固定給は労働者を飼い殺しにする手段だ。


銀座のホステスは労働者じゃない? 東京地裁判決が「プロ契約」と判断したワケ
http://www.sankei.com/premium/news/151122/prm1511220017-n1.html


 労働者として勤務していた東京・銀座のクラブから不当に解雇されたとして、ママとして働いていた女性(45)がクラブ側に損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(鷹野旭裁判官)は「労働契約ではなく、業務委託契約だった」とし、女性は労働者ではなかったとの判断を示した。「クラブで働く女性は労働者ではないのか?」-。インターネット上ではこの判断に疑問の声も上がった。この女性が労働者に当たらないとされた理由とは…(小野田雄一)

 11月5日の判決によると、女性は平成25年11月、▽出勤は月曜~金曜、午後9時~午前1時

▽報酬は女性が売り上げた額の60%

▽契約期間は原則1年

-などとする契約をクラブ側と結んだ。

 その年の11月は118万円(出勤11日)▽12月は247万円(同17日)▽26年1月は60万円(同15日)▽2月は100万円(同6日)-の報酬を受け取った。しかし2月中旬にクラブ側から「店の方針と合わない」として契約を解除することを伝えられた。


仕事と時間を何が何でも結びつけて、時間あたりでナンボという働き方を推し進めるような世の中になっていますが、何だか息苦しい雰囲気が漂っていますね。

ホステスが雇用契約ではなく業務委託契約で働いていたと裁判所が判断したようですが、良い判断だったと私は思います。

時間と報酬をリンクさせると、安定した収入を得られて労働者に有利であるかのように思えますが、自分の働きが正確に評価されませんし、利益を生まない人を雇うと、利益よりも費用が増えて逆ざやになり雇用する理由がなくなります。

売上の60%がホステスに入るようになっていましたし、報酬の計算については問題になっておらず、成果はキチンと評価されていたのでしょう。

もし、労働者として雇用されていたならば、月給30万円や40万円という低い賃金で働いていた可能性がありますから、業務委託契約は必ずしも働く側には不利にはなりません。


ホステスは、店にお客が付くのではなく、自分にお客さんが付く仕事です。お店に来てもらい、ボトルを入れてもらったり、食べ物を注文してもらったり。それが自分の成果になる。私はホステスがいるような場所には出入りしませんが、そのような業界の仕事についてテレビで放送されることがあるので、想像はできます。

ホステスだけでなく、ホストクラブで働くホストも同じでしょうね。あとは、タクシーの運転手も成果が分かりやすい仕事です。これらの仕事ならば、雇用契約よりも業務委託契約の方が働く人には有利でしょう。

自分の働き次第で収入を増やせるのがこの手の仕事の良いところです。仕事場や道具を自分で用意する必要はなく、働いた売上の60%が自分のものになる。自営業で店を開くと費用がかかりますが、業務委託契約で働けば、店の経費を負担しないで済みます。

ホステスとして働き、月給30万円でどれだけ働いても収入は増えないとなると、面白くないでしょう。それだと、積極的にお客さんに電話はしないし、お店に来てもらうように手紙を書いたりもしなくなる。ボトルを入れてもらうために甘い言葉をかけることもないし、ビジネスライクに接客する。

雇用形態で働くのもいいですが、今回のような業務委託契約で働く選択肢もキチンと残して欲しいですね。

ただし、自分の成果を把握しにくい仕事であるにもかかわらず、成果主義とかフルコミッションなどを採用すると、不具合が発生します。今回の事例のように、成果を貨幣換算するための基準をキチンと設定していれば良いのですが、何をすればいくらの報酬になるのかをハッキリさせずに業務委託契約を締結すると、「それは雇用なので、時間あたりで賃金を支払わなければいけない」と判断されます。

クラブ側は「女性がクラブのイベントに非協力的だった上、他のホステスの客を奪うなどしたためホステスらの不満が増し、店の雰囲気が悪くなった。女性側に非があり、契約解除はやむを得なかった」と主張した。


委託契約を解除するための理由で提示されていた部分ですが、この点について証拠を示せなかったので、クラブ側は賠償しないといけなくなりました。どのようなイベントだったのか、いつ開催されたのか、非協力的というのは具体的にどういう状態だったのか、他のホステスの客を何人奪ったのか、どの程度店の雰囲気が悪くなったのか、などを説明していれば、クラブ側は賠償する必要はなかったのでしょうが、ここまで手を回して準備しないといけないのですね。

労務管理だからといって、労働法だけで対処するのではなく、民法も使って対処していくわけです。労働関連の法律は、労働者を守るための法律ですから、企業が戦うには労働法以外の武器、今回の場合だと民法ですが、それを使っていくのですね。


今回の判例で良かった点は、業務委託契約で働く選択肢を認めたところにあります。1時間あたりいくら。1日あたりいくら。1ヶ月あたりいくら。時間と報酬をリンクさせれば、確かに計算は簡単になりますし、さも安定して働けるかのように思えてしまいます。

固定させるほど報酬は低くなる傾向がありますし、報酬が変動することを認めれば、それは高くなる傾向があります(もちろん低くなる可能性もあります)。

飼い殺しを受け入れるか、それとも自分で収入を増やせる立場になるか。どちらを選ぶかはその人の自由です。

山口正博 社会保険労務士事務所
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