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「歯を白くできる無料モニターに参加しないか?」と言われて警戒するか。

「タダで診療」 協力者に芸能関係者も 療養費不正請求
http://www.asahi.com/articles/ASHCV35R9HCVUTIL008.html


 暴力団員らが総額1億円以上の療養費と診療報酬を不正請求したとされる事件の構図が、警視庁への取材でわかってきた。健康保険が適用されない自由診療をタダですると持ちかけて1千人近くまで協力者を増やし、得られた患者情報でうその請求を繰り返す――。協力者には芸能関係者らも含まれていた。


サンプルやモニターという言葉を聞くと、無料で何かを手に入れられるというイメージがあり、「じゃあ、それなら」という感じで不正請求に加担してしまう。

無料サンプルを提供し、そのレビューを集める。まず使ってもらい、使用感をアンケートで集める。無料で何かを提供し、まず内容を知ってもらい、その後の商売に繋げる。スタートダッシュでよくやる手段です。新規顧客を獲得するときも、初めは無料なり格安で何かを提供し、その後にメインの商品を買ってもらう手法が典型的です。

化粧品や健康食品、あとは通信教材などがよく知られているところです。このスキームを医療サービスで応用して診療報酬を不正に請求したのが今回のケース。

モニターで参加したとなると、「あぁ、あるよねそういうの」という感覚で不正請求の構造を知らずに加担してしまう可能性はあります。モニターという言葉には悪い感覚は無く、普段から接している言葉ですから、参加者は警戒感を持ちにくい。

例えば、歯のホワイトニングを無料で受けてもらい、その結果を写真に撮って、インタビューを文書にする。それを後の営業で使うと説明されると、参加者は無料でサービスを受けられるし、歯科医院の方も営業が捗るので、何も悪いことはしていないように感じてしまいます。

現金での報酬ではなく、現物報酬という点も巧妙です。現金をポンと渡されると、「おや? 何だか怪しい」と感ずく人がいるでしょうが、お金が動かない無料サービスだと怪しさが消えます。

現物報酬であるため不正請求によるサービスだと参加者が気づきにくい。これも考慮に入れた上での不正でしょうね。

この件についてタレントにインタビューをしたメディアもいたようですが、本人は何のことか分からないと答えるだけで、不正に加担していたとは分からないはずです。モニターだの、国の助成金を使って歯を白くできるとオファーされれば、「へぇ、それならやってみようかな」と気軽に応じても無理のないことです。さらに、お店の営業にも協力できるのですから、悪いことどころか良いことをしているような気分にもなります。

参加者は不正請求に気づけたかというと、何かおかしいなという程度ならば気づく可能性はありそうですが、診療報酬を不正に請求するためにモニターを集めているというところまで分かるかというと、ちょっと難しそうです。


当事者は、医療機関、暴力団組員、モニター参加者、この3者です。

暴力団組員が医療機関とユーザーを仲介し、医療機関に入った診療報酬から、例えば30%の仲介料を得る。

モニターは現金を手にするのではなく、歯のホワイトニングやマッサージを無料で受けるので、現物報酬となる。

医療機関には、仲介者に支払う仲介料、モニターへの無料サービス、この2つのコストを差し引いた診療報酬が入ってくる。

つまり、診療報酬を3者でシェアする形を作り出し、当事者全てが得をするような構図を作り上げたというわけです。

一連の行為が不正だと知っているのは仲介者と医療機関でしょう。仲介者に報酬を支払うのは医療機関ですし、仲介者と接触しているとなると、医療機関側が不正請求を知らないというのは考えにくいです。

モニターの人たちが不正を知ったら、おそらく無料サービス程度の見返りではリスクに見合いませんので、モニターには参加してこないでしょう。

シンプルな形ですが、不正なので褒められたことではないものの、よく出来たスキームです。医療機関は収益を得たい。ユーザーは無料でサービスを受けたい。両者の気持を利用し、仲介によって利益を得る。

よく動く頭を持っている人が悪いことをすると捕まりますが、その頭の良さを、法律に違反しないもっと建設的な環境で使えばハッピーになれそうですが、そうもいかないのでしょうか。

今回の例は反面教師ですが、人の気持ちを上手につなぐと商売になるというヒントを得られる事件です。


山口正博 社会保険労務士事務所
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