退職金が人質になるなら、退職金制度は無いほうがいい。

 

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退職金というと、働いている人には有り難い制度のように思える。退職時にまとまったお金が入ってくるのだから、気分の良いものですらある。

しかし、退職金があるために、賃金が後払いされ、今現在の可処分所得が減ってしまうという短所もある。退職金は賃金が後払いされたものという説が主流で、判例でもこの判断で退職金を扱っています。

どれだけ働けば、どれだけの退職金が支給されるか。どういう条件を満たせば退職金が支給されるか。この点をハッキリと知っている人は多くないはず。

退職金制度における最大の問題点は、制度の中身がブラックボックス化するところにある。

支給条件、金額の計算方法、この2点が曖昧で、どの時点で、どれぐらいの退職金が支給されるのかを知りにくい。ところによっては、会社側の裁量で条件や金額が決まってしまうこともあるでしょう。

「退職金規定を見れば分かるんじゃないの?」と思うかもしれないが、どこの会社でも退職金規定があるわけではないのが悩ましいところ。退職金を支給するためには、必ずしも退職金規定は必要ないのです。規定ではなく慣習に基づいて支給するところもあります。



賃金の後払いという性質も不思議なものです。本来支払うべき賃金を後払いするのは、「全額払いの原則(労働基準法24条。以下、24条)」に反するはずですが、退職金を利用して後払いするのはOKになっています。

例えば、「今月支払う給与のうち5万円を来月に支払うから、今月は5万円少ないけど我慢してくれ」というのは全額払いの原則に反する。しかし、今月の5万円を退職時の退職金に回しても、24条には違反しない。

労働基準法24条を基準にすれば、賃金を後払いするのはダメなはずなのだが、それが社会的に許容されているのか、慣習として昔から続いてきたからなのか、退職時にまとめて支払うのは許されている。



また、賃金を後払いする性質を利用して、退職金をいわゆる「人質」として使うこともできる。

定年までお勤めすれば、満額の退職金を支払うが、途中で退職すると、ちょっとしか退職金を受け取れない。勤続年数が経過するにつれて、退職金の支給額は逓増するように設計されていることが多く、入社から数年で離職すると、雀の涙ほどの退職金しか受け取れないようになっている。

さらに、退職所得には退職所得控除を適用できるので、税金でも有利に扱われる。

No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|所得税|国税庁




そのため、「途中で退職するのは損だ。だからなるべく長く勤めよう」と働く人に思わせて、長期間、人材を自社内で企業がロックインしてしまう。

退職金を人質として使い、人材を囲い込み、退職所得を税制で政府が優遇する。企業と政府が連携して、労働者を束縛しているわけです。

労働市場の流動性を失わせる原因の1つが退職金であることは間違いない。



人質としての性質を弱めるには、前払い退職金、確定拠出年金、中退共、小規模企業共済、特退共など、企業と退職金の間の関連性を弱めるような仕組みを利用するといいでしょう。

例えば、確定拠出年金は本人が管理する退職金で、自己責任の退職金などと言われるが、自分で責任を負う代わりに、自分で退職金をコントロールできるようになるのが良いところ。支給条件も金額もハッキリしているので、「貰えるんだか、貰えないんだか、良くわからない」ような退職金よりは気持ちが楽になります。

自分のお金を他者に丸投げしていいことはないのだから、自分でコントロールできるところに退職金を置いておく方がいい。

退職金が無いからといって、必ずしも福利厚生に乏しいと考えることはなく、自分で管理できる余地があるのだと思えば悪いものではないでしょう。

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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