book471(未払賃金の立替払いはある。しかし、退職金の立替払いはない)





■退職金は金額が確定しにくいので立て替えられない。



もし、会社の経営が良くない状況に至り、会社を精算する状況になったとしても、毎月の賃金を立替払する仕組みがあります。しかし、退職金を立替払いする仕組みはないのですね。

なぜならば、支払額がハッキリと決められないからです。

毎月の賃金の未払い分ならば、既に発生している債務ですので、支払い額を確定しやすい。そのため、立替払いすることが可能になる。

しかし、退職金となると、勤続年数や会社独自の評価が加味されて支払い額が決まるものですから、実際に支払う状況にならないと金額が決まらないのです。退職金規程が無い会社もあるでしょうし、退職金の支給条件や計算方法が不明瞭なこともある。そのため、立替払いをすることが難しいのですね。

勤続年数といっても、実際にはどこまで勤務するかは不明です。会社を清算しなかったとして、その後5年勤務するのか、14年勤務するのか、それとも28年勤務するのか、実際にその時にならないと勤続年数は分かりません。さらには、勤続年数に応じて支給額が上昇する仕組みの退職金だったとすると、会社を精算した段階で一体どれくらいの退職金が必要なのかが定まりませんよね。もっと長い間勤務する予定だった人ならば、精算時点の退職金には納得しないはず。

会社と退職金をリンクさせていると上記のような問題が起こるわけです。





■企業と退職金を分離する。



会社の責任で退職金を用意する仕組みにしていると、もしもの時に進退窮まる状況になりますので、外部に退職金を分離しておくのが良いかもしれない。

中小企業退職金共済、建設業退職金共済、確定拠出年金など、退職金を外部に分離するメニューがありますので、このような仕組みを利用して企業と退職金を切り離すのが良い選択肢ではないかと思う。

どのメニューも実質的には貯金と変わらないけれども、会社に依存しない退職金にする点は有用だ。

通常、企業には退職金の資金は用意されておらず、実際に支給する時期になってから資金を集めるのが通常です。中小規模の会社では上場企業のように退職給付の引当などしていないし、資金もプールしていないはず。もし退職金の原資があれば運転資金に使っているでしょう。支払い時期が遅い債務のために早い段階で資金を用意する動機がないですからね。「後で払うのだから、後で用意すればいいだろう」と考えるわけです。

しかし、退職金の支払いを会社の責任にすると、退職金も会社と運命を共にすることになる。そのため、会社の置かれている環境に影響しない退職金を用意するのが良い選択肢となる。外部に分離する退職金は、資金の拠出は企業が行うが、資金の給付は企業が関わらないのが特徴です。「種銭は用意するので、給付は任せた」という仕組みですね。給付額が保証されないという欠点はあるものの、倒産リスクから退職金を切り離すことが可能です。この点はとても良い長所です。

日本航空のように確定給付型の企業年金を採用していると、もし経営的によろしくない状況に至ったとき、給付の減額交渉が必要になります。確定給付型の企業年金は給付を一定に維持する仕組みですので、この点に企業は責任を負う。もし責任を負えなくなったときは受給者と交渉して減額を実施しなければいけない。もちろん、給付を維持して、拠出を引き上げる方法もあります。つまり、加入者からの掛金を引き上げて給付を維持する選択肢です。しかし、この選択肢に受給者は納得するかもしれないが、加入者は反対するはず。

もし、日本航空の企業年金が確定拠出型ならばあのような受給者との調整も不要だったのですね。

山口正博 社会保険労務士事務所
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