book617(始業時間前の始業打刻。終業時間後の終業打刻。)




■ジャストタイムで打刻するのは意外と難しい。


仕事をした時間は何らかの手段で記録されます。タイムカードを利用して始業時間と終業時間を記録するのが最も一般的ですが、他にも出勤簿に記録したり、ノートに記録したり、コンピューターで記録する方法もあります。

記録する時間は、始業時点の時間と終業時点の時間、主にこの2つです。会社によっては、休憩時間や勤務を中断した時間も記録するところもあるかもしれませんが、どこの会社でも始業時刻と終業時刻は記録するかと思います。

実際にタイムカードで勤務時間を管理していると、始業時間ピッタリに始業打刻する人は思いのほか少ないのではないでしょうか。また、終業時間ピッタリに終業打刻する人もまた少ないのではないでしょうか。

例えば、10:00が始業時刻だとして、打刻されたタイムカードの記録を見ると、10:00ピッタリではなく、9:54とか9:57というように、始業時刻よりも前に始業打刻がされている。こんな会社、多いのではないでしょうか。

また、16:30が終業時刻だとすると、タイムカードでは、16:33とか16:39というように、予定された終業時刻よりも後ズレして記録されている。このようなこと、意外と良くあるのではないでしょうか。


理想を言えば、10:00が始業時刻ならば、勤務記録も10:00始業にしたいところです。また、16:30が終業時刻ならば、タイムカードでの記録も16:30にしたいところ。

しかし、実際には理想通りにはならない。


始業時間の記録は予定しているよりも早くなるし、終業時間の記録は予定しているよりも遅くなる。これは不思議なことではないのです。


実際にタイムカードで時間を記録する場面を想像してみて下さい。

タイムカードのストッカーにズラズラっとカードが収めされている。相川さん、遠藤さん、加藤さん、手塚さん、自分以外の社員さんのカードがストッカーに入っていて、そこに自分のカードも収まっている。そこから、自分のカードを取り出し、ストッカーの隣に据え置いている記録用の機械に自分のカードを挿入する。これで勤務時間の打刻は完了です。

勤務時間の記録は、ごく簡単な手続きですが、始業時間や終業時間にピッタリ合わせて行うと、不都合が生じます。

「時間ピッタリに時間を記録するだけなのに、何が不都合なんだ?」と思うかもしれません。

10:00に仕事を開始する人が自分だけならば、おそらく時間ピッタリに打刻するのはさほど難しくない。しかし、10:00に仕事を開始する人が14人いたらどうでしょうか。

始業時間を記録するために、14人が一斉にタイムカード機を操作する。そんな状況を想像してみて下さい。

1つの会社にタイムカード機はおそらく1台だけしかなく、その1台を全員で利用しているところが多いのではないでしょうか。そうだとすると、1度に打刻できる人は1人で、14人いるとなると、打刻も14回必要になる。

1人あたり打刻に必要な時間が約3秒だと仮定すると、必要な時間は 14人 × 3秒 = 42秒 です。


10:00丁度に始業時間を打刻するには、10:00:00から10:00:59までの間に全員が始業打刻を完了しなければいけない。

「59秒の時間があるので、必要な時間は42秒だから、問題無いだろう」そう思うかもしれない。

確かに、想定通りに始業打刻が完了出来れば問題ないでしょう。


しかし、何らかの理由で、打刻時間が遅れたらどうするか。例えば、9:59にタイムカードを格納しているストッカーが倒れて、カードが床に散乱してしまって、打刻の手続きが遅延してしまったら。その結果、始業時間の記録が10:02になってしまったら。

時間ピッタリに打刻しようとして、想定外のコトが起こり、予定していた始業時間よりも遅れて打刻してしまったら、これは遅刻になってしまいますよね。

もちろん、想定外のコトなど頻繁に起こるものではありませんから、あえてそのようなことを想定して行動する必要はありません。ただ、始業時間と始業打刻の時間を合わせようとすると、遅刻になってしまう可能性が高まります。

ゆえに、始業打刻は始業時間よりもちょっと前に行う人が多いのです。ギリギリで打刻しようとして始業時間をオーバーしてしまうと遅刻になるので、遅刻にならないように始業時間前に打刻するのですね。


