2012/1/10【変形労働時間の核心は「特定」にある。】



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最近ではゲームセンターが少なくなりつつあり、何か時代が変わったように思う。小学生か中学生の間はずっとゲーム漬けで、家でも外(ゲームセンター)でもずっとゲームに触れていた。その反動からか、高校生からはゲームをプレイする頻度が低くなり、大学生になるとプレイしたのはPS2のドラクエ7とかまいたちの夜2だけで、4年で2本という少なさだった。今に至っては、全くと言っても間違いではないほどゲームをしなくなった。

小さい頃にあまりゲームをしなかった人が大人になると、ケータイのゲームにハマるのだろうか。電車の中でも、何かを待っている時でも、ケータイを操作している人をよく見る。もちろん、全員がゲームをしているわけではないだろうけれども、MobageやGREEのゲームを楽しむ人もいるかもしれない。

知っている人は知っているかもしれないが、大阪には「あうとばぁん」というゲームセンターがあって、1プレイ20円という安さで楽しめる。正確に言えば、「楽しめた」というべきか。近畿大学の近くで営業していたゲームセンターで、小学生のころが自転車で片道50分の道のりをシャカシャカと漕いで遊びに行った。普通のゲームセンターだと、1プレイ100円なので、100円で5倍遊べるのが特徴的だった。しかし、去年の中頃ぐらいに閉店してしまい、他の会社が営業を引き継いだ。

ゲームセンターがなくなっていくのはちょっと寂しい感じだけれども、スマートフォン、ケータイゲーム、WiiやDS、PS3があるのだから、あえてゲームセンターに行かなくなったのかもしれない。繁華街には、UFOキャッチャーだけのゲームセンターもあって、ビデオゲーム(ボタンや操作スティックを使って遊ぶゲーム)はどんどん減っている。

時代が変わるのはいいことだけれども、ときに哀愁を引き起こすのだなと思う。




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変形労働時間の核心は「特定」にある。
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Give and Take.


変形労働時間制度については、このメルマガでも何度か採り上げているかと思います。1週40時間、1日8時間が法定労働時間の枠として知られていますが、変形労働時間制度を利用すると、この枠を変形させることができます。つまり、変形労働時間制度は、一定の制約を受け入れることを条件に法定労働時間の枠を融通できる仕組みなのです。また、変形期間が長くなると、制約も大きくなるという点も特徴です。「1年変形 > 1ヶ月変形 > 1週間変形」という順序で制約に序列を付けることができます。変形期間が長いほどより厳しい制約があり、変形期間が短いほど制約が少ないわけです。ちなみに、3ヶ月変形や6ヶ月変形というメニューもあります。


1ヶ月単位の変形労働時間制度は、労働基準法の32条の2にルールが書かれている。

第32条の2 

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、"特定された週"において同項の労働時間又は"特定された日"において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。

(""は筆者により追加)

ここでポイントになるのは、「特定された週」という部分と「特定された日」という2つの部分です。法定労働時間の枠を超えることができるという効果も大事ですが、変形労働時間制度を運用する条件も同じように扱いたいところです。

変形労働時間制度を利用するとき、「労働時間の総枠内で仕事をすれば、1日8時間を超えてたり1週40時間を超えても時間外勤務にならないんだ」と思って変形労働時間制度を利用していると正しくない運用になるかもしれません。「総枠内で時間をやり繰りするのが変形労働時間制度なんでしょ?」と思う方もいるかも知れませんが、その判断は一部正解で一部不正解です。

確かに、時間の総枠内で労働時間をやり繰りする点は正しいです。1ヶ月ならば、おおよそ168時間とか176時間が労働時間の総枠になるかと思います。この総枠内で、日毎または週毎の勤務時間を割り振って変形労働時間制度を運用するはず。しかし、これだけでは十分ではありません。

上で書いた32条の2を読むと、「、、、(途中を省略)、、、"特定された週"において同項の労働時間又は"特定された日"において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる」と書かれています。なお、同項の労働時間とは40時間のことで、同条第2項の労働時間とは8時間のことと考えてください。

