学習塾バイトのコマ給には魅力がある。時給には夢がない。


個別指導「明光義塾」に是正勧告・・・バイト講師への「賃金未払い」労基署が認定
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個別指導塾大手「明光義塾」を運営する明光ネットワークジャパン(東京)が宮城県内で直営している教室で、アルバイト講師の大学院生の男性(23)に対する賃金未払いがあったとして、仙台労働基準監督署が是正勧告をおこなっていたことがわかった。男性が加入する労働組合「個別指導塾ユニオン」が10月26日、東京・霞が関の厚生労働省で記者会見を開いて、明らかにした。勧告は10月6日付。

ユニオンによると、この男性が勤務する教室では、一コマ90分の授業に対して1600円の「コマ給」と、授業前の10分間・授業後の20分間に相当する「手当」(1日あたり400円)が支払われていた。しかし、男性の場合、授業準備や報告書作成などで、授業前後の労働時間は1日あたり1時間半を超えることが多く、賃金未払いが発生していたという。

ネットで掲載されるこの手の情報は、全体ではなく断片的なものなので、書かれている内容だけでは全体を把握しにくいのですが、「コマ給」というのはそれほど悪い報酬制度ではないでしょう。

無賃労働を助長しているかのようなイメージを抱かせるコマ給ですが、本人が自分の収入をコントロールできる余地を残している点は良心的です。

時間あたりではなく、1コマあたりで報酬が決まるということは、担当するコマ数が収入に連動します。1コマだけ担当している人よりも、3コマ、7コマと担当する人のほうが収入が多い。

コマ単位で報酬が決まるとなると、時間あたりで決まる報酬とは仕組みが異なります。時給、日給、月給、これらはいずれも時間ベースで報酬が決まるので、働く時間が少なければ収入も減るわけです。

しかし、コマ単位となると、時間による制約を受けません。コマ数とコマ単価で報酬が決まるため、交渉して単価を引き上げたり、1コマあたりの生徒数が増えれば、それに連動して単価も上昇するでしょう。単価が低くとも、担当するコマ数を増やしても収入を増やせます。

塾の講師は、コマを消化してナンボという仕事ですから、時間あたりナンボと要求されてしまうと、採算がとれなくなる場合もあるでしょう。


コマ給は成果タイプ。時間給は時間切り売りタイプ。そのような分け方ができます。

私が大学生だった頃、塾講師の求人もありましたが、実際に塾講師として働いた経験はありません。時給1,800円とか2,100円という条件がポンポンとあり、「随分と効率がいいんだな」と思っていました。飲食店の仕事なんて、時給900円弱でしたから、それに比べれば2倍です。

ただ、授業以外の時間も含んでの報酬だったとすれば、時間あたりでは1,000円ぐらいまで評価は下るでしょうね。

塾講師だけでなく、大学の先生もコマ数で収入が変動するような話を聞いたことがあります。学校の先生は固定給で働いているイメージがありますが、大学に行くと先生によって担当するコマ数が異なります。

週に1コマだけの先生がいれば、週に4コマ、5コマと担当している先生もいて、おそらく、コマ数と収入は程度の差はあれ連動しているのではないかと思います。

コマ給だと、チャチャッと仕事を終わらせる講師は時間単位の報酬が多くなります。なるべく短時間で授業の準備を終わらせ、キチンと時間通りに授業を終わらせる。一方で、タラタラと時間をかけて準備して、授業で時間を延長していたりすると、時間あたりの報酬が減っていきます。

大学生だった頃、私が参加していたゼミナールの先生は、ゼミナール以外にも通常の授業を担当していたのですが、授業ノートというか講義ノートのようなもの年間予定に沿って予め作っておき、それを見ながら授業を進めていました。

授業の内容を行き当たりばったりで決めずに、ルーティン化して、決まった内容を時間通りに教える。そうすれば、準備時間を短縮できるので、時間あたりの報酬が増えます。

さらに、授業をルーティン化できれば、担当するコマ数を増やす余地も生まれます。1コマあたりの負担が減りますから、3コマ、5コマと担当することも可能になり、この点でも報酬が増えますね。

もっと言うと、たくさんの生徒を担当していると、経営サイドからの評価が上がり、1コマあたりの単価も上昇してくる。

大学や塾などでプロとして教えている人は、上記のような上昇気流を作り出し、それに乗って仕事をしているわけです。キチンと拡大再生産のサイクルを自分なりに構築しています。

しかし、収入を得るためのバイトとして塾講師をしていると、仕事に対するインセンティブが賃金だけなので、授業内容を工夫して、拡大再生産できる仕組みを構築するための動機を持ちにくい。その結果、コマ給だと収入が少ないので、時間あたりで賃金を支払えと要求するようになります。

学生であっても、教える内容をルーティン化して、コマ数を増やし、コマ単価を引き上げていく。「収益>費用」という状態を作り出して、キャッシュが回るようにしてくれるならば、経営者も報酬を増やすことに反対しません。バイトだから不遇なのだと決まっているわけではなく、やり方次第です。

時間ベースの賃金は、熟練労働者から利益を生み出すには好都合ですが、未熟な労働者の場合だと収益よりも費用の方が多くなります。

雇われているのだから、時間単位でおカネを払えと反射的に考える人もいますが、時間に拘束されると、ドンドンと魅力に乏しい仕事になります。時間を換金するために仕事をしている気分になりますから、仕事の質も自ずと低くなりがちです。

能力や成果で報酬を決める仕組みを蛇蝎の如く嫌い、時間が報酬にリンクしているのを好む。時間と生産量が連動している仕事ならば、時間と報酬を連動させるのが合理的です。しかし、勤務時間の長さが生産量に連動しにくい仕事ならば、時給や日給などよりもコマ給のような報酬制度の方が働く側には有利です。

時間ベースの報酬制度は足の遅い人間に合わせるもの。コマ給のような報酬制度は足の早い人間に合わせるもの。時間単位で報酬を得たい人は、塾講師ではなく、時間と生産量が連動している仕事、1時間あたり1人で13個生産するから時給1,300円というような仕事を選ぶのが賢明です。

2015年の今ならば、塾講師以外にも選択肢があります。クラウドソーシングで仕事を集める。スマホアプリを開発して公開する。ブログを書く。映像を制作して公開する。写真を撮影して販売する。これらの仕事ならば、学校を卒業しても続けられますし、続けていれば仕事の練度が上がり、収益も増えてくる。

「大学生や大学院生だから塾講師」と結び付けずに、他の仕事も選択肢に入れて選んだほうが楽しいと思いますよ。

山口正博 社会保険労務士事務所
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