あやめ社労士事務所 - 労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます

自転車通勤を増やしたければ自転車にも通勤手当を出す

チャリ通

 

今までは電車通勤だったけど、徒歩や自転車での通勤に変えた

最近までは電車で移動していたけれども、健康のために徒歩移動に変えた人とか、または自転車移動に変えた人がいらっしゃるのではないでしょうか。

10kmぐらいだったら自転車で移動できる(いわゆるママチャリでは辛いか)距離でしょうし、徒歩でも2km程度ならば歩こうと思えば結構歩けるものです。


ただ、「今までは電車通勤で交通費が支給されていたけれども、徒歩や自転車に変えたら交通費はなくなるのかな?」と思う人もいるのではないでしょうか。

バス通勤でも同様ですね。先月まではバスを使っていたけれども、今は徒歩で通勤している人も上記と同様の思いを抱くのではないかと思います。


交通機関を使おうと思えば使えるが、あえて使わないことを選択すると交通費がなくなっちゃうのは何か変な感じだよね、と思ってしまうのが人の感情ですから、上記のように思うのは不思議なことではないです。

 

通勤手当を支給する条件を決めるときのポイント

通勤手当を出すとすれば、まず公共交通機関、電車やバスを使っている人たちに限定して手当を出すのか。それとも、交通用具を使って通勤している人たちも対象にするのか。

さらに、「交通用具」と表現すると、これは何を意味するのかがまた問題となります。自動車を意味するとしたら、四輪の自動車だけが対象になるのか、それとも二輪の自動車も含むのか。二輪の自動車を含むならば、原付一種や原付二種だけなのか、それとも250ccや400ccといった大きな二輪も含むのか。さらに、交通用具の中には自転車も含まれるのかどうか。

どのような交通手段で通勤した場合に通勤手当の対象になるのかを決める必要があるんですね。

通勤距離の制限を設けるとすれば、例えば2km以上離れた場所から通勤している人を対象にするのか。自転車ならもっと近い距離から通勤する人もいるでしょうから、500mや1kmの距離で通勤している人たちも通勤手当の対象にするのか。自転車で通勤するなら距離は1km以上というように条件を緩和してみるのか。

通勤手当の支給条件は会社ごとに色々と設定の仕方があり、工夫の余地がありますよね。

ちなみに、通勤手当を支給する額を少なくして、職場の近くに住んでいる人を採用していくのも工夫の1つです。職場ごとに合った形で通勤手当の条件を設定して運用していく。これが人事労務管理では求められるんですね。

 

運賃はタダだが自転車や徒歩でも費用は発生している

交通費というのは"実際に発生した費用"に対して支払われる金銭です。

それゆえ、実際に交通機関を使っていない社員さんに対して交通費は支給されません。

でも、社員さん本人は「あえて使わないことを選択したのに何か損した気分だ、、」と思ってしまいますよね。「会社の経費削減にも寄与しているのに、、、」という気分にもなるかもしれません。

ならば、何らかのフォローを実施すれば満足してもらえるのではないでしょうか。

つまり、あえて徒歩通勤や自転車通勤を選択した社員さんに対して"何らかの旨味"を与えれば良いわけです。

歩けば靴底が減りますし、自転車はタイヤやブレーキが消耗し、車両本体も劣化していきます。つまり、運賃はかからないものの、通勤のための費用は生じているわけです。


例えば、電車通勤やバス通勤を自転車通勤に切り替えた社員さんに対して「自転車購入補助金」というお金を支給するのも有効なフォロー方法ですよね。

あえて自転車で通勤しようとする人なのだから、何かこだわりの自転車に乗る人が多いのではないでしょうか。ロードレーサーなどのスポーツ型の自転車に乗る人には補助は喜ばれるのではないかと思います。


また、徒歩通勤でしたら、靴の購入補助とかも良いのではないでしょうか。歩くと靴底がすり減りますから、これは徒歩通勤の経費とも言えます。

長い距離を歩く人だと、革靴やハイヒールではなくスニーカーを履いて通勤し、会社に到着してから革靴やハイヒールに履き替えるのではと思います。

そのため、通勤で使う靴の購入費補助を実施すれば喜ばれるのではないでしょうか。


もちろん、上記の補助には月毎や年毎の上限を設けて運用すれば過大な支出にはなりませんから、会社にも負担にならないはずです。

 

 

 

 

自転車通勤のコストはタダ?

国土交通省のウェブサイトに「自転車通勤導入に関する手引き」という文書が掲載されており、自転車での通勤を奨励する内容になっています。

自転車通勤導入に関する手引き(国土交通省)

通勤手段というと、電車かバスが主流ですが、自転車で通勤している方もいます。

自宅から事業所まで距離が短ければ自転車で通勤するでしょうが、自転車通勤には通勤手当を出さないところが多いのが残念な点です。

公共交通機関を利用すれば運賃がかかりますから、その費用を通勤手当として支給するのは分かります。一方、自転車で職場まで行けば、時間と自転車を漕ぐ労力が必要とされるものの、運賃は発生しません。そのため、自転車通勤には通勤手当が出ないことが多いのです。

満員電車でヘトヘトになるよりは自転車で風を感じながら通勤する方が気持ちいいでしょうし、通勤用の車を駐車する費用もかからなくなりますし、色々と利点はあります。

ただ、通勤する本人が利点を感じないと、自転車での通勤を促進するのは難しくなります。

健康に良い、満員電車に乗らなくていい、こういう点も利点ではありますが、「よし、自転車で通勤しよう」と決断するには弱いでしょう。

バスや電車は運賃がかかりますが、自転車通勤は運賃は必要無いものの、色々と費用はかかっています。

車両、消耗品交換などのメンテナンス、自転車を漕ぐ労力、雨の日に体が濡れる負担、暑い日に汗だくになる厄介さ、など自転車であってもタダで通勤できるわけではありません。

