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退職後の健康保険をどうする? 任意継続か国民健康保険か

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┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━ (2009/6/12号 no.97)━





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今日のTOPIC
1: 健康保険が退職者に牙を剥く
>>>全額負担のプレッシャーを回避する方策を模索する。
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■■  退職後の健康保険をどうする? 任意継続か国民健康保険か
■■  全額負担のプレッシャーを回避する方策を模索する。
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■収入が減っても、保険料はそのまま。


会社を何らかの理由で辞めたとき、

「仕事を辞めて収入が減ったのに、

何で健康保険の保険料は減らないの?」
と(思った|思っている)人は多いのではないでしょうか。


普通に考えれば、保険料は収入(標準報酬月額)に対してパーセンテージで
課金されるのだから、収入に応じて保険料も変動するべきとなるはずです。


しかし、実際には、収入が減っても保険料はすぐに変わらないんですね。



仕事を辞めると、健康保険の取り扱いは3つに分かれます。

1、従前の健康保険(協会健保)を継続する。
2、国民健康保険に移行する。
3、無保険状態になる(これはダメです!)。



協会健保の任意継続だと、会社を辞めた後、2年間は従前の条件で健康保険に
加入することができます。

ただ、「従前の条件」というのがクセ者です。

つまり、従前と同じということは、「保障は同じだが保険料も同じ」ということです。



これが怖いのですよね。

仕事を辞めて収入が減っているのに、保険料は同じ。しかも、会社負担が
なくなり「全額負担」ですから、なおさら恐怖です。



しかし、仕事を辞めた人は、「以前の経済状態ではなく、今の経済状態を
勘案して保険料を決めて欲しい」と思うはずですよね。


今現在は経済的に苦しい状態なのに、「収入があるという前提」で保険料を
課金されたら、これは困ります。


健康保険は、人に「安心感」を与える制度なのに、人に「恐怖感」を与えて
しまっているわけです。



もちろん、法律では、前年度の収入をベースに標準報酬月額が決まり、それに
よって保険料も決まるのですから、どうやっても対応できないというのが行政機関
の本音でしょう。


行政事務は法律に決められている通りに取り扱わなければいけませんから、
ルールに違反する取り扱いはできません。


しかし、現状のままでは困る人がいるわけです。


これは何とか対策を立てなければいけませんよね。


そこで、「失業後1年間の健康保険料をいかにして低く抑えるか」という点が
今回のテーマです。







■任意継続被保険者でも随時改訂を使えますか?


失業後1年間の健康保険料をいかにして低く抑える方法として、まず私が考えたのが、
「任意継続状態の時に標準報酬月額の随時改訂を使う」という方法です。

つまり、仕事に就いている時期に比べて、仕事を辞めた状態の方が収入は大きく
下がっているのでしょうから、健康保険法43条の「標準報酬月額の随時改訂」を
使えるのではないかと考えたわけです。


任意継続被保険者に対する標準報酬月額の随時改訂を行えば、保険料の負担を
軽減できるのではないかということですね。


そこで、都道府県の健康保険協会に問い合わせてみたところ、「任意継続被保険者
の保険料は2年間固定であり、随時改訂を使うことはできない」とのことです。


他にも、随時改訂は、「法人単位」で使うことが想定されているのであって、
「個人(任意継続被保険者)単位」で使うことは想定されていない、というのも
理由かもしれません。


むむむ、、、一本とられましたね(残念、、、)。

妙案だと思ったのですが、そう甘くはないということでしょうか。



しかし、しかし、ここで諦めては面白くありませんよね。


失業後1年間の健康保険料に苦しんでいる人は少なからずいますから、そう簡単に
引き下がるわけにはいきません。


そこで、私は、「もう1つの解決策」を考案しました。

もちろん、法律に基づいた解決策です。







■離職前に随時改訂を実施する。


その解決策とは、【会社を辞める前に、標準報酬月額の随時改訂を行っておく】
という方法です。


先ほどまでだと、「会社を辞めた後に」どうするかということを考えていました。

そこで、今回は、「会社を辞める前に」対策を立てれば良いのではないかと考えたわけです。



なお、今回、「会社を辞める」というのは、人員整理や解雇によって会社を辞めた
場合を意味しています(いわゆる「社員さんに責任がない失業」という状態です)。



まず、随時改訂の性質を確認すると、

【昇給や降給によって、継続した3ヶ月間の報酬の平均額が(報酬月額等級表の)
報酬月額と比べて著しく高低が生じた場合において、保険者が必要があると認めたとき
には、次の定時改訂(社会保険料算定のこと)を待たずに、標準報酬月額が改訂される】
※カッコの内容は私が補足しました。

というものです。



具体的な流れとしては、

この随時改訂を使うことを想定して、人員整理(もしくは解雇)の4ヶ月前ぐらいから
給与を引き下げておきます(実質的に、4ヶ月前ぐらいに解雇予告をすることになりますね)。


