差別情報を収集するために利用された職務上請求



住民票の写しや戸籍に関する証明書をもらうには、市町村の窓口なりコンビニなり、自動発行機なりを利用して本人が取りに行くのが普通です。

従来だと、平日に市役所などの窓口へ行き、申請書を書いて、数百円の手数料を支払うと、住民票の写しを受け取れました。しかし、今では、マイナンバーカードを使ってコンビニで公的な証明書を発行できる地域があります(まだ限定的ですが)し、市町村によっては自動発行機で証明書を取得できるところもあります。

自動発行機というのは、公的証明書の自動販売機のようなもので、市町村で発行したカード(4桁の暗証番号を設定しており、キャッシュカードに似ています)を発行機に挿入し、発行を希望する証明書を選択した後、料金を投入します。すると、10秒ほど待つと、住民票の写しや印鑑証明、戸籍に関する証明書が出てくるんです。

「コンビニで証明書を取得できれば、そういう発行機は要らないんじゃないの?」と思うでしょうが、コンビニ対応する前から設置されているものがあり、お金をかけて設置したため、今更撤去するには勿体無いという判断でまだ残っているんでしょうね。

住民票にせよ戸籍に関する書類にせよ、個人情報としてはセンシティブですから、取り扱いには気をつけるところなのですが、この書類が第三者に無断で取得される可能性があります。


士業の専門職には、戸籍謄本や住民票の写しを職務上請求できるようになっています。この職務上請求というのは、本来は本人が自ら取得するか、第三者が取得する場合は委任状が必要なところ、委任状なしで対象者の戸籍謄本や住民票の写しを取得できる仕組みです。

つまり、無断で本人の個人情報を取得できる余地があるというわけです。「え〜! そんな方法があるの?」と思う方もいらっしゃるでしょうが、あるんですね、こういう取得方法が。

この職務上請求ができるのは、特定事務受任者である8士業、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士、この8つだけで、社労士も含まれています。

なぜこのような取得方法があるのかというと、社労士の場合だと、年金の裁定請求、各種の公的給付を請求する場合に限って、本人の委任状なしに住民票の写しなどを取れるようになっているんですね。つまり、業務を遂行するに必要な範囲(この「範囲」というのも微妙な判断が必要ですけれども)でならばOKで、特定人物の個人情報を探るために使うのはNGなのです。

士業の人たちに対する信頼に基いて許されている方法なので、本来は本人が証明書を取りに行くか、他の人が行く場合は委任状が必要です。


従業員の本籍地を調査するとか、居場所を特定するために住民票の写しを本人に無断で取得すると、職務上請求を不正に使用しており、懲戒処分を受けます。

余談ですが、本籍地情報は未だに流通していますけれども、ホント無意味な情報です。例えば、東京で生まれて、東京で育っているのに、本籍地は福島県になっているとか。そういうケースは普通にあります。親の本籍地がそのまま子供の本籍地になってしまうので、根っからの東京人なのに本籍地は福島というヘンな感じになるわけです。

マイナンバーカードもできたことですし、もはや意味をなさなくなってきた情報は廃止していくのが望ましいですが、運転免許証には未だに本籍地情報が紐付けられていますからね。ICカードになって券面には表示されていませんけれども、暗証番号を入力すれば見れるようです。


この職務上請求、過去に法律事務所経由で濫用されたケースがあり、結婚相手の戸籍情報を収集するために利用されていたようです。弁護士ならば職務上請求が可能ですから、探偵事務所や興信所から依頼を受けて、戸籍情報を収集する仲介をしていたのでしょうね。

弁護士自らが動いたのか、名義貸しだったのかは定かではありませんが、何れにせよ懲戒処分の対象になる行為ですので、やってはいけません。


勝手に住民票の写しや戸籍書類を取られてしまうなら、「何か対策は無いの?」と思うところですが、一応あります。

「本人通知制度」という仕組みを利用すると、第三者が公的書類を取得すると、本人に通知が届きます。

大多数の市町村では実施されている制度ですが、一例として大阪市を挙げておきます。
住民票の写し等の交付に係る本人通知制度について(大阪市)

ただ、この通知制度は、取得された後に通知するものですから、第三者に公的証明書を取得されるのを防ぐ効果は限定的です。「本人に知られるから取らないでおこう」という抑止力を期待できますけれども、取るだけ取ってトンズラされたらどうしようもないです。

通知する仕組みそのものは良いとして、第三者によって公的証明書が一方的に取得されるのを許している仕組みを改める必要があります。

職務上請求を原則OKにするのではなく、初期設定で第三者は他人の証明書を取得できないようにしておくほうが良いのではないかと思います。初期設定で「取得拒否」にしておき、本人の手続きで「取得可能」に切り替えられるようにすれば、無断で取得されないでしょう。

この切り替えをマイナポータルでパパっと受け付けてくれれば、もっとマイナポータルも価値が上がるのですけれども、そういう気の利いたところが無いのが残念。

ICカードリーダーでマイナンバーカードを利用してみる。

マイナポータル経由で、第三者による公的証明書の取得を許可制にして、本人がマイナポータルで許可しないと交付されないようにする。他には、職務上請求に限定して拒否する(委任状を持っていった場合はOKに)設定があるといいかもしれませんね。

ただ、必要なときに設定を変えないといけないので、急いでいる時は少し不便になります。

若干の短所はあるものの、初期設定で「拒否」に設定しておく方が望ましいのでは?

不正な請求を防ぐには、原則は拒否、例外で許可が望ましい設定だろうと思います。



この本人通知制度は登録が必要で、登録申請は市町村の窓口まで行かないといけないのも不便なところです。マイナポータルならば、ICカードリーダーとマイナンバーカード、暗証番号で本人確認しますから、ここで受け付けてくれたほうが便利です。こういうところでマイナポータルやマイナンバーカードを積極的に使っていかないといけませんね。

さらに、第三者が自分の公的証明書を取得したとの通知を郵便で送ってくるところも、「う〜ん、、」と感じてしまうところ。これもマイナポータルで通知してくれればラクですし、マイナポータル経由でメールを送ってくれればさらに良いですね。わざわざ郵便を使うほどのことでもありません。この手の通知は早ければ早いほど良いですので、郵便よりもメールなどの電子的な連絡が望ましいでしょう。


自分の住民票や戸籍関連の書類を無断で取られるのが心配な方は、市町村の本人通知制度に登録してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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