電車で通勤していると会社に申告して通勤手当が出ているのに、実際は自転車で通勤して電車には乗らない。こういう通勤手当の不正受給を防ぐ効果も期待できるのでは。

電車には通勤手当が出るけど、自転車で通勤すると通勤手当が出ない。だから電車で通勤していることにして通勤手当だけを受け取ろうとする。そういう不正が発生するとすれば、自転車で通勤した人にも通勤手当が出れば、不正も少なくなっていくのではないかと。 

 

歩くのも、自転車に乗るのも、費用が発生している

電車やバスに乗れば運賃を払いますけれども、運賃という形で金額がわかれば、確かに交通費としては支給しやすいのかもしれません。一方、歩いて職場に来たり、自転車に乗って職場に来ている人からすれば、歩いたり自転車に乗るのもタダじゃありませんからね。

歩けば自分の体が消耗しますし、エネルギーを使います。自転車も、車両を購入する費用がかかりますし、パンクすれば修理しなければいけません。ブレーキシューも減ってきますし、タイヤもすり減れば交換しなければいけないわけです。当然、故障すれば修理も必要でしょう。

歩いたり自転車に乗るのもタダではなくて、相応の費用がかかってるわけですから、それに対して補助を出すのはあってもしかるべきです。

今回は、自転車の通勤についてだけ書いてますけれども、徒歩での通勤だって補助があっても良さそうですよね。例えば、1回通勤するごとに100円とか。1か月で20日通勤すれば2000円になりますし、その費用をジムやスポーツクラブの会費に充当する、なんてこともできるわけです。ほら、健康的でしょ。

電車やバスだけでなく、徒歩や自転車で通勤する人たちに対して、どういう仕掛けをしていくのか。これも労務管理で考えていかなければいけないところでしょう。

 

 

 

 

通勤手当が出れば自転車で通勤する人は増える

「通勤手当も出ないのに、なんでシンドイ思いをして自転車で職場に行かなければいけないのか」

「電車やバスに乗れば、乗っているだけで目的地に運んでくれるし、夏は涼しく、冬は温かい。自転車を漕ぐ体力も要らない」

このように思ってしまえば、自転車で通勤しようと思う人は増えません。

しかし、通勤手当が出るとなると、話が変わってきます。

電車やバスなどの公共交通機関を利用しないと通勤手当は出ないと思っている方もいらっしゃるでしょうが、実は自転車での通勤に対しても税制上の非課税枠が用意されています。

No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当(国税庁)

職場から自宅まで近いという前提条件が必要ですが、片道2kmぐらいならば自転車での通勤ならば現実的なものです。

さすがに毎日、片道10kmなんて走っていられないし、真夏は汗だくになりますが、2kmからkmぐらいでしたら自転車で走れるでしょう。

自転車の平均時速を12km/hだとすると、片道3kmだと片道15分かかります。15分間、自転車を漕ぐ前提ですから、実際は一時停止や赤信号で停まります。となると、25分ぐらいはかかるでしょう。ゆっくり運転する人だと30分は見積もっておく必要があります。

ゆっくり運転して30分で3km。2kmだと20分。通勤時間としてはそう長いものではありません。

片道2キロメートル以上だと、月に4,200円までは非課税で通勤手当を支給できます。なお、距離に応じて非課税の枠は大きくなります。

ちなみに、電車での通勤だと1ヶ月に15万円もの非課税枠があり、新幹線での通勤も想定してのことですが、ここまで優遇すると自転車で通勤するなんてバカバカしくなります。

通勤ラッシュの原因の1つは、電車に対する税制上の優遇が厚すぎる点にあるのではないかと思っています。

仮に、自転車で自宅から職場まで行き来するとして、毎月4,200円を交通費として支給されたらどうなるでしょうか。年間だと50,400円になります。

自転車で通勤して、年間50,400円の交通費が支給されたら。どうでしょう、「自転車で通勤しようか」と思い始めるのではないでしょうか。

 


インセンティブがなければ人は動かない

「健康にいいですよ」、「満員電車に乗らなくて済みますよ」というだけでは自転車で通勤しませんが、「1年で50,400円の交通費が出ますよ」となれば動く人は出てきます。

言葉だけでは人は動きにくいですが、お金が絡んでくると人は動き出します。

仮に、1回の自転車通勤で200円の通勤手当を出すとして、月に21回出勤すれば4,200円。これならば非課税枠の範囲内です。週5日出勤の方だと、月に21回ぐらいの出勤日数になるはずです。

月に4,200円だと、年に50,400円。2年に1回、自転車を買い換えるとすれば、100,800円の購入補助が付くようなものです。

ただ、2年も乗れば、パンク修理はするでしょうし、タイヤやブレーキシューも交換するはずです。それゆえ、車両代以外にも費用はある程度かかります。

シティサイクルだと、1台30,000円も出せばかなりいいものが手に入ります。2年で乗れなくなるほど品質が低いものは少なく、4年なり5年は乗れるものが手に入るでしょう。

 

スポーツタイプの自転車だと1台10万円ぐらい(高いものだと100万円を超えるものも)するでしょうが、通勤手当を自転車を購入する際の補助として利用すれば、随分と費用負担が軽くなります。

 

ポケットマネーで高級自転車を買うのは抵抗感がありますが、通勤手当で購入費の一部を補助してもらえるとなれば、「じゃあ、自転車で通勤するか」と気持ちが変わるのでは。

このようなメリットがあれば自転車で通勤しようかと思う人も出てきます。電車やバスで通勤しても、通勤手当はすべて運賃に消えますから後に残りません。体を目的地に運んでもらえば、それで終わりです。

手当も出ないのに、単に健康を目的に自転車で通勤する人がどれだけいるでしょうか。自転車好きの人ならば分かりますが、それ以外の人は違う選択をするはずです。

自転車通勤もタダではありませんから、何の見返りもなしに電車やバスから自転車での通勤に変える人は多くないでしょう。

「通勤手当が出るかどうか」ここが自転車通勤が普及するかどうかの境目です。

税制上の非課税枠を1キロメートル以上から設定すれば、自転車通勤に対して手当を出しやすくなります。

例えば、

1キロメートル以上5キロメートル未満:2,900円
2キロメートル以上10キロメートル未満:4,200円

このように、もう1段階メニューを追加すれば、自転車通勤にも適用しやすいでしょう。


住宅手当も組み合わせて自転車通勤を増やす

職場から近い場所に住んでいる人に住宅手当を出すようにして、さらに自転車通勤に通勤手当も出せば、遠いところから通勤する人は減ります。

月に15万円もの非課税枠を作ってしまうと、もっと遠くから通勤しても大丈夫だと思ってしまい、通勤ラッシュは解消できません。

職場の近くに住めば、住宅手当が出て、さらに自転車で通勤すれば通勤手当も出る。自転車を買い換える費用も少なくなり、常にキレイな自転車に乗れる。

自分がどれだけ得をするか。人が行動を起こすかどうかの出発点はここです。

 

 

 

こちらにも興味がありませんか?

