ブラック企業を追い出して困るのは求職者。ハローワーク、ブラック企業の求人を拒否。(Thu.20150108)

厚労省、ハローワークでブラック企業の「求人お断り」検討
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2387917.html


 過酷な労働を強いるいわゆる「ブラック企業」対策として、厚生労働省が、こうした企業の新卒の求人をハローワークで受理しない制度を作ることを検討していることがわかりました。

 ハローワークをめぐっては、現在の法律では原則、「求人の申し込みはすべて受理しなければならない」と規定されていて、求人の内容に違法性がない限り、受理することになっています。過酷な労働を強いたり、残業代の不払いなどを繰り返したりする「ブラック企業」が問題となるなか、厚労省では、こうしたブラック企業の新卒の求人については、内容にかかわらず受理しない新たな制度を作ることを検討しています。

 厚労省は、対象となる企業の基準なども含め、この新たな制度について労働政策審議会で議論したうえで、通常国会での法案の提出を目指しています。




ブラック企業の求人受けず 若者雇用でハローワーク 
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015010501001402.html

 過酷な労働を強いるブラック企業対策を強化するため、厚生労働省は5日、残業代不払いなどの違法行為を繰り返す企業の新卒求人をハローワークで受理しない制度を創設する方針を固めた。1月召集の通常国会に提出する若者向け雇用対策法案の柱とする。

 法案には若者の職場定着率が高い企業などを優良企業として認定、支援する制度や、若者の職業能力を客観的に評価し、正社員化を支援する制度の整備などを盛り込む。9日の労働政策審議会の部会に法案の基となる報告書案を示す。

 現在の法律では原則、ハローワークは「求人の申し込みはすべて受理しなければならない」と規定している。



ブラック企業からの求人をハローワークで受け付けないように対策するとのことですが、未だにブラック企業の定義が不明で曖昧な状況で、どのような企業が対象になるのか分かりません。

ワタミやユニクロなどがブラック企業の代名詞のように思われているフシがありますが、どういう基準でブラック企業と言われているのかはハッキリしていません。

割増賃金をキチンと支払っていなければブラック企業なのか。過労で労災事故が発生すればブラック企業なのか。管理監督者ではないのに管理監督者として扱っていたらブラック企業なのか。それとも、労働関連の法律に違反していたらブラック企業なのか。

何らかの形で話題になればブラック企業として扱われているような感じもあり、何ともファジーな感覚で判断されています。

何をもってブラック企業なのか。この基準がハッキリしない限り、ナンダカンダと話しても先に進めないでしょう。


ハローワークの求人がどのようなものかは、ウェブサイトで知ることができます。

ハローワークインターネットサービス - 求人情報検索
https://www.hellowork.go.jp/servicef/130020.do?action=initDisp&screenId=130020

条件を入力して検索すると、該当する求人情報が表示される仕組みになっています。求職者でなくても検索サービスを使えますので、試しに何か条件を設定して検索してみてください。

実際に検索して、どう感じたでしょうか。「ハローワークの求人って、この程度なの?」と感じた方もいるのでは。


公共職業安定所に来る人は相当な数ですし、全国に展開しており、長年続けている事業ですし、求人データベースも相当な規模なのだろうと思ってしまいそうですが、実際は大したものではありません。

『残業代不払いなどの違法行為を繰り返す企業の新卒求人をハローワークで受理しない制度を創設する』とのことなので、新卒を対象にした求人が今後減る可能性があります。

「残業代不払いなどの違法行為を繰り返す企業」と書かれているので、厚生労働省としてはこれがブラック企業の暫定的な定義なのかもしれません。


上記のような企業の求人を拒否するとなると、ただでさえ貧弱な求人データベースがさらに貧弱になる可能性があります。しかし、データベースをクリーニングするという目的ならば有効であるとも思えます。

さらに、拒否するのは新卒を対象にした求人ですから、その他の求人は対象外となると、影響は限定的とも予想できます。新卒の人ならば、高校や大学の就職課に集められた求人から選んで仕事を見つけることができますし、リクナビなどに代表される民間企業の求人情報から仕事を見つけることもできるので、あえてハローワーク経由で仕事を見つける必要もなさそうです。

それゆえ、ハローワークから新卒求人の情報が減ったとしても、影響を受ける人はごく僅かです。影響を受けるとすれば、新卒を採用したくても新卒が応募してこない会社ではないかと思います。チラシや求人サイトでは新卒が集まらないので、ハローワーク経由で新卒を集められないかと考えている企業が締め出される可能性はあります。



どのような企業がブラック企業に該当するのか。この基準をどう設定するのか。最大の関心点はここです。

「残業代不払いなどの違法行為を繰り返す企業」という基準では対象が曖昧です。「~など」と書かれても、他には何があるのかが不明です。また、「違法行為」となると、ちょっとでも法律に違反していれば対象に含まれるのか、それとも、法律に違反し再三の是正指導にも従わない場合が対象なのか分かりません。

労働関連の法律に違反しているだけでブラック企業となれば、ほとんどの会社が該当してしまう。違反していない会社を探すほうが難しいぐらいで、重箱の隅をつつくように探すと、程度の差はあれども、何らかの法令違反が見つかるはずです。

労務管理で法令違反をゼロにするのは思っているよりも難しく、見つけようと思えば何らかの違反が見つかるものです。


労働市場において、需要側に規制を課すと、困るのは供給者である求職者です。ブラック企業を追いつめて排除する効果を期待しているのかもしれませんが、求人が減るということは、つまり、労働需要が減るということ。この場合、労働供給が変化しないならば、供給よりも需要が少ない超過供給の状態になり、労働の価格が下がります。

経済学を例に利用すると、規制によって需要曲線が左へシフトし、供給曲線は変化しないので、価格が下落する。労働市場もこれと同じです。

ブラック企業を追い出して、労働需要を減らすと、かえって労働条件が低下し、労働の供給サイドである求職者が困ると考えることもできます。


ブラック企業の定義は曖昧ですが、仮にそういう企業があるとして、あえて何らかの規制なり対処策によって排除せずとも、自然淘汰に任せて消えていくままにした方がラクなのではないかと私は思います。まさに神の見えざる手で調整されるということ。


待遇の悪い会社、業界を労働市場から排除するのではなく、あえて市場に参加させ、他の企業や業種と比較させることで、自ずと人が集まる企業とそうではない企業に分かれていき、後者の企業はいずれは消えていく。これがブラック企業対策の王道です。

ブラック企業対策について何かをしていると聞くと、『引いて開ける扉を一生懸命に押しているのではないか』と思ってしまいます。

山口正博 社会保険労務士事務所
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