book563(手続きなしで高額療養費制度を使えるようにしたい。)




■2段階の手続きが必要。


健康保険を利用して、自己負担の額が多くなると、高額療養費制度という仕組みを利用できることはご存じの方も多いかと思います。

例えば、100万円の治療で健康保険を使うと、3割負担ならば30万円が被保険者が負担する費用になります。ここから高額療養費制度を利用すると、10万円弱まで負担を軽減できる。これが高額療養費制度の大まかな仕組みです。

ただ、高額療養費制度を利用するときは、一旦被保険者が必要な費用を負担し、その後に手続きを行うことで、高額療養費は支給される。そのため、一時的ではありますが、相応の資金が必要になるわけです。ここが高額療養費制度の不便な点です。なお。一時的に費用を立て替えるときのために、「高額医療費貸付制度」という仕組みがあります。この貸付制度を利用すれば、自己負担額が多くなっても対処はできるかと思います。

貸付制度は便利ではありますが、もし貸付を利用するとなると、手続きが3段階になります。1.窓口で健康保険証を出して費用を3割負担する、2.高額療養費の貸付制度を利用する、3.高額療養費を請求する手続きをする。この3段階です。貸付制度を利用しなければ、2番の手続きを省略できるので2段階で手続きを済ませることができますよね。

「健康保険証を出すだけで自動的に高額療養費の手続きもやってくれたら便利なのに」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。つまり、あえて手続きをしなくても、病院と健康保険協会の間で処理を行い、被保険者は何も手続きが要らないという状態にしたいのですね。

結局は健康保険を利用するわけですから、最初から高額療養費の手続きを組み込んでくれていれば便利だろうと思えますね。

そういう制度は以前からあり、「高額療養費の事前申請」と表現されることもあります。健康保険証とは別に、「限度額適用認定証」という証明書を健康保険協会から発行してもらう(手続きが必要。http://www.kyoukaikenpo.or.jp/13,28186,100,157.html#tetuduki)ことで、手続きを省略して高額療養費制度を利用できます。

さらに、2012年4月からは、外来でも現物給付(高額療養費の事前申請とほぼ同じ意味)が利用できるようになります。以前は、入院の場合のみ限度額適用認定証を利用できたのですが、外来でも限度額適用認定証を利用して高額療養費制度を事前に利用できるようになるわけです。

上記で出てきた「現物給付」という表現は、「金銭給付」と対になっている表現です。通常通りに高額療養費制度を利用すると、現金で給付されます。しかし、限度額適用認定証を利用すると、現金ではなく、病院の窓口の段階で高額療養費制度を利用できるので、現金ではなく診療や治療という現物で給付が行われるわけです。これが「高額療養費制度の現物給付」という仕組みです。今までは入院の場合にこの仕組が利用できたのですが、2012年4月からは外来でも使えるようになるのです。


ただし、全面的に高額療養費制度が現物給付になったわけではなく、ちょっとした制約があります。







■健康保険証を出すだけで済むようにするのがベスト。



貸付制度や限度額適用認定証という便利な選択肢があることは分かるものの、「特別な手続きなしで、健康保険証を医療機関の窓口に出すだけで高額療養費制度を利用できるようになればいいのに」と思うのは私だけはないはず。なぜあえて手続きが必要なのか。健康保険証を出すだけで処理をしてくれたら便利なのに。そう思いますよね。

2012年4月からは外来でも高額療養費制度の現物給付が利用できるようになったとはいえ、入院の時と同じように限度額適用認定証は必要です。さらに、同一の医療機関でも入院と外来では通算できないし、また、医科と歯科でも別々に高額療養費を算定しないといけない。複数の医療機関で受診している場合も現物給付は出来ず、被保険者が手続きをする必要がある。

健康保険証を出すだけで済む状態にはまだ遠いですね。


限度額適用認定証も、無条件で全員に限度額適用認定をしてしまえばいいのではないでしょうか。あえて認定手続きが必要なのかどうか疑問です。

限度額適用認定の申請書(http://www.kyoukaikenpo.or.jp/9,0,123.html#4)を見ても、何か重要なことが書かれているわけでもない。認定手続き無しで高額療養費制度を利用しても何か差し支えがあるわけでもなさそうです。それゆえ、認定手続きそのものを省略してもいいように思います。


同一の医療機関での診療ならば、「入院と外来の通算」と「医科と歯科の通算」の2つはレセプトを集計できるので、これはいずれ通算できるようになると思います。

厄介なのは、複数の医療機関での診療費用をどうやって通算するかという点です。同じ医療機関ならば請求内容を集計できるので、通算はさほど厄介なものではないはずです。しかし、医療機関が異なると、他の医療機関のレセプトを参照できないので、窓口では高額療養費を適用するべきかどうかを判断できないはずです。病院同士で患者の個人情報を渡し合うわけにもいきませんからね。

また、1回あたりの診療が小規模なものだと、月単位で医療費を集計しないと高額療養費に該当するかどうか分かりませんので、診療ごとに高額療養費制度を適用するかどうかを判断できない。5万円の自己負担が6回発生すると30万円になりますが、1回あたりは5万円の自己負担なので高額療養費に該当するか分からない。それゆえ、病院の窓口の段階では高額療養費の処理ができず、後から集計して高額療養費を請求する手続きが必要になる。


医療機関同士で医療費の情報をやり取りできない、1ヶ月単位で集計しないと高額療養費を支給するべきかどうかを判断できない。そのため、高額療養費を全面的に現物給付化しにくいわけです。


健康保険協会がデータベースに被保険者の自己負担費用を集計して、病院がその情報を把握できるようになれば、窓口で高額療養費制度の適用ができるようになるとも思えますが、実際はそう簡単ではない。

高額療養費を支給するべきかどうかは集計しないと分からない。この点がボトルネックです。大きな病気や怪我ならば、1回あたりの医療費が多くなるので、病院の窓口で手続が可能です。しかし、ちょとした怪我や病気だと、はたしてその診療が高額療養費制度に該当するのかどうか単独では分かりません。それゆえ、月単位で集計をして、その集計の結果次第で高額療養費制度を利用できるかどうかを判断しないといけない。だから、一時的に被保険者が費用を負担し、後から高額療養費を請求するという手順が必要になるわけです。


健康保険証だけで高額療養費制度を利用したいと思っても、ちょこちょこと壁があるのですね。






【参考ウェブサイト】

高額な外来診療を受ける皆さまへ - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/kougaku_gairai/index.html

入院することが決まったら - 全国健康保険協会
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/13,28186,100,157.html

限度額適用認定証をご利用ください - 全国健康保険協会
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/10,91156,125.html



山口正博 社会保険労務士事務所
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