ついに最低賃金が1,000円に到達。 10年かかってジリジリ上昇した結果。

1000円超え

 

令和元年度地域別最低賃金額改定の目安について(厚生労働省)

 

10年かけて少しずつ1,000円に近づいていった。


2009年頃だったか「最低賃金を1,000円に」という主張をする政治家が出てきて、当時は非現実的な話だと思っていたのですが、2019年になり、それがついに実現します。

最低賃金1,000円という話は民主党政権の頃に出てきたもので、一気にそこまでの水準には達しませんでしたが、2019年には東京都と神奈川県で1,000円を超えます。

2018年の10月には、東京都が985円、神奈川県が983円に改定され、2019年10月に28円プラスされ、前者は1,013円、後者は1,011円に変わります。

ちなみに10年前は、東京都が791円、神奈川県が789円でした。10年で約200円ほど最低賃金が上がったことになります。

最低賃金が変更されるのは毎年10月ですから、最低賃金近くに給与を設定している事業所は、労働条件を変更する対応が必要になります。

 

 


時間と給与が連動するとヤル気がでない。


最低賃金は経済学者には不評で、最低賃金が無いほうがいいという意見もあります。

賃金水準に下限値が設定されると、下限を下回る賃金しか払えない会社では人を雇えなくなりますから、労働市場での需要が減退します。

労働需要が減るということは雇用が減ることを意味しますから、労働者にとっても都合が悪い。ゆえに、最低賃金が無いほうが雇用が最大化される、というのが経済学での理屈です。

時間と賃金が連動していて、どんなに仕事をしても給与が変わらないとなれば、使用者にすれば賃金が割高になりますし、労働者にとっては賃金が安いと感じてしまいます。

繁忙期は、費用よりも収益が上回り、事業者にとって嬉しい状況になりますが、閑散期にも同じ賃金で雇うとなれば、収益よりも費用の方が多くなり好ましくないのです。

本来ならば、繁忙度合いに応じて報酬も変わるべきなのですが、時間と給与を紐つけてしまっているため、忙しかろうと暇であろうと同じ給与を払わないといけないわけです。

一生懸命に仕事をやろうがやるまいが同じ給与ならば、人間は手抜きしようと思うもの。時間給900円と決まっていたら、どんなに忙しくても1時間で900円ですし、逆に、どれほど暇でも900円です。これだと、忙しい日は不満を言う人がいるでしょうし、なるべく暇な日に出勤しようとする人も出てくるはずです。

時間と給与が連動していると給与計算はラクですが、働く人のヤル気は思わぬ方向へ行きがちです。

 

 


「時間に対する賃金」と「仕事に対する報酬」を組み合わせる。


時間に対する賃金はゼロにはできませんし、最低賃金法で下限値も設定されています。そのため、それを下回る水準に設定することはできません。

時間に対して給与を支払っているとヤル気が出ないものですが、仕事や成果に対して報酬が支払われる仕組みがあれば状況は変わるでしょう。

成果報酬といっても、簡単なところから始めることも可能です。成果を定量的に評価するのは難しいのですが、やった仕事に対する評価ならば難しいものではありません。

例えば、掃除当番をやると500円、店頭挨拶をやると1000円のように、仕事に対して報酬を付けます。さらには、お中元を紹介販売をすると1件で500円というのも良いですね。

時間に対する賃金は少なめに設定し、このような形で報酬を上乗せしていくと、働く人の気持も変わるのではないかと思います。

他には、繁忙日とそうではない日で給与に差を付けるのも一案です。土日祝日は時間給を100円プラスする。夏休みの時期は学生の時間給を100円プラスするなど。時間給を増やすのではなく、先程のような仕事に対する報酬を増加させるのもありです。

時間を給与に変えるような働き方ではなく、仕事なり成果を給与に変える仕組みがあれば、人はヤル気になるもの。

時間に対する給与で最低ラインの収入を確保しつつ、そこに上乗せしていくというイメージです。

最低賃金が上がっても、時間と賃金が固定されている状況では、人の気持ちは変わらないものです。言葉でヤル気を出せと言っても動けるものではありませんが、具体的な仕組みがあれば人は動きます。

 

 

 

 

副業の残業代を出したくても出せないワケ

副業

 


労働時間を通算できる環境なのかどうかが境目。

以前書いた内容(副業・兼業の労働時間を通算して残業代を払える?)への追記に近い内容ですが、副業の労働時間も合算して割増賃金を計算するのかどうかという話です。


【主張】通算労働時間管理で警鐘 労働新聞社

 三重・伊賀労働基準監督署(久保田洋一署長)は、労働基準法第38条の異なる事業場で働かせた場合の労働時間通算規定を適用し、違法時間外労働として事業者を書類送検した。

(中略)

 労働時間を通算した結果、法定時間を超えると36協定の締結、割増賃金支払いが必要となる。割増賃金の支払い義務が課されるのは、原則として時間的に後で労働契約を締結した企業と解釈している。後で労働契約を締結した企業は、その労働者が他の企業で何時間労働しているかを確認したうえで契約すべきということになろう。

