book530(時間外割増手当を他の手当と合体させる)






■手当に残業代が含まれている。



ご存知のように、残業代は、1日8時間、1週40時間(例外44時間)の水準を超えると必要な割増賃金です。1日8時間を超えた時間数、1週40時間を超えた時間数を把握して、賃金を計算する際にそのつど残業代を計算するのが多くの会社では普通かと思います。

ところが、会社によっては、その都度計算する方法ではなく、あらかじめ諸手当の中に時間外割増賃金を含めて支払っているところもある。例えば、役職手当のなかに時間外割増賃金を含める方法だと、主任手当や課長手当のような役職に付随した手当に、一定の時間数に相当する残業代をあらかじめ含める仕組みを採用している。「課長手当60,000円(20時間分の時間外割増手当を含む)」というメニューが例でしょうか。

他にも、営業手当のなかに時間外割増賃金を含める場合もありますね。営業職は時間をキチンと管理しにくい仕事ですので、営業手当を設けてその中に時間外割増手当を含めることで残業代を削減しようとするわけですね。

上記の例では、役職手当と営業手当だけを挙げましたが、手当の名称は左記の2つに限りません。営業報奨金でも、精勤手当でも、それこそ大入り袋であっても、時間外割増手当を含んでいると企業が独自に位置づけているオカネは、上記の役職手当や営業手当と同じ性質を帯びます。つまり、「時間外割増手当」という名称が大事なのではなく、実質的に時間外割増手当として位置づけられていれば、それは時間外割増手当となるのですね。これは、形式ではなく実質や実態を重視する労働基準法の特徴です。






■なぜ、あえて不便な手段を選択するのか。



時間外割増手当を他の手当の中に含めて支払うこと自体は法的に差し支えありません。先程の例のように、「課長手当60,000円(20時間分の時間外割増手当を含む)」と金額と時間数が表示されていれば、残業代の不払いにはならないかと思います。

しかし、上記のように手当の金額と時間数だけを表示しているだけでは、いくらが課長手当であり、いくらが時間外割増手当に相当するのか分かりにくいですよね。60,000円の中には課長手当と時間外割増手当の2つが混ざっているわけですから、その内訳が分からないとキチンと時間外割増手当が支払われているのかどうか分からない。時間単価の25%で計算して数字があっているのかどうかパッと知るのはちょっと難しいです。

さらに、20時間分の残業が手当に含まれているのは分かるとして、もし17時間の残業にとどまったとしたら、そのまま手当は支払うのか。また、24時間の残業が発生したら、20時間を超えた4時間分は別途で支払うのか。おそらく、手当に残業代を含める際の最大の焦点はココでしょう。想定した時間数未満だった場合と想定した時間数を超過した場合に、どのような対応をするのかが最も知りたいところです。

17時間の残業だったら、そのまま手当を支払うか、それとも減額して17時間に相当する水準まで調整するか。このどちらかのはず。前者ならば特に問題になるポイントはないですが、後者の場合は厄介です。想定した時間数に満たない場合は、手当の額を調整すると就業規則や雇用契約書に記載しているならば対応できるでしょうが、特に調整するとの記載がなければ就業規則や雇用契約書の内容に合わない取り扱いになりますね。

24時間の残業が発生した場合だと、手当の額を調整せずにそのまま支払えば、これは残業代の一部不払いとなる可能性があります。超過分を別途で支払うようにすれば問題は起こらないですが、「残業が20時間を超えても、20時間までしか残業代は用意しない」という対応をすると、ここはトラブルになります。「就業規則や雇用契約で残業代は月20時間まで」と決めていたとしても、実際に24時間の残業が発生したら、超過した4時間を無視することはできません。「規則や契約でそう決めているんだから」と決まりごとで押し通しても、おそらくその主張は通らない。


手当に時間外割増手当を含める動機がハッキリとしませんが、残業代をゴマかしてやろうという動機ならばやめてください。私が思うに、固定残業代と同じ発想で割増手当を他の手当を合体させているのではないでしょうか。固定残業代の変形バージョンが今回の例ではないかと思います。

手当をキチンと支払うつもりならば、あえて他の手当と時間外割増手当を合算する必要はないはずです。実際に発生した残業に対して手当を用意するのですから、過不足が発生することはない。


複数の手当を合算することそのものがダメなのではないけれども、合算してしまうと、どれだけが役職手当で、どれだけが時間外割増手当なのか分かりにくくなる。そして、その分かりにくさに便乗して割増手当を未払いにする可能性があるわけです。

20時間分の時間外割増手当てを用意したとしても、24時間の残業が発生すれば差分の手当は別途で支払う必要があり、事務の手間が増えてしまうので、時間外割増手当と他の手当を合体させる利点はない。


残業代は、その都度計算する、もしくは変形労働時間制度や裁量労働制度を利用して残業時間をコントロールするのが妥当です。

更に言うと、制度を利用するよりも、仕事のやり方を変える方が残業対策には有効です。どう計算するか、どんな制度を利用するかという対策では、残業そのものを減らす効果はあまり期待できない。


残業が発生するのは、

1,仕事の量が多いのか。
やらなくてもいい仕事を探す。作業を複数人で分散させる。など、なぜ量が多いのかを考えると良いのではないでしょうか。

2,仕事の難易度が高いのか。
難易度が高い1つの仕事を2つか3つに分解して、難易度を下げた仕事に変える。

3,時間が少ないのか。
作業時間の配分を変える。一部の仕事を省くなど。

4,作業が遅いのか。
時間ごとの仕事内容を書きだしてみるなど。




制度を調整するよりも仕事のやり方を変えるほうが残業そのものを減らす可能性は高いのではないかと私は思います。

山口正博 社会保険労務士事務所
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