ただ、始業時間よりも前に打刻してしまうと、その時点から勤務が開始されたと判断され、始業時間前の時間まで勤務時間に計上しないといけなくなります。

就業規則や雇用契約書では、10:00が始業と決めているのに、実際は9:54とか9:56が始業時間になってしまい、約束した範囲を超えて仕事が生じてしまう。ここが会社にとって困るところです。

契約に基づかない労働が発生しているし、さらに賃金も発生している。とはいえ、わずか数分のことですから、それほどの重大事ではありませんが、気になる部分ではあります。


社員さんの立場では、「遅刻にならないように余裕を持って始業打刻したい」と思うでしょうし、また、終業時点でも、「予定よりも早く打刻すると早退になってしまうので、終業時間を少し超えたところで終業打刻したい」と思うでしょう。

一方、会社の立場では、「契約している時間の範囲で仕事をして欲しい」、「予定よりも早く始業打刻したり、予定よりも遅く終業打刻して発生した"はみ出し時間"は勤務時間として計上しないようにしたい」と思うでしょうね。



この両者をどうやって調整するか。これが問題となります。








■打刻のための「余裕時間」が必要。



時間に余裕を持って打刻する。契約した時間ピッタリに打刻する。この2つの要求を同時に満たすにはどうすればよいか。

今回の問題に対する解決策は3つあります。

1,何もしない。
2,1分単位で全て勤務時間として計上する。
3,勤務時間として計上する時間とそうでない時間を分ける。


1の場合、始業時間前、終業時間後に数分の時間が発生しても、契約していない時間だから、勤務時間には計上しない。ただ、終業時間後の時間は残業にする可能性はあります。

何もしないのも1つの方法ですが、タイムカードには始業時間前の時間、終業時間後の時間が記録されているので、第三者から「この数分間、実際は仕事をしていたんじゃないか?」と疑念を持たれる可能性があります。勤務時間だったのか、それとも勤務していない時間だったのか、タイムカードの記録だけでは分かりませんからね。


2の場合は、契約外のいわゆる「はみ出し時間」が生じても、すべて勤務時間として計上し、給与もキチンと支払う。

この選択肢は、もっとも安全で簡単です。ただ、契約に基づかない時間まで勤務時間にしていますし、実際は仕事をしていない時間まで勤務時間として計上してしまう可能性もあります。


3の場合は、実際に仕事をしていれば勤務時間として扱い、仕事をしていない時間であれば勤務時間にはしない。

10:00が始業と決めているところ、実際は9:54とか9:56が始業の打刻時間になってしまった場合。9:54や9:56から仕事を開始していれば、その時点から勤務時間にする。しかし、始業打刻の時間は早かったものの、実際に仕事を始めたのは10:00からだったならば、10:00から勤務時間を計上する。

9:54や9:56から仕事を開始したならば、そのことを届け出て、はみ出した時間を勤務時間として計上する。

9:54や9:56に始業の打刻はしたものの、10:00までは仕事を開始しなかったならば、届出は不要にする。


3番の方法ならば、届出を利用して、勤務時間に計上されない打刻のための余裕時間を設けることができます。

始業時刻から5分前まで(例えば、9:55から10:00まで)、また、終業時刻から5分後まで(例えば、16:30から16:35まで)を打刻のための余裕時間として設定し、その時間内に打刻するようにすれば、遅刻や早退になるかもしれないとハラハラしながら時間ピッタリに打刻する必要はなくなります。

例えば、10:00が始業時間で、9:57に始業打刻したならば、3分の時間差が生じます。この時間に仕事をしたのか、それともしなかったのか。

日付、勤務した時間、名前などを簡単な書面にして、届け出る。そうすれば、3分間に何があったのか、後からでも分かります。


届出の手続きを介在させることで、打刻の手続きのために時間に余裕を作りつつ、契約時間外の勤務を発生させないようにする。

これが妥当な解決策ではないかと私は思います。

もし、届出の手続きは面倒で続かないだろうと思うならば、全ての時間を勤務時間にしてしまうのも良いでしょう。



ただし、選択肢2の方法には注意する点があります。

実際に発生した労働時間を踏み倒すための手段としてこの方法を使ってはいけません。わずか数分のことですが、始業時間前であれ、終業時間後であれ、実際に仕事を始めていた、もしくはしていたならば、それは労働時間です。

サービス労働させるためではなく、不明朗な時間を無くすのが目的ですので、正しく運用して下さい。







山口正博 社会保険労務士事務所
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