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┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━ (2010/1/29号 no.161)━
会社と社員間のお金の貸し借りはダメ?
生活をしていてお金が足りなくなると、何らかの手段で資金を調達しなければいけません。
クレジットカードを使う、銀行から預金を引き出す、カードローンを使う、キャッシングを利用する、銀行から融資してもらう(あまり多くないかもしれない)、知人や友人から借りる、臨時的に仕事を増やして稼ぐ、持ち物を売る、持ち物を質入れするなどなど、多種多様な資金の調達手段がありますね。
さらに、生活資金を調達する手段として、会社から貸し付けてもらうという方法があります。いわゆる、給与の前借りのようなものです。
社員「今月、ちょっとお金が足りなくて、、、。少し貸してもらえませんか?」
社長「うん?足りないの? しょうがないなぁ、、、。いくらだ?」
社員「3万円ほど借りれば足りると思います」
社長「わかった、あと、返済は翌月の給与から天引きするからな」
社員「分かりました。助かります」
(なお、この社員の月収は手取りで30万円と想定します)
という流れが一般的なものでしょうか。
ところがここで問題があります。
労働基準法には、前借金の相殺を禁止するルールがあって、
【第17条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない】
というルールです。
このルールに基づくと、上記の会社と社員の金銭貸借は労働基準法17条(以下、17条)の立場から判断するとダメなんじゃないかと思えるでしょう。
「お金を貸し(前貸の債権)、その債権を翌月の給与から天引きする(賃金で相殺)」のですよね。
ただ、会社と社員が合意の上で金銭を貸し借りしているのだから、あえて17条違反として扱わなくても良いではないかとも思えますよね。
確かに、そうとも考えることができますね。
しかし、上記の貸し借りは17条違反の構図にはなっているので、厳格に判定すると、17条違反とも主張できそうです。
そこで、17条の取り扱いをどのようにするかが今回のテーマとなります。
労働基準法17条のキモは「身分的拘束の有無」があるかどうか
まず、17条の趣旨は、「金銭貸借の関係と労働関係を分離して、金銭貸借による身分的拘束を避ける」という点にあります。
さらに、ここでのキーポイントは、「身分的拘束」という点です。
つまり、身分的拘束を伴うような金銭貸借を禁止するのが17条なのですね。
ならば、逆に言うと、身分的拘束を伴わないような金銭貸借ならば、17条によって制約されるものではないと解釈できるわけです。
では、先ほどの会社と社員の金銭貸借が身分的拘束を伴うような貸し借りかどうかを判断してみましょう。
社員の月収は30万円。そして、借りたお金は3万円。返済は翌月の給与からということ。
借りたお金は月収の1/10ですし、借金を返済したとしても27万円は給与として残ります。さらに、貸借関係はわずか1ヶ月ほどで解消しています。
ゆえに、身分的拘束を伴うような金銭貸借とは言えず、17条によって制約する状況ではないと結論できます。
ただ、労使協定もなく給与天引きしているという点が気にかかりますし、利息や担保を取っていないし、金銭消費貸借契約書も作成していません。
これらの点が疑問点として残っているのですね。
杓子定規に判断するのではなく、実態を勘案して判断する
会社と社員の金銭貸借の現場を想定すると、金利は取らないし、担保も設定しないし、金銭消費貸借契約書も作成しないのが普通ではないでしょうか。
貸金業の会社ならばいざしらず、それ以外の会社ならば、社員にお金を貸すぐらいで金利を取るとは考えにくいでしょう。社長も「まあ、ちょっと貸すぐらいだから、金利を取るまでもないでしょう」と考えるのではないでしょうか。
「社員といえどもお金を貸すのだから、金利もキッチリ取る」という社長は少ないのではないでしょうか。
「しょうがないなぁ、、、」と言いながら、無利息で貸してあげることの方が多いでしょう。
また、担保についても、会社と社員間の金銭貸借はさほどの金額になることはあまりなく、数万円や数十万円で貸し借りされるのがほとんどではないでしょうか。ならば、あえて社員が持っている不動産に抵当権を設定したり(ただ、持ち家の第一抵当権は銀行が握っているはずですから、会社が第二抵当権を設定してもほとんど意味の無い担保にしかならないでしょう)、何か社員の持ち物に質権を設定したりするのも何だか迂遠です。
さらに、抵当権を設定するには登記が必要で、その登記費用だけで10万円程度のお金が必要です(司法書士に依頼した場合を想定)。
それゆえ、たかが数万円の借金のために抵当権を設定するというのもあり得ない話です。
また、金銭消費貸借契約書もあえて作ることは考えにくいです。
おそらく、普通の人で、金銭消費貸借契約書をキチンと作った経験がある人はほとんどいないでしょう。司法書士や弁護士資格を持っている人とか、法務部で勤務している人ならば作れるでしょうが、小規模な会社でこのような人材がいるとは考えにくいです。
例えば、雇用契約書ですらまともに作らない会社が金銭消費貸借契約書はキッチリと作るのは何だかヘンです。順序が逆ですよね。
ゆえに、会社と社員の間では、口約束で貸し借りを実行するのが普通です。
また、労使協定を締結せずに給与天引きを実行している点は確かに不都合なことです。
ただ、労使協定を締結する目的は、会社が独断で何らかの労務施策を実行しないようにする点にあります。いわゆる労働者の保護のためですね。
ならば、たとえ労使協定を締結していなかったとしても、ある労務施策(貸付金を翌月の給与から天引きする)について会社と社員が合意しているならば、強く非難できるものではありません。なぜならば、合意があるために労働者にとって不利益にはなっていないからです。
もちろん、給与天引きするときは労使協定を締結するのが原則ですから、上記のように合意があるからといって貸し付けの相殺を実施してしまうのは"好ましくはない"ですね。
17条は、会社と社員間での一切の金銭貸し借りをダメと判断するものではありません。
"労働者を拘束するような"金銭貸借がダメなだけです。言い換えれば、労働者を拘束しない金銭貸借ならば労働基準法で禁止するものではないのですね。
例えば、100万円を貸し付けるという場面を想定して考えると、
「年収300万円の社員に100万円を貸し付ける場合」と「年収2,000万円の社員に100万円を貸し付ける場合」を比較したとき、前者と後者ではずいぶんと状況が変わります。
前者だと17条違反の可能性は高まりますが、後者では17条違反の可能性は低いでしょう。
さらに、返済方法によっても判断が変わります。
年収300万円であっても、毎月5万円ずつ給与から返済するのであれば、17条違反の可能性は低くなるでしょう。一方、年収2,000万円であっても、翌月に一括で100万円を返済せよとなると、17条違反の可能性が高まります。
実態を考慮して、実質的に判断するのが労働基準法なのですね。
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