book888(掛け持ちで2つ以上の仕事をするときの注意点)

 

 

http://toyokeizai.net/articles/-/164423
副業で思わぬ損を強いられた人から学ぶ教訓(東洋経済オンライン)


複数の会社で働く場合の保険関連の手続きは、時折問題になります。

上記の例では、2つの会社で、それぞれ週20時間(1日4時間)で働く人を想定しています。

パートタイマーが社会保険に加入する基準が緩和され、週20時間勤務でも社会保険に加入できるようになったのですが、東洋経済オンラインに掲載された内容では、スーパーで週20時間。ファストフード店で週20時間。合計、週40時間で働くパートタイマーが思わぬ損を強いられたとのこと。

社会保険に加入するには、勤務時間以外にも収入の条件がありますが、今回は話を簡単にするために、週20時間以上で勤務すれば条件を満たすと考えて話をすすめます。



スーパー:週20時間。
ファストフード店:週20時間。
合計、週40時間勤務。

これが今回の前提条件です。

この場合、どちらの会社でも社会保険に加入する条件を満たすので、両方の会社で社会保険に加入するのかと思えますが、加入するのはいずれか1つの会社経由のみです。

事例では、ファストフード店の方で社会保険に加入し(スーパーの方では加入せず)、色々と損をしたと話が展開されます。


話は少し逸れますが、東洋経済オンラインで掲載されている内容は、本当にあった話なのかどうか疑問を感じています。

首都圏に住む40代の女性が事例として挙げられているのですが、週20時間づつ別会社で働いているのも話がキレイすぎる感じがしますし、あえて社会保険に加入してしまうような勤務時間数で働いているのも不自然。

本来ならば、社会保険に加入しないためにダブルワークするものですから、週20時間ではなく、週16時間とか週19時間など、20時間未満で勤務時間を分散させると思うのですが、キレイに20時間と20時間になっています。

もちろん、架空の人物による架空の話であっても、中身が意味あるものならばそれでいいのですけれども。

 

話を戻すと、2つの会社で働いていて、どちらの会社でも社会保険に加入する条件を満たしている場合は、どちらか片方の会社経由で社会保険に加入します。今回はファストフード店側から社会保険に加入したようです。

加入する点についてはこれでいいとして、社会保険料の計算について疑問点が残ります。

スーパーでの収入とファストフード店での収入が合算され、その合算された収入を基準に社会保険料が決まる。この点については、健康保険法44条3項で書かれています。


健康保険法44条3項(以下44条3項)

 同時に2以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合においては、各事業所について、第41条第1項、第42条第1項、第43条第1項若しくは前条第1項又は第1項の規定によって算定した額の合算額をその者の報酬月額とする。


つまり、2つの会社で同時に働いている場合は、それぞれでの収入を合算して、その合算された収入を基準に社会保険料を決めますよ、という意味です。例えば、スーパーでの収入が92,000円で、ファストフード店での収入が90,000円だった場合、この人の収入は182,000円だと扱い、この金額を基準に社会保険料を決めるわけです。

ここまで読むと、何も変な点はなさそうに感じるかもしれませんが、社会保険に加入したのはファストフード店側であって、スーパーの方では加入していません。にも関わらず、収入を判定する場合には、両方の収入を合算しているんです。

つまり、加入しているのは1社分なのに、保険料を計算する場合には2社分という不思議な形になっているのです。


仮に合算しない場合、社会保険料が合計で30,000円だとして、これを会社と本人で負担します。本人が15,000円で、会社が15,000円です。

一方、合算する場合。収入が単純に2倍になると仮定すると、社会保険料は60,000円。これを会社と本人で分けて負担するわけですが、本人が30,000円を負担するのはいいとして、会社は30,000円を負担するのかということ。

ファストフード店の方では週20時間勤務なのに、社会保険料は30,000円(会社負担分)になるわけです。この場合、ファストフード店は30,000円の全てを負担するのか。それとも、スーパー側と按分して、その半分の15,000円だけを負担するのか。


週20時間勤務だと、本来は15,000円が会社負担なのですが、収入が合算された後の社会保険料となると、倍の30,000円が会社負担になります。この会社負担分をどうするのか。ここが疑問として残ります。

ファストフード店では週20時間勤務なのに、社会保険料は週40時間の収入を基準にすることになってしまい、この歪な状態をどう解消するのか。

社会保険に加入しているのはファストフード店経由なので、本来ならばファストフード店での収入だけを基準にして社会保険料を計算するのが自然です。しかし、44条3項では他社での収入も合算するように要求しているんですね。


この44条3項に関する点については、


http://www.growthwk.com/entry/2017/03/18/155000
book884(パートタイムでダブルワークしているときの社会保険はどうなる?)

