book573(懲戒解雇や諭旨解雇でも退職金を支給するとき)




■「有罪を理由に解雇されたら退職金はなし」という一種の常識。



退職金を支給する会社には退職金のルールを決めた退職金規程があるのではないでしょうか。中には、退職金規程はないけれども、退職金を支給する会社もあると思います。

退職金規程には、退職金の支給対象者、支給の条件、支給額の計算方法などが書かれています。書かれている内容は企業ごとに違っていて、サッパリしている退職金規程があれば、細かくルールを書き込んでいる退職金規程もある。企業の規模が小さいほど、退職金規程の内容はアッサリしている傾向がある。一方、規模の大きい企業になると、管理するためのルールを色々と作りがちで、退職金規程も細々と作られているのではないでしょうか。

退職金規程を見ると、「何らかの理由で有罪判決を受けて懲戒解雇されたら退職金を支給しない」とか、「業務上の不正行為で懲戒解雇されたら退職金を支給しない」などの不支給条件が書かれているのではないでしょうか。規定を作るときには、支給するための条件がある一方で、支給しない条件も作るはず。

何か悪いことをして解雇されたら退職金は無いというルールは一種の常識のように思われていて、「まぁ、当然なのかなぁ」と思う人も少なくないはず。

しかし、有罪判決を受けて解雇されても、退職金が支給される場合もあるのです。









■業務上の非行と私生活上の非行で分けた。



有罪判決を受けて会社を辞めることになって、退職金が支給されなかったけれども、裁判で減額されたものの支給されることになった事例があります。



NTT東に退職金支給命令/有罪の元社員の訴え認める
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/hanrei/20120404b.htm


強制わいせつ致傷罪で有罪判決を受けたNTT東日本の元社員の男性が退職金不支給は不当として、同社に約1,300万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は3月30日、約600万円の支払いを命じた。

判決によると、男性は2008年、茨城県つくば市で女子高生(当時)の胸を触って突き飛ばし、けがをさせたとして09年に逮捕され、起訴された日に退職。同年11月に水戸地裁で有罪判決を受けた。NTT東は社内規定に基づき「懲戒解雇や諭旨解雇に当たると考えられる非行」として退職金を全額支給しなかった。

藤井聖悟裁判官は「あくまで私生活上の非行でNTT東の業務に支障が生じたと認める証拠はない」と指摘、「約22年間勤めた功労を全て抹消できるとは言い難い」とし、減額して支給すべきだと判断した。

 





同じ有罪でも、「業務上の非行が原因になった場合」と「私生活上の非行が原因になった場合」で対応を分けています。業務上横領のように業務上の非行で会社を辞めれば、おそらく退職金を不支給にするのは妥当なのかもしれない。しかし、強制わいせつ致傷のように会社の業務に影響を与えていないならば、退職金は支給するべきと判断しています。

NTT東日本の社員が強制わいせつ致傷で逮捕されたとなると、NTT東日本で働いている他の人も社外の人から何かヘンな目で見られるかもしれないので、まったく会社に影響がなかったとは言えなさそうなので、満額ではなく減額して支給したのだと思います。

また、退職金には「賃金の後払い」という性質があって、毎月の給与として支給すべき賃金を少しづつプールして退職時にまとめて支払う構造になっていると考えられているようで、たとえ非行で会社を辞めることになっても支払うべきと考える根拠になる。

余談ですが、私は、賃金の後払いとして退職金を支給するのはあまり好きではない。確かに、退職時に一時金で支給すれば、税金の面では有利です。しかし、賃金を後払いするとなると、プールされた賃金はいわゆる「人質」として扱われ、「早く辞めると退職金が少ないゾ。だから、なるべく長く務めたほうがいいよ」と社員を囲い込む口実に使われる。それゆえ、後払いではなく、毎月の給与として支払うか、それとも確定拠出年金や中小企業退職金共済のように会社の人質にされないような制度を利用するのが良いと思う。

悪いことをして会社を辞めたから退職金は無いとは限らず、上記のように非行の場面や退職金の性質を勘案して、支給される可能性もあるのですね。






山口正博 社会保険労務士事務所
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