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労働条件明示ルールが改正 雇用契約書や労働条件通知書を正しく作成するには?

労働条件の決め方

2024年4月から雇い入れ時に作成する労働条件通知書や雇用契約書に記載する内容が変わります。また、雇用期間を定めて半年や1年で契約を更新している事業所で作成する労働条件通知書や雇用契約書も同様です。

変更点は主に4点です。

  1. 就業場所・業務の変更の範囲の明示
  2. 契約を更新する上限を明示
  3. 無期転換申込機会の明示
  4. 無期転換後の労働条件の明示

就業場所・業務の変更の範囲の明示(働く条件を具体的に決めて伝える)

働く場所を明示する根拠は、労働基準法施行規則 5条 1項第1号の3で、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項は労働者に対して明示しなければならない労働条件に含まれています。対象は、短時間労働者だけでなくすべての労働者です。

新規で採用した時点、さらに契約を更新するタイミングごとに明示します。

「就業場所と業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所と、労働者が通常従事することが想定されている業務のことを意味します。働く場所が曖昧だと、通勤が難しい場所が就業場所に指定されてしまい、働き続けられなくなりますから、きちんと就業場所が明示されている必要があります。

厚生労働省のモデル労働条件通知書では、就業の場所の欄は「雇い入れ直後」と「変更の範囲」を記入できるようになっています。

変更の範囲は、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所や業務の範囲を意味します。無制限に働く場所が変わるのか、それとも一定の範囲で場所を限定するのか、これを労働条件として明示します。

例えば、雇い入れ直後は店舗Aで働いてもらって、変更の範囲は「大阪府内の店舗」というように範囲を具体的に示すことができます。天王寺区内、浪速区内のように範囲を限定して明示することも可能です。

変更の範囲の示し方としては、他にも営業所名や店舗名、海外ならば国の名称を列挙していく方法もあるでしょう。場所と言っても必ずしも住所を記入しなければいけないものではなく、その事業所内でわかるような名称であれば良いでしょう。例えば、梅田支店、難波支店、天王寺支店というように支店名を書くことで就業の場所を示したということもできますね。会社の定める営業所という決め方も可能です。

テレワークを実施する場合は、その実施場所、自宅やサテライトオフィスを明示します。事業所とテレワークを両方含むならば、テレワークを行う場所を含むと書き添えておくこともできます。

就業場所がきちんと定まっていると働き続けやすくなります。一方、就業場所を限定しない契約だと働ける方が限られてきます。どちらが良いかは、事業所ごと、労働者ごとに契約で明示します。

従事すべき業務の内容も、「雇入れ直後」と「変更の範囲」を記入できるよう例が示されています。

雇入れ直後は、例えば店頭販売と決めておき、変更の範囲は製造部門、経理部門、営業部門というように 部門名で書いてみるのもいいですね。さらに、すべての業務への配置転換あり、と決めても有効です。

どのような名称で書くかは事業所ごとに違いがあります。記載の仕方も色々ありますね。就業の場所や従事すべき業務の内容が具体的に特定できていれば労働条件通知書や雇用契約書として足ります。

労働条件通知書や雇用契約書で書ききれないときは就業規則の条項を示して参照する方法もあります。

契約を更新する上限を明示(いつまで働けるのかをわかりやすくする)

契約期間を定めた有期労働契約は、期間が終了する時期が来たら契約を何回まで更新するのか、通算契約期間では何年まで更新するのか。この点について労働者がわかるように書くことが求められます。 有期労働契約とは、契約期間に定めのある労働契約のことです。

新規で採用した時点、さらに契約を更新するタイミングごとに明示します。

厚生労働省のモデル労働条件通知では更新上限の有無を記載する欄が追加されています。

有期労働契約の契約期間の上限は原則3年です。そのため、3年毎に更新手続きをすることが可能です。なお、3年を超えない範囲ならば、半年で更新したり1年毎に更新することもできます。

まず、契約を更新するとして、更新する上限はないという決め方ができます。回数や年数を定めずに有期労働契約を今後も更新していく事業所は、更新上限は無い、と労働条件通知書や雇用契約書に定めておくことができます。

更新の上限回数を有りにした場合は、例えば更新5回まで、更新10回までというように回数を指定して労働条件通知書や雇用契約書に記載することができます。書面に更新回数をあらかじめ書いておいてもらえると、労働者は何回まで更新されるのかを予測できるので事前に準備ができるため安心です。

また、通算契約期間を3年まで、5年までと記載することができます。5年までならば、そこで契約が終わるため、次の仕事をどうするか予め考えておく準備ができます。

さらに、契約を更新する頻度、半年ごとに更新するのか、1年ごとに更新するのかも一緒に書いておくとより良いですね。

雇入れた当初は契約の更新上限が無い契約だったものの、その後、契約が変更されて、契約の更新上限を新たに設ける、または更新の上限を短縮する場合は、対象となる有期契約労働者にあらかじめ説明することが必要になります。この内容は、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準、いわゆる雇い止め告示の改正によるものです。

更新上限の短縮とは、例えば、更新回数の上限を10回から6回に短縮する、または、通算契約期間の上限を5年から3年に短縮することを意味します。

有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省)

雇い止め告示では、契約を更新するかどうかの有無を明示しなければならないと定められています。契約更新の有無については、既にモデル労働条件通知書の中に組み込まれています。

雇用契約の期間は長ければいいというものではなく、労働者の生活事情や働き方、職場の運営などによって判断するものです。

例えば、半年ごとに契約を更新している短時間労働者の場合。生活状況、学生だったら学校の行事や授業によって週の所定労働日数や所定労働時間が変わります。以前だったら週4日で働いていたけれども、週3日に変更したい。週20時間で働いていた人が週25時間に変更したいという状況も起こります。