 
労働基準法38条1項(以下、38条1項)を適用した事例ですが、これは事業場は異なるものの、事業主が同一であるため、勤怠データを集約できるため、労働時間も通算できます。それゆえ、38条1項を適用させて、通算した労働時間で時間外労働が発生したかどうかを判定したわけです。

労働基準法38条1項
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。


さらに読むと、『伊賀労基署の送検は、問題となった2つの事業場が同一事業主により経営されていたため、責任の所在は明白という特殊性はあるものの』と書かれています。

同一事業主により経営されている、という点が重要です。事業主が同じならば、事業場が異なっていても、労働時間のデータを集めることができますから、労働時間を通算する必要があるのです。

珍しい事例であるかのように紹介されていますが、事業主が同一のケースならば38条1項が適用されるのは当然です。

問題になるのは、事業主が異なる場合でも38条1項を適用し、労働時間を通算できるのかどうかです。

 

すごい副業

すごい副業

 

 

 

他の会社の勤怠情報は流れてこない。

<働き方改革の死角>「副業の労働時間 合算せず」 企業の管理義務廃止案

38条1項の規定を削除するとの検討がなされているようで、この点に対して、長時間労働を許すような結果を招き、懸念があると書かれています。

なぜ38条1項を削除しようとしているのかというと、この規定が現実的に使いにくいものだからです。

先程のように、同一事業主であり事業場を異にする場合は、38条1項を適用できます。しかし、複数の職場で働いており、それぞれ異なる事業主である場合は38条1項を適用したくてもできません。

なぜならば、他社の勤怠データを取得できないため、正確な労働時間を把握できず、さらに、仮に何らかの方法で労働時間を通算できたとしても、割増賃金を支払うのはどこの会社なのかを判断できないからです。

労働者に他社での労働時間を自己申告してもらうという話もありますが、他社で働くことを良しとしない会社ならば、自己申告すればあまり良い評価をされない可能性の方が高いですし、自己申告してネガティブな人事評価をされるなら黙っておこうと考えるものです。

仮に申告してもらったとしても、正確な労働時間を伝えてくる保障はありません。自己申告で勤怠データを集めようなどと本気で言っているのか分かりませんが、現実的な解決策ではありません。

『「副業先を含めた労働時間の管理が大変」とする企業が多く』という部分に対しては、そもそも副業先の事情まで考慮する必要はありませんし、そこで何時間働いているかまで把握しろと求めるのは酷です。

38条1項を適用できるのは、事業主が同一の場合だけです。事業主が異なってしまえば、もう勤怠データを集めることができませんから、副業先の労働時間を管理することなど無理です。

この38条1項は拡大解釈されているフシがあり、同一事業主だけでなく異なる事業主の場合にまで適用されるかのように思われていますが、異なる事業主の場合にまで適用するのは困難です。

 

 


割増賃金を支払うのはどこの会社?

『複数の企業で働き、通算労働時間が法定を超えた場合は、後から雇用契約を結んだ企業が割増賃金を払う』という部分も、実際にこういう支払いができるのかというと、まず不可能です。

時間的に後で雇用契約を締結したほうが割増賃金を支払うという理屈だと、あとから雇用契約を締結した方の事業主は納得しません。

仮に、会社Aで週25時間、会社Bで週23時間働いている人がいて、雇用契約を締結したのは会社Aの方が先だとしましょう。

この場合、週に8時間の時間外労働が発生しますが、この割増賃金を支払うのは会社Bになってしまうわけです。

こうなると、会社Bは、「うちでは週23時間しか働いてもらっていないのに、なぜ時間外労働に対する割増賃金を払わないといけないのか」と反発するでしょう。これは当然の反応です。

雇用契約の時間的前後で割増賃金の支払い主体が変わるというのは不合理です。

事業主が異なっている場合は、38条1項は適用したくてもできないのが現実です。それゆえ、38条の内容を削除するかどうかを検討しているというわけなのです。

会社員の身分を2つ以上持たなければ、この問題に直面しませんから、「会社員 + 自営業」だとか、「会社員 + 会社経営」のように違う働き方を組み合わせるようにすれば労働者個人で自衛策を講じることができます。

 

 

副業・兼業の労働時間を通算して残業代を払える?

 

副業と残業代

 

副業の労働時間は通算される?  掛け持ちで働く人の残業代はどうなるか。

副業・兼業 労働者の自己申告が前提 厳密な通算は困難 厚労省検討会

厚生労働省は、副業・兼業を行う労働者に対する労働時間管理のあり方について検討会報告書(案)をまとめた。複数の事業場の労働時間を厳密に管理することは困難とし、基本的には労働者の自己申告を前提とせざるを得ないとしている。割増賃金は、自己申告に基づき労働時間を通算して法定労働時間を超えた際に支払うか、または現行の解釈を変更して各事業主の下での法定外労働時間に対してのみに支払い義務を限定するか、2つの選択肢があるとした。自己申告に「証明書」を求めるなど、どの程度の客観性を担保するかも今後の課題である。

 

上記の検討会での内容は、複数の会社で働いている人の労働時間を通算して割増賃金を支払うことは可能かどうかというものです。

1つの事業所で働くだけならば、そこで労働時間を集計し、給与も計算できます。しかし、2つ以上の事業所で同時に働いている人の場合、労働時間が分散し、割増賃金をどうするかが問題となります。

例えば、2つの会社に在籍して働いている人がいるとしましょう。一方を会社A、もう一方を会社Bとします。

会社Aでは、週23時間働いている。他方、会社Bでは、週25時間働いている。この場合、労働時間を通算すると、週48時間になります。

法定労働時間は週40時間ですから、超過した8時間に対しては割増賃金が必要になります。ここまではそう難しい内容ではありません。

問題は、異なる会社での労働時間を通算できるのかどうかという点です。

数字では足し算するだけですから、通算するのはさも簡単そうですが、他社の勤怠情報は個人情報ですから簡単には集められないのです。

さらに、仮に労働時間を通算できたとしても、8時間分の割増賃金をどちらの会社がいくら払うのかが問題になります。

 

 

 

他の会社での労働時間を把握できるのか?