でも書いていますので、こちらも一緒にどうぞ。

 

2つの会社で、同時に社会保険に加入できる条件を満たすような働き方をする人が珍しく、実務では今までこういうケースに遭遇したことがありません。

ダブルワークする人は、どの会社でも社会保険に加入しないように勤務時間と収入を調整する傾向があります。例えば、パートタイムで働き、年金では第3号被保険者になっており、健康保険では被扶養者である場合、自分自身で社会保険に加入すると社会保険での扱いが変わってしまいます。

そのため、働く場合は、週17時間とか週19時間に勤務時間を抑え、毎月の収入も88,000円を超えないように事前に調整するのです。

もし、社会保険に加入していいならば、あえてダブルワークする必要は無いはずです。1つの会社で週30時間や週34時間など、フルタイムに近い働き方をすればいい。

ゆえに、勤務時間を分散させ、社会保険に加入しないためにダブルワークをするのであって、社会保険に加入する条件を満たしてしまう働き方をするのはレアケースです。

 

あと、週20時間で社会保険に加入するという点はやや非現実的なところがあります。というのは、スーパーやファストフード店で、社会保険に加入しそうになると、おそらく「勤務時間数を少し減らしてください」と要求されるのではないでしょうか。

加入しないような時間数、例えば週15時間とか週18時間に時間数を減らして、社会保険への加入を回避する。もしくは、逆に勤務時間数を増やして、「社会保険に加入するならば、週30時間とか週34時間で働いてください」と要求される。

雇用契約次第で勤務時間数を調整できますから、会社の対応次第で社会保険に加入するかどうかも調整できます。

私が思うに、週20時間というギリギリラインでの加入はさせないんじゃないでしょうか。上記のように、勤務時間数を減らすか、もしくは、もっと増やす。このどちらかの対応を迫るのが実際のところではないかと思います。

業種がスーパーやファストフード店ならばなおさらです。会社も社会保険料の半分を負担しますし、金額もそれなりになる。ちなみに、雇用保険料は安い(約1%)ため抵抗してきませんが、社会保険料(健康保険と厚生年金で約30%)は抵抗してくるでしょう。

加入条件ギリギリで社会保険に入れるかどうか。ここも論点になります。

 


健康保険の負担が上限2万円という部分についてですが、これはおそらく健康保険組合と協会けんぽの違いだろうと思います。スーパーの方には健康保険組合があり、ファストフード店は組合ではなく協会けんぽに入っているはずです。

最初にサッと読んだ時は、高額療養費制度のことかと思いましたが、高額療養費制度の上限は2万円ではありませんから、おそらく違うのでしょう。

どうも健康保険組合独自の給付で、組合員になっていると、自己負担の上限が2万円になって、それを超える部分は健保組合が給付する。一方、協会けんぽだとそういう制度はなく、あるとすれば高額療養費制度ですが、自己負担の上限は2万円ではありません。

協会けんぽと違い、組合健保に加入していると、保養所、人間ドック、インフルエンザ予防接種、脳ドッグなどを受ける場合に各種の優遇があります。例えば、年1回は無料でインフルエンザ予防接種を受けられるとか、自己負担15,000円で人間ドック(補助がなければ10万円ほどの費用になる)を受けられる会社もあります。なお、健康保険組合の給付内容は組合ごとに違いますのでどこも一緒(協会けんぽは全国一律の給付内容)というわけではありません。

 

あとは、残業代に関する部分ですが、複数の会社間で勤務時間を合算しません。

例えば、スーパーで1日5時間。ファストフード店で1日5時間。合計すると1日10時間の勤務ですが、残業代(法定時間外労働に対する割増賃金)はありません。働いている本人を基準にすると、1日8時間を超えているものの、その超えた2時間分の残業代を払う会社がどちらになるのかを特定できません。

後から勤務した会社が支払うなどと言う人もいるかもしれませんが、仮に先にスーパーで5時間勤務し、その後にファストフード店で5時間勤務した場合、ファストフード店側が2時間分の残業代を払うのかというと、それは不合理です。

5時間勤務なのに2時間分の割増賃金を支払うように要求されても困りますよね。「ウチの店での勤務時間が8時間を超えていないのだから、割増賃金はないだろう」と考えれば、それが正解です。

社会保険の場合は、健康保険法44条3項に基いて、日本年金機構で報酬月額を合算して、社会保険料を2社分請求する(本当にできるのか疑問)のでしょうが、残業代ではそういうことはできません。

 



さらに、休日の取り扱いについても書いておきましょう。


スーパーでの勤務シフト
月:4時間勤務
火:4時間勤務
水:休日
木:4時間勤務
金:休日
土:4時間勤務
日:4時間勤務


ファストフード店での勤務シフト
月:4時間勤務
火:休日
水:4時間勤務
木:4時間勤務
金:4時間勤務
土:休日
日:4時間勤務


働いている本人を基準にすると、休日がズレているため、1週間に休日(仕事が全く無い日)は1日もありませんが、会社別だと週2日の休みがあります。この場合も、残業代と同様に、法令違反はありません。


本来ならば、会社ごとの事情は個別に判断するものです。残業代でも休日でも、会社ごとに区切って処理をしているのですから、社会保険料を計算する場合も、加入した会社の収入だけを基準にすべきなのですが、44条3項はそうなっていないのですね。

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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