働く日数や労働時間を変えるときは雇用契約を更新しなければいけませんから、むしろ半年ごとに契約を見直していく方が都合が良いこともあります。ですから契約期間が長い方が労働者にとって有利かどうかは状況によって変わります。

無期転換申込機会の明示(無期雇用に切り替える手続きを伝える)

5年を超えて契約を更新すると無期転換申込権が発生します。これは「無期転換ルール」と言われるものです。

無期転換ルールについて(厚生労働省)

パートタイムで働いている方を例にすると、契約する時に期間を半年間で設定して、その後、半年に到達する1ヶ月前ぐらいにまた半年間の契約をして、それを繰り返していく。つまり、期限のある契約を何度も更新していく働き方をしている方がいらっしゃいます。そういう方が通算して5年を超えて契約する段階になると、契約期間を設定しない無期雇用契約に切り替えることができます。

無期雇用に変わると、契約期間が終わるからこれで仕事は終わり、という形で雇用契約を終了させられることがなくなります。これが無期転換ルールです。働く方がより安心して仕事を続けられるのが良いところです。仕事に対する安心感は大事ですからね。さらに、離職者を減らす効果も期待できるでしょう。

無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨の明示が必要になります。有期労働契約では契約期間が定められていますが、労働者が無期転換を申し込むと、契約期間が無い契約に切り替わります。そのため更新されるかどうかについて気にする必要がなくなります。なお、無期転換の申し込みを使用者は断ることができません。

もちろん無期雇用契約であっても契約を終了して退職することは可能です。事業所ごとに異なりますが、退職する1ヶ月から2ヶ月ぐらい前に退職する意思を伝えて、仕事の引き継ぎを済ませた上で退職する。これは無期転換した契約であっても可能です。

5年を超えた段階で契約を更新する時に無期転換申込権について説明するのはもちろんのこと、その後の契約更新でも無期転換申込機会の明示が必要になります。

5年経過した時点で1回のみ無期転換申込権について伝えるだけではなく、5年経過した後は契約を更新するたびに無期転換について説明していく必要があります。つまり、6年目や7年目でも、契約を更新する手続きをする時は、毎回、無期転換申込権について説明する必要があります。

無期転換の申し込みをせずに有期労働契約を更新すると、もう無期転換できないわけではなく、新たな有期労働契約の初日から末日までの間、つまり更新した契約の間中はいつでも無期転換の申し込みをすることができます。

無期転換後の労働条件の明示(フルタイム勤務の人とのバランスを考えて決める)

無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。3つ目では無期転換申込機会の明示でしたが、4つ目では無期転換した後の条件の明示です。

労働条件は複数ありますが、特定の事項(下記の6点)については、書面の交付による明示が必要です。口頭で労働条件を説明するだけでは足りませんので、 書面の交付は自ずと必要になります。採用時も、履歴書を見て面接をするだけでなく、採用すると決めたら働く条件を書面で応募者に渡します。

  1. 労働契約の期間
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  3. 就業の場所及び従事すべき業務
  4. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等
  5. 賃金、昇給
  6. 退職

書面以外にもFAXや電子メール、PDFを送信する方法もあります。さらに、SNSのメッセージ機能で明示する選択肢もありますね。 

業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲などについて、他の通常の労働者(フルタイム労働者)とのバランスを考慮して雇用契約を無期転換する内容を決めます。どちらも同じ無期雇用契約ですから、仕事の内容や待遇で差が出ないように契約内容を考える必要があります。

労働契約法第3条第2項では、「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定められており、フルタイム労働者と無期雇用転換者との均衡を考慮して契約内容を決めます。

勤務時間限定正社員に近い、もしくは同等の契約になるのではないかと想定します。勤務時間限定正社員とは、所定労働時間がフルタイムではない、あるいは残業が免除されている正社員をいいます。所定労働日数や所定労働時間を変更せずに雇用契約の期間を無期雇用に変えたとすると、勤務時間限定正社員と同じようなポジションになるのではないかと。

フルタイムとパートタイムの選択しかない職場から、その両者の間に位置付けられるような働き方も作り出せます。

労働条件通知書のモデルも2024年4月以降に対応した新しいものに変更されています。

労働契約を締結もしくは更新するタイミングでの労働条件明示事項が追加されたのが今回の内容です。令和5年(2023年)3月に労働基準法施行規則等の改正が行われ、その改正内容が令和6年(2024年)4月から施行されます。 

パート・有期労働法の16条では、事業主は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に関し、その雇用する短時間・有期雇用労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないとされていますので、有期雇用から無期雇用に変わるとどういう違いが出てくるのかなど相談が想定されますので、事業主は相談体制を整備しておく必要があります。対応できる担当者を選んでおくといいでしょう。

就業規則を確認できる場所や方法を記入する欄もあり、例えば「タイムカード装置の側にファイルを設置」、「食堂に備え付けるファイル」、「イントラネット上に電子ファイルを置く」などのように記載して示すことができます。就業規則を必要なときに容易に確認できるならば他の方法も考えられます。印刷してファイルに綴じていつでも見れるようにしておくのが簡易で対応しやすいでしょう。

雇用契約書とは?必要性や記載内容、作成方法を解説
契約書で決めた通りの内容をお互いに履行する。これが商取引では当たり前ですけれども、会社内の雇用契約では、雇用契約の内容と就業実態がずれてしまうこともあり、往々にして雇用契約が軽く扱われがちです。

 

