時給1,800円のお仕事はいかがですか?(Mon.20150608)



塾のブラックバイト、厚労省が改善要請 違法な例示す
http://www.asahi.com/articles/ASH657F6BH65ULFA02J.html?iref=com_alist_6_02


 大学生らを酷使する「ブラックバイト」の問題で、厚生労働省が学習塾業界に、適正に賃金を支払うよう異例の要請をしていたことがわかった。「未払い賃金がある」といった相談が労働組合などに相次いでおり、業界全体で改善に取り組むよう求めている。

 講師らが授業時間の前後に働かされているのに賃金が支払われていない事例があり、厚労省が調べていた。残業の割増賃金を支払わなかったり、時給が最低賃金を下回ったりする例もあったという。



大学生になると、塾の講師として働く機会を得られるのですが、私は実際に経験したことがありません。大学にはバイトの求人情報が集まる部門があって、そこに行くと、掲示板に求人情報がA4用紙1枚にまとめてペタペタと貼られていました。

私がバイトを探すときは、お店の前に貼られている求人張り紙を見たり、他には大学のPCを使って求人サイトで探したり、あとは雑誌で探すこともありました。今だったらスマホで探すかもしれませんね。大学にも求人情報は集まっていたものの、そこから仕事を選んだ経験はなぜかありませんでした。仕事は自分で探すものという思い込みがあったためか、大学経由で求人情報を得るという考えが無かったのかもしれません。

塾講師というと時給が高く、「あぁ、稼ぎやすくて効率がいい仕事なんだな」と思っていましたが、実際はそうでもないようです。


授業開始の20分前に出勤させ会議という事例は、他の会社だと朝礼のようなものでしょうか。仕事を開始するまえに、当日に行う業務の手順などを確認するために時間を設けている事例ですね。これは違反事例なのですが、解決は簡単です。

授業の20分前に会議をするならば、始業時間を早めて、会議の時間も勤務時間に含まれるようにするだけでOKです。この問題を解決するのはさほど難しくないでしょう。

報告書やカリキュラム作成を授業の前後に行っていたという事例も、上記と同じ方法で解決できます。始業時間を早めたり終業時間を遅くして、事務作業の時間を勤務時間に含めれば良いだけです。

夏期講習で1日に7コマの授業を担当し、法定労働時間を超えた事例は、36協定の範囲を超えていれば確かにダメですが、キチンと割増賃金を支払っているならば責めにくいです。学生は1日4時間程度しか働かないと思われているフシがありますが、夏休みや冬休みになると、フルタイム社員並みに1日8時間ぐらい勤務している人もいました。


上記ウェブサイトには掲載されていませんが、塾講師として働く際に最も問題になる事例は、予習のための時間でしょう。事前にテキストに掲載されている問題を解いて、解説の手順を考え、準備しておく。これも仕事だけれども、自宅で行うことなので賃金を支払う対象にならない。

塾での仕事ではなく、塾の外で行う仕事。これが塾講師にとって最大の問題点なのではないでしょうか。

講師として教えるならば、職場外での準備が必須。当日、その場で問題を解いて解説することもできないことはないでしょうが、解説の質にバラつきがあったり、予定の時間をオーバーしたりと、品質が安定しないはず。何をどういう順序で説明し、どれを強調して、どれをサラッと済ませるか。そういうことを考えるにはどうしても職場外での準備が必要です。

職場外での仕事が発生するため、塾講師は時間単位で報酬を決めにくい職業の1つです。時給1,800円と聞くと、「おぉ、いいねぇ~」と言いたくなりますが、その中に職場外での準備も含まれていると考えると、さほど効率が良い仕事でもなさそうです。

さらに考えると、効率が良い学生は短時間で準備ができるが、そうではない学生は時間がかかる。もし、要した時間で報酬を支払っていると、前者の報酬が少なく、後者の報酬が多くなってしまう。本人の能力が高いほど報酬が低いのはヘンですよね。

時給1,800円で、それは時間を把握しにくい職場外での準備も含めての時給だと考えると、不適切な労務管理なのかどうか。判断に悩むところです。事業場外での準備があるから、あえて時給を高く設定しているとも思えます。

労働基準法は、工場で働くような労働者を想定して作られていて、1時間あたりの生産量が分かりやすい仕事にはよく馴染みます。しかし、塾講師のように、授業以外にも仕事が発生するとなると、どこからどこまで時間を計上すれば良いのかハッキリしない。

事業場外労働におけるみなし労働時間制という仕組みが労働基準法にはありますが、これも欠点があります。それは、あくまで概算であって、実際に要した時間を基準にしていないという点です。

例えば、職場外での準備に2時間の時間を要するとみなした場合、効率が良い学生ならば1時間ちょっとで終わるが、そうではない学生だと2時間を超えてしまう可能性があります。前者の場合はみなし時間でも問題ないですが、後者の場合は、「必要な賃金を支払っていない」とクレームが出るでしょう。

高い時間給には準備に要する手間も含まれていると考え、パパっと効率良く準備できる人が稼げるような仕事、それが塾講師だと私は思います。要した時間全てに対して賃金を支払っていると、上記のように質が低い塾講師が増えます。

高度プロフェッショナル労働制が最近登場しましたが、それのミニバージョンが塾講師なのではないでしょうか。


もちろん、必要な賃金が支払われていないと交渉するのもアリですが、学生の場合は交渉するよりも転職するほうが低コストなので、塾講師の働き方に馴染めない場合は他の仕事を探す方が賢明です。

山口正博 社会保険労務士事務所
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