book522(必要な残業と不必要な残業の境目)

 

固定残業代は境目の判断を回避する。


取り組む必要がある仕事があり、その結果として残業したならば割増手当を支払う。しかし、不必要な仕事で残業したならば時間外勤務による割増手当を支払わない。このように考えて労務管理している人は少なくないはず。

確かに、必要な残業ならばキチンと手当を用意するだろうし、そうでなければ手当を支払いたくないと思うのは自然なことです。

残業の管理は企業ごとに違いがあり、15分単位で管理したり5分や1分単位で管理するところがあるし、時間外割増の手当額を事前に固定し、時間外勤務の必要性や時間数にかかわらず手当の額を固定しているところもある。さらには、所定時間内に仕事を終えたかのように終業打刻する人(記録上は18時で終業打刻し、実際は20時まで勤務しているなど)もいるかもしれない。

所定時間内に仕事を終えるのが最も良いのですが、どうしても所定時間を超えて仕事をしてしまうこともあるかと思います。

上記の例の中で、固定残業代は残業対策でよく採り上げられる施策ですが、万能な施策ではなく、運用の仕方によっては未払い残業代の温床になることもあります。残業が必要かどうかを判断せずに固定額で時間外手当を支払うため、実際の残業時間に基づいて計算した額よりも少ない手当額になることもあるし、さらに、時間外勤務の必要性を判断しないので、必要な残業に手当が付かない場合や必要ではない残業に手当が付く場合も想定できる。







残業が必要かどうかは本人しか分からない。


ダラダラと作業したり、雑談で仕事の時間が伸びる。だから、残業代を固定するといい。この判断は確かに一理ある。作業が遅いとか、雑談が多いという理由で仕事の時間が伸びるのは確かに困る。

しかし、他の人から見れば不要な仕事のようでも、仕事に取り組んでいる本人には必要な仕事なのかもしれない。本人以外の人はどうしても「残業はムダだ」という思い込みで評価しがち。もちろん、ムダなときもあるけれども、必要な作業なのかもしれない。ときには、必要な仕事まで不必要だと判断してしまいかねない。「固定残業枠で仕事を終えられないあなたがダメなんだ」と言われる可能性もある。


私は、必要な残業か否かは本人しか分からないと思う。

上長の許可が無ければ残業できない許可制の残業制度もあるけれども、上長は残業が必要かどうかをキチンと判断して許可・不許可の決済をしているのだろうか。許可を出すかどうかを判断するには、残業が必要かどうかを判断できなければいけないはず。ならば、上長はどうやって必要性を審査しているのだろう。

許可制を採用していても、いずれは本人の申請だけで残業が行われるようになる。許可制度を採用して3ヶ月程度はキチンと手続きが行われるかもしれないが、次第に許可するかどうかを審査するのが億劫になり、許可ではなく申請だけでOKな仕組みに変わってしまう。これが残業許可制の実態なのですね。


残業対策のために固定残業代を採用したい気持ちは分かるが、川の流れに逆らうような理屈を展開しないといけなくなる。残業が必要かどうかを判断するのは簡単ではない点は実際に労務管理している人ならば分かるはずです。上司や第三者には残業が必要かどうかは分からない。本人が必要だと言えば、必要と考えざるをえない。「固定残業代を採用している = 未払い残業代が発生している」と疑われたとしても無理からぬことです。

また、固定枠を超えた"必要な残業"に対しては追加で手当を支払わないといけないのですから、結局は事務作業が2度手間になります。「規定や契約書で明示すればいいのでは?」と思うかもしれないが、必要な残業までカットする可能性がある固定残業代制度が行政や司法で受け入れられるとは考えにくい。

考えれば考えるほど、固定残業代を採用する利点は無いと思えるはずです。



残業を固定で切るために頭を使うのではなく、残業しないように仕事のやり方を変えるように頭を使うほうが建設的です。


山口正博 社会保険労務士事務所
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