book628(クラウドソーシングは搾取の仕組み?)




■強制力のない搾取は、搾取なのかどうか。



ネットをよく利用する人ならば、最近、「クラウドソーシング」という言葉を見たり聞いたりするのではないでしょうか。

クラウドソーシングとは、ネット上で仕事と報酬を提示し、不特定多数の人からその仕事に応じる人を集め、仕事と人を結びつけるマッチングサービスです。これは労働者派遣に似た仕組みですね。


仕事を得るには、どこかの会社なり組織に所属するか、自営業で商売をするかぐらいしか以前は方法がなかったのですが、今ではネットで直接に仕事を見つけ、それに応じて働くというスタイルができつつあるようです。


私が興味深いと思ったのは、「撮影場所に近いカメラマンを探してWEB上で契約の締結から支払いができる」というクラウドソーシング。

例えば、沖縄に住む人がエジプトのピラミッドの写真を撮りたいと考えたとき、自ら飛行機に乗ってエジプトに行き、現地でカメラを構えて撮影する必要があります。さらに、日帰りはしんどいでしょうから、宿泊施設を確保して、撮影することになるはず。

もし、自分自身ではなく、エジプトに住む人に対価を支払って、ピラミッドの写真撮影を代わりに行ってもらえるとしたら、便利です。飛行機に乗らなくていいし、ホテルを探す必要もない。何より時間を大幅に節約できます。

写真撮影のクラウドソーシングサービスは、場所と時間の制約を超える点に価値があり、沖縄にいながらにしてエジプトのピラミッドの写真を手に入れることができる。これは良いですよね。

会社単位で上記のような仕事を引き受けるとなると、2−3枚だけの写真撮影では引き受けてもらえず、おそらく1,000枚単位ぐらいの取引ロットになり、個人ではなかなか利用しづらいサービスになるはずです。しかし、クラウドソーシングで、撮影を依頼する人と依頼を受ける人が個人で結びつけば、より小さいロットで取引が可能になり、「ギザの三大ピラミッドの写真を10枚ほど撮影してもらえないか」というような依頼も実現できるでしょう。


企業レベルでは実現できないことでも、クラウドソーシングならば個人レベルで実現できる。つまり、ネットを利用することで、より小さい単位で仕事を流通させることができるようになり、人が選択する仕事の幅も広がります。収入源を1つに限定するのではなく、クラウドソーシングを利用して、収入を複線化することもできるのではないかと思います。



このように書いていると、クラウドソーシングは素晴らしい仕組みで、何も問題はなさそうな感じがします。

しかし、「クラウドソーシングは搾取的な仕組みだ」と指摘する人もいて、誰しもが賛成する仕組みではないのが現状のようです。


辞書では、搾取という言葉は次のように定義されています。

「生産手段の所有者が生産手段を持たない直接生産者を必要労働時間以上に働かせ、そこから発生する剰余労働の生産物を無償で取得すること」


クラウドソーシング市場では、ネット上に仕事の内容や報酬、条件を提示し、それに応じる人を募集します。ここでは、仕事を依頼する側が条件を決められるため、より低コストでより多くの仕事を依頼する動機が生じます。なるべく低い報酬で、なるべく高度で複雑で多くの仕事を処理してもらった方が依頼者はトクをします。

それゆえ、仕事の内容に比して低い報酬が設定されてしまい、その点が搾取的と指摘される原因になっているのだと思います。


少ない報酬でより多くの仕事をさせる。この点だけで判断すれば、確かに搾取的と言えます。

しかし、「少ない報酬でより多くの仕事をさせる」のは、クラウドソーシングだけではないはず。

もし、会社に所属して働いていれば、売上から経費を差し引き、それが利益になります。売上よりも経費が少なければ利益が生まれますので、経費である人件費もなるべく少なくなるように会社も運営されています。ならば、クラウドソーシング市場から仕事を得る場合であれ、会社に所属して仕事を得る場合であれ、程度の差はありますが、いずれも搾取的と言えます。


