book932(ブラック企業にならないためのチェックリスト。その2)

 

では、前回からのチェックリストの続きを書いていきましょう。

 


Check:従事する業務量が所定労働時間内では到底こなせないものであったり、能力に見合わない厳しすぎるノルマ・目標を設定したりしていない。


時間と仕事の内容がアンパランスかどうか。これが焦点ですが、これは第三者では判断しにくいところで、当事者である人たちが判断しなければいけないものです。

例えば、10の仕事があって、これを3時間でこなせるのかどうか。当事者、つまり社内にいる人たちからすれば、「これはさすがに無理だろう」と理解できたとしても、社外の第三者には、仕事の内容や、それを遂行して発生する負荷を判断できません。

このチェックポイントは、社内での自主チェックに委ねる他ないです。

 



Check:パート・アルバイトを含め全従業員に対し、年次有給休暇を法定どおり与えている。


とある会社で、「ウチはそういうのは無いんで」と言っている方も過去にいましたが、会社ごとに決められるものではなく、法律で決まっている休暇です。

有給休暇を与えるかどうかは会社の裁量で決められるものではなく義務です。

時折、お店や会社の入り口などに貼られている求人ポスターを見ると、「有給休暇制度有り」という類の文言がありますけれども、「有り」と書くということは「無し」もあるのかと思ってしまいますが、「無し」は無しです。有無は会社で決めるものではありません。

有給休暇を与えると、その次の段階として、取得手続きを分かりやすく決める必要があります。単に与えているだけであって、実際は休暇を利用できるフローが出来上がっていないとなると、実質的に年次有給休暇を与えていないと同じです。

簡易なものでも良いので、休暇の申請書を用意して、それに記入して申請するようにしましょう。

申請日、名前、休暇を取得する日、この3点があれば有給休暇の申請書としては必要最小限の情報は整っています。記入項目が少ないので、小さい紙で作れます。A4サイズの用紙だと、6分割ぐらいしたサイズでも足りるのではないかと思います。

有給休暇の取得理由については、理由を聞く必要はないのですけれども、スケジュール調整のためには理由次第で休暇の日程を変更してもらう場合もあります。会社側には時季変更権もありますし、休暇の取得を妨害しない限りで理由を聞くのはアリです。

追加で書くと、もし時季変更権でもって有給休暇の日程を変更する場合は、変更権を行使した時点で変更後の休暇日程を決める必要があります。時季変更権を行使して、休暇をいつ取れるか分からなくなったという状態にするのではなく、仮に6月11日に休暇を取得しようとしたが時季変更権でそれを変更する場合、具体的に6月16日とか6月22日というように変更後の休暇日程を決めます。

変更権であって、取消権ではありませんので、変更後の休暇日程を変更時点で決めるのです。

口頭だけ、つまり口で伝えるだけで休暇を取得するやり取りはしないほうが無難です。いつ申請したのか、どの日が休暇なのか、誰が申請したのか。こんなことを覚えていられないのですから、簡易なものであっても書面に申請内容を残してください。

 



Check:常時使用する従業員に対して、雇い入れ時と毎年 1 回定期的に健康診断を実施 している。


健康診断は正社員だけというものではなく、パートタイムで働く方も対象です。

http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/yokuaru_goshitsumon/roudouanzeneisei/q16.html
Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか? | 東京労働局

パートタイマーであって、週20時間以上で働いている人は定期検診の対象にします。この条件だと、学生以外の人はほぼ全て対象になるはずです。

健康診断といっても、簡易なものですので、自己負担で受診する人間ドックのようなものと比べると、診断項目はアッサリしています。

年齢によって違いはありますけれども、身長、体重、尿検査、視力検査、聴力チェック、問診、胸部レントゲン。検査項目が少ない若い人だとこれぐらいで定期健診は終わりです。

血液検査、胃部レントゲン(バリウムを飲む検査)などもありますけれども、全員が対象ではなく、条件に当てはまった人だけ。

ある程度の検査はできますけれども、人間ドックほど根掘り葉掘り検査するものでもありません。

とはいえ、健康については、気にしだすとキリがないものですから、「これでバッチリ」と言える健康診断があるのかと聞かれれば、答えに困ります。

健康診断や人間ドックにはピンからキリまであり、高いものだと20万円とか30万円もする人間ドックもありますので、そういうものを受ければ安心なのかというと、これまた難しいところ。

定期的に健康診断を受けつつ、何か気になる部分があれば、個別に病院でチェックしてもらう。これが妥当なところかと思います。

 

 


Check:月 100 時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積した労働者に対して、 本人の申出により、医師の面接指導を行っている。


時間外労働が一定以上に達すると、医師による面接指導が必要になります。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/08.pdf
長時間労働者への医師による面接指導制度について

面接指導の前に、時間外、休日労働の時間が長すぎるので、時間の使い方について調べる必要があります。

月に100時間の残業をしたと仮定すると、月21日出勤だとして、1日あたり5時間ほどの残業があるわけですから、平均で毎日13時間労働しているような状態です。

ここまで来ると、面接指導よりも前に、働き方なり仕事の内容を見直す方が先でしょう。

業種によっては、時期により繁忙期があり、臨時かつ一時的に月100時間を超える残業が発生する可能性はあります。第一次産業は季節に合わせて仕事をするものが多いですし、お盆や年末年始は忙しい商売もあるでしょう。