社会保険適用促進手当には社会保険料を抑える利点あり

社会保険適用促進手当の効果

社会保険料の負担を軽減する社会保険適用促進手当とは

年収の壁・支援強化パッケージでの特徴の1つが「社会保険適用促進手当」です。

いわゆる「106 万円の壁」の時限的な対応として、臨時かつ特例的に労働者の社会保険料の負担を軽減するために事業主が支給する手当です(政府が社会保険適用促進手当を支給するわけではないので注意)。社会保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、従業員の保険料負担を軽減するために事業主が支給する手当で、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないというものです。

手当を支給すると、その手当も社会保険料を計算するときに考慮されるため、本来は手当を新たに支給すると社会保険料は増えます。しかし、社会保険適用促進手当は社会保険料を計算するときの標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外されるため、社会保険適用促進手当が支給されても社会保険料が特例扱いで増えないようにすることができるのですね。

社会保険適用促進手当を支給する利点

1.年収の減少を回避できる

社会保険適用促進手当と社会保険料を相殺して被保険者の年収が減るのを回避できる。これが社会保険適用促進手当の利点です。被保険者本人が負担する社会保険料を実質的にゼロにするので被保険者には有利な手当です。

2.社会保険料を抑えることができる

さらに、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないため社会保険料を抑えることもできます。

パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者の方が新規で社会保険に入って被保険者になると社会保険料がかかります。その社会保険料を相殺するために社会保険適用促進手当を会社が手当として本人に支払うと、社会保険に入った人の年収が減らないという効果を発揮します。

先程も書きましたが、社会保険適用促進手当は、政府が支給するものではなく事業所ごとに個別に条件を付けて任意に支給する手当です。そのため必ずしも支給されるとは限りません。

例えば、月収88,000円で社会保険に入ると、健康保険と厚生年金を合わせた社会保険料は月額で26,400円。これを労使折半して本人が給与から支払う社会保険料が13,200円。ここで会社から社会保険適用促進手当を13,200円支給すると、社会保険料と社会保険適用促進手当、この両者が相殺されて本人の収入は減りませんよね。これが社会保険適用促進手当の効果です。

ただし、本人負担分の社会保険料が免除されるわけではない点に注意。社会保険料と社会保険適用促進手当を相殺しているところがポイントです。月額で26,400円だと年間で316,000円の社会保険料ですので、これは事業主が支払います。

3.就業調整する人を減らせるため人手不足対策になる

社会保険適用促進手当で社会保険料の負担部分を補助すると年収は減らないので、就業調整せずに出勤してもらえる人が増えます。

4.社会保険適用促進手当は標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外

他の効果としては、社会保険適用促進手当が標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外されるため、手当の分は将来の厚生年金の年金額に反映されません。標準報酬月額等に含まれないため、厚生年金保険の給付額の算出基礎にも含まれないというわけです。社会保険料が増えないのだから厚生年金も増えないと考えることもできますね。

年収106万円だと年間の社会保険料は316,800円、本人負担分の社会保険料がその半分で毎月13,200円。標準報酬月額・標準賞与額の算定から社会保険適用促進手当を除外した場合と除外しなかった場合を比較すると以下の通り。

算定から除外しなかった場合は、年間で163,200円の報酬月額が増えますから、年収106万円に16万円を加え122万円になり、社会保険料が増えます。社会保険適用促進手当が算定除外にならない場合は、88,000円に13,200円が加わりますから、報酬月額が101,200円になり、標準報酬月額等級は第6級の104,000円になります。 標準報酬月額104,000円ならば、社会保険料は月額31,200円です。

一方、除外した場合は年収106万円のままですので社会保険料は変わりません。社会保険適用促進手当が標準報酬月額の算定対象除外になる方が社会保険料は少なくなります。

社会保険適用促進手当で標準報酬月額・標準賞与額の算定除外になる対象者

社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外になるのは、標準報酬月額が104,000円以下の方が対象です。標準報酬月額等級では第6級以下に収まっている方です。

本人負担分の保険料相当額を上限として保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない措置の対象となるのは、令和5年(2023年)10月以降、新たに社会保険の適用となった労働者だけでなく、すでに社会保険に入っているパートタイマーやアルバイトの短時間労働者も対象です。

事業所内での労働者間の公平性を考慮し、事業主が同一事業所内で同じ条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、同様に、本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこと、とされています(社会保険適用促進手当に関するQ&A Q1-2)。

以前から年収106万円の基準で社会保険に入っていた方、 1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトで社会保険に入っていた方も算定除外の対象になる場合があります。

社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外になるのは、標準報酬月額が104,000円以下が対象ですので、標準報酬月額等級 第6級以下の方が社会保険適用促進手当を会社から支給されると、その手当の分だけ保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額から算定除外することができます。

標準報酬月額110,000円以上(第7級以上)の方は、年収が128万円以上となり、社会保険料の保険料負担を考慮してもなお、手取り収入が106万円を超えます。「年収の壁・支援強化パッケージ」では、壁を超える後押しを目的とする趣旨に反するため、社会保険適用促進手当の対象外になります。

月給88,000円にピッタリ合わせる必要はなく、報酬月額が107,000円未満だと標準報酬月額等級 第6級以下になりますから、算定除外の対象になります。月給10万円を少し超える程度までが対象だと考えておくといいでしょう。

なぜ標準報酬月額が104,000円以下を対象にしているのかというと、標準報酬月額等級 第7級の110,000円になると、年収が128万円を超えていて、第7級の社会保険料110,000円 × 30% = 月額33,000円、年額396,000円、年収128万円から本人負担分の社会保険料198,000円を除いても年収が106万円を超えています。そのため、標準報酬月額が104,000円以下までの被保険者を社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外の対象にしているのです。年収の壁を超えるための施策ですから、すでに年収の壁を超えている人は対象外になるのです。

算定除外にできる期間は最大2年間です。 労働者ごとに最初の対象月から最大2年間が期限です。例えば、令和5年(2023年)10月から社会保険適用促進手当を支給されたならば、そこから2年後が算定除外とされる期限となる見込みです。