ある会社で、パートタイムで勤務する社員さんがいるとして、その会社では週5日勤務で、1日あたり5時間勤務しているとします(こちらが本業と仮定します)。

さらに、その会社とは別に、別会社で週5日勤務で1日4時間働いているとします。

なお、上記2社での勤務は、月曜日~金曜日で重なっているとします。


このとき、他の会社と自社の勤務時間を合算すると、8時間を超えていますので、「時間外の勤務(割増賃金が必要な残業)になるのかな?」と本業側の会社が思ってしまうことがあるようです。

つまり、他の会社でも1日4時間働いているから、何らかのフォローが必要なのではないかと思うようですね。


確かに、2社の勤務時間を通算すれば、8時間を超えますから、計算上は法定時間外の勤務をしていると判断できます。


しかし、他社で働いた時間を、自社で考慮する必要はあるのでしょうか。

時間外勤務というのは、あくまで自社での勤務時間だけが算定対象になるのであって、他社の勤務時間を算定に含める必要は無いのではないかとも思えます。

 

 

 

他社との通算で1日8時間を超えても、会社が考慮することではない

結論を言えば、たとえ他社と自社で勤務時間を通算して、1日8時間を超えたとしても、時間外として扱う必要はありません。

なぜならば、時間外勤務時間の算定は、自社内だけで行うものであって、他社での勤務時間を含めて行うものではないからです。他の会社で何時間働いているか、その正確な情報は個人情報ですし、相手先の会社からは教えてもらえませんから。

労働基準法38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と書かれていますが、それぞれ事業主が違う会社だと、相手方の勤怠情報を把握できませんし、それは従業員の個人情報ですから、他社に流すことはできないものです。

となると、労働時間を通算できるのは、同じ会社内、同じグループ内のように、事業場は異なるものの、それぞれの事業所からの情報を集められるという条件下に限られます。

なお、年収103万円や130万円のラインに関しては通算されるので注意が必要です。この点は、税金や健康保険に関連する部分です。

源泉徴収のデーターは会社ごとに収集されて税務署に送られますから、2社にまたがって働いていても、2つのデーターを通算しますので、税金の取り扱いは分散できません。健康保険でも、収入が複数あっても、それらは合計され、被扶養者の判定がされます。


「勤務時間は通算されないが、税金の取り扱いは通算される」のがポイントですね。

 

 


他社の勤怠情報をどうやって取得するのか。個人情報を他の会社に教えるわけがない

労働時間を通算するには、自社の勤怠情報だけでなく他社のものも取得しなければいけません。となると、それをどうやって集めるのかが問題です。

上記の検討会では、労働者の自己申告で勤怠情報を集めていくとのことですが、他にやりようがないのが実際のところです。

相手先の会社に連絡を取って、「誰々の勤怠データを送ってください」などと言えるものではありませんし、「そんな個人情報を他社には提供できません」と断られます。労働時間だけだと個人情報になりませんけれども、労働時間だけでは使い物になりませんので、少なくとも名前や生年月日、住所などとセットで取得する必要があります。となると、特定の個人を識別できる情報になりますから、会社同士でやり取りするわけにもいきませんよね。

世の中には、なりすましで個人情報を取得しようとする人もいるでしょうし、相手先の事業所を確認してまで勤怠データを渡すのも手間がかかります。

他の方法としては、マイナンバーを利用して勤怠情報を名寄せするのも一案ですが、正確なデータが集まるかどうか分かりません。実際の勤怠データと行政に提供されたデータにはズレがあり、労働時間が実際よりも長くなったり短くなったりする可能性もあります。

となると、労働者に他社での労働時間を申告してもらうということになるわけですが、社外で働いていることをバレたくない人が正直に申告するのかどうか。

副業や兼業に対して、世間の評価は寛容になってきたようですが、自社以外で働くことを許さない事業所もあるでしょう。

何らかのペナルティを負う可能性があるならば、他で仕事をしていることは黙っておこうと考えるのが自然な判断です。

このような状況で、他社での労働時間を自己申告してもらえるかというと、なかなか難しいでしょう。もし、会社と従業員がお互いに副業については関与しない立場を取れば、労働時間の管理は本人任せになり、それを通算することはできなくなります。

 

 

労働基準法38条1項はどういう場面で適用されるか。

 労働基準法38条1項(以下、38条1項)には、労働時間の通算について書かれています。

38条1項
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

これを素直に読むと、他の会社での労働時間も通算しなきゃいけないんじゃないか、と思うはず。

ここで、「事業場を異にする場合」という部分の解釈が問題となります。

お互いに全く関連性がない事業所同士を想定して、「事業場を異にする場合」と書かれているのか、それとも、同一の企業内で異なる事業所という意味で「事業場を異にする場合」と書かれているのか。解釈が2通りあります。

ちなみに、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含む、と行政通達(労働基準局長通達 昭和23年5月14日基発第769号)でも書かれています。

前者の解釈だと、先程書いたように、どうやって勤怠データを集めるのかという点を解決できなくなります。事業主が異なれば、全くの別会社ですから、事業所間での情報のやり取りはありません。その前提で、勤怠情報をどうやって把握するのか、この点が最大の問題点です。

しかし、後者の解釈だと、同じ会社内で事業所が異なっている場合ですから、例えばチェーン展開する小売店や飲食店が当てはまります。

一例として、スーパーマーケットを営業する会社があって、新宿店、渋谷店、六本木店、原宿店、というように店舗を構えているとします。

渋谷店で週23時間働き、六本木店で週25時間働くと、この労働時間は通算されて週48時間になり、会社は8時間分の割増賃金を支払います。

どちらの店舗も同じ会社が運営していますから、勤怠データは1つの会社の中にあります。そのため労働時間を通算することも可能です。

しかし、それぞれのお店を運営する会社が別の会社だとすれば、勤怠情報も別々になり、それらを通算することはできなくなります。

ゆえに、38条1項は、「同一企業内で事業場を異にする場合」を想定した規定だと解釈するのが妥当です。

公的な解釈では、事業主を異にする場合も38条1項を適用するとされているのですけれども、事業主が異なれば情報を共有できない他社になりますので、労働時間を含む勤怠情報を取得する方法がありません。自己申告では正確な情報が提供されるとは限りませんし、使用者と労働者がお互いに副業の労働時間に関与しないとなれば、労働時間の数字を把握できないでしょう。

