book667(残業代不払いはこうやって起こる。Part 1)




■割増賃金の不払い事例から、残業代不払いが起こる原因を見つける。


監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成24年度)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c.html

上記のページに残業代の不払いに関する平成24年度の情報が掲載されています。


このページには、「参考1)賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/chingin-c_05.pdf)」というPDFファイルがアップされていて、そこには残業代不払いの事例が紹介されています。

そこには4つの事例が掲載されていて、不払いの状況、監督署の指導内容、その後の対策がセットになっています。

この事例を使って、どうやって残業代の不払いが起こっているのか。どんな対策をしたのか。調べてみようと思います。


今回は、まず事例1から。


賃金不払いの状況は以下の通り。

『会社は、始業・終業時刻を労働者本人の自己申告により把握する手法により労働時間を管理していたか、終業時刻 は定時て記録されている日か多い状況にあった。しかし、警備記録等によると、定時すきに退社する者は少なく、実態を 正しく反映てきていない可能性かあった。そこて、ハソコンのロクオフ記録を調査したところ、自己申告による終業時刻と ロクオフ時間との間に大きな相違か認められ、かつ、その相違について合理的な説明もなされなかった。この点は、同 社の他の事業場においても同様の状況となっていた』

電気通信工事の会社で起こった事例で、自己申告で時間を管理していたようです。

時間の管理はタイムカードで行っている会社は多いですが、必ずしもタイムカードでなければいけないわけではなく、この会社のように自己申告で管理しても法律に違反するわけではありません。

だから、自己申告で時間を管理することそのものは構いません。ただし、正確に記録されている必要があります。


電気通信の工事というと、光ファイバーケーブルを顧客の家や事業所へ引き込む工事の仕事か、電線のメンテナンス、携帯電話の基地局整備とか、そういう類の仕事でしょうか。

自己申告で時間を管理していたとなると、直行直帰タイプの就労形態で、事務所などには行かずに現場へ直接行って仕事をする。そんな仕事なのかもしれませんね。


この会社では、警備記録があるようで、おそらく従業員が出入りする場所に警備員の人がいて、そこで入場と退場の時間を管理していたのかもしれません。

大きな会社に行くと、会社の入り口に守衛所みたいな場所があって、そこで用件を伝えて、名札を着用し中に入っていく。不審者が入ってこないように、そういうセキュリティを設けている会社がありますよね。


「入場と退場の記録」と「始業と終業の記録」との間に大きなズレがあると、そのズレの時間に仕事をしていたんじゃないかと疑われます。

例えば、入場時間が7:45で、始業時刻が8:50だと、7:45から8:50までの時間は何をしていたのか疑問の余地があります。着替える時間が15分ぐらい発生していると考えても、約50分の時間については説明ができません。

始業時間が8:50ならば、早くても8:25ぐらいに入場するのが普通で、7:45に入場していると、「始業時間前に仕事をしているんじゃないか」そう疑われるはずです。


退場と終業の場合も同様です。

例えば、終業時間が16:30で、退場時間が19:10だとしたら、ヘンですよね。16:30に仕事が終わって、着替えて退場するとしても、17:00頃には退場しているはずです。しかし、実際の退場時間は19:10となっている。

じゃあ、17:00頃から19:10までは何をしていたのか。そう疑われます。


さらに事例1では、パソコンのログオフ時間も調べて、自己申告の時間、警備で記録される時間と合わせて、労働時間が正しいかどうかを検証しています。

パソコンには、電源をオンにしてからオフにするまでの記録が残るようになっていて、時間も一緒に記録されます。普段パソコンを使っていると、ログオンやログオフは意識しないのですが、見えないところで色々な痕跡が残るのがITツールです。


自己申告の時間。
警備で記録される時間。
パソコンのログオフ時間。

この3つの時間をそれぞれ合わせて、自己申告で記録された時間に不自然さがないかどうかを労働基準監督署は調べているんですね。





■道具が残業代の不払いを防ぐわけじゃない。


監督署に指導されて、この会社では、自己申告による記録をヤメて、ICカードによる記録に変えたようです。

自己申告ではなくICカードで労働時間を記録しているというと、さも正確に時間が記録されるだろうというイメージを抱きがちですが、油断は禁物です。

ICカードによる時間記録であっても、始業時間前に仕事をしてから始業記録はできるし、終業記録をした後に仕事を続けることもできる。

つまり、どんな道具を使って労働時間を記録するかどうかは、残業の不払いを防げるかどうかの決定打にはならないのです。

優れた道具を使っても、正しく使えば良い効果を得られますが、正しくない方法で使えば本来の効果を発揮しません。

自己申告による時間管理であっても、正確に時間が記録されていれば問題はないです。しかし、自己申告による管理だと、「ちょっとぐらい変えちゃってもいいだろう」、「どうせ分かんないだろうから、実際よりも遅い始業時間を書いちゃえ」などと、ゴマかす気持ちになってしまいます。

普段は人の物を盗むことはしない人でも、他人のサイフが目の前にポンと落ちていて、誰も見ていないとネコババしちゃう。そういう状況に似ています。


不正をしようという気持ちにさせにくいという点では、自己申告ではなくICカードで時間を管理するのは有効ですね。

山口正博 社会保険労務士事務所
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