book148(1ヶ月単位の変形労働時間制度では「特定」を忘れてはいけない)



■「特定」せずに変形労働時間制度を使うな。


1ヶ月という単位で勤務時間をやり繰りしたいために、1ヶ月単位の変形労働時間制度を使っている会社もありますね。


ただ、中には、「とりあえず1ヶ月間働いて、1ヶ月分をまとめて変形労働時間制度を使って清算する(勤務時間の総枠を使って清算)」という運用をしているところもあるのではないでしょうか。

確かに、このように運用すれば便利です。

しかし、これは運用の誤りです。



変形労働時間制度は、「予定を立てて、予定通りに勤務させるという条件を満たせば、法定労働時間を超えて勤務することを許す」という制度です。

それゆえ、予定を立てずに勤務して、事後的に勤務時間をまとめて清算するのは変形労働時間制度ではないわけです。


中には、「時間外手当を減らせるから、1ヶ月単位の変形労働時間制度を使おう」と考える会社もありますが、そう簡単には事は進みません。






■利点を享受すれば、制約がある。


毎日、勤務時間が流動的に変わるような仕事の場合は、変形労働時間制度は使えません。

なぜならば、変形労働時間制度は「予測可能な勤務スケジュール」を前提にした制度だからです。




例えば、1日8時間、1週40時間と前提を置くと、1ヶ月の法定労働時間の総枠は「40×(31/7)=177.1h」となります。

また、土日は休日と設定します。


1ヶ月単位の変形労働時間制度を、スケジュールを使って説明します。

まずは、変形労働時間を前提にして、「予定」を立てます(これが大事!)。


1日(月):10時間勤務
2日:10時間勤務
3日:9時間勤務
4日:9時間勤務
5日:9時間勤務
6日(土)
7日(日)
第1週は47時間勤務。


8日(月):7時間勤務
9日:7時間勤務
10日:7時間勤務
11日:7時間勤務
12日:7時間勤務
13日(土)
14日(日)
第2週は35時間勤務。


15日(月):6時間勤務
16日:6時間勤務
17日:6時間勤務
18日:6時間勤務
19日:6時間勤務
20日(土)
21日(日)
第3週は30時間勤務。


22日(月):7時間勤務
23日:7時間勤務
24日:7時間勤務
25日:8時間勤務
26日:8時間勤務
27日(土)
28日(日)
第4週は37時間勤務。


29日(月):8時間勤務
30日:8時間勤務
31日(水):8時間勤務
第5週は24時間勤務。


よって、Totalで173時間の勤務予定となますね。

以上が勤務の予定です。



では、次に、「予定に基づいて実際に勤務した結果」です。


1日(月):10時間勤務
2日:10時間勤務
3日:9時間勤務
4日:9時間勤務
5日:9時間勤務
6日(土)
7日(日)
第1週は47時間勤務しました(予定通りです)。
この第1週は、時間外手当は無しです。

事前に時間外勤務を予定して、その通りに勤務しましたので、時間外手当は不要となるわけです。



8日(月):9時間勤務(予定では7時間)
9日:8時間勤務(予定では7時間)
10日:7時間勤務
11日:7時間勤務
12日:7時間勤務
13日(土)
14日(日)
第2週は38時間勤務しました(予定では35時間)。
この第2週では時間外手当が出ます。

8日と9日ですが、まず8時間までは法内超勤(法定内だが予定は超えているという意味)ですので、時間外手当は不要です。

ただ、8日の1時間分だけは時間外手当が必要なんですね。
1週40時間の枠内に収まっているのですが、1日8時間は超えてしまっているためです。

もちろん、9時間勤務を事前に予定していれば、時間外手当は不要になる可能性があります(ただ、予定していないので変形効果は無いということです)。




15日(月):6時間勤務
16日:6時間勤務
17日:6時間勤務
18日:6時間勤務
19日:6時間勤務
20日(土)
21日(日)
第3週は30時間勤務しました(予定通りです)。

ここは何の問題もありませんよね。

予定通りですし、1週40時間、1日8時間も超えておらず、時間外手当は不要です。




22日(月):8時間勤務(予定では7時間)
23日:8時間勤務(予定では7時間)
24日:8時間勤務(予定では7時間)
25日:8時間勤務
26日:8時間勤務
27日(土)
28日(日)
第4週は40時間勤務しました(予定では37時間)。

ここが今回の最大のポイントになります。

まず、1週40時間、1日8時間の枠にはピッタリ収まっています。
この点だけを考えると、何の問題もなさそうですが、そうはなりません。

確認しますと、予定した勤務時間の総枠は「Totalで173時間の勤務予定」でしたね。
また、法定労働時間の総枠は、「40×(31/7)=177.1h」ですから、177.1時間でしたね。

第2週の8日と9日で、法内超勤が発生しましたよね(7時間を予定していたが、8時間まで到達してしまった。8日は1時間分だけ8時間を超えていますが、これは除きます)。

つまり、予定した勤務時間の総枠は「Totalで173時間の勤務予定」であり、第2週で2時間だけ、その総枠に加算されます(173+2=175時間になる)。

さらに、第4週の22日、23日、24日も、法内超勤である3時間が上記の総枠に加算されます(175+3=178時間)。

となると、法定労働時間の総枠である(40×(31/7)=177.1h)177.1時間を超えてしまいます(詳しく言えば、24日分の1時間の法内超勤だけが177.1の枠を超えているんですね)。

ゆえに、「178-177.1=0.9」ですから、0.9時間分だけ時間外手当が必要になるわけです。




29日(月):9時間勤務(予定では8時間)
30日:9時間勤務(予定では8時間)
31日(水):9時間勤務(予定では8時間)
第5週は27時間勤務しました(予定では24時間)。

第4週の時点で既に、法定労働時間の総枠である(40×(31/7)=177.1h)177.1時間を超えていますので、時間外手当が必要です。

また、1日8時間の枠も超えていますので、この点でも時間外手当が必要であると説明できますね(この説明の方が簡単です)。




ゆえに、変形労働時間制度では、法定時間外勤務をするならば、キチンと「予定」を立てて、実際に勤務しなければいけないわけです。

予定も立てていないのに、その場その場で時間外勤務をしてはいけないんですね。




山口正博 社会保険労務士事務所
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