2010/12/6【労務環境を改善したら、もう戻れない。】



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人はやはり見た目で人を判断する生き物だ。

髪を伸ばせば太っていると思われる。髪を切れば、「あっ、痩せた?」と言われる。

伸ばして伸ばして、パッと髪を切ると、痩せた?と言われたことが何度もある。実際には全く体重は変わっていないし、体脂肪率もほとんど変わっていないのだが、やっぱり髪の長さで太っているか痩せているかという判断が変わるようだ。

他にも、どんなサイズのTシャツを着るかによっても人の判断は変わる。

サイズに少し余裕があるシャツを着ていれば、ホッソリしていると思われやすい。逆に、ぴったりサイズやピチピチ感のあるシャツを着ていると、「太った?」と言われやすい。これも私は経験済み。

髪型、服装、メイク、表情、肩書き、職業などなど。人はその人そのものだけで評価することは稀で、その人の本質(ただ、本質の定義はちょっと不明)以外の要素で判断しているのだなと思わされる。

ロングヘアの女性がショートにすると、おそらく「痩せた?」と周りの人から言われるのではないかと思う。




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■労務環境を改善したら、もう戻れない。
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■常に背水の陣。



今まで続けてきた何らかの労務手続きをやめるとき、すぐにやめることができないことがある。

会社独自に設定していた手当の支給(特別手当など)を来年からやめるとき、誕生日休暇や創業記念日休暇を廃止するとき、確定給付型の企業年金を減額するときなど。会社が福利厚生の水準を向上させようと導入した仕組みをやめようとしたとき、すぐにやめることができるかというと、そうもいかないのですね。

最近だと、JALの企業年金減額が記憶に新しい。企業年金というのは企業が独自に設定する年金制度で、導入する義務が課されているわけではありません。「規模が大きい企業は企業年金を用意しなければいけない」というルールがあるわけではありませんので、導入は任意です。そのため、経営サイドが付加的な年金を利用しようと考え(労働組合からのリクエストによる影響もあるかと思います)、企業年金を導入するわけです。企業に税務的な余力があるという点も導入の理由になるでしょう。

ちなみに、企業年金は大きく2つのタイプに分けられ、確定"拠出"型の企業年金と確定"給付"型の企業年金の2つがあります。確定拠出タイプは、企業が拠出段階に責任を持ち、給付の段階では企業は責任を負わない仕組みです。そのため、給付を減額する手間や時間が不要で、制度の運営も容易です。一方、確定給付タイプは、企業が給付段階に責任を持ち、もし予定よりも給付額が少なくなる可能性が出てきた場合、その不足分を企業は補填しないといけない仕組みです。そのため、給付額は保全されやすいものの、企業の経営環境がよろしくない状況になると、給付を減額するための手続きが必要になります。JALの企業年金は確定給付タイプでしたので、減額のために企業年金の受給者であるOBに許しを請わなければいけなかったのですね。確定給付タイプの企業年金は給付が法的に保全されていて、一方的に減額ができず、もし減額するときは構成員からOKをもらわねばならないのです。もし、確定拠出タイプの企業年金ならば、決められた拠出額をキチンと拠出していれば、それで企業側の財務的な仕事は終わるのですが、JALはこのタイプではなかったのですね。

企業年金を設定した当初は、おそらく経営的にも好環境だったのでしょう。営業活動からのキャッシュフローが豊富で、本業の運輸事業だけでなくホテルやJALカードと事業の幅も広げて、社員の福利厚生の水準もどんどん向上させていたのでしょう。この流れは大変よろしいものではあったのですが、経営環境が変わると今までやってきたことを変えざるを得なくなるわけです。

社員のために良かれと思って採用した企業年金が会社の悩みの種に変わってしまうという皮肉な状態に陥ってしまう。企業年金は法的に採用しなければいけない義務があるわけではないのだから、いつでもやめることができると思うかもしれません。しかし、福利厚生を向上させるための制度を始めるのは簡単だが、それをやめるのは難しいのです。一度決めたことをヤメたりすると、労働者の伝家の宝刀である「不利益変更」を主張されてしまいます。


今まで続けてきたことをヤメると経営サイドが決めれば、労働者側は「不利益変更」で対抗する。

そのため、経営者もあまり積極的に福利厚生を向上させようとは思わなくなる。

結果として、当事者双方とも効用を低下させる。

このような状況を望む人もいないかと思います。







■ゲーム理論で引っ張り合い。



もう随分と前ですが(といっても半年くらいまえだったか)、「沈まぬ太陽」という映画が放映されました。すでに書籍化されていたものですが、時間がたって映画化されたようです。国民航空という航空会社で起こる社内闘争を描いた作品で、労働組合の活動に対する会社の報復人事で、労働組合の委員長が辺鄙な海外支店に転勤させられるというストーリー。公知の事実(ある人の「坂本龍馬は高知の人であることは公知の事実です」というサブいギャグで覚えた言葉)ですが、国民航空とは日本航空のことを指します。

組合が賃上げを要求し、経営サイドが賃上げ余力はないと反対する。そこで、組合が要求を受け入れてくれないならばストライキを実行すると圧力をかけ、経営サイドが妥協する。その結果、労働組合の委員長が海外に左遷される。要するに、人事権を使って嫌がらせしているのですね。

もし、労務環境を改善して、その後、経営的に好ましくない状況になったとき、以前設定した労務ルールを変更するとなると、いわゆる不利益変更と判断されてしまいます。そのため、経営側はあえて積極的に労務環境を改善しようというインセンティブを持たなくなるわけです。一度緩めれば、元に戻せないのですから、容易に妥協できないのですね。賃上げ、休暇、手当など、一度用意すると後からやめにくいので、労働者側からの圧力が一定以上に達するまでは労務施策を実行しないという価値観が経営者に定着します。

一方、労働者側は、経営者が自主的に労務環境を改善しようとしないので、要望を出して状況を変えようと試みます。しかし、経営者側も妥協しない。

そのため、経営側と労働者側でお互いに引っ張り合いをしなければいけなくなるわけです。

沈まぬ太陽も同じで、航空会社とその会社の労働組合の引っ張り合い、その結果、労働組合の委員長だったかトップの人が海外に左遷される。

どちらも妥協しないゆえに、お互いに不満足な結果を招いてしまう。


これは、経済学のゲーム理論に似ているとも言えるでしょう。ゲーム理論は囚人のジレンマを代表例としてあげられることが多い。お互いに信頼しあえば(お互いに自白しない)お互いに最も高い効用を得ることができるが、お互いに信頼していない(自分の利益を優先し、お互いに自白してしまう)とお互いに最も低い効用しか得られないというのが囚人のジレンマです。

先に妥協したら負け、譲歩したらヤラれるという心理になるのでしょうね。


経営者は労務環境をなるべく改善しないという意識を持ち、社員は労務環境を悪化させないという意識を持つ。そうすると、お互いの接点が徐々になくなり、どちらにも良い効用をもたらさない結果になる。






■妥協する意識。



事業環境が変われば、労務管理も変わります。

手当を創設したり、休暇を新しく設定したりする一方で、手当を廃止したり、休暇を減らしたりすることもある。

一方的に拒否するのではなく、企業の置かれている状況(資産状況やキャッシュフローの状況、商売環境などなど)を勘案して社員も判断しなければ、社員さん自身にとっても望ましい結果を得られないかもしれませんね。

もちろん、一方的に妥協することを勧めているわけではありませんが、経営側と社員側が対立して何らかの良い結果を得ることはなかなか難しいはずです。


経営者も社員も、お互いに妥協するのが最も効用の高い結果を得ることができるのかもしれません。








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