読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

book834(退職金を見えるようにするのが確定拠出年金)

f:id:ma95:20160723172735j:plain


会社に勤めていて、今、退職金を受け取るとしたら、その金額はいくらになるか。

この質問にすぐに答えられる人は何人いるだろうか。



見えない、分からない、支給されるかどうかその時になるまで分からない。このようにブラックボックスになっているのが退職金。

会社によっては、退職金規定を作成し、支給条件や支給額をキチンと把握できるようにしているところもあるが、規模が小さい会社だと退職金規定は無く、そもそも退職金そのものが支給されるのかどうかすら怪しい状況だ。

退職する段階にならないと支給するかどうか、受け取れるかどうかが分からないとなると、雇入れ段階で説明する退職金に関する内容も曖昧なものになりがちだし、在職中に退職金について調べるにしても退職金規定がなければどうしようもない。

今すぐに退職するわけでもないのに、会社の人に退職金について聞いてもハッキリとは答えてくれないだろうし、社内に退職金について詳しく知っている人すらいないなどという状況すらも考えられる。



さらに、勤続年数に連動して退職金の金額が決まる場合、早期に退職した場合、退職金の額は想像しているよりも少なくなりがち。勤続年数が長くなるに従って支給額が増えるようになっていて、長期にわたって勤続するほど有利になるように制度が設計されている。そのため、早期離職を防ぐための人質として退職金が使われる傾向がある。

 

退職一時金を採用している企業は中小企業の53.4%。さらに、退職給付そのものが無いところは28%になる。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/189-46.pdf
確定拠出年金法等の一部を改正する法律案

f:id:ma95:20160723173135p:plain



退職一時金の全てが信頼性の低いものだとは思わないが、退職金規定を伴わずに支払われる場合は一時金タイプなので、退職金無しを含めると、中小企業の8割で退職金に対し不安定な部分があるのではないかと思えてしまう。



退職金を用意する方法として確定拠出年金が登場して、もう10年以上は経っている。退職一時金以外にも、中小企業退職金共済、確定給付企業年金などもあるが、自分の退職金を守る手段として確定拠出年金は有力だ。

適格退職年金制度が終了し、他の制度に集約されていったが、確定拠出年金よりも確定給付企業年金が増えたのが気掛かりだ。

企業の台所事情に影響を受ける確定給付企業年金は縮小していき、最終的には中小企業退職金共済と確定拠出年金に集約されていくだろうと私は予想している。

確定拠出年金の良いところは、会社の事情に影響を受けにくく、自分の退職金がどうなっているかを常に把握できるところ。透明性が高いと表現してもいいだろう。

もし会社が倒産したり、精算しても、確定拠出年金のアカウントに入っている自分の資産は守られるし、自己破産しても守られる。

退職金規定が作られておらず、仕事を辞める時に退職金が支給されるのか、金額はいくらなのか、その時にならないと分からない。確定拠出年金ならばそういう状況にはならない。



本書で推奨しているのは、確定拠出年金では手数料が低い金融商品を選ぶこと。「利は元にあり」という言葉の通り、それを地で行く感じ。

具体的には、確定拠出年金で外国株式インデックスファンドを買い、NISA口座でTOPIX連動型のETFを買う。この本で最も重要なポイントは何かと聞かれれば、ココだ。

重要というよりも、これが答えと言うべきか。「確定拠出年金で外国株式インデックスファンドを買い、NISA口座でTOPIX連動型のETFを買う」これで運用スタンスは決まるのだから、あとは事務作業だ。


 

会計には退職給付債務という概念があり、会計上は退職金を債務として認識しているが、実際にその債務に対応した資金を常備しているわけではない。仮に退職給付債務として10億円を認識していたとしても、すぐに一括で10億円を支出するものではなく、せいぜい年間で3,000万円程度だとすると、手元に必要な資金は3,000万円で足りる。

10億円も退職給付債務を計上する会社だと、仮に今すぐ10億円必要だと言われても、すぐに資金調達できるだろうから、大丈夫といえば大丈夫なのだが、経営状況が好ましくない状況に陥れば、退職金の減額、場合によっては不支給すらある。この点は会社が退職金の責任を負う退職一時金、確定給付企業年金に共通する。

そのそも退職金規定がない会社だと、退職給付債務として金額を認識することもできないので、債務認識すらしていない。

経営者の気分とかその時の経営状況で支払うかどうか、金額をどうするか決めている。箱を開けたら、カラッポだった。このような笑えない状況もあり得る。



確定拠出年金の法改正も成立し、簡易型DC制度を使えるようになれば、中小企業で確定拠出年金の導入がしやすくなる。

これは重要な制度変更で、ブラックボックス化しがちな中小企業の退職金を確定拠出年金を変えられるならば、これは大歓迎。どんぶり勘定の退職金をヤメさせるには良い制度だ。



他にも、掛金の拠出単位が年単位に変わるのも良いところ。今までは、毎月一定の掛金を拠出する方式で、仮に月5万円の掛金枠があるとして、今月に4万円を拠出し、来月に余った1万円の枠と当月枠の5万円を合わせて6万円を拠出することはできなかった。拠出しなかった枠は毎月、失効するというわけだ。

しかし、法改正によって、これからは、ボーナス時にドバっと拠出するという方法も取れるようになる。毎月一定の掛金に設定してもいいし、ボーナスを全額確定拠出年金に入れてしまうことも可能になるので、これは実に賢明な方法だ。

毎月の給与は今まで通りにして、ボーナスだけ確定拠出年金に拠出するのもいい。ボーナスは無駄遣いしがちなので、確定拠出年金の口座に入れてしまえば、手出しできなくなるので浪費を防げる。



確定拠出年金の拠出枠は月間ではなく年間で融通できるようになるので、格安SIMのように翌月までしか枠を繰り越せないというものではなく、1年の期間内で拠出枠を使えばいい。

 

厚生年金には在職老齢年金制度というものがあって、厚生年金(老齢厚生年金)を受け取りながら働いて収入を得ると、年金額と収入額に応じて、年金の給付額が減らされる。しかし、確定拠出年金には、在職老齢年金制度のような収入に応じた調整がないので、働きながら確定拠出年金の給付を受けても減ったりはしない。

 

確定拠出年金には投資教育が必要になるが、モチャモチャとセミナー形式で話を聞くよりも、この本を読む方が早い。金融に関する専門知識を前提とせずに読めるように工夫されていて、退職金や企業年金にあまり興味を持っていない人でも読み進められる。


もう一度書くが、「確定拠出年金で外国株式インデックスファンドを買い、NISA口座でTOPIX連動型のETFを買う」この本(確定拠出年金の教科書)のエッセンスを1つだけ取り出せと言われれば、私はこの1点だと言い切れる。答えをズバリと書いているのが明快で良い。

 

 

確定拠出年金の教科書

 

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com

© 社会保険労務士 山口正博事務所