読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

book905(違法な残業で書類送検されないための対処策)


http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html
長時間労働削減に向けた取組|厚生労働省


厚生労働省のウェブサイトでは、労働法関連に違反したケースを公表しています。書類送検されたケースをズラッと公表しており、企業名、所在地、どういう問題が起こったかが掲載されます。

http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-01.pdf
労働基準関係法令違反に係る公表事案

これは「ブラック企業リスト」という名称ではなく、労務管理に不備があって、送検された事例のリストです。このリストを見ていけば、「あぁ、この程度ならば、そこらへんの会社でも起こりうるな」という事例がほとんどです。

このリストに掲載された事例に当てはまるだけでブラック企業と言われてしまうと、全企業の半分以上はブラックになっちゃうんじゃないかと思えるほどです。そう思えるぐらいどこの企業でも起こりうる事例ばかりです。



ブラック企業だと野次るだけでは得るものがありませんので、せっかく事例が公表されているのですから、やっちゃダメなことは何なのかが具体的に分かれば、それに対する対処策も講じれます。

事例をザッと見ていくと、どういう部分で労務管理に不備が出るのか、傾向が分かります。

違反するケースとしては、まず安全と衛生に関する不備(1)。次に、残業関連、36協定の部分での不備(2)。あとは給与の未払いや遅延(3)。ザックリと分けて、この3つが主な違反ポイントです。

 



安全や衛生に関連する部分の違反が想像よりも多い。


労働法関連の違反というと、時間外労働、残業に関する案件が多そうなイメージですが、実際は安全衛生関連の案件の方が多いのですね。

過労死や残業代、長時間労働、36協定など、残業に関連する話は多いのですが、実務では安全衛生関連の不備の方が目立ちます。

安全ではない環境で仕事をさせると、労働安全衛生法、労働安全衛生規則に違反します。労働安全衛生法は全部で100条ほどの法律で、仕事をする際の安全と衛生に関するルールが書かれています。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47HO057.html
労働安全衛生法


さらに、労働安全衛生規則は、労働安全衛生法の内容を具体的に記載した法律で、全部で約650条ほどあります。労働安全衛生法が総論で、労働安全衛生規則が各論のような位置付けです。

労働安全衛生法は読んでいてもさほど面白いものではないのですが、労働安全衛生規則は内容が具体的で、「ほー、こういうルールもあるのか」と思いながら読める内容です。職場でのトイレの設置とか、照明の明るさとか、仕事場の温度や湿度とか、そういう細かな部分について書かれています。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47F04101000032.html
労働安全衛生規則



違反の具体例としては、

  • 安全具を付けさせないで作業させた。
  • 高所で作業するのに手すりを付けていない。
  • 免許や安全講習を受けずにフォークリフトを運転した。
  • 工作機の刃物が当たらないように防護装置(カバーなど)を設置していなかった。
  • 装置を動かしたまま清掃や調整をした。
  • 安全装置を起動させずに工作機械を動かした。
  • 工事現場での声出し確認をしていなかった。
  • 工事用具を本来の用途以外に使った。
  • 装置の点検作業を怠っていた。
  • 資格のない人にボイラーを取り扱わせていた。



例えば、ブルドーザーに乗ってコンビニにお弁当を買いに行ったりすると、これは労働安全衛生法に抵触します(工事用具を本来の用途以外に使った)。キャタキャタキャタと音を立ててコンビニの前にブルドーザーが来たら、みんなビックリするだろうねぇ、、。きっと写真を撮って、SNSにアップする人がいると思う。しかも、コンビニでお弁当を買って、またブルドーザーに乗って現場に帰っていくのだから、ちょっとした事件です。


私が高校生の頃、運送会社の構内でピッキング作業をしていたのですが、ものによっては高い場所にバレットに乗って品物が置かれているので、フォークリフトでパレットごと降ろさないと品物を取れないんですね。

その場合は、社員の人を呼んでフォークリフトを動かしてもらうのですけれども、高校生が勝手に自分でフォークリフトを動かして物を下ろすこともあって、ある時、とある高校生がフォークリフトを動かして、ワインを派手に落として割ってしまうこともありました。それ以降、リフトの操作はしてはいけないことになったんです。

資格もなく、安全講習も受けていない人がフォークリフトを動かすのも労働安全衛生法に違反します。



どの事例も、何気ない場面ばかりですが、こういう部分で不備が指摘されているんですね。

普通の人でも「そりゃあ、チャンとしていないとダメだろう」思う部分ばかりです。当たり前のことを当たり前にしているだけで防げるのですが、「これぐらいならば大丈夫だろう」と思うのか、安全対策が疎かになるようです。


例えば、仕事場に水が溢れている状態を放置するだけでも、労働安全衛生法に違反するのですから、安全への対策は色々な部分に及びます。オイルが溢れている状態を放置とか、床がヌメヌメしているのに対策を講じなかったとか、棚が外れかかっているのに修理しなかったとか。色々なケースを想定できます。

法律の条文を全部見るのは無理でしょうから、「こりゃあ何となく危ないな」と感じたら、安全策を講じる。普通の感覚で判断して、普通に対処する。これだけで防げるものがほとんどです。

