- 社会保険に未加入だったのは会社の責任だけれども、、、
- 本人負担は本人負担と言えるけども、社会保険に未加入になったのは会社の責任
- 社会保険に遡って加入するとなったら、従業員は過去の期間に対する社会保険料の支払いに納得するか
- 遡及加入した期間の社会保険料を会社が全額負担するなら問題解決は容易
社会保険に未加入だったのは会社の責任だけれども、、、
パートタイムで働く人は、「社会保険に加入している人」と「社会保険に加入していない人」に分かれています。
いわゆる「3/4条件」を満たすかどうかで加入するかどうかが決まるのですが、中には、この条件を満たしていても、パートタイム社員さんを社会保険に加入させていない会社も少ないながらあるのですね。
ただ、加入の指導をされないからといって、そのまま加入しないでいると、「2年間遡って加入してください」と案内され、2年分の社会保険料を遡って支払う状況になったりします。
そこで、会社が2年遡って社会保険に加入することを決めたとすると、社会保険の保険料は労使折半ですから、2年分の保険料の半分は社員さんが負担するわけです。
ところが、2年分の保険料を社員さんが負担するといっても、「会社の判断で加入してこなかったのに、社員への負担を求められるのは何かおかしいのではないか?」と思う社員さんもいるかもしれませんね。
最初から加入していれば、月毎に保険料を払うこともできたのに、2年分を一気に負担するというのは、ちょっと無理がありそうです。
法人ならば支払い能力は相応にあるのかもしれませんが、個人だと一気に何十万円も支払うのは難しいかもしれません。給与明細に書かれている社会保険料を12ヶ月分まとめて、24ヶ月分まとめて頭で暗算すると、大きな金額になりますよね。
雇用保険料や労災保険料はさほど高いものにはならないのですが、社会保険料は税金に次ぐほどの大きな支出ですから、手持ち現金が少ない事業所だとまとめて払えないこともあるのでは。
本人負担は本人負担と言えるけども、社会保険に未加入になったのは会社の責任
しかしながら、社会保険は、会社ではなく働く人に利益のある制度ですから、利益を受けるなら負担も受けるのは当然でしょう。
それゆえ、たとえ2年分の保険料を支払うことになったとしても、その保険料の半分は社員さんが負担しなければいけないわけです。
ただし、いきなり2年分の保険料を負担しなければならなくなったのは、会社に原因があるためです。
会社が加入手続きをしなかったから2年分の負担を一度に課されているので、すべてを会社持ちにしたいと考える方もいるでしょう。
となると、何らかのフォローを会社に要求するのは有り得ることです。
例えば、2年分の保険料を会社が全額負担するとか、社員負担を残すとしても、会社7割・社員3割というように負担割合を変えるとか、負担割合はそのままで分割払いにするという方法があります。両方を組み合わせるのもありです。
社会保険に遡って加入するとなったら、従業員は過去の期間に対する社会保険料の支払いに納得するか
社会保険に加入する手続きするのは会社で、事業所を社会保険の適用事業所にする、従業員の被保険者資格を取得する(従業員を社会保険に加入させること)、いずれも会社経由で行うものですから、従業員側ではできないことです。
本来は、会社と従業員の間で、社会保険料を折半で負担するものですが、「加入していなかったので、2年分の社会保険料を集めます」と言われても従業員は納得しにくいもの。
「加入する手続きをしなかったのは会社なのだから、こちらとしては知らんがな」と反応してしまうもの。
支払われた保険料は、いずれ本人に還元されます(病院に行ったとき、年金を受け取るとき)から、その半分を支払うのが妥当なのです。社会保険料を払って利益を受けるのは被保険者、つまり従業員本人です。
しかし、ちゃんと適切な時期に加入して、毎月の保険料を給与から天引していれば、あとから保険料を回収する必要も無かったわけですから、会社側がある程度、譲歩しないと問題を解決できないでしょう。
さらに、未加入であった期間は健康保険を使えませんから、個別に国民健康保険に加入していた方、家族の健康保険に被扶養者として入っていた方もいるはず。
後から社会保険料を支払えば、国民年金や厚生年金の年金額には反映されますから、年金についてはいいとしても、健康保険を遡って使うのは難しいですし(持病で治療している方は遡って保険を適用できるかもしれませんが)、健康保険を利用できなかったために発生した費用がある(国民健康保険の保険料)のではないでしょうか。
社会保険への加入手続きをしなかった、つまり会社側に債務不履行責任があり、履行を遅滞させた責任が使用者にあると考えられます。
手続きの不履行で、まとめて社会保険料を後から回収されるという不利益なり健康保険を使えなかったという不利益を従業員が被ったのですから、会社側が何らかの譲歩案を出すのが妥当です。
さすがに、未加入で、後から会社5:従業員5の割合で保険料を集めるという要求は通らないのでは。
健康保険料が10%、厚生年金保険料が20%(正確には18.3%ですが、切のいい数字で考えます)と考えると、使えなかった健康保険料は会社負担にするならば、保険料の1/3が会社負担で、厚生年金保険料に相当する2/3は従業員負担という割合にするのも一案です。
1/2 × 2/3 = 1/3ですから、概ね会社7:従業員3というところです。
他にも、会社10:従業員0、会社8:従業員2など、負担割合は協議して決めることになるでしょうが、未加入になった原因は会社にありますから、会社側の負担割合を多くしないと、従業員は納得しないはずです。