変形労働時間制度を運用するときは、時間の総枠を意識することも必要ですが、週毎の労働時間と日毎の労働時間を特定しておく必要があるわけです。この「特定」が変形労働時間制度を利用する際のキモになります。







勤務時間の特定と事後的な変更。


変形労働時間の「特定」について深く掘り下げた文献を挙げるとすれば、労働判例百選 第8版のp86-87に掲載されている「[42]変形労働時間制の就業規則による特定 JR西日本(広島支社)事件」が参考になります。変形労働時間制度は変形の効果が注目されやすいのですが、制度を運用する条件である「勤務時間の特定」について詳しく書かれた情報源は少ないのが現状です。ウェブサイトで調べても、変形労働時間制度の仕組みについては書かれていても、「勤務時間の特定」について詳しく書かれているウェブサイトを私は知りません。

制度を利用するときには、労働時間の総枠を把握することはもちろんですが、第1週は39時間、第2週は36時間、第3週は43時間、第4週は40時間というように週毎の勤務時間を事前に特定し、また、7日の水曜日は6時間30分、8日の木曜日は9時間、9日の金曜日は8時間30分というように日毎の勤務時間を事前に特定することで変形労働時間制度を正確に運用できるわけです。そして、労働時間の総枠内であり、かつ、事前に特定したとおりに勤務すれば、1週43時間であっても、1日9時間であっても法的には時間外勤務にならないのですね。

では、どれくらい特定していればいいのか。おおまかでいいのか、それとも日毎、週毎に厳密に予定を立てておく必要があるのか。さらには、法定労働時間を超える日や週を特定するだけでいいのか。労働基準法を読んでも、「特定された、、」という文言しか無いので、それ以上の情報を読み取ることはできません。


変形労働時間制度は法定労働時間の枠を融通する仕組みなのだから、勤務時間の特定も時間単位で行われないとバランスが取れません。それゆえ、この週は40時間を超える、この日は8時間を超えるという程度の特定では特定とは言えない。どの週は何時間勤務なのか、どの日は何時間勤務なのかという点まで決めれば特定と言える。


変形労働時間制度は、一定の条件を満たすことで、法定労働時間の枠を異時点間で融通する仕組みです。その仕組みにより、労働時間を弾力化でき、割増手当を削減できるという利点を享受できます。ただ、その利点を享受するためには条件があって、労働時間の総枠内、かつ、予定したとおりに勤務するという2つの条件を満たす必要がある。端的に言うと、勤務スケジュールを見通せるようにしていないと変形労働時間制度は利用できないわけです。

「時間の総枠に収まっていればいい」という判断で変形労働時間制度は運用できません。変形労働時間制度の運用では、「特定」の部分がルーズになりがちで、「1ヶ月で168時間の時間枠があるとして、この枠内に収まっていればいい」というような判断をしてしまいやすい。枠内に収めることはもちろん必要ですが、勤務予定を事前に特定することも必要なのですね。「1.枠内に収めて、2.事前に予定したスケジュール通りに勤務する」この2つが変形労働時間制度を運用する際の条件です。この条件を受け入れるからこそ、1日8時間、1週40時間を超えても時間外勤務にならないように例外的に取り扱うことができる。



次に疑問になるのが「特定した労働時間をあとから変更してもいいのか」という点。例えば、9月5日の水曜日は6時間30分と事前に特定していたけれども、仕事の都合で当日に8時間30分に変更したらどうなるのか。当日に変更しても"特定"の効果は維持されるので変形労働時間制度の対象として処理できるのか。それとも、事前に特定した時間ではなくなってしまっているので、変形労働時間制度ではなく通常の法定労働時間枠である8時間を利用するのか。

