終業後に休憩を取っている?
所定の労働時間を超えて働くと、その時間は残業となりますよね。割増賃金(いわゆる残業代)が付くのは法定労働時間を超えた場合ですが、今回は、所定労働時間を超えた場合も「残業」と表現しましょう。
会社によっては、残業に入る前に休憩時間を設けるところがあります。
例えば、9:00 から 18:00までが所定労働時間。途中に1時間の昼休み(12時から1時間)が入ったとしましょう。
さらに、18時から30分の休憩があり、その後に残業が1時間あるとします。
9:00 - 18:00:ベースとなる所定労働時間。
18:00 - 18:30:残業前の休憩時間。
18:30 - 19:30:残業の時間。
ここで問題になる点が2つ。
1.残業前の休憩時間を調整して残業をコントロールする点。
2.労働基準法34条との整合が取れているのかどうかという点。
終業時点は、全ての業務が終わった時点
もし、残業前の休憩が無ければ、スケジュールが30分前倒しされますから、早く仕事を終えられます。
ただ、休憩なしで残業をするとなると、ちょっとシンドイ。そこで、休憩でワンクッションおいてから、残業を開始するという流れにしているとも考えられますね。
残業前に休憩を入れると、不利益変更だとか、残業時間を減らしている(残業代を未払いにしている)との指摘もありますが、休憩が減らされるのは不利益でしょうが、増えるのですから、これを不利益とは言えません。また、残業時間を減らすという点については、休憩時間は勤務時間には計上されませんから、残業の時間を減らす効果はありません。
先程の例でも、
18:00 - 18:30:残業前の休憩時間
18:30 - 19:30:残業の時間
となっていますから、休憩は30分で、法定時間外労働は60分です(90分ではない)。
残業するなら、休憩を入れずに早く終わらせて帰りたいという気持ちもありますから、18時から19時まで残業として、仕事を終えてしまう方がいいだろうという判断もアリです(残業前の30分の休憩は取らなくても構わないものですし)。休憩時間は、事業所に拘束されている時間と実質的には同じですから。
残業の前に休憩を入れるのは、単純に休むためであって、残業代をケチるなどの妙な効果はありません。
次に、労働基準法34条(以下、34条)に関する点について。
第34条
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
所定労働時間が経過した時点、上記の例だと18時ですが、この時点で休憩を取ると、34条の『休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない』という部分に反するんじゃないかという疑問。
また、残業を開始する前の時間、18時30分の前に休憩を取ると、34条の『休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない』という部分に反するんじゃないかという疑問。
以上、2つの疑問が生じます。
所定労働時間を経過した時点(18時)を終業時刻と考えてしまうと、その後に休憩を取ると、34条の内容に反するかのように思えます。この点は、残業を開始する前の休憩でも同様ですね。
じゃあ、残業の前に休憩を入れると、34条に違反するのかというと、違反しません。
終業時刻とは、「残業を含めた全ての仕事が終わった時点」です。ということは、上記の場合、残業が終わった時点、19:30が終業時刻です。
所定労働時間(労働時間) → 休憩時間 → 残業時間(労働時間)
時間の流れはこのようになっています。
見ての通り、休憩時間の前後は労働時間ですから、34条には反していないということになります。
付け加えると、お昼に1時間の休憩を取っていますから、『8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間』という条件は満たしており、1日に必要な休憩は全て取れているとの判断もできます。この点でも34条には違反していないと言えます。
「使用者の安全配慮義務」と「休憩なしで早く帰りたい労働者」の対立
1日8時間を超えて残業するとなると、お昼に取る1時間の休憩時間では足りなくなると考えて、夜に残業を始める前に、休憩時間を少し入れておく。そういう職場もあるでしょう。
仮に、1日の勤務時間が10時間になるとして、お昼の1時間だけの休憩だと、働く時間が長くなり疲れるため、残業するとなれば途中で一旦休憩を入れておく、という考えもあるわけです。
使用者には、労働者に対して安全配慮義務というものが課されており、休憩させずに連続して働かせて、事故を起こしたり、怪我をしたりすると、使用者が責任を負わなければならないものですから、残業を始める前に休憩を入れておく、という考えも分かります。
労働基準法は、1日8時間働くならば、1時間の休憩を入れておけば足りるのですけれども、8時間を超えて残業していく時に、休憩は必要なのかどうか、という点については決めていません。
ですから、使用者側で、安全配慮義務を考え、残業に入る前に少し休憩を入れておくと判断することはありえます。
しかし、従業員としては、休憩時間を入れずに早く仕事を終えて帰りたい、と考える人もいらっしゃるでしょう。そういう人たちからすれば、残業前の休憩時間はいらないわけです。
安全配慮義務を考えて残業前に休憩時間を入れる使用者。一方で、休憩時間を入れずに早く仕事を終えて帰りたい従業員なり労働者。
この両者をどのように調整するかが考えどころです。
仮に18時で仕事が終わる職場で、18時から18時30分まで休憩時間としていた。しかし、従業員側の判断で、仕事を早く終わらせようとして、その30分休憩を取らずに、仕事を続けていたとすれば、それは労働時間となってしまいますから給料を支給しなければいけなくなります。
制度としては18時から18時30分まで休憩になっていたとしても、実態としては労働している時間になっているならば、それは休憩時間ではなく労働時間と判断されてしまいます。就業規則や労使協定、さらには雇用契約で、残業するときは18時から18時30分まで休憩にする、と決めていたとしても、現場では休憩を取らずに働いている、仕事を続けているとなれば、もはやそれは休憩時間ではなくなってしまいます。
残業前の休憩が必要なのかどうか。よく考えなければいけないところです。
1日8時間で所定労働時間を設定するのが当たり前のように思われていますが、所定労働時間を1日6時間に設定したとしたら、法定労働時間の8時間まで2時間の余裕があります。
1日8時間を超えないようにすれば、残業前の休憩時間を取るか取らないかは問題にならなくなりますから、休憩をとるかどうかを考えるのも必要かもしれませんが、所定労働時間そのものを短縮するのも解決策の一つとして考えてもいいのではないでしょうか。