三六協定でも労働時間に制限はある。(Thr.20140710)



残業代ゼロルール、「長時間サービス残業が横行」という誤解 労働時間上限の量的制限
http://biz-journal.jp/2014/07/post_5338.html



 そもそも、国民の多くが日本版WEに対して不安を抱いているのは、「年収1000万円以上という基準が引き下がり、年収600万円以上が対象になったら、自分も残業代ゼロで長時間労働を強いられるのではないか」といったシナリオだろう。

 しかし、これは完全な誤解である。まず、日本版WEの適用には「本人の同意」等が必要であることはいうまでもないが、産業競争力会議「雇用・人材分科会」の長谷川閑史主査のプレゼン資料の4ページにも記載があるように、日本版WEの導入にあたっては、長時間・過重労働の防止を図る観点から、「(1)労働時間上限」や「(2)年休取得の下限」に関する量的制限の導入をセットで求めている。13年12月5日の規制改革会議では、年間104日の休日取得や長期連続休暇の義務化を含め、(1)と(2)のいずれか1つ、あるいは複数の組み合わせを要請している。

産業競争力会議「雇用・人材分科会」の長谷川閑史主査のプレゼン資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai4/siryou5.pdf

 実は、このような労働時間上限等の量的制限の導入こそが日本版WEのコアであり、現行制度のほうが労働者に厳しい。そして、さらに踏み込んでいうならば、経営者側は労働者側よりも交渉力が強いことから、経営側の都合で量的制限が骨抜きにならないよう、労働時間上限等の量的規制を法律で義務付けることが望ましい。というのは、あまり知られていないが、現行の労働基準法では労働時間の上限は存在せず、実質的に意味があるのは残業代規制のみで、日本の労働時間規制は緩いためである。
 
 確かに、労働基準法で労働時間に制限(1日8時間、週40時間)はあるものの、いわゆる「三六協定」(同法36条の労使協定)により、残業代を支払えば労働時間は法的に上限なく延長可能となっている。これが、日本で長時間労働が多く、過労死が多い原因だ。

 

 残業ゼロ制度、残業ゼロ制度と揶揄されてきた仕組みですが、日本版ホワイトカラー・エグゼンプションという名称で決まったのでしょうか。まだ話し合いが続いていて、さらに内容が変化する可能性もありますが、さすがに「残業代ゼロ制」という名称にはならないでしょうから、ホワイトカラー・エグゼンプションに近い名称で決めるのかもしれません。

 

 上記の本文中に、『いわゆる「三六協定」(同法36条の労使協定)により、残業代を支払えば労働時間は法的に上限なく延長可能となっている』と書かれていますが、実際には上限がないということはなく、三六協定には限度時間による規制があります。

 


時間外労働の限度に関する基準(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-4.pdf

 上記のPDFを見ると、例えば1週間の単位では15時間までが延長時間の限度であり、その時間まで時間外労働が可能だと分かる。つまり、1周間の所定労働時間が40時間だとすると、三六協定で許された時間外労働は15時間なので、合計で1週間に55時間の勤務が可能になる。

 

 1週間の区切りで三六協定で許される勤務時間は合計で55時間であって、労働時間を上限なく延長できるというのは正しくない。

 

 協定を締結して、書類を労働基準監督署に提出し、割増賃金もキチンと払えば、何時間でも残業できるというものではないのです。三六協定は残念ながら魔法の杖ではありません。

 

 チャンと手続きして、割増賃金をキチンと支払えば、自由に残業ができると思われているとすれば、それは三六協定に対する誤解でしょう。

 

 

 新しい制度では、『「労働時間上限」、「年休取得下限」等の量的制限の導入』と案内しながら、一方で、『労働時間と報酬のリンクを切り離した、ペイ・フォー・パフォーマンスの浸透』と説明されている(上記 産業競争力会議「雇用・人材分科会」の長谷川閑史主査のプレゼン資料より)。

 

 時間と賃金のリンクを切る点が最大の特徴である今回の新制度ですが、一方で労働時間に上限を設定しています。労働時間に上限を設けてしまうと、現行の労務管理とさほど違いがない状態になるでしょう。

 

 1日8時間、1週40時間、そして三六協定による延長時間の限度。これらは労働時間に上限を設定するための基準であり、この基準と似たような仕組みを新制度に持ち込むとなれば、あまり意味のない制度になるのではないかとも思えます。

 

 とはいえ、労働時間に何らの制約もないとなると都合が悪いならば、上限枠は余裕を持って設定する必要があります。現状では、1周間で15時間まで法定時間外労働が可能ですが、例えばこれを2倍まで拡張して30時間にすれば、週70時間まで勤務できるようになります。週70時間と文字で書くとサッパリしていますが、週5日勤務で均等に配分すると、1日あたり14時間です。1日の持ち時間は24時間ですから、仕事で目一杯14時間働くとしたら、仕事以外の時間は10時間です。寝る時間が8時間とすると、自由な時間は2時間しかない。

 

 三六協定の延長時間の限度枠を2倍にするだけでも、十分に仕事の時間を確保できるでしょうから、労働時間に上限を設けるならばこれぐらいガバっと大きく設定しておくべきです。

 

 時間と報酬のリンクを切ると言いながら、労働時間に上限を設けるとなると、やはり矛盾しているんじゃないかとの指摘を受けかねない。そのため、上限を設けるならば上記のように高めに設定しておかないと、新しい制度を設けた意味がなくなってしまうでしょう。

 

 

 労働時間の上限を守らせる点については、現行制度でも限度時間規制があるものの、その規制を超えても、指導で終わるのが実情です。何か罰があるわけではないので、三六協定による制限は形骸化している感があります。

 より強いペナルティ、例えば業務停止命令を出すぐらいでないと、企業は時間の上限を守らないでしょう。労働基準監督署の人員を増やす、定期監督の強化、違反企業の公表、送検など、対策法が上記のPDFに書かれていますが、労働基準監督官にヤレヤレと言っても、労働基準監督署の人員は少ないですから、今以上に監督を強化していくのは難しいのではないかと思います。労働基準監督署に行くと分かりますが、税務署やハローワークに比べると、ずっと人は少なく、「1つの署に監督官なんて10人いるかいないかぐらいじゃないの?」と思うほど人が少ないです。

 

 労働時間の限度を超えていると分かれば、一気に業務停止命令を出してサッと処理を終えていくぐらいのテンポでないと、とても監督しきれるほどの企業数ではないはずです。


 

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com

© 社会保険労務士 山口正博事務所