book553(手当を2ヶ月単位で支払う狡猾さ。)




■悪知恵を働かす人。




「何とかして残業代を減らせないか」と考えている人は少なくない。例えば、残業を届出制にしたり、許可制にしたり、承認制にしたりして残業の発生を抑制する方法もある。他にも、手当に残業代を組み込んだり、基本給に残業代の一部を組み込むような方法まであり、さらには、裁量労働制度や変形労働時間制度もありますので、手段は多種多様です。

上記のような方法とはまた別に、残業代を削減する手段として、1ヶ月単位で支払っている手を2ヶ月単位に変更する方法がある。

「えっ? 支払い時期を変えるだけで残業代を削減できるの?」と思うかもしれませんが、"法律的には"可能です。強調しますが、あくまで "法律的には" です。

具体的に説明すると、時間外割増手当を支払うときには、25%以上の割増率で計算をしますよね。もし、1時間の賃金が1,000円ならば、時間外割増手当は250円以上の金額になるはずです。ここでのポイントは、25%の割増計算をする時に元となる数字です。左記の例だと、1,000円が割増賃金の計算をする際の元となる数字です。この元となる数字に25%の割増率で残業代を計算します。

では、残業代を計算する際の基礎となる数字を減らすことが出来れば、計算の結果として算出される残業代も減りますよね。もし、1時間の賃金が1,000円ではなく、800円だとすると、時間外の割増賃金を25%と考えて計算すると、残業代は200円です。1,000円を基礎にして残業代を計算すると250円に、800円を基礎にして残業代を計算すると200円になる。つまり、残業代を計算する際の基礎となる数字が小さくなると、残業代の数字も小さくなるということ。

ならば、残業代を減らすには、「計算の基礎となる数字を小さくすればいいのだな」と分かります。

さらに、残業代の計算には基本給だけでなく、一部の例外を除いた各種の手当も含まれます。例えば、課長手当とか皆勤手当とか、あとは配車手当など。もちろん、歩合手当も含まれます。上記の「一部の例外」には、通勤手当や住宅手当など数種類の手当があります。この例外は労働基準法の37条4項で指定されています。37条4項には「その他厚生労働省令で定める賃金」という文言がありますが、ここには「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」というものが含まれていて、これがクセモノなのです。

1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金ならば、残業代の計算には含まれない。この仕組みを織り込んで、「じゃあ、1ヶ月単位で支払っている皆勤手当を2ヶ月単位の支払いに変更すればいいじゃないか」と思いつく人が世の中にはいるのですね。1ヶ月単位だと残業代の計算に影響が出る。だから、1ヶ月単位ではなく2ヶ月単位にして、残業代の計算に影響しないようにしよう。そう考えるわけです。

法律には違反していなさそうですが、何だかずる賢いと感じますよね。

手当の支払い時期をズラして、残業代の計算から除外されるようにする。こんなことができるのかどうか。この点が今回の焦点です。







■法律だけでなく、倫理も守る。



手当の支払いを2ヶ月単位にして残業代の額を減らす。これは私自身も以前考えついた方法です。確か、残業代の計算について相談されたときに、「歩合手当ならば計算に含めなくてもいいのですか?」という感じの内容だったような気がする。随分と前のことなので、正確には覚えていない。ただ、残業代関連の相談だった記憶は確かです。

その相談の時に、1ヶ月を超える賃金は残業代の計算の際に対象外になるということを思いつき、相談者と話し合い、さらに、後日に労働基準監督署でも手当の支払い時期をズラして残業代の額を減らすことについて聞いてみたが、不利益な変更なので労働者の同意が必要とのこと。たしかに、支払い時期をズラすだけで残業代が減ってしまうのですから、不利益な変更であることはほぼ確実です。

結局、上記のような方法について案内はしたものの、いわゆる不利益変更であることはほぼ確実なので、避けるように伝えた。


法律に関連する問題を扱っていると、法律には反していないけれども、倫理感から考えるとおかしな事に遭遇することがある。今回のように、手当の支払い時期を変えて、さも合法的に残業代を削減したかのように装うのは、法律的には正しくても、倫理的には正しくないように思う。

法律に違反していないからといって、その行為をやっていかどうかは別です。もちろん、やってはいけないならば、問題を先見して、法律を整備するべきとも思える。しかし、あらゆる問題を先見できるものでもないので、どうしても想定外の事が起こる場合もある。

今回の「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」という部分は、おそらく賞与を想定しているのだと思います。まさか手当を2ヶ月単位や3ヶ月単位で支払うことはないし、ましてや半年や1年の単位で支払うこともないだろう。そう考えて省令を出したはずです。


残業代の削減について考えだすと、無理な手段を思い浮かべがちです。定額残業代、年俸に残業代を含める、許可の無い残業には手当を支払わない、みなし労働時間制度、裁量労働制度など。このような制度であってもキチンと運用することはできますが、どうしても不正の余地が生まれやすい。


本来は1ヶ月単位で支払う手当であるにもかかわらず、あえて2ヶ月の支払いに変更したとなれば、残業代の不払いを指摘できる可能性があります。例えば、皆勤手当の支払いを2ヶ月単位にするような不自然な変更がなされたとすると、はたして1ヶ月超で支払うのが適切かどうかを検討する必要がある。給与の計算期間は1ヶ月単位であり、支払いも毎月1回のはず。にもかかわらず、皆勤手当は2ヶ月単位で計算がなされて、支払われている。この両者のズレを納得できるように説明できなければ、それは残業代を削減する目的で皆勤手当の支払い時期を変えたと判断しないといけない。

皆勤手当を2ヶ月単位にして時間外手当の計算基礎から除外するだけでなく、他の手当でも同じようなことが起こりうる。歩合手当でも、課長手当でも、配車手当でも、特別出勤手当でも、支払い時期をズラせば上記の皆勤手当と同じ状況になる。これは労働基準法を読めば気付く法律の穴のようなものです。

手当の支払い時期をズラして残業代を減らすことは、法的には可能でも、倫理的に卑怯な手段です。法律に違反しなければいいというのではなく、倫理も考慮して労務管理をしないと思わぬ逆襲を招くかもしれません。


今回のような残業代の削減方法は、普段は労働基準法を目にしない人ならば気づかないような手段であって、誰かが教えないとわからないはず。社会保険労務士か弁護士か、それとも他の専門家か。はたまた、経営コンサルタントのような人か。知識を持った誰かが案内しないと、上記のような方法を実行に移すことは無いと思います。

このような方法は一線を超えた手段であって、やめておくべきです。専門家も企業に案内してはいけない。


どうしても残業代に対策を講じたいならば、仕事のやり方を変えるか、賞与を調整するか、固定給と変動給の割合を変更するか、大きく分けてこの3つの手段が妥当な解決策です。

残業代を削減するには、賃金をいじくる消極的なアプローチではなく、仕事のやり方を変えるような前向きな取り組みの方が後々に良い結果をもたらすように思います。


山口正博 社会保険労務士事務所
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