book597(賃金が先か、利益が先か。)



■卵と鶏。


卵が先に存在して、鶏はその卵から生まれたのか。それとも、鶏が先に存在して、その鶏が卵を生んだのか。

果たしてどちらが正しいのか。

調べても、ハッキリとした答えは見つからない。Wikipediaにも「鶏が先か、卵が先か」という項目がある。色々な分野から解釈を試みているけれども、どれも客観的な答えとして確定しているわけではなさそうだ。


「鶏が先か、卵が先か」、労務でもこれと似た状況に遭遇することがある。

利益が増えるから、賃金も増やせるのか。それとも、賃金を増やすから、ヤル気が出て、利益が増えるのか。

どちらだろうか。

経営者ならば、「儲かれば、働いている人の収入も増える。利益がなければ、収入も増えるわけがない」と考える。一方、働く社員の立場ならば、「収入が少ないとヤル気がでないので、商売もうまくいかない。しかし、収入を増やせば、働く人にやる気が出て、商売が好転し、利益も増える」と考える。

どちらも尤もらしい考えです。

では、どちらの考えが妥当なのか。先に利益を生み出すのが妥当なのか。それとも、先に賃金を増やして、その後に利益を増やしていくのが妥当なのか。


卵が先か、鶏が先か。利益が先か、賃金が先か。

悩みますよね。





■先に投資するのが商売。


商売を加速させるときは、いつも先行投資が伴います。投資を先に実施して、後から回収する。この例は多々あります。

例えば、飲食店を開店するために、土地を取得して、店舗を建てる。その後、大型冷蔵庫を購入し、店にセットする。まな板、包丁などの細々とした調理器具、料理を作るための材料、お客さんが座る椅子、料理を並べるテーブル、会計用のレジ、照明器具や空調設備の備え付け、店舗で働く人の募集、募集した人に仕事を教える手間、開店後にお客さんを集めるためのチラシ、などなど。色々と先行して費用が発生しますよね。

お店を作るときは、先に投資しなければ商売が始まらない。何もないところでいきなり飲食サービスを提供するのは無理です。リアカー型の屋台でも先行投資は必要ですからね。

「腹が減っては軍(いくさ)ができぬ」という言葉もあります。仕事をするには、まずエネルギーを補給するのが先であって、食べずに仕事をしてもいいことはない。この言葉も、まずは先行投資するのがよろしいと示している。

まず広告で集客して、売上を上げて、利益を得る。
まず人を雇って、商売を拡大して、利益を得る。
まず外注先を確保して、本業に集中して、利益を得る。
まず宣伝でアカウントを獲得して、利用者を増えたところで利益を得る。
企業を買収して、規模を拡大し、得た利益で買収費用を回収する。

どれも商売の基本です。先に投資するという考え方は間違ってはいません。

ならば、利益よりも先に人件費を増やすのがいい。そう結論を出したいところですよね。

先に利益を得るのは無理だから、まずは賃金を増やして、社員さんにいい仕事をしてもらって、利益を増やしていく。この流れは商売の基本に忠実です。


しかし、先に人件費を増やすのは、利益が無いのに分配していることと同じと考えることもできます。いわゆる「蛸配当」と同じ。利益があるから分配できるのであって、利益がないのに分配するのはよろしくない。

会社が集めた利益は、会社、労働者、株主の三者で分配される。100の利益を得たのであれば、50を会社で内部留保し、30を労働者に、20を株主にという具合に分配するのが自然です。しかし、利益がないのに、労働者の分配を20に設定すると、利益がないのに労働者の取り分を増やしていることになる。

ただ、蛸配当という表現を使うときは、株主への配当に限定されるのが普通ですから、労働者への配分(賃金)を配当として扱うのはヘンではあります。しかし、「無い袖を振っている」という点では同じです。


「先に利益だ」、「いや、先に賃金だ」。この両者は、お互いに交わらない平行線のままです。

もし、どちらが正しいのかと聞かれれば、「どちらも正解だから、好きに決めていい」と私は答えるでしょう。


先行投資するのか、後から分配するのか。

どちらかを決めるのは経営者次第です。どちらが正解という問題ではなく、決断が肝になる。








山口正博 社会保険労務士事務所
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