1人につき職場は1つという想定で労働基準法は作られており、複数の仕事を1人の人間が持つ働き方には対応できていません。工場労働者向けの法律ですからね、労働基準法は。

38条1項は実務では機能しないでしょうから削除するのが妥当ではないかと。

 

 

ダブルワークしたときの残業代。 副業や兼業での労働時間をどう管理するか。

2020年6月25日、第161回労働政策審議会労働条件分科会にて、副業や兼業をしている人の労働時間をどう管理するか、労働基準法38条をどう運用していくか、などについて検討されました。

第161回労働政策審議会労働条件分科会(厚生労働省)

現状では、労働者による自己申告で労働時間を通算して管理しているところですが、それではマズいだろう、ということで労働時間の管理方法について話し合いがされているところです。

労働基準法38条がありますから、いくつかの職場で働く人の労働時間を名寄せして、1日8時間を超えたか、1週40時間を超えたかを判断していきたいのでしょうし、割増賃金の支払いもさせたいのでしょうが、言葉で表現するのは簡単ですが、実際に実現するとなると難しいのです。

労政審の管理モデル案では、労働者の申告等で副業先の労働時間を伝えてもらい、それぞれの事業所での労働時間を通算していく。他には、本業側の使用者から、副業先の使用者に、労働者を経由して労働時間の上限を設ける、という方法も考えられているようです。つまり、本業側と副業側で、自主的に労働時間に上限を設けて、お互いにその範囲内で該当の労働者を働かせましょう、というものです。

これは労政審の分科会資料に掲載されている内容ですが、他社の勤怠情報を正確に得られないのにどうやって労働時間を通算するのか、という問題を解消できていない案です。

どちらの仕事が本業で、どちらが副業なのか。これは何を基準に分けているのかというと、先に雇用契約を締結した側を本業とするらしいです。しかし、収入の多さで分けている方もいるでしょうし、投入している時間量で分けている方もいるでしょうから、そもそも本業と副業で分ける必要があるのかどうかも疑問を抱きます。

労働者本人が協力するという前提で労働時間を通算するものですから、副業していることを秘匿したい人だと協力を得られないでしょう。

やりたいことは分かりますが、個人情報に関する規制があり、事業所同士で勤怠情報をやり取りできませんから、結局は労働者の自主性に任せるしか無いわけです。仕組みに頼るのではなく、人間の良心のようなものに頼ったものにならざるを得ないのです。

他の仕事をしていることを知られたくない人もいますし、労働時間の通算に協力しないという選択肢もあります。

副業なり兼業されている方は、普段から仕事の時間にはシビアなのではと思います。時間外労働が多いと、副業や兼業が思うようにできませんから、それぞれの仕事で使える時間内で作業を終わらせるように動くのではないかと。

そのため、あえて労働時間を通算して管理しようとせずとも、労働者の自主性に任せて管理させる方が良いだろうと思います。

1日5時間で仕事を終えてもいいですし、1日9時間、1日11時間と仕事をしてもいいわけです。

仮に、何らかの方法で労働時間を通算できたとしても、どちらの事業所が割増賃金を支払うのか、社会保険に加入するとなったら、どちらが社会保険料を支払うのか。こういった問題が次に生じてきて、どうするのか、こうするのかとまた時間をかけて考えないといけなくなります。

同じ企業内では、労働基準法38条の通りに労働時間を通算していくのが正しいですが、事業主が違い、勤怠情報をお互いにやり取りできない事業所間では、労働時間を通算しないのが解決策としては妥当だろうと思います。

複数の会社で会社員の身分を持って、ダブルワークをしている方もいらっしゃるでしょうが、従業員が他の会社で何時間働いていたかを正確に把握するすべはありません。

労働者の自己申告で、他社で何時間働いていました、という形で教えてもらって、その時間を通算するという流れを政府は想定しているみたいですけれども、自己申告でどれだけ正確に伝えてくるかなんて分かりませんから、全くの別会社で、どれだけ労働時間が発生していたかを正確に把握することは現実にはできません。

 

 

すごい副業

すごい副業

 

 

労働時間を通算できたとしても、割増賃金を拒否される。

 もし、何らかの方法でもって、異なる企業の間でも労働時間を通算できたとしましょう。

では、通算したあと、割増賃金を支払うのはどこの会社なのか。

会社Aでは、週23時間勤務。
会社Bでは、週25時間勤務。
法定労働時間を超過した時間は8時間。

8時間に相当する割増賃金を払うのはAなのかBなのか。

労政審の検討案では、労働契約を先に締結した方から通算していき、法定労働時間を超過したかどうかで判断するとのことですが、労働契約の先後で判断するというのは形式的ですし、後から労働契約を締結した事業所に割増賃金の負担がしわ寄せされてしまいます。

どちらの会社も、「うちの会社では法定労働時間を超えて働いてもらっていないのだから割増賃金は不要だ」と言うでしょう。

1日8時間、1週40時間。この水準を超えていないならば割増賃金は発生しないのが法律です。となれば、会社側の言っていることが法律に合っており正しい。

しかし、労働者側としては、通算すれば割増賃金を得られるのだから、何とかして通算する方向に持っていこうとするでしょう。

ですが、この場合に割増賃金を支払わせるとなれば、法律の内容に合わなくなりますし、どちらの会社がどれだけの割増賃金を支払うのか、その割合も決められません。

ゆえに、ここでも「同一企業内で事業場を異にする場合」でなければ、割増賃金を支払うことはできないと判断することになります。

 

 

会社員の身分を2つ以上持たない働き方

 会社員としての身分が2つ以上あると労働時間の通算で壁に突き当たります。

もし2つ以上の仕事に取り組むならば、会社員の身分は1つまでにして、他の仕事は自営業で取り組むなり、自ら法人を設立し、そこを経由して働くという形にして、労働時間の通算で発生する不具合を回避するのが賢明です。 