標準報酬月額が110,000円以上になってしまうと、社会保険適用促進手当を支給しても算定除外にできなくなりますので注意が必要です。算定除外の特例を利用するには、第6級までの範囲で社会保険適用促進手当を支給する必要があります。

社会保険適用促進手当の支給条件は事業所ごとに決める

算定除外にできる上限額は本人負担分の社会保険料負担までですから、例えば、社会保険料が26,400円ならば13,200円まで、社会保険料が31,200円ならば15,600円まで算定除外にすることができます。上限額いっぱいに設定せず、10,000円にするとか、本人負担分の半分までというように、就業規則や賃金規定でもって条件を付けることも可能です。

給与と一緒に毎月支給することができますし、2ヶ月ごとにまとめて支給しても構いません。その場合も就業規則や賃金規定などで決めておく必要があります。割増賃金を考えて2ヶ月毎にまとめて支給する方法を選択する事業所もあるのでは。他には平均賃金の計算や年次有給休暇の賃金の計算も考慮して、どれぐらいの間隔で支給するか検討しましょう。

保険料の算定から除外できるのは最大で2年間です。2年が経過した後は、他の通常の手当と同様に標準報酬月額・標準賞与額の算定に含めて社会保険料が計算されます。

社会保険適用促進手当を支給するのは2年間だけにするのか、その後も別の手当に変えて支給を続けるのか。手当がなくなった後は基本となる賃金を引き上げていくのか。どういう扱いにするのかも就業規則や雇用契約でもって決めておきます。2年後に元に戻ってしまって年収が減るのでは効果が減衰しますから、元に戻らない賃金体系に変更しておくのが良いですね。

保険料の算定から除外されるのは健康保険と厚生年金保険で、所得税や住民税、労災保険や雇用保険などの労働保険は対象ではありません。

社会保険適用促進手当を支払うと、会社は1.5倍の社会保険料を払っていることになる?

ここで、社会保険適用促進手当を支給すると、会社は余分に社会保険料を払っていることになるんじゃないかと思えます。支払う社会保険料は変わりませんし、追加で社会保険適用促進手当が加わりますから、社会保険料は実質1.5倍になっていると思ってしまうところ。

どういうことかというと、会社負担分と本人負担分を合わせて社会保険料を1とすると、会社が0.5を負担して本人が残りの0.5を負担する。さらに会社は社会保険適用促進手当として 本人負担分の0.5相当を手当として支給する。そうすると合わせて1.5になり、社会保険料を1.5倍払ってることになるんじゃないかというわけです。

社会保険適用促進手当を支給したといっても、本人が負担する社会保険料が免除になるわけではありませんから、会社は従来通り社会保険料を会社負担分と本人負担分を合わせて支払います。そこに追加で社会保険適用促進手当を支払うとなると、社会保険料の負担が実質的に増えてるんじゃないかと感じてしまいますよね。

キャリアアップ助成金で社会保険適用促進手当が補助される

2023(令和5)年10月以降、新たに社会保険の被保険者の要件を満たして社会保険に入った従業員がいれば、キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースを受給して、社会保険適用促進手当として支払った分が助成金として補助されます。つまり、社会保険適用促進手当と助成金を相殺できますので、事業主が支払う社会保険料は会社負担分と本人負担分で従来どおりです。助成金を利用することを前提にすれば、社会保険料は1.5倍になりません。

繰り返しになりますが、本人負担分の社会保険料が免除されるわけではないという点は重要なところです。

月収88,000円の人の社会保険料は、社会保険料率を30%で計算すると、月額26,400円です。この金額は会社が社会保険料として支払います。社会保険適用促進手当(本人負担分を手当で支給するなら13,200円)を支払った分は、本人が支払う社会保険料と相殺しますので(キャリアアップ助成金で13,200円が補助される)、会社が支払う社会保険料は会社負担分と本人負担分を合わせたものという点は変わりません。

キャリアアップ助成金は労働者本人に支給されるものではなく、事業所に支給されます。

支給額は、3年間で労働者1人あたり最大で50万円です。

短時間労働者の区分 報酬月額の算定除外特例(最大2年間) キャリアアップ助成金 (社会保険適用時処遇改善コース)
新規で社会保険に加入
既存の被保険者

報酬月額の算定除外特例は、新たに社会保険に加入した短時間労働者の方だけでなく、すでに社会保険に加入している短時間労働者の方も対象になります。

一方、キャリアアップ助成金は、年収の壁・支援強化パッケージ政策が実施された後に新たに社会保険に加入して被保険者資格を取得した短時間労働者の方が対象になります。そのため、2023年9月以前に被保険者資格を取得して社会保険に入っている方に対して社会保険適用促進手当を支払ったとしても助成金の対象にはできないのが注意点です。

ということは、すでに社会保険に加入している短時間労働者の方に対して社会保険適用促進手当を支払うと、報酬月額の算定からは除外できるものの、キャリアアップ助成金の対象にならないため、支給した社会保険適用促進手当の分だけ会社側の負担は増えます。助成金が出れば、その助成金で社会保険適用促進手当を相殺できますが、それが支給されないとなると、手当の原資は会社から持ち出しになります。

とはいえ、すでに社会保険に入っている人たちにも何らかのフォローをしないとモチベーションが下がったり離職につながりますので、キャリアアップ助成金の対象にはならないものの社会保険適用促進手当を支給するのも1つの方法です。 

キャリアアップ助成金の対象になる労働者は、社会保険適用時の前日から起算して過去6か月以上の期間継続して雇用されている、支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者です。そのため、雇用契約を一旦解除し、再度締結して、助成金の対象にすることはできません。