 


残業時間には上限がある。


時間外労働や残業に関する違反は、36協定に関連するものがほぼ全てです。

  1. 36協定を締結していない。
  2. 協定を締結しているけれども、決めた上限時間を超えていた。

 

掲載された事例はこの2パターンのどちらかに当てはまります。



まずは、届出そのものをしていないケース。おそらく、手続きする必要があるのを知らずに、残業してしまい、労働基準法32条に違反してしまった、そういう企業なのでしょう。

第32条 
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

36協定を出していない場合は、仕事の時間は1日8時間、1週40時間まで。これ以上働くと32条違反になります。

36協定は必ず締結しなければいけないものではありませんので、36協定を出していないからといって、それが法律に違反するというものではありません。法定労働時間を超えない範囲(残業が発生しない)で働いているならば、36協定無しでも構わないのです。

しかし、協定を締結していないと、残業が一切できないので、「普段は残業はないけれども、一応、36協定は出しておく」というのが実務での対応法です。



残業は、本来は全て32条に違反しています。残業代を正しく支払っていても、36協定を締結していても、違法であるという点は変わりません。しかし、36協定を締結して、そこで決めた残業時間の上限を超えなければ、罰則は適用しないのです。つまり、法律に違反しているけれどもペナルティはないよ、というのが36協定の効果なのです。不思議な感覚ですが、そういうもの。



次に、36協定は締結しているけれども、そこで決めた上限時間を超えてしまったというケース。

36協定の内容を意識せずに残業させていたのか、協定を出しておけば、後はナンボでも残業していいと勘違いしていたのか、原因は色々と考えられます。

36協定を締結すれば、確かに残業できるようになりますが、無制限で残業していいというものではなく、協定で上限時間を決めます。

例えば、1日の延長時間は1時間まで。1ヶ月の延長時間は17時間まで。このような形で労使協定を締結した場合、この時間の範囲内で残業できるようになります。この内容で36協定を出している状況で、ある日に2時間残業したとか、ある月に21時間残業したとなると、これは労働基準法32条違反になるわけです。

ちなみに、32条に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられます。

公的にも残業の限度時間は決まっており、基準があります。例えば、1ヶ月だと45時間まで残業が可能です。

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-4.pdf
時間外労働の限度に関する基準

 

残業代(法定時間外労働に対する割増賃金)をキチンと払うだけではダメで、「割増賃金をチャンと払っているんだから残業してもいいじゃないか」と言っても、協定で決めた延長時間をオーバーしてはいけないのです。

会社側で人員管理をする人(上長や管理職の人)が、協定で決めた残業の上限時間を把握できておらず、過失で延長時間をオーバーするような場合もあるでしょう。

36協定の内容をキチンとチェックする人は多くないでしょうから、勤務時間を記録するなり管理する部分で、1日あたりの延長時間、1ヶ月あたりの延長時間を意識できるように表示しておくのもいいでしょう。タイムカードを打刻する場所に延長時間を書いた紙を貼っておくとか、勤務記録をチェックする台帳に延長時間を示しておくなど、残業の時間には上限があると分かるようにしておくと、協定の内容を知らずに残業時間が超過してしまうのを防げます。


知らずにではなく、36協定の延長時間の限度を知っていて、意図的にオーバーしていたとなると、これはもう言語道断なので、言うことは無いです。

残業代をキチンと払うだけではダメで、残業できる時間数には上限がありますから、この点を忘れないようにしておくべきです。

 



定額残業代を間違って利用するとこうなる。


定額部分を超える割増賃金を追加で支払っていなかった会社も事例の中に入っています。

残業代を定額で支払うことは構わないのですが、実際に支払うべき割増賃金が定額部分を超えたら、不足分を追加で支払わないといけません。例えば、定額残業代が月15,000円だとして、実際に残業が発生した結果、必要な残業代が19,400円だったとすると、不足している4,400円を追加で支払うわけです。

残業しなくても残業代が貰えるのが定額残業代のオイシイところで、これが残業を減らす効果を期待できる部分です。もし、1ヶ月の残業がゼロだったならば、月15,000円の定額残業代はそのまま受け取れます。ならば、残業せずに残業代を全部貰っちゃおうと考えるのがマトモな人ですので、残業が減っていくわけです。

ただ、定額残業代を使うのが下手くそな企業だと、「せっかく残業代を払っているんだから、残業させないと損だ」と考え、強引にでも残業させちゃう。このように定額残業代を利用してしまうと、何の意味もありません。


残業しないほうが得だと思わせるのがコツです。人間は自分にとって得になることだと真剣になるものですからね。

 

 


事例がわかると、対策法も分かる。

事例を公表してもらえると、何が問題になり、どうやって対処するか、考えることができます。

公表された企業はイメージが低下するけれども、他の企業には参考になるので有り難いもの。

「こういうのはダメなんですよ」とアナウンスする効果を期待できるので、事例を見た側では「あぁ、こういう部分に気をつければいいんだな」と防止策を講じることができます。

送検された事例は今後も公表されていくようですので、労務管理を学ぶ材料には事欠かないでしょう。

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com

© 社会保険労務士 山口正博事務所