パートタイマーとして掛け持ちで働くような働き方だと労働時間の通算ができず、割増賃金の点で不利です。

他の会社から勤怠データをどうやって取得するか。割増賃金をどういう形で負担するか。この問題を解決するのはおそらく不可能でしょうから、働く側で自衛策を講じるのが現実的な対応ではないかと思います。

 

 

勤務時間を合計するか。それとも別々で計算するか。

1つの組織や会社のみで働く。多くの人にとって職場は1つなのかもしれません。

しかし、人によっては、新聞配達の仕事と昼の仕事、これら2つ同時に取り組んでいたり、昼の仕事とは別に夜にも仕事に行くなど、2つ以上の仕事を持っている人もいますよね。

フルタイムの仕事とパートタイムの仕事の組み合わせ。パートタイムの仕事とパートタイムの仕事の組み合わせ。その他にも組み合わせはあるかと思います。

1日に8時間を超えて仕事をすると残業になる。この点について知っている方は多いはず。

では、もし次のような働き方をしたら、残業は発生するでしょうか。それとも、発生しないでしょうか。

 

とある場所に、相川さんという人がいて、この人は2つの会社で仕事をするダブルワーカーです。

2013年3月11日に、相川さんは会社Aで8時間勤務した。勤務の時間帯は、9時から18時まで。休憩時間が1時間あったと考えます。

さらに、同日に、会社Bで3時間勤務した。時間帯は、20時から23時まで。休憩時間は無しとしましょう。

この場合、相川さんは残業したことになるでしょうか。それとも、ならないでしょうか。

会社Aでは、8時間の勤務です。8時間を超えていないので、残業ではないですよね。

一方、会社Bでは、3時間の勤務です。こちらも8時間を超えていないので、残業ではないですね。

ということは、相川さんは残業していないという結論していいのでしょうか。

「いや、ちょっと待って。会社Aと会社Bでの勤務時間を合計すると、11時間の勤務になる。だったら、3時間分は残業として扱って、割増賃金も必要なんじゃないの?」そう思う方もいるはず。

確かに、別々に扱えば、8時間と3時間ですから、残業じゃないと判断できます。しかし、合算して扱うと、11時間ですから、残業だろうと判断するところ。

2つの事業所での労働時間を別々に計算するか、合算するかによって判断が変わります。

では、どっちの判断が妥当なのか。


さらに気になるのは、もし残業が生じたとして、3時間分の割増賃金はどちらの会社が支払うのでしょうか。会社Aでしょうか。それとも、会社Bでしょうか。

「そりゃあ、会社Bが支払うべきだろう。8時間を超過した勤務時間は全て会社Bで発生しているのだから、当たり前だ」このように思いましたか?

しかし、会社Bでは、相川さんはたった3時間しか仕事をしていないですよね。それなのに、3時間分の割増賃金を会社Bが支払うのでしょうか。

どうでしょうか。意外と難しいでしょう。

バラバラに勤務時間を計算すると、通算で勤務時間が8時間を超えているのに残業にならないし、合算して計算すると、残業代の負担関係がおかしくなる。

この点をどうするかが今回の焦点です。



 

勤務情報は個人情報。だから、他社には教えないし、知ることもできない。

もし、勤務時間を通算すれば、Bでの3時間は残業であり、割増賃金が必要であるかと思えます。

しかし、会社Bにとってみれば、「3時間しか勤務していないのに、何で残業なんだ?」と思うはず。3時間だけ働く人に、法定時間外労働に対する割増賃金を支払うのは納得できないでしょう。

この場合、会社Bに対して割増賃金の支払いを求めるのは酷です。会社Aに比べて公平ではない扱いになりますからね。

今回の問題では、労働基準法38条1項(以下、38条1項)が根拠として用いられるはず。

38条1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と書かれています。

素直に読むと、会社Aでの勤務時間と会社Bでの勤務時間を通算するのが正しいと思えます。

しかし、条文の文言にある「事業場を異にする場合」というのはどういう場合を意味するのか。ここの解釈によって結論は変わります。

1つの会社において、支店を変えたり、店舗を変えたりするという意味なのか。会社そのものは異にしないけれども、渋谷支店と四谷支店で同時に勤務するとか、お茶の水店と神田店で同時に勤務するという場合を意味していると考えるべきか。

それとも、単に支店や店舗を異にするという意味ではなく、2つ以上の異なる会社ごとに勤務場所を変えて働いた場合を意味するのか。

どちらの解釈を取るかによって、結論が変わります。

もし、前者ならば、相川さんの勤務時間は、8時間と3時間に分割されますので、法定労働時間外の残業は発生しないことに。

しかし、後者の解釈だと、相川さんの勤務時間は、11時間と考えるべきなので、割増賃金が必要な残業が生じることになる。

就業規則の取り扱いや変形労働時間制度の取り扱いでは、各店舗や各支店を1つの事業場(もしくは事業所)として扱うので、38条1項でも、店舗や支店が異なることをもって「事業場を異にする場合」と考えて不自然なことはないでしょう。

とはいえ、「事業場を異にする場合」という表現には、会社そのものを異にする(事業主を異にするという意味)という意味も含んでいると解釈することが可能なので、どちらの解釈も成り立ち得ます。

条文だけの解釈では限界があるので、労務管理の現場から考えてみましょう。

会社にとって、自社の勤務データは自社のものであって、社員の個人情報ですし、他の会社に教えるものでもない。となると、会社間で情報がやり取りされない以上、他社との間で勤務時間は通算できない。

仮に、勤務時間を会社間で通算できたとしても、割増賃金をどの会社が負担するかという点を解決できない。

よって、異なる会社間での勤務時間を連続したものとして扱うことはできないと考えるべきでしょう。

38条1項の内容を考えれば通算するのが理想ですが、現実には無理です。

労働基準法は、「1人の人間は、同時に2箇所以上の事業所で働くことはない」という前提で設計されているのではないかと思います。店舗や支店を跨ぐことはあっても、会社を跨いで働くことはないだろうと。

法律上は妥当であっても、現実に処理ができない。そんな問題なのかと思います。

 

 

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人は、週5日、1日8時間も集中して働けない

週休3日

週5日も本当に働いているの?