新たに社会保険に加入した人だけ社会保険適用促進手当を支給するのも一つの方法ですが、すでに社会保険に入っている人たちからすると不公平感が残ります。ここをどのようにして解消していくのかを考えなければいけませんよね。

社会保険適用促進手当を支給してキャリアアップ助成金を受給する手順

社会保険適用促進手当を支給するか労働時間を増やす、もしくはその両方を組み合わせて賃金をアップさせ、社会保険に加入しても年収が減らないようにするのがキャリアアップ助成金の目的です。

では、どのようにして社会保険適用促進手当を支給し、助成金を申請していくか。もしくは労働時間を増やして助成金の申請をしていくか。実際に数字を当てはめて事例を検討してみましょう。

まず、社会保険適用促進手当を支給して助成金を申請する例を考えてみましょう。

社会保険適用促進手当を支給して賃金をアップさせてキャリアアップ助成金を申請するには、1年目に15%以上の社会保険促進手当を支給し、2年目も同様に15%以上の社会保険適用促進手当を支給します。

実際には、標準報酬月額を基準に15%以上を計算します。標準報酬月額とは、毎年7月に報酬月額の算定基礎届を出すことで決定されるものです。

標準報酬月額が88,000円ならば、その15%で13,200円。この金額を社会保険適用促進手当という名称で給与明細に記載し支給します。前提として、就業規則や賃金規定でもって社会保険適用促進手当を支給する根拠をあらかじめ定めておく必要があります。 

社会保険に加入して、そこから社会保険適用促進手当を支給し、6ヶ月を経過した時点で1回目の助成金の支給申請をします。助成金の支給申請は、6ヶ月時点、1年時点、1年6ヶ月時点、2年時点、2年6ヶ月時点、計5回に分けて手続きします。なお賃金増額の取り組みを前倒しして3回目で支給申請を終えることもできます。

2年までは保険適用促進手当を支給し、3年目に入った段階で賃金が18%以上増加するようにすると、5回目の支給申請まで手続きできます。

18%以上増加したかどうかを判断するときは、社会保険が適用された後の6ヶ月目時点と比較して3年目の賃金が18%以上増加しているかを確認します。

6ヶ月目の時点で基本給が時給1016円だとすると、賃金を18%以上増加するには、3年目の時点で時間給1,199円以上にする必要があります。 時間給1,199円だと、年収換算すると、週所定労働時間が20時間ならば、約125万円になります。月収は10.4万円で、標準報酬月額は10.4万円です。

1年目と2年目は15%相当を社会保険適用促進手当で支給し、3年目以降は基本給を18%以上増加させる。 この流れで賃金を増加させていくと、1人当たり最大の50万円の助成金が支給されます。

労働時間を増やすことなく社会保険適用促進手当を支給する、さらに、3年目以降は基本給である時間給を増やす方法で助成金を申請するならば上記の通りです。

労働時間を増やすのが難しい方には、社会保険適用促進手当を支給する、さらに基本給を増額することでキャリアアップ助成金を利用して社会保険に加入すると年収の減少を回避できます。

労働時間を延長して賃金をアップさせキャリアアップ助成金を申請する手順

労働時間を増加させると、それに比例して賃金も増額しますので、この方法で助成金を申請することもできます。

キャリアアップ助成金の労働時間延長メニューは、取り組み期間は6ヶ月で、助成金が30万円(大企業は22.5万円)支給されます。社会保険適用促進手当を支給して助成金を申請する方法だと、短くとも3回目までの支給申請が必要ですし、5回目まで支給申請していくと2年6ヶ月を少し過ぎるぐらいまで時間が必要です。

短期間で賃金増加と助成金手続きを済ませるならば、労働時間延長メニューが適しています。助成額は減りますが、時間を短縮できる利点があります。

週所定労働時間の延長の時間数によって対応が変わります。

1.労働時間を4時間以上延長して助成金を申請する

まず、週所定労働時間を4時間以上延長させた場合は、賃金の増額はなくても助成金を申請することができます。

例えば、週所定労働時間が20時間で、時間給が1,016円だと年収は106万円です。20時間×1,016円×52週で計算すると年収が出ます。

ここで週所定労働時間を4時間延長すると、24時間×1,016円×52週、年収は126万円になり、賃金は18%以上増加します。

ゆえに、週所定労働時間を4時間以上延長するならば、賃金を増額せずとも18%以上の賃金増加が可能です。

2.労働時間を3時間以上4時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を3時間以上4時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は5%以上必要です。 

一例として、週所定労働時間を3時間延長して、賃金を5%増額するとどうか。

計算すると、23時間×1,069円×52週、年収は127万円になります。この場合も賃金は18%以上増加していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

3.労働時間を2時間以上3時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を2時間以上3時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は10%以上必要です。 

週所定労働時間を2時間延長し、賃金を10%増額して計算すると、22時間×1,128円×52週、年収は129万円になります。この場合も賃金は18%以上増加していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

4.労働時間を1時間以上2時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を1時間以上2時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は15%以上必要です。 

週所定労働時間を1時間延長し、賃金を15%増額して計算すると、21時間×1,195円×52週、年収は130万円になります。年収106万円から賃金は22%増加(18%以上)していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

所定労働時間の延長と賃金の増額を組み合わせて、社会保険に加入しても年収が減らないようにしていく方法も可能なのですね。

取組期間が6ヶ月で済むのが労働時間延長メニューの良いところです。現状よりも週所定労働時間を延ばして働ける方がいる事業所ならば、キャリアアップ助成金 労働時間延長メニューを選択するのと良いでしょう。

