施する)ことができますから、社会保険料も下がりますね。

しかし、やっていることは不正ですから、この方法を利用することはできません。


社会保険料を節約する方法は限られていますから、無理に節約しようとすると不正行為になってしまうのかもしれませんね。

税金の節約ならば手段も相応にあるのかもしれませんが、社会保険料の節約は節税ほど選択肢がありませんので、あまり頭を使って節約しても実りは少ないです。

筆者が「社会保険料を節約する3つのツボ!」のような話題をメルマガで書かないのも、上記のような理由なのですね。

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