業種の性質のために繁忙期があるのは良いとして、毎月ずっと残業が100時間を超えているのは異常で、面接指導よりも先にやるべきことがあります。




 

 

Check:割増賃金の単価計算にあたり、労働基準法で認められている除外対象賃金以外の諸手当をすべて計算に入れている。


残業代(法定時間外労働に対する割増賃金)を計算するときは、労働の対価として支払ったものは全て含めて、それに割増率(25%以上)を掛けて算出します。


割増賃金の計算から除外できる賃金

1:家族手当
2:通勤手当
3:別居手当
4:子女教育手当
5:住宅手当
6:臨時に支払われた賃金
7:1 ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金


ただ、過去の給与計算で、例えば家族手当を含めて残業代を計算していたり、就業規則に家族手当も含めて残業代を計算するような計算式を書いていたりすると、含めないはずの手当が含まれてしまい、本来の残業代よりも金額が多くなります。

大雑把な例を示すと、1000円に25%分を加えると、1250円です。一方、何らかの手当が含まれて、1100円になっていると、そこに25%分を加えたら、1375円になります。 除外する手当を含めない場合と、それを含めてしまった場合の違いは、この例の通りです。



Check:定額残業代を支給する場合、採用時の段階でその仕組みについて応募者へ十分な説明をしている。


定額残業代を活用するポイントは、残業しないほうが得だと思わせるところにあります。「残業」を減らすためのものであって、「残業代」を減らすためのものではないので、ここはよく理解しておく必要があります。

例えば、毎月20時間分の残業代を支払っているとすると、ある月に4時間の残業で済ませれば、16時間分は残業なしでそのまま自分のものになります。また、残業を月12時間すると、8時間分が残業なしで自分のものになるわけです。

実際の残業と定額残業代の間でギャップを発生させる。これがコツです。


残業代を節約するために定額残業代制度を利用するわけではなく、残業そのものを減らすために使うものです。そのためにインセンティブを与えるのが定額残業代なのです。

従来は、残業が多い人ほど受取額が多くなりましたが、定額残業代ならば、残業が少な人ほど受取額が増える(残業なしで残業代を受け取る)のです。

定額残業代というと、すわ「残業代を未払いにしようとしているんじゃないか」、「無賃労働をさせる気じゃ、、」、「ヤダ、この会社、ブラック企業かも」なんて思ってしまうでしょうが、キチンと使えば働く人にも企業にもオイシイ仕組みです。

良い道具でも、使い方を間違えると、好ましくない効果を発揮するものですから、定額残業代という道具も使い方を知って使いましょう。

 

 

Check:定額残業代について、対象となる時間数・定額残業代の金額を賃金規程、労働条件通知書、給与明細書等で明示している。


定額残業代という名称で給与明細に書いていれば良いのですが、中には営業手当や歩合手当、その他のナントカ手当の中に残業代を入れ込んで、詳細が分からないように煙幕を張っている会社もあります。

もちろん、営業手当や歩合手当が定額残業代として位置付けられていることそのものは良いとしても、実態と名称に齟齬が生じるような形にしておくのはトラブルのもとです。

名は体を表すという言葉の通り、名称と中身は親和性のあるものに設定するのが自然な判断です。

定額残業代の中身ですが、基礎部分の賃金を含めた残業代なのか、それとも割増賃金の部分だけを表した残業代なのか。ここも問題となる部分です。

例えば、基礎部分の賃金が2,000円だとして、25%を載せると2,500円になります。この場合に、20時間分の定額残業代を設定するとして、その額をどうするか。割増賃金の部分だけを20時間分あつめて定額残業代とすれば、500円×20時間で、10,000円です。一方、基礎部分の賃金も含めるとなると、2,500円×20時間で、50,000円です。このどちらを定額残業代にするのか。この点も賃金規定や雇用契約書、就業規則、給与明細で示しておく必要があります。

要するに、分かりやすくしておくのがポイントです。ゴチャゴチャと複雑にしていると、残業代を不当に少なく計算しているんじゃないかと邪推してしまうので、明朗な内訳を示すのが大事です。

 

 

 

Check:定額残業分を上回る時間外労働が発生した場合、超過分の割増賃金を支払っている。


定額残業代を上回る残業が発生してしまうと、残業を減らす効果は期待できませんので、上回らないようにするのがポイントです。

例えば、毎月、平均で月に12時間の残業が発生している職場ならば、定額残業代を月20時間分に設定すれば、8時間分が余りますので、これが社員側にとって残業を減らすインセンティブになります。

しかし、定額残業代を月10時間に設定してしまうと、平均で月12時間の残業が発生している状況では、何の効果も期待できません。毎月、確実に10時間以上は残業になるならば、定額で10時間分の残業代を受け取っても嬉しくないですから、残業を減らす効果はありません。


今は月に12時間の残業が発生しているけれども、これを8時間、5時間と減らしていけば、定額残業代とのギャップが大きくなり、残業せずにより多くの残業代を受け取れますので、言うなれば「逆残業代」のような性質を持ちます。

残業を減らせば減らすだけ得をする。そう思わせるのが定額残業代の最大の利点で、この利点を発揮できるように勤務時間を調整していくのが腕の見せどころです。

「定額残業代で設定した時間数 > 実際の残業時間」この両者の差が大きいほど、働く側のインセンティブが多くなります。





山口正博 社会保険労務士事務所
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