社会保険適用促進手当を出して助成金を申請するか、労働時間を延長して助成金を申請するかは労働者ごとに分けることができます。労働時間を延長できる方は労働時間延長メニューで、労働時間を変えられないならば社会保険適用促進手当を支給する。このように対応を分けていくのも一案ですね。

社会保険に加入して年収が減らないようにできるならば、どちらの方法でも効果は同じですので。

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年収の壁とは何か

年収の壁とは、日本の税制度や社会保障制度において、特定の年収を超えると税負担や社会保険料の負担が増加することを意味する言葉です。これにより、働き方や収入に影響を与える可能性があるため問題となります。

年収の壁による影響を受けると、税金や社会保険料が変わって、給与の手取り(所得税や住民税、社会保険料などを除いた後の給与額)が減ってしまうので、働く時間を減らして、収入を意図的に制限するような働き方を選んでいる。そういう方がいらっしゃいます。

年収106万円と年収130万円が年金の壁について話すときに関係する数字です。

2023年10月20日から年収の壁・支援強化パッケージ政策が実施されています。パートタイマーつまりは短時間労働者の立場で社会保険に入り、社会保険料が発生すると収入が減ることがあります。その負担を軽減するための施策が年収の壁・支援強化パッケージです。

年収の壁・支援強化パッケージによって年収の壁に対してどのように対応するのか、この点についてやさしく解説します。

社会保険の年収の壁は106万円と130万円

社会保険の年収の壁について考えるとき、106万円の壁と130万円の壁、この2つの年収の壁が問題となります。他にも所得税や住民税に関連する年収の壁がありますが、今回は分かりやすくするため社会保険に関連する2つの年収の壁について説明します。

106万円の年収の壁とは

職場が特定適用事業所もしくは任意特定適用事業所(特定適用事業所や任意特定事業所については下記にて説明します)になっており、

  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること(臨時で発生する残業時間は含めず、労働条件通知書や雇用契約で決めた所定労働時間。契約では週20時間未満でも実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上になって、それが継続すると見込まれると社会保険に加入する条件を満たします)
  2. 賃金の月額が8.8万円以上であること(後述)
  3. 学生でないこと

この3つの条件を満たし、かつ、2ヶ月を超えて、つまり3ヶ月以上働き続ける方は社会保険に加入します。そのため、3つの条件を満たしても、2ヶ月以内だけ働く人は社会保険に入りません。例えば、8月の1ヶ月だけ集中して働く人や年末年始だけ働く人は対象外になるんですね。ちなみに、2ヶ月以内で仕事を終えるならば、労働条件通知書や雇用契約書で契約期間を明記して、終了後は契約を更新しないと書いておく必要があります。

106万円の内訳は、8.8万円 × 12ヶ月 = 105.6万円 になるので、端数を繰り上げて106万円。「各諸手当等を含めた所定内賃金の額が8.8万円以上」になるのが収入の条件です。

ただし、賞与や結婚手当など、臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金は8.8万円から除外されます。さらに、時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる割増賃金も8.8万円の算定から除外され、精皆勤手当、通勤手当、家族手当など最低賃金法で算入しないことを定める賃金も除外して8.8万円以上かどうかを判定します。

割増賃金と通勤手当が除外されているので、パートタイマーやアルバイトの方の収入で8.8円以上を判定する時は時間給で判断することが多いのでは。ちなみに、後述する社会保険適用促進手当は8.8万円に含めて算定します。社会保険適用促進手当を8.8万円に含めたとき、含めないときの比較も一緒に後述します。

特定適用事業所ならば年収106万円以上で社会保険に入る

年収106万円以上になれば、どこの会社でも社会保険に入れるわけではありません。条件を満たした会社で働いている方が対象です。

特定適用事業所とは、1年のうち6月間以上、適用事業所(社会保険が適用されている事業所のこと)の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない)の総数が101人以上(令和6年 2024年9月まで)となることが見込まれる企業等です。厚生年金に入っている人が101人以上ですから、それなりの規模の会社ですよね。

ちなみに、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大は、令和6年2024年の10月以降も実施されます。令和6年2024年の10月以降は、厚生年金の被保険者の総数が51人以上の事業所が特定適用事業所になります。

この101人以上の中には、フルタイムで働いて社会保険に入り、厚生年金保険の被保険者になっている人はもちろん含まれます。

さらに、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトだと、年収106万円に関わらず社会保険に加入し、厚生年金保険の被保険者になります。この両者の人数を合わせて101人以上だと特定適用事業所になります。

通常の労働者の方が1週間に所定労働時間として40時間で働いているならば、パートタイマーやアルバイトの方が週30日間以上の所定労働時間で働いていると、このパートタイマーやアルバイトの方も社会保険に加入します(3/4条件と表現されることもあります)。

社会保険に加入すると健康保険の被扶養者にはならず、自分自身で社会保険料を払って被保険者になります。年金も国民年金だけ入る第1号被保険者から国民年金と厚生年金にセットで入る第2号被保険者になります。

  国民年金 国民健康保険 協会健康保険
組合健保
厚生年金
特定適用事業所(任意特定適用事業所)に勤めていて年収106万円以上    
年収130万円以上(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円以上)    
1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上    
被扶養者、年収130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)   ◯ 被扶養者として加入  
上記以外の場合    


◯:加入するもの

特定適用事業所でなければ労使合意に基づいて任意で社会保険を適用できる

1年のうち6月間以上、適用事業所(社会保険が適用されている事業所のこと)の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない)の総数が100人以下の事業所は特定適用事業所にならないため、106万円の基準で社会保険に加入することはありません。

ちなみに、届け出て任意特定適用事業所として社会保険の適用事業所になることもできます。小規模な事業所で短時間労働者を社会保険に加入させたい時は、任意特定適用事業者になって、従業員の方を社会保険に入れることができるのですね。任意特定適用事業者になれば、厚生年金の被保険者の総数が100人以下の事業所であっても、短時間労働者は年収106万円以上で社会保険に加入できます。

