book594(条文を示さずに"法的"にという表現を用いる不思議。)






■法的にという言葉の胡散臭さ。



「法的には ~ です」という表現を見たり聞いたりすると、「ほう、そうなのか」と納得させられやすい。

単に「~です」と言うよりも、「法的には」という表現を付けたほうが聞いている人を説得しやすいですよね。聞いている側も、「法的に正しい」などと相手から言われれば、「そうか、正しいのか」とあまり考えずに納得してしまいがち。

不思議なものですが、「法的」という言葉が付加されると、表現が権威付けされます。権威付けというのは、普通の表現よりも信頼性が高く信じるに値すると思わせる手法です。一般人が「正しいです」と表現した場合と大学教授が「正しいです」と表現した場合を比較すると、後者のほうが信じられやすい。

誰が言ったかではなく何を言ったかで判断するべきと言われることがありますが、現実には何を言ったかよりも誰が言ったかを人は重視します。自宅の近所の路地を歩いているおじさんに言われたことよりも、大学の先生に言われたことの方を信じるでしょう。たとえ内容が同じであってもです。

風邪を引いたときも、「焼いたネギを喉に巻いておくといいんだ」とおばあちゃんが言っていても、医師が「それは気休めです」と言えば、やっぱり医師の言っていることに従うのではないでしょうか。


「法的には ~ です」という表現も上記と同じような効果があります。

法的に正しいと言われると信じてしまい、法的に間違いと言われても信じてしまう。そのため、言われた内容が間違っていても信じてしまう可能性があります。

病院の先生が言っているんだから間違いない。専門家がそう言っているんだから正しいのだろう。このようなミスリードを発生させることもできてしまう。

何らかの判断をするときに、「法的には」と表現するからには、何らかの法律に関連していないといけないはず。法律の根拠を伴って、法的に正しいですとか正しくないですなどと判断する。これが法的という言葉の正しい使い方。


では、「法的には~」という表現が使われるとき、法律とその条文が示されているかどうか。

法律を示さずに、法的に正しいですと言っていないか。条文を示さずに、法的には間違いですと言っていないか。テレビのコメンテーターの発言、ブログの記事、雑誌のコラムなど、「法的には」という表現が登場する場面は多々あります。

「法的には」と表現するとき、一緒に法律の内容についても示しているかというと、それは思いのほかに省略されていることに気づくでしょう。








■法的に表現するときは条文とセットで。



「そのような手続きは違法です」と言われると、「ああ、ダメなんだ」と反射的に思ってしまう。これは普通の感覚です。他者から「違法」などと言われてしまうと、ドキッとしますものね。

ドキッとするのはやむを得ないとしても、ちょっとだけ冷静になって考えてみると良いかもしれない。違法と言うけれども、それはどの法律の何条に違反しているのか。違法という言葉に対して反射的に萎縮するのではなく、どんな法律に違反しているのか、どの条文に違反しているのか。ここをキチンと確認するようにすれば、アタフタしなくなるかもしれない。

さらに、相手のハッタリという可能性もあります。違法という言葉で相手をビビらせようとする人がいないとも限らない。どこで見たかは忘れたけれども、個人が勝手に作ったと思われる貼り紙に「~は違法です」と書かれていて、「そんなことを禁止する法律があるのかなぁ、、」と思ったことがある。内容は覚えていないので信ぴょう性が薄いけれども、こういうハッタリで違法という言葉を使う人もいるのですね。

「違法と言いますけれども、どの法律の何条に違反しているのですか?」と相手に質問すれば、相手は困って逃げ出すのではないでしょうか。

「法的には正しいです」とか「法的には間違いです」と言う時には、法律上の根拠を示す作業を省いてしまいがちです。「そんな感じの法律があったよなぁ」という曖昧な記憶で発言しているかもしれないし、「ちゃんと法律の根拠があるけれども、あえて示すのはメンドクサイ」と考えて法律上の根拠を省略しているのかもしれないし、先ほどのようにハッタリで発言しているだけかもしれない。

いずれにせよ、「法的」という表現を用いるときは、キチンと法律そのものとの関連性を示す必要があります。

法的という表現ではないものの、「それは合法です」とか「それは法律違反です」という表現も同様です。これらの表現も法律との関連性を伴って表現しないといけない。

どの法律のどの条文に照らして合法なのか。どの法律のどの条文に照らして違反しているのか。何となくフィーリングで合法とか法律違反と言うのは控えたいところ。


上記のような表現は使いやすいものの、覚悟を決めず安易に使うと厄介な表現なのですね。







山口正博 社会保険労務士事務所
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