どれくらい特定すればいいのかという点も悩みどころですが、特定した時間を事後的に変更したらどうなるのかという点も同等かそれ以上に悩みますよね。

変形労働時間制度では労働時間の特定がキモなのだから、一切変更してはいけないのか。それとも、やむを得ない場合は変更してもいいのか。さらには、特に制約なく変更しても構わないのか。裁判所でも判断は上記の3つに分かれています。1.変更はOK、2.変更はNG、3.例外かつ限定的に変更OK、という3つの立場です。余談ですが、肯定説、否定説、折衷説の3つが登場すると、実務ではだいたい折衷説が選択されやすい傾向があります。肯定や否定だとバランスが悪いので、折衷説を採用してさも上手く解決したかのように演出すると締りがいいようです。


何度も書いていますが、変形労働時間制度は事前に勤務時間を特定することにより法定労働時間の枠を融通できる制度です。それゆえ、業務上の都合に合わせて事前に特定した勤務時間を流動的に変更できないのが建前です。しかし、どうしてもスケジュールを変更しなければいけない場面もあるでしょうから、まったく変更できないと考えてしまうのもちょっと不都合です。そこで、「制度としての体裁」と「実務上の必要性」との間でバランスを取る必要があります。

もし、特定した勤務時間を特に条件無く事後的に変更できるすると、32条の2では何のために特定を求めたのか分からなくなります。条文でハッキリと"特定された"という文言を使っているのだから、やはり単純に変更OKと判断する立場では無理があるでしょう。予定を守らず自由に勤務時間を変更できるとなれば、もはや変形労働時間制度ではありませんからね。

次に、例外かつ限定的に変更可能だとすると、どういう場合に変更できて、どういう場合に変更できないのかという基準が曖昧になります。変更するかどうかを分けるとなると何らかの基準が必要です。仕事で何らかの切迫した事情があるとか、取り組んでいる仕事の性質も考慮されるかもしれない。また、他のメンバーが急に休むことになったので事前に特定した勤務予定を変更するかもしれない。条件付きで変更可能という立場は better な解決策かもしれないが、基準の設定に難があります。

鉄道会社に務めている乗務員とか、航空会社のパイロットやフライトアテンダント、電力会社やガス会社の技術担当者、ネットインフラ会社や通信会社などで勤務しているインフラ担当者など。このような人たちの場合、事後的に勤務スケジュールを変更することが認められやすくなるはずです。公共性の高い仕事であると言えるでしょうし、代わりの人員を充当するのも簡単ではないかもしれない。ならば、事前に特定した勤務時間を変更するのもやむを得ないと判断されやすくなるでしょう。

上記で紹介した「変形労働時間制の就業規則による特定 JR西日本(広島支社)事件」の判例でも、鉄道会社の乗務員が変形労働時間制度の対象であり、その人達の勤務時間を事後的に変更したのが問題の焦点となっています。この判例では、業務の公共性を、勤務時間の変更を肯定する要素の1つにしています。

最後に、変更不可という立場だと、実務的なバランスはイマイチですが、判断が分かりやすく運用も容易です。また、32条の2にもピッタリと合う。ただ、柔軟性に欠けるのは玉にキズかもしれない。


私は「変更不可」の立場が妥当だと思う。変形労働時間制度は制約を受け入れることを条件に例外を認める制度なのだから、変更可能ではダメです。もはや変形労働時間制度ではなくなってしまう。小難しく言えば、32条の2の趣旨を没却するとも言える。また、一定の場合は変更可能という立場では、基準が無いので運用しにくい。

よって、特定した時間は事後的に変更できないと考えるのが妥当です。







キチンと時間を管理できる企業のための制度。


勤務時間を先まで見通せるならば変形労働時間制度を採用してもいい。しかし、日毎、週毎に勤務時間が流動的に変動するならば、採用してはいけない。

事前に勤務スケジュールを固定することと引き換えに、法定労働時間の枠を融通できるようにしたのが変形労働時間制度です。それゆえ、引き換え条件を受け入れずに法定労働時間の枠を融通させるわけにはいかないでしょう。

もし、変形労働時間制度の"頑固さ"を受け入れがたいと思うならば、原則通りの時間管理で対応すれば良いでしょう。


自由には制約が伴う。変形労働時間制度もその例の1つだと思います。







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