book545(労働義務がある日と無い日の境目)





■本当にその基準を守っているの?



有給休暇を使えるかどうかを決めるポイントとして、「労働義務のある日には有給休暇を利用できる。しかし、労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準がある。これは労働基準法で決められているものではありませんが、判例でも、通達でも、そして現場の実務でも使われる基準です。

有給休暇制度の趣旨は、労働義務を免除してリフレッシュするという点にある。それゆえ、有給休暇を取得するには労働義務という前提が必要なのですね。


ただ、労働義務があるかどうかという判断がキチンとなされているかどうかは疑問を抱くところです。

例えば、風邪で休んだ日に有給休暇を充当することがありますが、この場合は有給休暇の前提となる労働義務はあったのでしょうか。他にも、産前産後の休業期間に有給休暇を使ったとして、この場合も休暇の前提となる労働義務があったのかどうか。あとは、休職時に有給休暇を使う場合や傷病手当金の待機3日間に有給休暇を使う場合などでしょうか。


労働義務がないのに有給休暇を取得できている現実があるのではないか。ここが今回の商店です。





■ここでも、そこでも、あそこでも、有給休暇は使えなくなる。



もし、風邪をひいて仕事を休む場合は、おそらく電話で会社や同僚などに連絡するのではないでしょうか。「あのぉ~、、、今日ですね、、、ちょっと風邪を引いたみたいでぇ、、仕事休ませて貰いたいのですけれどもぉ、、」という遠慮がちな言葉で電話をかけて、「あぁ、風邪かぁ、仕方ないねぇ。じゃあ、今日は休みだね」と返されて、「はい、すみませんけど。よろしくお願いします」という流れで連絡は終わるかと思います。そして、後日、風邪で休んだ日に有給休暇を充当する。こういうことをしている職場は少なくないはず。私も風邪で休んだ時(随分と前ですけれども)に上記のように処理してもらった経験があります。

さて、ここで問題ですが、上記の場面では有給休暇が使われていますが、前提となる労働義務はあったのでしょうか。人によっては「えっ? あったでしょう。風邪で休む前は仕事に行く必要があったのですから」と言うかもしれませんね。確かに、労働義務はあった。これは間違いない。

しかし、風邪で休むことを連絡した時点で労働義務は解消されたと考えることはできませんか。電話で連絡するまでは確かに労働義務はあった。しかし、風邪で休むことを了承された時点で労働義務は消滅していると考えるのが自然ではないでしょうか。となると、後日に有給休暇を充当するのは、「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準から判断するとオカシイと思えます。

ここで頭の動く人はこう考えるでしょうね。「後日に有給休暇を取得したと考えるのではなく、電話で休むことを伝えた時点で有給休暇の取得も同時に行なっているとすれば辻褄が合うんじゃないの?」と。なるほど、労働義務が消滅する寸前で有給休暇の取得権を行使したと考えるわけですね。これはウマイ方法です。この方法ならば、「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準も満たし、かつ病欠の日に有給休暇を充当することもできる。

でも、何だか屁理屈じみている感じがしなくもないですね。


休職の場合に有給休暇を使う場合はどうか。もし、何らかの病気や怪我で休職となったとき有給休暇を使えるか。例えば、スノーボードで腕の骨にヒビが入って、10日間休んだとして、この10日間を有給休暇にできるかどうか。なお、この場合は健保の傷病手当金を使わないという前提で、休みの10日間すべてを有給休暇にすると考えます。

上記の場合、「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準を守って有給休暇を使えるでしょうか。

「すみません。スノボーで転倒して腕の骨にヒビが入っちゃいましたぁ、、、エヘヘ」という感じで職場に連絡して、「しょうがねえぁ、、、」と言われ、10日間休みになるとして、その10日間をすべて有給休暇として処理した。これは「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準から判断して何か問題はないでしょうか。

ここでも、電話連絡した時点で有給休暇を取得したと考えることもできますけれども、休みになるべき日を有給休暇としている点は確かですから、「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準から判断すると違和感があります。


他に、産前42日、産後56日の休暇でも有給休暇を使う可能性があります。しかし、ここでも先程までと同じように労働義務の有無が問題となります。法律で休むことが確実な日に有給休暇を充当するわけですから、「労働義務の無い日には有給休暇は取得できない」という基準から考えるとやっぱり変なのですね。


有給休暇の使い方には労働基準法による制約はないので、どのように使うかは当事者が決めることができます。それゆえ、たとえ労働義務がなさそうな日であっても、休暇を使うことは可能です。ただし、有給休暇制度の趣旨には合わないですけれども。とはいえ、制度の趣旨に合わないことでもって違法というわけでもないので、休暇の利用を禁止するほどでもないところなのです。グレーな感じですが、これが実務です。

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com

© 社会保険労務士 山口正博事務所