book568(年金問題の"本丸"はコレだ。)




■両者のリンク。



年金に関する話題は今に始まったことではなく、ずっと前から始まっていました。2000年以降になると、ニュースや新聞、雑誌でも採り上げられる頻度が増えていたような記憶があります。

随分と長い間、年金の問題については話し合われ、どうやって解決するか喧々諤々な状態が続いてきて、それは今も続いています。

じゃあ、年金の問題とは、どんな問題なのか。問題というからには、問題の中身を知らないと理解もできませんから、この点から特定する必要があります。

年金の問題とは何かについて一言で言うと、「必要なカネをどうやって用意するか」という点に集約されます。今現在で支給している年金はもちろんですが、将来の時点で支給することになるであろう年金を含めて、確実に給付するにはどうするか。ここが問題なのですね。

今まで解決策として話し合われてきたのは、保険料を上げる方法(実際に、毎年、一定の割合で引き上げています)、年金の給付額を下げる方法(在職老齢年金制度、労災保険や雇用保険との調整など)、さらには今の賦課方式の制度から積立方式の制度へ変更する方法など、大きく分けると左記の3つが解決策として提示されてきました。

ただ、保険料を引き上げると、働いている人の可処分所得を減らしてしまう。月給が減るのはもちろんですが、社会保険料の上昇を織り込んで賞与や退職金まで減る可能性もあります。賞与や退職金は企業がその内容をコントロールしやすいため、いわば「人件費の調整弁」として機能させることができる。そのため、社会保険料が上昇した分だけ賞与や退職金で調整するようにすれば、企業にとっては負担を軽減できるわけです。

また、年金の給付額を下げるのもホイホイとやりにくい事情がある。「働きながら年金を受け取ると年金が減る」という点については。知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。働いて収入を得ることができるのだから、収入に応じて年金をちょっと減らさせてもらうよという仕組みです。これを在職老齢年金制度といいます。ちなみに、「在職老齢年金」という年金があるわけではなく、年金を収入に応じて減額調整する制度のことを在職老齢年金制度と言いますので、あらたに在職老齢年金という年金が追加で支給されたりするわけではありません。

他にも、年金を受け取りながら労災や雇用保険から給付を受けていると、どちらも満額を受け取れるのではなく、制度間で減額調整されます。

「保険料を上げる前に年金の給付を減らすべき」という人もいるでしょうが、あちらこちらでチョコチョコと年金を減額する仕組みを組み込んでいるのです。


しかし、保険料や給付の調整だけではおそらくいつまでたっても年金の問題は解決できないのではないかと思います。際限なく保険料を上げるわけにはいかないし、際限なく年金を減額するわけにもいかない。

そこで、年金の仕組みを賦課方式から積立方式に変えようと考えることになる。


現在の年金は、賦課方式を採用しています。賦課方式とは、年金の受給者を被保険者が支える方式のことです。つまり、年金の保険料なり掛け金を支払う人がいて、その支払われた保険料なり掛け金を年金の受給者が受け取る。右から集めたカネを左へ渡していく。これが賦課方式という仕組みです。

今の年金制度では、年金の保険料を支払う人と年金を受け取る人がパイプで直結されています。自分のために保険料を払っているのではなく、年金受給者である他人のために保険料を払っているのですね。

年金を受け取る人よりも保険料を払う人多ければ賦課方式はうまく機能します。しかし、年金を受け取る人のほうが保険料を払う人よりも多くなると動きが怪しくなる。

そのため、他人のために保険料を払う仕組みではなく、自分の口座にお金を貯めるように積み立てる仕組み変えて、支払った保険料は確実に本人の元に戻るようにする。これが積立方式です。




■止まらない列車を止める。



じゃあ、すぐにでも積立方式に変えちゃえばいいじゃないか。そう思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、積立方式ならば、支払った保険料は将来の時点で確実に自分のもとに戻ってきます。預貯金と同じですからね。30年間で2,000万円の保険料を支払った人は、確実に2,000万円以上は返還される。払ったら減って返ってくるという可能性はまずありません。ただし、元本割れする可能性のある金融資産で積み立てた資金を運用している場合は別です。

積立方式ならば、「年金を払っても減って帰っているんでしょ?」とか、「年金を払っても貰えないんでしょ?」と不信感を抱くこともない。自分がどれだけ受け取るかを自分で把握できますからね。

