会社と社員との間には通訳が必要


人と人がお互いを理解するには、お互いに同じ言葉を使う必要があります。

人は言葉を介して理解する生き物ですから、相手とつながるためにはお互いに同じ土俵に上がることが必要でしょう。日本語を話す人には日本語を、ロシア語を話す人にはロシア語を、スペイン語を話す人にはスペイン語を、というようにプラグとコンセントのようにカッチリと組み合わさることで意思の疎通ができるわけです。

しかし、全ての人が同じ言葉を使うとは限りません。Aという言葉を使う人がいれば、Bという言葉を使う人もいるし、Cという言葉を使う人もいるでしょう。人が多くなればなるほど、違う言葉ができるのは当然のことであって、人が多くなっているのに単一の言葉だけで事足りるものではないでしょう。

言葉の違いがあるのは当然であると考えるとしても、その違いをそのままにしていては不都合な場面もあります。言葉の違いをそのままにしてしまっては、Aという言葉を使う人はAという言葉を使う人としか接触しなくなるし、Bという言葉を使う人はBという言葉を使う人としか接触しなくなる。つまり、自分の規格に合う人しか理解できなくなります。


もし、組織で何らかの労務トラブルが起きたとすれば、それはお互いに違う言葉を使っていることに原因があります。

組織と構成員の間における言葉の違いとは、会社側と社員側との間に生まれる情報の格差です。この格差が発生すると、経営者が社員を理解できなくなることがあるし、逆に、社員が経営者を理解できなくなることもあります。

ここでは2つに場合分けできます。1つは、会社が持っている情報の方が多く、社員が持っている情報が少ないパターン。コンパクトに表現すれば、「会社が持つ情報 > 社員が持つ情報」となります。もう1つは、社員が持っている情報の方が多く、会社が持っている情報が少ないパターンです。こちらは、「会社が持つ情報 < 社員が持つ情報」と表現できるでしょう。


前者の「会社が持つ情報 > 社員が持つ情報」という状態ならば、労務トラブルは起こりにくくなります。なぜならば、会社は労務の仕組みを知っているために、誤った運用がされにくいからです。ただ、会社が持つ情報が多いといっても、相対的に社員よりも多いだけで、絶対的には少ないという状況も有り得ます。ゆえに、「大きな会社=情報をたくさん持っている」とは限りません。規模が大きい会社は情報をたくさん集めることができるかもしれませんが、集めた情報をキチンと使っているかどうかは別の話です。しかし、情報量が多ければ多いほど、より正しい判断ができるようになる傾向があるのは確かでしょう。

一方、後者である「会社が持つ情報 < 社員が持つ情報」という状態に至ると、トラブルが起こる可能性が高まります。つまり、会社よりも社員の方が労務ルールについて知っているという状況です。この状態は小規模な会社に起こりやすいもので、経営者よりも社員の方が労務の仕組みに詳しいこともあります。この場合、社員は自分自身が知っているルールに会社を合わせようとしますが、社員が会社もしくは経営者に対して、労務管理の運用を修正するように提言するのは容易ではありません。会社が社員に労務の仕組みを教えることは有り得ますが、社員が会社や経営者に労務の仕組みを教えるのはヘンな立ち位置ではないでしょうか。

そこで、会社と社員との間に発生する、いわゆる情報の非対称性を解消するために、お互いの言葉を仲介する存在が必要になります。それが「通訳人」です。

一般的な意味での通訳人とは、異なる言語を話す人たちの間に立って、双方の言葉をお互いに理解できるように変換する人を意味します。つまり、お互いに違う外国語と外国語の間を繋ぐのが通訳の役割でしょう。

私は、どの分野であれ専門家は「通訳する人」だと考えています。何かと何かの間に情報のギャップがあって、お互いに行き来できないときに、通訳する人が双方の間に入り、このギャップを埋めることができれば、当事者の間を行き来できる橋を作ることができるでしょう。この橋を作るのが私の役割です。

山口正博 社会保険労務士事務所
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