なお、随時改訂を使うには、報酬月額等級表で2等級以上の差が生じなければいけません
ので、報酬月額等級表を見ながら、減額する給与の幅を決めると良いでしょう。


また、減らした給与は、退職金に回してはいかがでしょう。

退職所得控除を使えば、ほぼ無税で給与を後払いできますよね。



今回のプランでは、「労働条件の不利益変更」を、社員さんの同意を得て行いますので、
社員さんへの説明と本人の同意が必要です。

なぜこのような不利益変更を行うかを十分に説明することが大事です。


「失業後の健康保険料を抑えるために、給与を下げる必要がある」ということを、
社員さんが納得できるまで会社は説明する必要があります。


妙な言い方になりますが、社員さんにとって「利益のある不利益変更」ということを
知らせるんですね。


「随時改訂」と「任意継続被保険者」について説明するのですから、会社は大変だと
思います(普段から社会保険に興味を持っていない社員さんに説明する場合には、特に
大変です)。

しかし、説明は必ず必要です。



また、「標準報酬月額の不正減額」という面も考慮しなければいけませんよね。

社会問題になりましたから、今回のプランと接触する可能性もあるわけです。


端的にいえば、標準報酬月額の不正減額とは、【社員さんが知らないところで、会社と
社会保険事務所が相談して、社員さんの報酬月額を適正水準以下に減らす処理】を意味します。

キーポイントは、「社員さんが知らないところで」という点です。



社員さんにとって不利益なことなのに、社員さんの同意も得ずに標準報酬月額を減額している
から不正なんですね。


しかし、今回のプランは、「社員さんの同意の上で」標準報酬月額を減らすわけです。

同意がありますので、社員さんは不利益は承知の上です。

社員さんは「利益のある不利益変更」をすでに知っているわけです。



確かに、給与や標準報酬月額を減らすと、現在の収入が減りますし、厚生年金の受取額も
減りますよね(これが理由で、私は社会保険料の削減が好きではありません。そのため、
安易に社会保険料を削減するアドバイスはしないようにしています)。


ただ、「失業後1年間の利点」を社員さんが知れば、積極的に社員さんも協力してくれる
のではないでしょうか。



もし、健康保険に加入しているならば、今現在の健康保険料を2倍にしてみて下さい。

失業した後、しばらくは雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」です)からそのお金を
払うわけです。


ここで、もし「雇用保険に加入していなかった人(会社が加入していなかったので、
加入したくてもできなかった人)」はどうなるでしょうか(小規模な会社だと、労災保険
だけ入って、他の公的制度に加入していないところもあります)。

基本手当も無く、健康保険料を全額で支払えるのでしょうか。

悲惨ですよね、、、、。



他の選択肢として、国民健康保険という選択がありますが、失業後1年間はやはり前年度
の収入をベースに課金してきますので、解決策にはなりません。


ただ、2年目には保険料が下がる可能性はあります。

国保は任意継続と異なり、毎年保険料を改定できますから、2年間固定の保険料である
任意継続よりは助かります。


他にも、1年だけ任意継続して、2年目は任意継続の保険料を不払いにして脱退し、
国保に移行するという手段もありますね。

しかし、この手段でも、「失業後1年間」という魔の期間をクリアできません。




今回のプランをフローチャートで示せば、

【給与を下げる→
報酬が減ったという3ヶ月間の実績を作る
→4ヶ月目に入ったら随時改訂を実施する
→標準報酬月額が下がる
→健康保険料が下がる
→下がった健康保険料を引継いで任意継続被保険者になる】

という流れになります。



しかし、先ほど随時改訂の性質で書いた「保険者が必要があると認めたときには」という
文言が気になります。

もし、随時改訂が健保協会から否認されたとすれば、今回のプランは失敗します。

必要性の有無を判断するのは、健康保険協会の裁量の範囲なのでしょうから、私には
判断ができません。


ただ、行政機関の人達も、「失業後1年間の健康保険料」については考えているはず
でしょうから、何らかの配慮がありそうとも思えます(もちろん、無いとも思えます)。



社員さんにとっては、会社の都合で失職したのに、さらには健康保険の負担まで
のしかかってくるんですね。

収入と保険料がアンバランスなままというのは、やはり可哀想すぎます。


その状況を打開するために、【会社を辞める前に、標準報酬月額の随時改訂を行っておく】
という方策は有効ではないかと私は考えます。

少し技巧的な方法ですから、会社と社員さんが協力しないとできないので大変ですが。



さらに、ここで、失業後1年間の健康保険料に対する対策として私が提言するとすれば、

【雇用保険の基本手当を元にして、概算で将来の基本手当収入を割り出し、標準報酬月額を
「臨時改訂」する】というのはいかがでしょうか。

これならば、先ほどまで書いた方法よりも簡単に対処できるのではないでしょうか。



つまり、基本手当が将来どれくらい支給されるかを予測するのは難しくありませんから、
現時点(失業時点)から1年後までの基本手当による収入をベースにして、標準報酬月額を
変更するのも良い案だと私は思います。


もし、臨時改訂を随時改訂に準ずる仕組みにするとすれば、「失業後3ヶ月間の基本手当
(実際に支給されてから3ヶ月間で良い)」と「失業前の従前の報酬月額」とを比較して、
著しく高低を生じているならば、標準報酬月額を臨時改訂するというものです。