さらに、保険料を回収するときも、一括ではなく、仮に2年遡るならば、24ヶ月に分割して給与から回収していく提案も併せると、従業員側も受け入れる気持ちになりやすいです。
加入手続きを忘れる、もしくは故意に避けておきながら、会社5:従業員5で要求を通そうとしても、相手は受け入れないと思います。
会社側の負担割合を徐々に増やしながら話し合い、お互いの妥協点を見出して解決する必要があるでしょう。
加入条件を満たした時点で社会保険に入っていれば起こらない問題ですが、未加入でもすぐに問題が表面化しないため、ズルズルと放置して後から困る事業所もあります。
遡及加入した期間の社会保険料を会社が全額負担するなら問題解決は容易
被保険者資格を取得する条件を満たせば、会社は従業員が社会保険に入るように被保険者資格取得手続きをしなければいけません。しかし、何らかの事情により、従業員の方の社会保険の被保険者資格取得手続きを失念してしまって、そのまま資格取得せずに半年を経過したとしましょう。
つまり、6ヶ月間、社会保険に未加入になった状況です。
半年を経過した段階で、社会保険に入るのを忘れていたと分かり、被保険者資格取得手続きを半年前にやっておかなきゃいけないんだった、と気づいたときどうなるか。
社会保険の加入手続きは、本来は条件を満たせば被保険者資格を取得する手続きをしなければいけないのですけれども、後から気づいた場合は、過去にさかのぼって被保険者資格取得手続きをする必要があります。
今回の場合だと半年前の段階で被保険者資格を取得していなければいけない、つまり半年前の段階で社会保険にその従業員を入れておかなきゃいけなかったという状況です。
半年遡っての社会保険料、企業負担分と本人負担分を合わせて半年分の社会保険料を支払って、社会保険に遡及加入するという流れになるわけですけれども、じゃあこの過去半年分の社会保険料をすんなりと回収できるのかというと、ここでスッタモンダするわけです。
事業主が一度に回収できる社会保険料は、前月分の保険料を今月の給与から控除するところまでですから、過去半年分の本人が負担する社会保険料を一括で払ってくれと本人に言うことはできません。健康保険法167条1項では前月の保険料を控除できると書かれていますが、この条項に基づいて、遡及加入した期間の社会保険料を一括で回収することはできません。
ですが、何らかの形で半年分遡った金額の社会保険料を本人から回収しなければいけません。とはいえ、半年も遡って社会保険に入らなければいけなくなったのは、そもそも会社が手続きを怠ったのが原因ですから、本人としては「はい、そうですか」と半年分の社会保険料をポンと払ってくれるのかいうと、そう簡単にはいかないでしょう。
会社が手続きを怠っていたんだから、それこそ過去の分の社会保険料は本人負担分を含めて会社が払うべきなんじゃないのか、と言われかねない状況です。
仮に社会保険料が毎月100,000円だとすると、それを半分に分けた50,000円の半年分となると6ヶ月ですから、本人負担分は300,000円になります。
社会保険に入るのを忘れていたとなって、「半年分の社会保険料300,000円を払ってくれ」と言われても、本人としてはなかなか首を縦に振るわけにもいかない状況です。
支払った社会保険料は本人の利益になるので、確かに本人負担分の社会保険料は従業員本人が払うべきなんですけれども、遡って払わなければいけなくなった原因を作ったの会社ですから、その部分の責任をどのように処理していくのかを工夫しなければいけないでしょう。
解決策の1つとしては、過去6ヶ月分、つまり半年分の社会保険料に関しては全額、会社が負担して、本人負担分はゼロにする。こういう方法もあります。
つまり、過去6ヶ月分の社会保険料に関しては本人負担をする必要は無いので、従業員本人としては会社が全額負担してくれるわけですから、特に反対するわけでもなく、不満を述べることもないでしょうし、「じゃあ、それで結構です」とすんなり解決できるでしょう。
会社が社会保険料を全額負担したとしても、それは社会保険料控除になるでしょうし。ですが、会社のお金は本来よりもたくさん出ていくという欠点はあります。
他の解決策としては、本人負担分は本人が払うものだから、過去半年分の社会保険料の本人が支払う分である300,000円は分割でもいいので払ってくれ、という案もあります。ディスカウント無しで、分割OKはという解決策です、
一気に300,000円を払うのは難しいとしても、例えば、10回払いで毎月30,000円ずつ払ってもらう、というのも一つの案です。
ですが、問題の原因を作ったのは会社ですから、分割であれ6ヶ月分の社会保険料を全額払ってくれというのはなかなか受け入れてもらいにくいところではないかと。
となると、本人負担分が毎月50,000円だとすれば、その半分だけ払ってもらって、残りの半分は会社が負担する。つまり、1ヵ月100,000円の社会保険料のうち75,000円は会社が負担して、2万5000円を本人が負担する。このように会社負担の割合を増やすことで、問題の問題を起こした責任を会社が負担しているという形で着地点を探っていく。こういう解決の仕方もあるでしょう。
最も早く問題を解決する方法は、やはり会社が手続きを忘れていたことで起こった問題だから、過去6ヶ月分の社会保険料は会社が全額負担して、本人負担は無し。問題を早期に解決するとすればこの方法が妥当ではないかと。
社会保険労務ハンドブックは、年金や厚生年金の仕組みも詳しく説明しており、労務管理の実務で使える1冊です。