別の立場から考えれば、クラウドソーシングには強制力がなく、そこに搾取が生じるのかどうかも考えどころです。

搾取というのは、何らかの強制力が伴っているのではないでしょうか。やむにやまれず取り組まないといけない作業とか、やめたいけどやめられない仕事とか、何か弱みを握られてやらされている仕事とか。このような作業なり仕事だと、搾取という言葉が適しているのかもしれません。


しかし、クラウドソーシングの場合は、仕事のオファーに応じるかどうかは本人次第です。もし、「この仕事で、この条件では納得できない」と思えば、仕事に応じないでしょう。逆に、「うん。これならばやってもいいかもしれない」と思えば、仕事に応じる。

自分自身で取り組むかどうかを決められる。そういう環境で、はたして「搾取」という言葉が適切なのかどうか。

仕事に応じるかどうかは本人次第で決められるならば、「これは搾取的な依頼だ」と思えば拒否できます。クラウドソーシング市場以外でも仕事はありますから、あえてクラウドソーシングの仕事に応じる義務もありません。

会社でフルタイム勤務してもいいし、パートタイムで働いてもいい。派遣社員で働くのもアリですし、契約社員という働き方もあります。他にも、自分で商売を始めてもいいし、何か自分で職業を作り出すのもいいですね。

クラウドソーシング市場からしか仕事が供給されないならば、搾取という言葉も入り込む余地があると思いますが、他の選択肢がある状況で、あえて搾取的な仕事に応じることもない。


それでもまだ、「いや、でも、、やっぱりクラウドソーシングには賛成しにくい」と思う人もいるかもしれませんね。







■規制なき自由な労働市場の試金石。



クラウドソーシングは、仕事の流通経路を変えて、人と仕事を直接につなぐ。これが特徴であり長所です。

直接に仕事を探せるとなると、仕事の選択肢が増えますし、いままで死蔵していた自分自身の能力を換価できる可能性も生まれます。

また、労働市場のパイを広げる効果もあります。今までの働き方に、クラウドソーシングという働き方が加わって、仕事の選択肢が増えるのですから、以前の環境ならば失業者だった人が仕事を得られるようになることもあるのではないかと思います。

また、今まで会社で行われていた仕事がクラウドソーシング市場に流れていくという可能性ももちろんあります。この過程で、以前の雇用が喪失され、就業環境が変わってしまう人も出てくるかもしれません。

組織内で分業していた時代から、組織の外にいる人も動員して仕事をしていくことができるようになり、人も仕事もバリエーションが増えて、おもしろい時代になったといえば、そうかもしれません。


クラウドソーシング市場には最低賃金規制がないので、どうしても単価の安い仕事が流通しがちです。ただ、賃金の規制がないため、市場に供給される仕事の量はおそらく最大化されます。労働市場では、賃金が下がれば下がるほど仕事の供給が増えるので、この点では望ましいとも思えます。

「単価が下がれば、仕事を受ける人は困るんじゃないか?」とも思えますが、仕事と報酬が吊り合わない案件は、仕事の受け手がいなくなり、自ずと市場から消えていく。そんな考え方もできます。

報酬は仕事にリンクしていますから、より難易度の高い仕事には相応の報酬を用意しないといけないでしょうし、あまりに低い単価を提示すると、それに応じる人もいなくなっていきます。

仕事の中身と報酬が均衡するまで、両者は調整される。まさに、マクロ経済学における需要と供給のゴールデンクロスが現れる。それがクラウドソーシングの市場なのかもしれません。


時代に合った仕組みならばクラウドソーシングは残るでしょうし、そうでなければ消えていく。

規制のない労働市場がどういう結果になるか。クラウドソーシング市場を見ていれば、その結果が分かるかもしれません。


山口正博 社会保険労務士事務所
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