任意特定適用事業所というのは、厚生年金保険の被保険者が101人以上いないけれども、会社のパートタイマーやアルバイトを社会保険に入れたいと考えている会社が任意で手続きをして特定適用事業者になると、この任意特定適用事業所になります。社員数が少ない会社で社会保険に入ることができる人を増やしたいときは、任意特定適用事業所になる手続きをします。社会保険に入れる職場で働きたい方もいますからね。

会社が特定適用事業所や任意特定適用事業所ではないならば、年収106万円の基準で社会保険には入りませんが、先程書いたように、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトだと、年収106万円に関わらず社会保険に加入し、厚生年金保険の被保険者になります。

パートタイマーやアルバイトが社会保険に入る条件は2つ

パートタイマーやアルバイトが社会保険に入る基準は2つあります。

1つ目は、【1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっている】という加入条件。

2つ目は、【職場が特定適用事業所となっていて、週の所定労働時間が20時間以上あること、賃金の月額が8.8万円以上であること、学生でないこと、これらの条件を満たした】という加入条件。

この2つの加入条件のどちらかを満たすと、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者も社会保険に入ります。

 

社会保険に入るメリットとは

社会保険に加入する利点は以下の通り。

1. 健康保険料の半額は会社負担

会社で社会保険に入ると、社会保険料の半分は会社負担で、残りの半分が本人負担になります。ただし、会社が負担している部分も人件費と扱われていますから、表面的には被保険者本人は半分だけ社会保険料を負担しているように見えますけれども、実質的に本人が社会保険料を全額負担していると考えておくのが実態に合っています。

社会保険料を織り込んで人件費の予算を決めていますから。給与明細で見えているのは社会保険料の半分ですけれども、会社が支払っているのは会社負担分と本人負担分を合わせた社会保険料です。会社負担分と本人負担分、この両方を合わせたものが人件費として認識されています。

2. 生活保障のための傷病手当金、出産手当金制度がある

病気や怪我をした時に収入を補填するために健康保険から傷病手当金が出ます。この傷病手当金は、被扶養者として健康保険に入っている人には無い給付です。また、国民健康保険に入っている人にも傷病手当金はありません。

これは会社で社会保険に入る利点ですね。傷病手当金の手続きをするときは、待機期間の3日間に年次有給休暇を利用し、4日目移行から傷病手当金を申請するのが良いでしょう。

出産前と出産後の産前産後期間に健康保険から支給される出産手当金。これも健康保険に被保険者として加入している人に支給されます。被扶養者として健康保険に入っている人には出産手当金はありません。

3. 扶養制度があるため、世帯における健康保険料を抑えることができる

会社で社会保険に入ると自分自身が被保険者になるので、家族を被扶養者にして健康保険に入るという選択肢があります。国民健康保険だと個々に保険料がかかりますけれども、健康保険の被扶養者になると毎月の保険料はかかりません。

4. 厚生年金加入により、将来もらえる年金額が増える

社会保険に入ると健康保険と厚生年金はセットで加入するようになっています。国民年金のみ加入している場合よりも、会社で社会保険に入って厚生年金と国民年金を同時に入っている状態にする方が将来の年金は増えます。給与明細には厚生年金保険料と表記されますので、厚生年金だけ入っていると思ってしまいますが、国民年金の保険料もそこに含まれています。

5.社会保険に入る方が社会保険料が減ることも

国民年金と国民健康保険に入っている場合よりも会社経由で社会保険に入る方が保険料が少なくなる場合があります。

仮に、国民年金保険料が毎月16,000円として、国民健康保険の保険料が毎月10,000円だとすると、社会保険料は毎月26,000円です。

一方で、標準報酬月額88,000円で会社で社会保険に入った場合は、毎月の保険料は26,400円で、その半分の13,200円が本人負担です。

国民年金と国民健康保険に入っている場合は毎月26,000円。会社で社会保険に入ると社会保険料が13,200円になりますから社会保険に入った方が社会保険料が減ります。

ただし、会社負担分の社会保険料も含めると話は変わるかもしれませんが。本人負担分だけで比較すると社会保険料が安くなるのは確かですが、会社負担分も本人が実質的に負担していると考えれば、上記の例だと400円だけですが社会保険料は高くなっています。

6.社会保険に加入できる職場に魅力を感じる

パートタイマーやアルバイトなど短時間労働者であっても社会保険に入れますとアピールして、人手不足への対策にできます。社会保険に入れる職場に魅力を感じる方もいらっしゃいますから、人手不足対策として社会保険の適用を伝えていくのも良いですね。

社会保険に入れる職場だと、ちゃんとした職場なんだなというイメージも持ってもらえる可能性があります。社会保険料はかかりますが、働く人への魅力を買っていると考えることもできますね。


年収の壁・支援強化パッケージ政策で実施された社会保険適用促進手当についてさらに理解できます。社会保険適用促進手当には社会保険料を抑える利点あり

 

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毎月の給与に社会保険料はかかりますけれども、年に数回支給される賞与に対しても社会保険料はかかります。ならば、その額がいくらになるのかを自動で正確に計算してくれると、給与計算が楽になりますよね。

交通費浮く!1日乗車券の方が切符やICカード乗車券より安い 通勤手当の不正受給になる?