土日と「水曜」は休日! ベンチャー企業が「週休3日制」を導入してよかったコト

土日と水曜日を休みにして、常に休日が接近している状態で勤務できるのが良いようです。

週5日勤務だと連続勤務が5日になりますが、水曜日に休みが入ると連続勤務が2日で2回に変わりますから心理的にラクでしょうね。


フルタイム勤務というと、週5日勤務で1日あたりの所定労働時間は8時間。休みは週に2日で、基本は週40時間労働。そこに残業が上乗せされてくる。

土日や休みならば、月曜日から金曜日まではずっと出勤。5連続勤務ですから萎える人もいるのでしょう。

『サザエさん症候群』という言葉まであり、月曜日は他の曜日に比べて心臓への負担が高くなるとか、月曜の午前中に自殺者が増えるとか、何だか物騒な話まであります。

なぜサザエさんなのか、「ちびまる子ちゃん症候群」はないのかと不思議に思うのですが、それは無いのですね。ほぼ同じ時間帯に放送される番組ですけれども、サザエさんの方が長寿番組だからという理由でしょうか。

社員数が3人とか7人の組織だと、各人の負担が大きくて、そう簡単に週休3日にするわけにもいかないのでしょうが、1つの事業所で50人なり80人も従業員がいれば、週4日出勤でも勤務シフトを調整すれば大丈夫ではないかと思えることもあります。

職場ではミッチリと働いている人は少ないもので、所定労働時間が1日8時間あっても、集中して仕事をしている時間は5時間ぐらいではないかと思います。つまり3時間ほどはサボっているわけです。

1日8時間働くのが当たり前のように思われていますが、8時間というのは相当長い時間です。9時から仕事を始めて、12時まで休憩なしだと3時間あります。その後、13時から18時までは5時間。

ブレイク無しで3時間なり5時間も作業を続けるのは難しいもので、途中で何度も小休止が入ります。となると、実質的な労働時間は8時間よりも少ないものになるはずです。

仮に、正味で働いているのは1日6時間だとすれば、週5日出勤でも週30時間労働になり、ずいぶんとラクなイメージに変わります。

「年収6割でも週休4日」という生き方

「年収6割でも週休4日」という生き方

 

週休3日を導入するのは難しくない

制度として導入する点に限れば、週休3日制を実現するのは難しいものではありません。

週に3日休みがあれば、所定労働時間が減り給与も減る。ここが週休3日の問題点として指摘されがちです。

1日8時間勤務のままだと、週32時間勤務。これで給与が以前のままならば受け入れられるでしょうが、労働時間が20%減ったのだから、給与も20%カットするとなれば反対する人も出てきます。

そこで、変形労働時間制で1日の所定労働時間を10時間にして、週4日勤務、週休3日にすれば、所定労働時間は減りません。

1日の労働時間は10時間労働になりますが、その代りに週休3日にできますし、所定労働時間も以前のまま維持できます。それゆえ、週休3日を理由に給与を減らすこともありません。

減らした1日分の所定労働時間を残りの4日に振り分けるものですから、何か大掛かりな取り組みをする必要はなく、変形労働時間制度を導入して勤務シフトを作っていくと週休3日の体制に変更できます。

労働時間を20%減らして給与を減らさないとなれば、減った時間を補填するために生産性を上げる必要があり、何らかの解決策を考え出さなければいけなくなります。

しかし、変形労働時間制で時間配分を変えるならば、トータルの労働時間は減りませんので、仕事のやり方をガラッと変えることなく週休3日を実現できます。

働ける日が減れば、時間に厳しくなり、余計な時間がないと感じ、何とかして仕事の密度を高めないといけないと思わせる効果を期待できます。

時間にゆとりがあると人はサボります。持ち時間が減ると時間内に終わらせないといけないと思うもの。

時間の長さで嘘をつく

1日8時間労働といっても、8時間みっちりと働いているわけではなく、仕事の中身を書き出せば、ちょこちょこと休んでいる時間があったり、あえてやらなくてもいいことをやっていたりと、仕事の密度にはバラつきがあります。

長時間労働と聞けば、さも大変そうなイメージを抱いてしまいがちですが、実態は時間だけ長いなんていうこともあります。

筆者が中学生の頃、定期テストの1週間前になると、テスト勉強を1日に何時間やったかを申告する取り組みがありました。

それぞれ2時間とか3時間と答えるわけですが、じゃあその中身はどうだったんだと。時間数だけを申告するものでしたから、その時間で何をしていたかは分かりません。

ゲームで2時間遊んでいた時間を勉強していた時間だと言ってもいいわけですし、漫画を3時間読んでいれば3時間勉強したことにもできるし、何もしていなかったがテスト勉強を1時間やったとでっち上げることもできます。

後日、テストが終わると、「アイツ、毎日3時間ほど勉強していたくせに、テストの平均点は40点も言ってないぜ」なんてことを言われたりします。

労働時間も長さで評価されがちですが、「1日6時間労働」と「1日10時間労働」ではどちらがシンドイかと聞かれれば、後者を選ぶ人が多いでしょう。

前者が休み無くミッチリと6時間働き、後者はユルユルと途中で小休止を入れながら10時間働いていたとすれば、評価は変わってきます。


週5日も出勤する必要があるのかどうか。
1日8時間も労働時間が必要なのかどうか。
法定労働時間は1日8時間、週40時間でいいのかどうか。

人間が働かなくていい状況を作るにはどうしたらいいか。それをどうやって実現するのか。これが人間に必要な仕事なのではないかと思います。

1週間に休みを1日増やすには、人間が仕事をその分だけ手放す必要がありますから、そのための道具なり仕組みなりを作らないといけないわけです。

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