この方法だと、雇用保険に加入していない人をフォローできないのが難点ですが、制度
としてはアリだと思います。


このような仕組みは、事務手続き上難しいのは承知ですが、「失業後の健康保険に穴がある」
ということは確かなのですから、何らかの工夫が必要でしょうね。



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労務管理の問題を解決するコラム

職場の労務管理に関する興味深いニュース

【仕事のQ and A】

決まったことを決まった手順で処理するのは難しいものではありません。例えば、給与計算。毎月1回は給与が支給されるので、その計算作業も毎月ありますけれども、頭を悩ませるほどのものではありません。

他には、雇用保険や社会保険への加入手続きもちょくちょくと発生しますけれども、これも必要な書類を揃えて出すだけですから難しくない。

労務管理ではルーティンな業務があり、それらを処理するには特別な能力や知識は必要ありません。

しかし、時として、普段は遭遇しないような問題が起こります。例えば、休憩時間を1回ではなく何回かに分けて取るのはいいのかどうか。有給休暇を半日や時間単位で細かく分けて取ると便利なのかどうか。仕事着に着替える時間には給与は支払われるのかどうかなど。答えが1つに定まりにくい問題が労務管理では起こります。

  • Q:会社を休んだら、社会保険料は安くなる?
  • Q:伊達マスクを付けて仕事をするの?
  • Q:休む人が多くて勤務シフトに穴が開く。対処策は?
  • Q:休憩時間を分けて取ってもいいの?
  • Q:残業を許可制にすれば残業は減る?
  • Q:残業しないほど、残業代が増える?
  • Q:喫煙時間は休憩なの?
  • Q:代休や振替休日はいつまでに取ればいいの?

このような問題に対して、どのように対処するか。それについて書いたのが『仕事のハテナ 17のギモン』です。

 

仕事のハテナ 17のギモン

【1日8時間を超えて仕事をしたいならば】

毎日8時間の時間制限だと柔軟に勤務時間を配分できないので、月曜日は6時間の勤務にする代わりに、土曜日を10時間勤務にして、平均して8時間勤務というわけにはいかない。

しかし、仕事に合わせて、ある日は勤務時間を短く、ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。

残業管理のアメと罠

 

残業管理のアメと罠

【合格率0.07%を通り抜けた大学生。】

私が社労士試験に合格したのは大学4年のときで、いわゆる「現役合格」です。けれども、3年の時に一度不合格になって、ヘコんだんです。「たかが社労士試験ごときにオチたのか」って。

どうすると不合格になるか。どんなテキストや問題集を使えばいいか。問題集の使い方。スマホをどうやって社労士試験対策に活用するか、などなど。学生の頃の視点で書いています。

社労士試験というと、社会人の受験者が多いですから、学生の人の経験談が少ないんですよね。だから、私の経験が学生の人に役立つんじゃないかと思います。

大学生が独学で社労士試験に合格する方法: 合格率0.07%の軌跡 Kindle版

 

合格率0.07%を通り抜けた大学生。

【学生から好かれる職場と学生から嫌われる職場】


高校生になれば、アルバイトをする機会があり、
過去、実際に経験した方、
もしくは、今まさに働いている学生の方もいるのでは。

中には、
「学生時代はアルバイトなんてしたことないよ」
という方もいらっしゃるかもしれません。

そういう稀な方は経験が無いでしょうけれども、
学生のアルバイトというのは、
何故か、不思議と、どういう理屈なのか分かりませんが、
雑というか、荒っぽいというか、
そういう手荒い扱いを受けるんです。

若いし、体力もあるし、
少々、手荒に扱っても大丈夫だろうという感覚なのでしょうか。

それ、気持ちとしては分かりますけれども、
法令上は、学生も他の従業員と(ほぼ)同じであって、
一定のルールの下で労務管理しないといけないのです。

もちろん、
18歳未満は夜22時以降は働けないとか、
8時間を超えて働けないとか、
そういう学生ならではの制約は一部ありますけれども、
それ以外のところは他の従業員と同じ。

週3日出勤で契約したはずなのに、
実際は週5日出勤になっている。

休憩時間無しで働いている。

採用時に、1日5時間働くと決めたのに、
実際は1日3時間程度しか勤務させてもらえない。

「学生には有給休暇が無い」と言われた。

テスト休みを取って時給を減らされた。

など、
やってはいけない労務管理がなされてしまっている
という実情もあるようです。

何をやってはいけないかを知らないまま、
間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。

(知らないからといって許されるものではありませんけれども)

このような労務管理をすると、学生から好感を持たれ、
辞めていく人が減るのではないか。

一方で、
「これをやってしまってはオシマイよ」
な感じの労務管理だと、
ザルで水をすくうように人が辞めていく。

学生から好まれる職場と嫌われる職場。

その境目はどこにあるのかについて書いたのが
『学校では教えてもらえない学生の働き方と雇い方 - 35の仕事のルール』
です。

 

「学生が好む職場」と「学生が嫌う職場」 その違いは何なのか。

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