切符やICカード乗車券よりも1日乗車券の方が安いならば交通費は浮く

通勤手当として支給される金額よりも1日乗車券の購入金額の方が安ければ、切符を購入したり、SuicaなどのIC乗車券で電車に乗るよりも1日乗車券を購入して通勤する方が安上がりになります。

ちなみに、通勤手当をどのように計算して、いくらの金額で支給するかは会社ごとに基準が決められています。

税金でも通勤手当に非課税限度額が設けられていますから、その非課税限度額の範囲内で交通費を全額支給する。このような通勤手当の支給条件にしている会社もありますよね。

No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当(国税庁)

通勤定期券を買ってもらう職場もあれば、出勤するごとに切符を買ってもらう(もう少数派ですかね)、ICカード乗車券を使ってもらうという職場もあります。

どこの鉄道会社や路線を利用するかにもよりますけれども「1日乗車券」というのが販売されていることもありますよね。

例えば、1日乗車券が800円で販売されているとして、この1日乗車券を買えば1日中乗り降り自由ですから、自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅まで電車に乗って行くことができます。帰りもこの1日乗車券を使って電車で帰ることができます。さらに途中下車してお店に立ち寄ることもできるので便利なものです。

自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅まで、仮に切符やICカード乗車券だと運賃が1000円かかるとしましょう。往路で500円、復路で500円、往復で合計1000円。

切符なりIC カード乗車券で電車に乗ると往復で1000円かかります。一方で、1日乗車券を使って往復すれば1日800円で足ります。

となると、切符なりIC カード乗車券で電車に乗るよりも1日乗車券を買って、それで電車に乗って行った方が安上がりですよね。

もし、この会社で就業規則や賃金規定、通勤手当規定などに基づいて通勤手当が実費支給で支払われるものだとして、切符やICカード乗車券で電車に乗った場合の金額で通勤手当を支給してるとすると、1回出勤するごとに1000円の通勤手当が支給されます。切符やICカード乗車券での運賃を基準に実費を算定しています。

通勤手当は1回出勤するごとに1000円ですから、ここであえて切符やIC カード乗車券を使わずに1日乗車券を買って通勤したら差額の200円が本人のものになります。

ここで問題になるのが浮いた200円です。

200円ぐらい、いいじゃないか。電車で実際に通勤しているんだし。と考えるのか。

いや、通勤手当は実費支給で支払われるものだから、金額を浮かせるようなことをしちゃいけない、と考えるのか。

判断が分かれて悩む所ですよね。

通勤手当の支給条件は会社ごとに決めるもの

この差額の200円が通勤手当の不正受給になるのかどうか。それとも誤差と考えて対応するのか。

通勤手当の計算根拠が自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅までの乗車券代で算定されているならば、会社は通勤手当を1000円支払う必要があります。支払う根拠がありますので。

一方で、労働者側は、受け取った通勤手当でもって通勤費用を賄いますけれども、電車に乗って通勤すればいいのであって、必ずしも切符やICカード乗車券を利用することを求められていないならば、1日乗車券を購入して通勤してもいいわけです。

おそらく会社としては客観的に調べられる方法、ネットで検索すればこの駅からこの駅までの運賃がいくらかかるかは調べることができますから、その金額でもって通勤手当の支払い根拠とします。

ですから会社としては、就業規則や賃金規定もしくは通勤手当規定といったものに基づいて通勤手当を支払えば、切符であろうがIC カード乗車券であろうが1日乗車券であろうが、電車に乗って通勤してくれればいいという解釈もあります。乗車する手段までは指定していないならば。ところで、青春18切符の残数で通勤するなんて人はいるのでしょうか。さすがにいませんかね。

差額の200円は発生しますけれども、この金額を不正受給と考えるか、他方でその程度の金額ならばあえて放置するのも判断としてはあります。非課税限度額の範囲内ならば、細かい金額を問い詰めなくても非課税にできますから、会社としても僅かな金額のために熱心に調査はしないでしょう。

1日乗車券を使うところまで想定して通勤手当に関する規定を作るなんてことはおそらくないでしょうね。

切符やICカード乗車券で通勤した場合の費用よりも1日乗車券の金額が安くなるという関係が成立しないとできない方法です。「切符やICカード乗車券の運賃額 > 1日乗車券の購入額」になっていれば1日乗車券で通勤するのが合理的です。

仮に、切符やICカード乗車券で通勤した場合、往復で500円、つまり片道で250円だったとすると、1日乗車券は800円ですから、この場合は1日乗車券を買わずに切符なりICカード乗車券で通勤します。わざわざ追加の料金を払って1日乗車券を買う人はいません。

小さな金額のために調査して本人を問い詰めて、不正受給として対応していく必要があるのかどうか。そこまで手間や時間をかけてまで対応していくようなことなのかどうか。

手間や費用を考えつつ、どこまで対応するのかは会社ごとによって違います。

切符や ICカード乗車券ではなく1日乗車券で通勤する方法もあるんだなと、その方法について会社が把握しておいて、あえて差額が発生しているという点については問い詰めないようにして様子を見ておくのも労務管理上の対応としてはあります。

電車で通勤すると申告しておきながら通勤手当を受け取り、実際は電車には乗らずに自転車で通勤しているのは不正受給として対応します。しかし、1日乗車券で通勤しているならば、電車に乗っていることは確かですし、交通費も支払っています。実際に電車代も支払っているわけですから、不正受給として対応するのかどうかは人によって判断が分かれます。

誤差と考えてあえて問題としないのか。
1日乗車券で通勤しているならば、その購入代金で通勤手当を支給するのか。

不正受給と判断した場合は金額が小さくても懲戒解雇、こういう対応をする会社もあります。 お金に関する不正に対して厳しく対応する会社だと、小さな金額であっても懲戒解雇として処分される可能性があります。

通勤手当を支給するかどうか、その支給条件をどうするかは会社ごとに決めることです。

1日乗車券を購入して通勤したことに対してどういう対応を取るかは会社で決めた規定類、就業規則や賃金規定、通勤手当規定といったものに基づいて判断することです。

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