賦課方式だと、年金を受け取る段階にならないと一体いくらの年金を受け取るのかは分かりません。もちろん、数理的にシュミレーションして、将来の時点であなたはこれだけの年金を受け取りますよ、と示すことは可能です。ただし、それはあくまで予測です。

年金制度のことを「ネズミ講」と言う人もいますが、これは事実です。下の人が上の人へ資金を回すのが賦課方式の年金制度ですから、構造はネズミ講と同じです。子ネズミが親ネズミよりも多ければみんなハッピーです。しかし、子ネズミが減ってくると、よろしくない結果が待っている。

年金制度を積立方式にすべきと言う人は、現在の自分が将来の自分を支える年金制度を目指しているのです。


年金問題の本丸は、被保険者と年金受給者の連結されている点にあります。毎年、偶数月になると年金を支給しないといけない。だから、年金の保険料を集めないといけない。つまり、今現在の被保険者と今現在の年金受給者がリンクされているため、賦課方式から積立方式に変えようと思ってもすぐには変えられないのです。

被保険者と年金受給者のリンクをどうやって切るか。ここが焦点です。


毎年、年6回の偶数月になれば年金を給付する必要がありますので、常にキャッシュを集めていかないと破綻してしまう。しかし、積立方式は現在の自分が将来の自分のためにカネを積み立てる仕組みですから、他人である年金受給者にカネを渡してしまうと積立方式へ移行できない。

積立方式にすれば、年金の問題は解決する。しかし、現状の賦課方式からの切り替えが最大の関門です。


まず考えられるのは、積立金を使って時間を稼ぎ、年金の切り替えを行う方法です。つまり、年金には積立金がありますので、これを切り崩しながら賦課方式から積立方式にシフトするわけです。

上記の方法はさも上手く行きそうな感じがしますけれども、そう簡単にいくでしょうか。


平成22年度の年金財政データで考えてみましょう。

積立金は国民年金と厚生年金を合わせて約120兆円。厚生年金が113兆円で国民年金には7兆円の積立金があります(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/tsumitatekin_unyou/dl/houkokusho_h22_05.pdf)。

一方で、年金の支給額は、厚生年金の年間支出が約40兆円、国民年金の年間支出が約4.5兆円ですから、1年で44.5兆円の支出です(http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/04/pdf/h22_koutekinenkin_zaiseisyushijyokyo.pdf)。

上記の数字を前提にすると、保険料収入を遮断して、年金を給付すると、約3年で積立金はなくなる。

この3年で賦課方式から積立方式への切り替えが完了できるでしょうか。

被保険者は年金をまだ受け取っていない人です。だから、この人達を積立方式に切り替えるのはできそうです。ただ、今まで支払ってきた保険料を確保しないといけませんから、例えは今まで2,000万円保険料を支払ってきたとしても、その2,000万円はすでに他人である年金受給者に渡されているでしょうから、今まで支払った保険料を確保できるかが疑問です。

また、年金受給者は賦課方式を前提にして年金を受け取っています。さらに、3年で今の受給者が全ていなくなるとは考えにくい。となると、3年後にはまた偶数月に年金を支給しないといけない。こうなると、元の木阿弥になるのではないでしょうか。


「なぜ、抜本的に改革せず、今の制度を維持して年金問題を解決しようとするのか」という疑問を抱く人もいます。そうは言いますが、走り続けないと、年金を給付できなくなりますので、今の制度を維持せざるを得ないのが制度運営者の本音だと思います。"今"保険料を集め続けないといけないし、"今"年金を支給し続けないといけない。キャッシュは常に流れているので、この流れを止められないのです。


今の年金制度を表現すれば、「走り続ける列車を止められない」状態だと言うべきかもしれない。


中には、「年金を一旦ご破算にするべき」と簡単に言う人もいるけれども、年金受給者をどう処理するのかを考えないといけないでしょう。制度を壊すのは簡単でも、壊す時点までの加入者をどう処理するかは思いのほか難しいのです。


現在の年金受給者は税金で対処する。また、現在の被保険者を積立方式に移行して、現在までに積み立てるべき資金に年金の積立金を充当する。被保険者と年金受給者を切り離すには、これが妥当な解決策のように思います。







山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com

© 社会保険労務士 山口正博事務所